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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
01:職業:高校生兼、変身ヒロイン!
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わたしは”スキ”を諦めない

そんなこんなで新連載です。

週一連載で行きたいと思います。

できるかぎりは。

「さっきからずぅっと言ってるでしょう!? 表紙には『ルシxスサ』の純愛路線しかないと」

「だぁかぁらぁ、『せつとわ』の二枚看板こそが至高なの! なんでそんなこともわからないの!?」


 長机を二つ並べ、椅子を左右に三つずつ。同じワイシャツを纏い、タイの色の異なる少女が複数の紙束を放り、あぁでもない・こうでもないと激論を交わす。

 彼女たちはこの高校の美術部部員だ。年に三回発行される部誌の表紙を巡り、激しく火花を散らし合う。

 右側がボーイズ・ラブ、左側がガールズ・ラブで白黒はっきり二分され、両極端過ぎて折半策が出ず、議論は一時間近く平行線を辿っている。


「ねえ、西ノ宮さん!」

「西ノ宮さんはどう思う?」

「あなたで最後なんだよ!? ね、どう思う?」


 民主主義な折半案として挙手による投票を宣言した瞬間、両陣営の顔はその真中、下座に席を置き、お絵かき帳に落書きし続ける少女の方へと向いていた。

 先が外向きに巻かれた薄い栗色の長髪。膝小僧丈のプリーツスカートに縞模様のハイソックス。曲がったタイを直そうとせず、鉛筆の消しくずで薄汚れた袖。

 西ノ宮ちはる。七人の部員のうち、どちらの派閥にも属さぬ中立者だ。


「ね、どうなの西ノ宮さん」

「おとこのこでしょ?! そうだよね? ね?」

 六人総ての視線を受けてなお、ちはるの動きに乱れはない。鼻歌混じりにペンを走らせ、仕上げの色塗りに掛かっている。


「はいっ、でーきまーしたーっ」

 落書き帳を横に立て、描いたものを見せ付ける。

 自信満々と鼻を鳴らし、自らのサインまでも付けたキャンパスに描かれていたものは。


「……ナニ、これ」

「何、って。『キラキラ少女グリッタちゃん』だよ、知らないの?」


 いやいやそうじゃないと、誰もが心中突っ込んだに違いない。

 BLかGLかで殺伐としたこの展開で、満を持して現れたのは一昔前の魔法少女。

 彼女はこの場に居て、一体何を聞いていたのか。否、むしろ聞いていないのか? 互いの陣営が火花を散らすその只中で、唯我独尊と絵を描き続けていたというのか!


「ふっふっふ。今回は自分でもケッコーな自信作なのですよ。スカートのフリルにラメ入れてー、頬やおめめもきらっきら〜♪」


 ああ、期待した私達が馬鹿だった。六人の美術部部員は皆一様に溜め息をつき、示し合わせる間でもなくひとひらの台詞を紡ぎ出す。


「西ノ宮さん。ちょっと〜……、外、出ててくれない?」

「ほへ。なんで?」

「なんでも」

「ナンデ?」

「なんでもよ」



※ ※ ※



「ちぇっ。なんだよう……。良いじゃん、表紙絵、グリッタちゃん、いいじゃんさ……」

 閑散とした渡り廊下で、窓の外から他部の賑わいを眺め、ちはるは一人虚しく息を吐く。

 察しの悪い彼女に対し、二分していた部員たちは「悪いけどそれは著作権がうんぬんで使えない」と協力して誤魔化し、意思決定の場から締め出した。

 ちはるにはその理由が解らぬ。そもそも彼女たちが何を競っていたのかも知らぬ。ただ、描きたいものを描いていただけなのに。どうして自分だけこんな目に。

「クヨクヨしてもしょーがない。ショーが無い、けどさ」

 誰にでもなく独り言ち、口の開いた手提げ鞄を掴んで前を向く。

 泣きっ面に蜂とはこのことか。今まさに動かんとしたちはるの目に、快活そうな女子三人組が映り込む。

「う、えぇっ……!」

 咄嗟に身構え、目を逸らすも時遅し。三人の目は挙動不審なその顔を正確に捉えて離さない。


「アンタさ。こんなとこで何やってんの」

 うち一人、真中に立つ少女がちはるに声を掛けてくる。薄紫のベリーショートに、自分より頭一つ高い背丈。

 端正な顔立ちは呆れで僅かに歪み、形の良い艷やかな唇は嫌味な『へ』の字を描いたままだ。

 東雲綾乃しののめ・あやの。陸上部のエースにして、ちはると同じ二年生である。

「あや……、東雲さん」

 ちはるはばつが悪そうに目を逸らし、トーンダウンした声で応える。「別に、その、部活……上がり……で、ね?」

「キョドってんじゃないわよ、うざい」綾乃は不快そうに眉をひそめ、半開きになったちはるの鞄から、一枚の紙を抜き取った。

「アンタさ、まだこんなの観てるワケ? トシ幾つ? 高校でしょ? 高校生なんでしょ? なのに」

「こんなのじゃないッ」

 キラキラ少女グリッタちゃん。ちはるが子供の頃、日曜日の朝に放送されていた、単発の変身ヒロインアニメーション。遠く何光年も離れた星の王女が、魔法のバトンを手に取って、出逢う人々に幸せを運ぶという筋書きだ。

 牧歌的とも評されるのどかな情景と暖かな人間ドラマがおたく層に大変受けたが、肝心の女児には「らしさ」が無いとバッサリ切られ、歴史の闇へと葬られた打ち切り作品。綾乃が『こんな』、と言い捨てるのも至極当然である。

 だが、それは外野から見ての話だ。他にも罵倒は幾らもあったが、これ以上は看過出来ぬ。ちはるは綾乃から紙を引っ手繰り、そこに描かれた絵を見せつける。


「『グリッタちゃん』だよ!! 一番きらっきらで、誰より可愛い魔法少女を『こんな』! こんななんて!?」

 鳶色の瞳をぱっと見開き、背筋を伸ばして捲し立てるその様は、今の今まで気弱に振る舞う人間と同じか見紛うほど。『好き』の度合いは十二分に解かる、のだが。

「うっわ、ナニコレ。ヘンなスイッチ入ってる」

「ねー、綾乃。どうすんの〜?」

 情熱とは、勢い任せに熱っぽく訴えて伝わるものではない。現に、綾乃の友人らはちはるの話を聞きもせず、渋い顔で別の方を向いている。

「チカ、マユ。先に更衣室行ってて」

 その真中に立つ綾乃は、ここは良いからと左右の友人を行かせると、ひとり冷めた目でちはるを見。


「だいたいさ、アヤちゃんも昔は観てたでしょ!? 棒っ切れをバトンに見立てて、一緒に呪文唱えてくるくるーっと!」

「そういうハナシはもう、いい」がなるちはるから再度紙を奪い、綾乃はぐいと顔を近付け、口を開く。

「十六になってまだ魔法なんだ、変身がどうだって言ってて、恥ずかしくないの? おかしいって思わないの?」

「そんなの、東雲さんにはカンケーない。だから」

 絵を返してと迫るちはるだが、対する綾乃は両の手で紙の端を抓み、一息のうちに引き裂いた。

「ああ、あぁあ……」

部室ナカで声が聴こえてて、アンタひとりが爪弾き。そーゆーの描いてイキってるくらいなら、もっと場の空気を読めっての」

 破いて二つになった紙を四つに。更に八つと続けて床に放り、上履きで散々に踏み付ける。悪びれる様子は微塵もない。まるでそれが、正しい行いであるかのように。

「ひど……ひどい……」

「何よ。文句ある?」

「それは、その」

 ふざけるなと食ってかかるべきか。ちはるの脳裏に数通りのシミュレーションが浮かび、瞬時に結果が弾き出される。

 答えは否。どれを選ぼうと、運動神経で勝る綾乃に対し、出来ることなど何もない。


「あっ、そ」綾乃は心底うんざりした顔を浮かべ。「あたし、これから練習あるから。アンタも謝るなり、謝らないなり。ぶすくれてないで何かしな」

 邪魔よと肩でちはるを突き飛ばし、不機嫌そうに渡り廊下を去ってゆく。

 ちはるに、それを見やる余裕はない。彼女は憤怒に顔を歪ませ、くしゃくしゃになった紙くずを拾い集める。

「みんなして普通、フツーって。それのどこが偉いのさ」

 昔はあの子だって、あんな風じゃなかったのに。同い年で。家も近くて。よく遊んだ仲なのに。

 目頭に溜まる温い水玉に、もう戻らない想い出が映り込み、頬を伝う最中に空へと向かい、融けてゆく。

「もう、いい。もういいよ。だったら」

 こういう時、行くべき場所はひとつだけ。ちはるは頬を張って気持ちを切り替え、校舎の先に広がる林の木々に目を向けた。

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