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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
04:あたしがチェンジ?! そんなのムリムリ!
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西の都から来た女

大きな区切りで四章目。

内容からうすうす勘付かれている方もいらっしゃいますでしょうが、改めて。

本作は『いま』よりほんの少し過去、より正確にいうと平成二十年(2008年)頃のおはなしとなっており、地理や所持品などは原則その当時のものに倣っております。

そのへんの理由は本作からのおはなしを成立させるため。尤も、大多数の読者様にはさほど関係のないところではありますが。

◆ ◆ ◆


『――ねぇ。ねえねえねえ。今朝のアレ観たぁ? すごかったねえ、女児アニメで出産シーンまで描くんだよお? ビビったよねえ、ちーちゃん』

「ああ。うん……。だよね、そだねー」

 テキトーに相槌を打っているけれど、観ていないのでホントのところはわからない。『副業』のことを思い出してイヤになるから。

 三葉みなはちゃんは歳を重ねても変わらないな。いつだって元気いっぱい。人当たりが良くて、私なんかとか正反対。それでいて趣味が『あぁ』なんだもの。


『――ね。また皆で集まろうよ。私も東京に出て来るからさ、アヤのんとも会いたいしー』

「うぇっ!? あっ、あー……」

 どう答えていいか言葉に迷い、暫しの沈黙。向こうと何年も連絡を取ってないと言ったら、彼女はどんな反応を返すだろうか。

「や、止めといたほうがいいんじゃないかな。アヤ……ちゃんも忙しそうだし、私も今こんなでしょ? いつ休みが取れるか、わかんないし」

『――ぶえー。連れないの。ちーちゃん、暇ってのは待つもんじゃない、作るもんだよ。巣の中でぼーっと口を開けてちゃ駄目なんだからね』

「はいはい」

 手厳しい小言を貰ったけど、これでなんとか誤魔化せそう。昔は家も近かったけど、今では向こうは愛知県の名古屋住まい。思い立ってすぐ来ようとは考えないはず。

 面と向かっては言えないけれど、今はちょっと会いたくない。昔話に花を咲かせ、人前でわんわん泣いちゃうかもしれないから。



※ ※ ※



 リオンモール日の出は、昨年末西多摩地区に出店した大型ショッピングセンターだ。秋川の駅からバスで十分、最寄りの武蔵引田から徒歩十五分。週末ともなればあきる野地区の老若男女、多くの人々が集まってくる。

 大手モールの出店によって多くの零細商店が打撃を喰うことになったのだが、それはいま話すべきことではない。


「ねえ、アヤちゃん」

「ちょっと待って。もうちょい。ちょいだから……」

 二者択一。得たいものの為には別の何かを犠牲にしなくてはならない。西ノ宮ちはるはそんなこの世の理を心中で噛みしめながら、三階のフードコートの一角で、背後に立つ東雲綾乃の『なすがまま』にされていた。

「完っ成。あんた結構癖っ毛だし、こういうのの方が似合うわよ」

「うぅーっ。もうちょい丁寧に扱ってよう。根本がぐじぐじするう」

「我慢しろ。そもそもね、このトシまでロクに髪を弄ったことないって、ありえなくない?」

 ブラシで毛を梳き、紅いリボンを器用に巻いて。栗色の髪を耳の上のところの毛を結んだツーサイドアップ。髪に合わせたか、これ前提で服を選んだのか。白のブラウスに薄茶のビスチェワンピースがよく似合う。

 魔法少女活動を支援する代わり、もう少し他に適応してもらう。条件を呑んだちはるは綾乃の部活が無い日を選び、彼女から年相応の装いや振る舞いを教え込まれることとなった。

 今こうして纏う服も、『よそ行きのものがない』という訴えに応じ綾乃が見繕ったものだ。ここに来るまで着ていた制服は、丸めて足元の手提げカバンに押し込まれている。

「うーん。でもこれなら別の方が似合うかな。ズボラのくせして髪の毛つやつやでさー。どこで徳積んだってのよー」

「もう……。やめて、やめてってば」

 昔から陸上一本だった綾乃は、邪魔になるからとロングヘアには縁がなかった。自分を着せ替え人形か何かと思っているのだろうか? ちはるは冗談じゃないと頬を膨らませ。

「あのさ。わたし、言いたいことがあるんだけど」

「あー。そうだったね。何」

「ナニってその他人事みたいな態度!」

 そりゃあ他人事だし。などと軽く流す綾乃に堪忍袋の緒が切れた。両手を上げて彼女を剥がし、机を叩いて立ち上がる。

「わたし、魔法少女だよね? やっとグリッタちゃんになれたのに! 魔法少女らしいことなーんにもしてないじゃん!」

 憧れの姿になれたのに、やっていることと言えば「元」と関係のない魔物退治ばかり。

 グリッタちゃんは外宇宙からやってきた星のお姫さま。不思議なバトンで魔法を放ち、人々にキラキラの笑顔を与えてくれる女の子。超常のチカラを問題解決に用いても、相手を叩きのめすことに使ったりはしなかった。

「意外。あんた、あれも含めて楽しんでるものだと」

「それは……」否定の為に声を上げたのに。第一声で目が泳ぐ。「それはそれ、これは、これ!」

「だとしても。それ。あたしに言う?」

 あの戦いを見ていた人は、誰もそのことを覚えていない。魔法少女とは名ばかりで、アングラにバケモノをしばき倒す高校二年生。

(乗ってみたはいいけれど、かなり根の深い問題なのかもなァ)

 このまま日常を改善して行っても、根がこうなら何の意味も無いんじゃないか。綾乃もまた、現状に不安を抱いていた。

 そもそも、他が記憶を失っているのに、自分だけ覚えているのはなぜ? 彼女の親友だから? 何らかのフィルターがかかっているから? 考えども答えが出るはずもなく。

「だから! もうやめてって言ってるじゃん!」

 何を? と思い視線を下に向けてみれば、ツーサイドアップからハーフアップにアレンジされたちはるの髪。考え事をする中で再び彼女の頭に手を伸ばし、無心に髪の毛を梳いていたらしい。

「ごめん。ごめん。あんたの髪、触ってて気持ちいいから」

「うええ。わたしのことぐちぐち言う前に、アヤちゃんもたいがいじゃない?」

「いやいや、ちはるには絶対勝てないって」

 自分が如何に『染まろう』と、ちはるを追い越すことは決して無いだろう。綾乃は右手を平と振って受け流す。

「つーかあんたさ。ここに来てまで絵ェ描くか?」

「いいじゃん。他にすることないんだしー」

 髪を弄られながらで器用なことだが、膝に乗せたスケッチブックにぶれはない。何度綾乃に揺すられようと、まほうのペンは正確無比な軌跡を描き続けている。

「別に何描こうか構わないけどさ。あたしの片手間にすべきことぉ? 見せろよっ」

「駄目! まだ出来てないから! 覗いちゃだめーっ」

 どうやら余程見せたくないものらしい。ちはるはスケッチブックに被さって、絶対見るなと声を上げた。親友の自分にまで秘密にするとは何事か。綾乃の中の嗜虐心がふつふつと沸き上がる。

「あたしとあんたの仲でしょー? それでもか? それでも隠すんかー?」

「なんやなんや。えらい楽しそうやなあ」

「駄目なものはダメなのっ。後で見せるから、完成するまで待っててーっ」

 傍目には親友同士のよくあるいざこざに見えるだろう。そう、傍目には(・・・・)。間中に挟まる朗らかで伸びやかな声はなんだ? このやり取りを傍に見たのは何者だ。

「あっ、ごめんここ座るね。やー捜した探した。この辺で集まるんならモールしかないもんねえ」

「わ、わっ!?」

「何! ナニモノ!?」

 現れたのはナナカマドの制服を纏った同い年くらいの少女だ。毛先のふわっとした薄茶のショートボブに、猫みたいに円らな瞳。

「んー? んんー……。あぁ、ああ!」

 物怖じせず友好的なのは結構だが、困ったことにどちらの知り合いでもない。ちはると綾乃が困惑に顔を突き合わせていると、少女がぽん、と手を叩き。

「めんごめんご。自己紹介まだやったがね。うちは桐乃三葉きりのみなは。同じ学年のB組。この春名古屋の方から引っ越してきたんや。よろしゅーね」

 やや伸びのあるイントネーションは方言か。この顔で明るい性格、そこへ来て方言が重なれば異性ウケも良いだろうに。

 まあ、そんなことは置いといて。「いきなり出てきて何よあんた。あたしたちに何の用?」

「わたしたち、どこかでお会いしましたっけ?」

 初対面で友達面して声をかける理由は何だ。『探していた』というのなら相応の理由を聞かせてほしい。

「やァね。ふたりに頼みたいことがあって」三葉はちはるに人差し指を差し。「人助け、って言うんかな。ちょっと応援して欲しいひとがおるんよ」

「応援」ならば頼むべきは自分たちではなくチア部では? 渋い顔で訝しむ綾乃に、向こうは『まったまた』と平手を振って。


「うち、なんでも知っとるんよ。最近噂の魔法少女。あーれ、あなたでしょ? 西ノ宮ちはるさん」

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