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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
03:ごしょーらんあれ! キラキラチェンジ!
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悩んでないで、前だけ向いて!

※ たいせつなおしらせ ※

ストーリー進行があまりにも遅々とし過ぎているため、今週のみ二話連続更新とさせていただきます。

次話は7/1正午に掲載されますので、よろしければそちらもご覧ください。

第三章はこちらと次話で完結です。

「かつもくして見よ! 我こそはキラキラ星第一皇女! 星の魔法をその身に宿し、皆を明るく煌かす光の使者! キラキラ少女グリッタちゃんだ!」

 長ったらしい台詞を一度もトチらず、古ぼけたバトンを掲げて決めポーズ。秋川駅のロータリーを荒らすヒトカボチャに人差し指を突き立てる。


『――魔力! 魔力! 敵が来た! ここに来た! 倒されに・来た!』

 魔物はくり貫かれたその目から深緑の輝きを発し、ちはるを見据えて動かない。

 奴の目的は”養分”の回収と外敵の排除のふたつだけ。今この場で優先すべきは後者だ。カボチャ頭は半身を屈めて狙いを定め、ちはる目掛けて一気に跳んだ。

「う、お、わっと!」

 見て躱せたのは、向こうに当てるつもりがないからか。魔物ランタンは右に避けたちはるの頬を掠め、コンビニの屋根へと跳び移る。

 逃げるのか? だとすれば屋根を陣取る必要はない。ランタンは全身を覆うマントを広げ、その異形を見せ付ける。

「ぐ……、ううっ?!」

 ちはるの身体がくの字に曲がり、その顔は苦悶に歪む。何をされた? 鳩尾付近に響くこの痛みは何だ? 困惑し、首をもたげたその瞬間、狙いすましたニ発目が彼女の額に突き刺さる。

「おぅ……、おうげぉお……!」

 視界が揺らぎ、バトンを構えることすら叶わない。今、自分は何をされているのだ。何を貰って苦しんでいる? 直接相手をするちはるには何一つ理解できぬ。


「なによ……あれ」

 だが、店先で傍目に見ていた綾乃には判る。ランタンの身体は、南瓜のつるでヒトのシルエットを形作った代物。そこには無数の子南瓜が生えており、蔓の先でそれを素早くもぎり、風切り音を伴ってぶつけているだけ。

『――弱敵! 弱敵! 恐るるに足らず!』

 向こうが一枚上手だった。初撃で痛みを覚えさせ、反応する前に二発目で視界を奪って恐怖を植え付ける。喧嘩慣れしていないちはるにとって、この蹂躙はさぞ辛かろう。


「ちっ、くしょぉ……う」

 子カボチャの雨が絶え間なく降り注ぐ中、ちはるは頭の前で腕を交差して痛みに耐えつつ、屋根と壁のあるバス乗り場に逃げ込んだ。

 とは言え、それも単なる急場しのぎ。頑丈なカボチャは薄い板に穴を開け、ちはるひとりを的確に狙って来ている。

「いつまでもいい気になるなよ、どてかぼちゃあ……!」

 こんな時、グリッタちゃんならどうする? 内に潜むあの子は答えてくれないが、対処法ならシリーズの中にある。

 彼女は自らの魔法を手足など局所に纏わせて、身体一つで海上を滑り、空を舞っていた。向こうが飛び道具を使うなら、取るべき手段はこれしかない。


「シュテルン・グリッタ・エトワーーーール!」

 掛け声と共にバトンを振り、桃色の輝きを自らに纏わせる。全身に力が漲って、痛みや疲労が一瞬で吹き飛んだ。

「いっく、ぞおおお!」後は捉えて倒すのみ。かけっこの要領で右足を踏み込んで――。

「ぐお、わぁあ、あ、あ、あっ!?」

 さっきまで遠くに見えた月が、あっという間に大きくなって。カボチャ目掛けて跳んだはずなのに、ひと跳びで奴を飛び越え、下を向けば秋川駅周辺を一望できる場所にいる。

「ナンデ?! いや、そうじゃなくてッ」浮遊感は最初だけ。後は重力に引かれ落ちて行く。どうにかして着地しなくては。ちはるは手足に魔力を集中させ、落下の衝撃を掻き消した。

「なに、ナニ? なんなのーーっ?!」

 着地点はロータリーを軽く飛び越えて、歩道をふたつ超えた噴水広場。目算で概ね300メートルか。冗談じゃないと馬鹿の一つ覚えに駆け出せば、続く景色は秋川駅の改札前。

 捉えられない相手をそれ以上の素早さでねじ伏せる。答えは間違っていないのだが、得られるチカラを勘定に入れていなかった。

 今のちはるは暴れ馬に跨った幼子と同じだ。手綱を引けず、生じたチカラを持て余すばかり。戦って倒すどころじゃない。放っておけばチカラに敗けて死ぬ。


「ばかちは……。なにやってンの」

 カボチャのバケモノがロータリーを支配する最中。綾乃はひとりコンビニを出、縦横無尽に飛び回るちはるを睨む。

 彼女が何をしようとしているかは一目でわかる。今のままでは無謀極まりないことも。

(あんたがなんとかしなきゃでしょ。またぴいぴいわめいちゃって)

 前みたいに声を上げる? 立ち止まることすら出来ない人間に一体何が伝えられよう。

 割って入ってかき回す? いま隙を作ったところで何の意味もない。

「しょうが……ないか!」

 取れる手段はそう多くない。東雲綾乃は両の頬を叩き、化け物の前へと立ちはだかった。

「あ、あや……?」

「何やってんの?! 隠れ、隠れてっ」

 未だ友人を心配する余裕があったか。チカとマユの叫びをよそに、綾乃の歩みは止まらない。

(あれが前のニワトリと一緒のヤツなら、大丈夫……。絶対、大丈夫!)

 二度あることは三度ある。あれが同じ場所から来た魔物なら、ルールはきっと同じはず。綾乃は恐怖を噛み殺して人差し指を突き立てる。

「こっち見ろよ化け物! あたしはここだどてカボチャァ!」

 奴らの目的は人間を喰らうこと。餌が大手を振って出て来れば、やつの目は自ずとそちらを向く。

 ランタンの目が深紅に輝き、綾乃の身体が宙に浮いた。魔物の妖力に依るものか、身体から重さという重さが失せ、光の粒子に分解されてゆく。


「アヤちゃん」

 ロータリーのポールにぶら下がり、無理矢理身体を押し留め、次に観たるは吸収され行く幼馴染。

「ちはる!」吸われて存在格を失い行く中で、東雲綾乃は腹から声を張り上げた。

「悩んでないで前だけ向いて。目標に狙いを付けるの! 自分を信じて!」

 あんたなら出来る。恐怖など微塵も見せず、綾乃は親指を立ててカボチャの中へと消えた。

「自分を……信じる」

 綾乃が残した言葉を反芻し、再度ランタンを見やる。紅い瞳に無機質な顔。彼女は、あんなやつに吸い込まれたのか。あんな、やつに!

 もう、湧いて出たチカラに戸惑う姿はない。怒りに震えた両の目を奴に向け、逃がすものかと見定める。


「狙いを、付けて……」

 半身を沈め、踏み込む直前。その目でランタンの姿を睨む。動く前に一拍置いて、どうなるかイメージを巡らせる。

「一気に!!」

 周囲に疾風を撒き散らせ、西ノ宮ちはるが再び跳んだ。あのスーパーボールめいた無軌道さは失せ、目に見える速度にセーブされている。

「掴んだ!」

 放たれた子カボチャをすり抜けて、通り過ぎそうになるところを、向こうの右肩(?)を掴んで衝撃を殺す。そのまま奴の背に接地し、溜め込んだ魔力を足の裏より解き放つ!


『――ナンダ? なんだ!?』

 魔力の圧がランタンを屋根から弾き飛ばし、アスファルト舗装に亀裂を走らせる。奴が下、自分が上。先程までとは立場が逆。

「へへんっ! 恐れ入ったかどてかぼちゃ!」

 なんとなく、綾乃が言わんとしていたことがわかってきた。かつてグリッタちゃん遊びをしていた頃。出もしない魔力をバトンで『放つ』あの感覚。

『――喰ってやる! そのニヤケ面!』

 投擲は無意味と理解したのか、ランタンは両腕の蔓を振り被り、時間差で右・左と解き放つ。初撃はフェイント。それを躱し、横にずれたところで、左腕の蔓が絡め取るという寸法か。

 だが、ちはるの顔に焦りはない。迫る蔓を前に視界が鈍化し、反りやしなりまでもがはっきりと見えている。

「みぎ! ひだり! 前、後ろ! 左! 左! 右!」

 ダンスゲームでステップを踏むかのように、蔓の挙動を見切って躱す。大仰な動きは必要ない。心中に宿る魔力をコントロールし、足と目だけに集中させている。

「そし、てえええっ!」

 蔓の勢いが失せ、戻ってゆかんとするタイミングに合わせ、その束を両手で掴み取る。瞬時に魔力を腕に振り、右足を軸に半回転。

『――ナ・ニ?!』

 尋常ならざるチカラによって、ランタンの身体が宙に浮いた。振り子の要領で時計回りに上昇し、二秒後にはちはるの頭上。

「カボチャのバケモノ! アヤちゃんは返してもらうよっ!」

 そこで手を離し、無防備のまま飛んでゆくランタン。ちはるは即座にバトンを構え、全身に漲る魔力をバトンの先へと収束させた。

「ひっさつ! シュテルン・グリッタ・スタぁああーバースト!」

 呪文や構えは簡易版であるが、その威力に陰りなし。虹色に輝く光球はランタンの頭部を穿ち、歪なる亀裂を走らせる。


『――きえる! きえる? そんな! なんで!? わぁ、ぁあ、あうあ!』

 分厚い皮が弾け飛び、綴じ込められていた輝きが街中に降り注ぐ。エネルギーに還元されていた人々が重さを得、元の姿を取り戻す。


「アヤちゃん!!」

 無論、それは最後に吸われた綾乃も例外ではない。一際大きな皮に乗り、ちはるの元へと降りてゆく。

「終わったの」

「なんとかね」

 若干足元がぐらつくものの、外傷は一つも無し。綾乃はちはるに支えられて姿勢を正し、空を見上げた。

「綺麗だね」

「うん。めっちゃキレイ」

 時刻は間もなく午後七時半。陽が落ち暗くなり行く空に、自分たちを中心に降り注ぐ輝きの雨。美しい光景に思わず溜め息が漏れる。


「ちはる。あたし、決めた」

「ほへ?」

 呆けた顔の幼馴染に、不意打ち気味のこの一言。コンビニ内で今なお震えるチカ・マユと目が合った。綾乃は目を閉じて後悔を視界の外に押し流し、再びちはるの方へと向き直り。

「今朝は、つっけんどんに断ってごめんね。これからちゃんとサポートする。もう、あんたを見捨てたりしない」

「アヤちゃん……?」

 いつも高圧的な彼女から、こんな言葉を聞く時が来るなんて。ちはるは驚きに目を丸くし、発言の意味を理解しようとする。

「ねぇ。それって、つまり」

「けど」ようやっと繋がりかけたちはるの声を、綾乃の手の平が遮って。「あんたがそんな格好して魔物と喧嘩するのなら、こっちにも条件がある」

「じょう……けん?」

・次回の更新は7/1(水)正午を予定しております。

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