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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
03:ごしょーらんあれ! キラキラチェンジ!
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い〜よい〜よキャラ作んなくてぇ

「綾乃さんってばさあ、まじでどうかしちゃったの?」

「あんなのと仲良く手ぇ繋いでご登校とか。ナニ哀れみ? 分け隔てなく優しいですアピール? マジそれ超ウケるんだけど」

 ホームルームを告げる鐘が鳴り響く八時半。今年の皆勤もこれまでか。東雲綾乃は他人事のように心中そう独りごちる。

「別に、手はつないでない」

「いやいや、そうじゃないっしょ」

「あんなクソダサと仲良くしてて、そっちに何の利があるってことっしょー」

 ちはると登校していたのをカースト上位の友人ふたりに咎められ、場所を移してスーパー『いなぎや』のイートインスペース。奢られたトマトジュースはいつもより塩辛い。

「ヨソはよそ。ウチはうち。イイ子ちゃん振るのはよしなって」

「あれもアレで、なんかこう……集まり? そういうとこがあるんだから、あんたが面倒見なくてもいいじゃん」


(二人とも、何も解ってない)

 言い返せずトマトジュースを啜り、そうじゃないんだと不満を口内で噛み潰す。西ノ宮ちはるは。あの不器用オンナは。他を強調恭順しながらじゃ生きられない。目の前にあるのはいつだって我道。抜け出せないから一人ぼっちなのに。

 チカとマユが言いたいことは解っている。陸上部のエースたる自分がド底辺と親しくしていたら、仲良しの自分たちまでとばっちりを喰らう羽目になる。人を気遣う振りをして、その実遠回しに保身と脅迫。聞いているだけで腹が立つ。

「ま。そういうことだから。時間取らせてごめんね」

「あやもさ、身の振り方? みたいなこと考えといた方がいいよ。嫌っしょ? 学校でぼっちになっちゃうのはさ」

 伝えたいことだけ言い終えて、後はさっさと学校へ。あまりに鮮やかな去り際に、綾乃は思わず目を瞬かす。

 気に食わないが、二人の言うことは尤もだ。幼馴染の為とはいえ、残る一年半くらいの高校生活、何もかも棒に振ってしまうのは気が引ける。

 友情か、平穏か。若き東雲綾乃はどちらを取るかで大きく揺れていた。


※ ※ ※


「あーーーー……暇。すっごい暇あ」

 何に悩んでいようが、時計の針は止まらず進み、時刻は間もなく午後の四時。

 所属していた部活からあぶれた西ノ宮ちはるは、特に誰に頼られる訳もなく、渡り廊下を手持ち無沙汰に歩いていた。


『確かにあたしは友達でも良いって言った。それは否定しない。けどさ、ずっとべたべたしっぱなしなのは違うでしょ』

 あんたの為にもあたしの為にも、今は距離を置きましょう。学校に着くなりそう突き放され、残りの時限、休み時間も以下同文。

「なんだよ。なんなのさアヤちゃんってば」

 それじゃあ結局前と変わらないじゃない。三歩進んでニ歩下がるってか。ちはるは思い出し怒りで頬を膨らませ、意味もなく両の腕をぶんぶんと振り回す。

 今日は親睦を兼ねて図書室に綾乃を連れ込み、欠けた十年間を埋め合わせる算段だったのだが、当人不在でそれも総てご破算。寄る辺は無く、このまま直帰も気が引ける。

「む〜……」

 愚痴って意味無く廊下をぶらつき、辿り着いたは校舎最北の図書室。夕闇迫るこの時間、利用する生徒は殆どおらず、静謐せいひつな雰囲気を漂わせている。

「お、ぉおわっ」

 余程むしゃくしゃして歩いていたのか、雰囲気と周囲の陰影の違いでそこが何かを知覚したらしい。ちはるは振り上げた拳を背に隠し、驚いて姿勢を正す。

「図書室、か」

 暇に飲み込まれるくらいなら、本でも読んで気晴らしする方がマシだろう。ちはるは特に考えもなく引き戸を開き、読書スペースに滑り込む。


「あ!」

「え?」

 濡れ羽色の髪にクリーム色のカーディガン。朝学校前で見掛けたあの子が、熱心に本を読む姿が彼女の目に飛び込んできた。

「わ! わわわ! わ!!」

「違う、違うの! そのまま、そのまま続けて」

 また逃げられてはたまらないと、大手を振ってそのままでと静止を求める。

 先手を打ったのが効いたのか、朝のようなあからさまな敵愾心はない。相変わらずこちらを睨んだままであるが。

 改めて少女の姿を見やる。灰色の瞳は陰気に澱んでおり、服装も含め、他を寄せ付けない雰囲気を全身に漲らせている。

 読んでいるのは図鑑だろうか。表紙はズームアップしたオオカマキリ。どこに焦点があるのかわからないその顔は、傍目に見ていても怖気が走る。

「今朝はごめんね。あなたのこと、よく知らなくって」

「別に……いいよ。こちらこそ、ごめん」

 もっと酷い言葉をかけられるかと覚悟していたのに、続くことばが謝罪で思わず二度見。

『いいかいリリ。今回の成否はキミにかかっているんだ』。昼休み中あのシルクハットより託された指令。言いなりは癪だが、利害が一致するならやる他ない。

「ボク……。あぁいや、私は花菱璃梨(はなびしりり)。きみと同じ歳の二年。見えないだろーけど」

「い〜よい〜よキャラ作らなくて」他人行儀な挨拶を嫌い、向こうの肩をばしばしと叩いて。

「わたしはちはる。A組の西ノ宮ちはる。これから宜しくねっ、りりちゃん」

「りっ……りり・ちゃん?!」

 ふざけるなそんな可愛いあだ名、と言いかけ喉元で押し留める。また突き放しては元の木阿弥。癪極まりないが耐えろ。耐える他ない。

「えっ駄目!? わたしまたなんか地雷踏んだ?」

「別に。りりでいいよ、りりで」

「良かったァ。りりちゃん、りりちゃん、りりちゃーん」

 幼子みたいに何度も名前を呼んで。同じ日陰者でもここまで態度が違うものなのか。璃梨は心中うんざりと嘆息する。

(何でもいい。あとは……)

 既に『使い魔』は外部で動いている。対抗できるのはこの女ただひとり。まさか自分から此処に来てくれるとは。探す手間が省けたというもの。

 ここまでは良い。後はコイツを図書室に縛り付けておくだけなのだが。


「うん? どしたの?」

「や、えぇっ……とぉ……」

 会話が、続かない。

 纏いし制服のダサさは伊達ではなく、りりもちはるとは違った形で友達がいない。友達同士仲良く? 家族ともあまり話さないのにどうやって。無理難題を押し付けられたとわかり、今更ながらファンタマズルに対する怒りが湧き上がる。

(いや、待てよ)

 何かないかと見回すうち、ちはるの姿を素早く二度見。

 面倒だからと目も合わせずにいたのだが、それ故に気付けなかった”間違い”がひとつ。

「ねえ。ちはるちゃん、それって」

「ほい?」

「スカート。スカートの下の、フリフリ」

 ナナカマド高の制服は紺のブレザーにチェックのスカート。フリルなんて都会っ子のアイテムなぞあり得ない。

 ならばこれは? 続く答えは至極簡単。スカートを起点に目線を上向ければ、袖にも、ワイシャツの奥にも、不自然なくらい多くのフリルが覗く。

「あのさ。それって、まさか」

「おっ、おお? 気付いた? 気付いちゃった?? 参ったなー、隠してたのになア」

 別にそこまで言ってない、というりりの言葉を遮り、ブレザーを脱いでワイシャツのボタンを上から二つ外す。そこには一体何がある? キャミソールの代わりにちはるの肌を覆っていたそれは。

「クラスのみんなにはナイショだよ。実はね、わたし、キラキラ少女☆グリッタちゃんなんだ」

 まるで新しいおもちゃを手に入れた子どもだ。魔法少女装束を惜しげもなく晒し、羨ましいだろうと見せつける。

(ワーウルフとコカトリスは、こんなアホに敗けたっていうの……?)

 花菱リリはその様子を気取られまいとしながらも、西ノ宮ちはるという女の馬鹿さに絶句する他なかった。

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