7.
気がついたらブックマークがつていました。
読んでいただいてありがとうございます。
胃の辺りがきゅっと痛くなってきて、アイビーは息を吐いた。
「こんなことになるなんて思わなかったの、ごめんなさい」
「確認するが、この状況は君の計画とは違うんだな?」
「私だって、そんなに愚かじゃないわ。ちょっと北の別邸まで家出して、私の決意を見せようと思っただけなのよ」
こくこく頷きながら言うと、テオはなんだか胡乱な目をして頭を振った。
「この馬車は西に向かっている。西の城門から方向を変える可能性もあるが・・・・、西の城門の外にはスラムと、さらに先には砂漠が広がっている。有り体に言って、城門から出たら、君が無事に帰れる可能性は限りなく低い。だから・・・・・」
テオの手が伸びてきて、わしゃわしゃ頭を撫でられた。「やめてよ」とその手を払いのけようとしたのに、そのまま引き寄せられた。
「目を閉じて、口を閉じていろ」
そして・・・・、テオドールはアイビーを抱えたま、走る馬車から飛び降りた。
◇
「怪我はないな?」
石畳の道に背中から滑るように飛び降りたくせに、さっと立ち上がったテオドールは、アイビーのドレスをぱたぱた叩きながら問いかけた。どちらかというと、怪我をしたのは突然走る馬車から押し出され、地面に激突しかけたアイビーの心の方だ。
何かを返そうと口を開きかけ、結局、何も言うことができずに沈黙した。
地面がふにゃふにゃしている気がする・・・・。
呆然としている間にドレスを叩き終えたテオが、険しい顔をして馬車の走って行った先を見る。
「少し遠いが、西の鐘塔まで戻ろう。上手くすれば僕の騎士が追いかけてくるだろう」
行くぞ、と手を引かれて、たたらを踏む。むっとしてテオを睨むと、なぜだかにっこり笑われた。
「ほら、これは決意表明の家出なんだろう? 公爵とエレノアに気づかれずに次の馬車を手に入れて、北の避暑地は・・・・・、すぐ見つかりそうだから、南の離宮はどうだ? 今の時期は夜になると夜光虫が綺麗だぞ」
「・・・・海の近くはいやよ、海風はべとべとするもの」
「泳げばいいさ」
「姉様に怒られるわ」
「これは君の決意表明なんだろう? ・・・・・もう子供じゃないという、かな? それなのにエレノアに怒られるのを気にするのか? それに、家出しているんだからばれやしないさ」
そうかしら? と思いながら、テオに手を引かれるままに歩く。
「昔、みんなで南の離宮に行ったことがあったわね」
後で知ったことだが、その頃、王都で流感が流行り、まだ子供だった私たちは南の離宮に避難させられていた。子供だった私は何も知らず、ただ旅行に行けるのが嬉しくて、とにかくはしゃいでいた。