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お転婆姫の初恋  作者: sanin
5/16

5.

 サンデリアーノ邸の中庭で、テオドールは何度目とも知れない溜息をついた。

 彼の見上げる先には、アイビーの部屋に続くテラスがあった。木を伝い、壁を登り、アイビーの部屋へ忍んで行くのが、このごろの彼の日課だった。


 アイビーのもとへ行かなければ、わざわざ理由をつけてサンデリアーノ邸に泊まった意味がない。

 

 だが、押してダメなら引くべきだ。


 セオリーだとわかっていながら、今宵もアイビーに会わなければ、眠れはしないと思う。


 と、何処かで見回りの私兵らしきものが誰何する声が響いた。

 きゃぁと小さく響いた声に、眉を顰める。


 声の方へ近づくと、アイビーと侍女がいた。


「脅かさないで!」


 ふくれた様子のアイビーが声をあげる。


「どちらへ?」

「温室よ」

「ではお供を・・・・・」

「ダメよ!」


 強い口調に、なんだか嫌な予感がした。


「今日は私の誕生日ですもの。月光花の花を見に行くのよ」

「はぁ・・・・・」


 わかったような、わからないような曖昧な声に(あたりまえだ)、とっておきの秘密を打ち明けるような顔をして、アイビーが微笑んだ。


「知らないの? 月の光の中でしか咲かない魔法の花よ。お誕生日の日に、この花が咲くのを見ると、お願い事が叶うのですって。でも、お願い事をしている姿を誰にも見られてはダメなのよ」


 だから、付いてきてはダメよ?


 念を押して、アイビーが歩きだす。

 アイビーの姿が茂みの陰に隠れたのを確認して、後を追おうとする仕事熱心な兵士に合図を送る。


「必要ない」

「こんな時間にどうされたのですか?」

「散歩だ」


 僕の後ろを見て、常に付いている護衛がいるのを確認すると、兵士は静かに頭を下げて反対方向へと歩きだした。





 温室の前を通り過ぎ、庭の外れの蔦に覆われた壁の前で、アイビーは手提げ袋から何かを取り出した。

 

 庭へ花を見に出てきて、なぜ手提げ袋が必要なんだ?

 また馬鹿げた呪いだろうか?


 兄上よりも、母上よりも、アイビーと一緒にいた時間は長いはずだが、未だに彼女の思考回路は理解できない。


 アイビーが十一、二歳くらいのころ、恋人ができる呪いだとか、恋が叶う呪いだとかで、夜中の庭園で白い薔薇の花を探したり(そもそも白薔薇の花園ではないから、そんなものあるはずがない)、夜明けの薔薇の雫(なんなんだ、それは?)を探して、一晩中薔薇園で薔薇を眺めていたことがあった。

 薔薇園に敷布を敷いて寝そべり、一晩中アイビーのおしゃべりに付き合っていたことを思い出して、思わず微笑みがこぼれた。


 あのころのアイビーは、可愛いお気に入りの従妹だったはずなのに。


 結局、いつの間にかアイビーは眠ってしまい、薔薇の雫とやらも見つからなかった。


 かちん、と金属の合わさる音がした。蔦に隠されるようにしてあった木戸が、きぃと軽い音を立てて開き、庭の香りとは別の、夜の王都の空気が流れ込む。


「何をしているんだ!」


 思わず叫び、振り返ったアイビーが顔を顰めた。


「あなたこそ,こんなところで何をしているの?」

「質問に質問で返すのは感心しないな。もう少し大人になったらどうだ?」


 アイビーの手から鍵を取り上げる。


 何を考えているんだ、この魔女は?


 ・・・・こんな夜中に?


 ・・・・・・誰に会いに?


 どす黒い何かが沸き上がってきて、乱暴にアイビーの肩を掴んだ。


「もう少し自分の立場をわきまえろ! 君はいつまでも甘やかされた子供のままだ!」




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