江戸っ子は火事の中
「てやんでぇ・・・一体全体どうなってんでぃ!」
貧乏長屋の傘張り町人である『源さん』は今日も明日もその日暮らし、と思いきや-
長屋の火事をきっかけに、気がつけばなぜか森の中。
なせか傍らにいた女性はいかにも何か知っていそうだが?-
いつでもどこでも誰にでも、江戸っ子の"粋"で世界を突き進む異世界譚。
肩の力を抜きながらお楽しみいただけますよう、お願いいたします。
『火事と喧嘩は江戸の華』と言えば聞こえは良いが、焼け出される当人からすれば真冬の寒空に叩き出され明日の寝床も知れぬ身になる訳で-
-溜まったものではない-
町外れの貧乏長屋の住人の一人である男は燃え立つ炎を前に独りごちる。
こちとら宵越しの銭も持てない素寒貧の傘張り師、蚤の湧いた万年床にどぶろくで管を巻き、さて明日はどちらに傘を売りに行こうとふらつく頭で考えていた矢先のことだった。
長屋の小火はあっという間に猛火へと姿を変え、煙に巻かれて逃げ出したものの、少ない財産である傘まであっという間に灰の中。
ざわめく群衆の只中で、いよいよこれは明日の飯の種まで心配しなければならないと肩を落とした男の耳に絹を裂くような甲高い声が突き刺さった。
「坊やが!坊やがまだあの中に!」
群衆から数々の悲鳴が上がるも、長屋一面を覆い尽くす炎の色は真昼のように辺りを染め上げ、チリチリと肌を焼く熱風を前に踏み出せるものがいるだろうか。
こんな自殺行為、よっぽどの英雄願望の持ち主か明日の保証もない貧乏人でなければ・・・なければ?
「でやんでぃ!俺のことじゃねぇか!!」
男は井戸の傍らで野菜を冷やしていた桶をわしっと掴み、半ばぬるま湯となったそれを頭から被る。
「坊やはどこでぇ!どけどけぃ!」
気合一閃、左右に分かれる群衆の花道を源さんは一気に駆け抜ける、目指すはさらに勢いを増す業火の只中、明日をも知れぬ身ならばせめて新た若い命の為に・・・!
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初の投稿となります。
右も左もわからない若輩者ではございますが、
少しでも興味を持っていただけますと幸いです。