3話 緊急招集
ギルドにきた俺たちを待っていたのは、今までに見たことも無いような騒然とした風景だった。
「なんだこりゃ、何かあったのか?」
「確かに……私がリーザスに来てから、ここまで慌ただしいギルドは見た事がないわね」
アサギでも見たことがないほど稀なのか。まさに異常事態ってやつだな。
「あ、ホクトさん!」
俺たちが入り口で固まっていると、ノルンさんが俺たちを見つけて駆けよってきた。彼女の表情も、今までに見た事がないくらい険しい。こりゃ、本当に何かのっぴきならない事態ってのが起こったんじゃないか?
「ノルンさん、なんかすごい慌ただしいですけど、何かあったんですか?」
「はい、それについてこれから説明会が開かれます。Dランク以上の冒険者パーティは強制参加です。来て早々で申し訳ないですが、2階の会議室へ向かってください」
「アタイたち全員か?」
「いえ、会議室もそこまで大きくないのでパーティリーダーのみの参加になります。猛炎の拳からは、ホクトさんに参加してもらいます。アサギさんとカメリアさんは……」
「分かったわ。カメリア、私たちは一旦宿に戻りましょう」
「仕方ねえな。ホクト、説明会が終わったら状況を教えろよ」
「わかった」
俺はアサギとカメリアを見送って、ノルンさんについて2階に上がる。
「でも、俺たちたまたまギルドに来たけど、来なかったらどうするつもりだったんですか?」
「行き違いでしたけど、すでに羊の夢枕亭に職員が向かっていました。緊急招集の場合、所在地のはっきりしている冒険者の方へは連絡が付きやすいので」
そうか、だから遠征で別の町に行くときは、行った先で所在地の変更を行う必要があるんだな。こうやって、その状況になって初めて感じる有り難さだな。
ノルンさんと必要最低限の事を確認しながら、一番奥の部屋に通された。扉から中に入ると、すでに結構な数の冒険者が集まっていた。
「ではホクトさん、始まるまでこちらでお待ちください」
「わかりました。ありがとうございます」
ノルンさんにお礼を言って別れる。試験会場みたいに横にくっつけて並べられた机、それが何列も置かれている。この部屋は初めて入ったけど、結構なキャパシティがあるんだな。
並べられた机に、それぞれ4脚程度の椅子が置かれている。まだ余裕はあるみたいで、開いている椅子も目立つ。さて、どこに座ろうか……。
「おいホクト!」
中に入った俺に声をかけてきた奴がいた。そっちを見ると、ソウルが手を振っていた。
「こっちだ、俺の隣が空いてるぜ」
「お前も呼ばれてたのか」
「まあ、リーザス在住のCランクパーティだからな、うちは」
確かにDランク以上に声をかけているとはいえ、本当に必要なのはより高ランクのパーティだろう。そう考えれば、ソウルたちのパーティに声がかかるのは必然だったな。
「でも、よく町にいたな」
「俺たちも、そろそろ挑戦しようと思ってたからな。その準備でしばらくは仕事を休んでたんだよ」
「挑戦?」
「願いの塔だよ」
その言葉を聞いて、俺の背中に電流が走った。確かにソウルたちはCランクパーティ、願いの塔に入る条件は満たしている。でも、俺の同期がこんなにも早く願いの塔に挑戦すると聞いて、俺の心は台風直撃のときの海くらい荒れていた。
「そうか、お前らCランクだもんな」
「だったんだけどな、その矢先にこの緊急招集だ。まったくついてねえぜ」
ソウルは俺の心情なんてお構いなしに喋り続けている。確かにソウルはダチだ、そのダチが願いの塔に挑戦するって話は素直に応援したい。だけど、それ以上にやっぱり悔しい。俺たちの方が先になんて考えは……無くはないけど少ない。それよりも置いて行かれたって気持ちの方が大きい。
「でも、お前ら3人で願いの塔に入るのか?」
「え?ああ、とりあえずはな。挑戦して無理そうなら、新たにメンバーを募集するわ。ただし、女に限るけどな!」
「はは、お前やっぱりメンバー募集をナンパと勘違いしてんのな」
「いいじゃねえか、拘りってのは大事だぜ?」
取り止めの無い話題でお茶を濁す。今のグズグズになった俺の心情を、ソウルにだけは知られたくない。必死に心を押し殺して、時間を潰すことにした。
どれくらい時間が経っただろうか、部屋の中の椅子も粗方埋まってきた頃ダッジさんを含めたギルドの人たちが部屋の中に入ってきた。
「みんな、急な呼び出しで済まなかったな。今もギルドはてんやわんやなんだが、とりあえず集まってもらった理由と、これから我々が取るべき行動について説明する」
ダッジさんが話し始めたことで、部屋の中で雑談していた連中も静かになった。いよいよ今回の緊急招集について内容を聞けるらしい。
「じゃあ、今回の事についてこの方に説明してもらう。お願いしますギルマス」
「おう、初めましてのやつもいるかもしれねえから自己紹介しとく。俺は、このリーザス冒険者ギルドのギルドマスター、ギース・アンダーソンだ」
おお、ギルドマスター。リーザスのギルドマスターは初めて見たよ。見た目は40代後半から50代前半って感じか。金髪をオールバックにしてカッチカチに固めている。なんか、和風の格好をしたら一昔前の格ゲーのボスみたいな人だ。
「まず、今回お前らを招集したのは……リーザスにスタンピードが接近しているからだ」
ザワッッッ!?
スタンピード、その単語が出た瞬間周りにいる冒険者たちが色めきだった。隣のソウルも険しい表情をしている。スタンピードってあれだろ、確か魔物が大量に発生して津波みたいに町を襲うってやつ。地球で読んだファンタジー物、特に異世界物じゃ定番のイベントだったな。そうか、ついに王道イベントが発生するのか。
「事の発端は、ここから北西に1カ月くらい進んだところにあるガンズって町の近くで、突然村と連絡が取れなくなったという事件が発生した。ガンズの冒険者ギルドから派遣された冒険者が見つけたのは、魔物に踏み荒らされた壊滅した村だったそうだ」
村が壊滅……規模にもよるんだろうけど、どれくらいの危険度なのか俺には判断がつかない。
「ギルマス、その壊滅した村ってのはどれくらいの規模だったんだ?」
俺と同じことを考えた冒険者がギルマスに聞いた。話の腰を折られたギルマスだったけど、質問に対してはちゃんと答えた。
「人口50人程度の小さな村だったらしい。それと、正確には1人を除いて全滅だ。小さな女の子だけが助け出されたようだ」
人口50人か。大きくはないけど、魔物に対してはそれなりの対処をしていただろうに。ウドベラに行く途中で立ち寄った村も、50人に満たない小さな村だったけど魔物の侵入対策で外壁は作ってた。木の柵だから、そこまで耐久度は無いけど、魔物に襲われてもいきなり村が全滅することは無いんじゃないかと、見たときは思ったな。
「話をつづけるぞ。調査の結果、そんな壊滅した村が全部で10あることがわかった」
10!?それぞれ同じような規模の村だとして、500人が死んだのか……。
「そして、この情報を他の町のギルドに連絡した後……ガンズの町とも連絡がつかなくなった」
「おいおい、マジかよ!?」
「村は仕方ないとしても、ガンズの町は人口3000人くらいいなかったか?」
「ああ、俺は護衛でガンズまで行ったことがあるが、結構デカい町だった。それが、やられたって言うのか?」
町がやられたって情報には、さすがの冒険者たちも想定外だったのか一気に周りが騒然とした。
「まじぃな」
「……なにがだ?」
騒然とした周りを観察しながら、隣のソウルが呟いた。
「俺もガンズって町には行ったことがあるんだけどな、結構大きな町で外壁も石壁で出来てて、しっかりしてたんだよ。それが、仮に魔物たちに落とされたとなると……」
「リーザスでも危ないか?」
「……大丈夫だと思うけどな。そもそもガンズとリーザスじゃ規模が違う。当然リーザスの方が町の外壁も立派なものだし、ちょっとやそっとの魔物の群れじゃびくともしない」
「……」
「だけど、もし本当にガンズがスタンピードで落ちたって言うなら、リーザスも安心はできねえな。今回のスタンピードは、今までのと比べても一筋縄じゃ行かない可能性が出てきた」
いつもは無駄に自信過剰なソウルが言うと、本当にやばい気になってくる。騒然とした室内に突然怒号が響いたのは、そんなタイミングだった。
「黙れ!憶測で不安を煽る様なことを言う奴は、厳罰に処すぞ?」
ギルマスの一言で、周りが一気に静かになった。
「先を続けるぞ。この情報がガンズから届けられたのは、リーザスだけじゃねえ。他の町にも同じものが届いていた。だから、我々リーザス冒険者ギルドは、他の町のギルドと協力してガンズ近辺の調査を行った。その結果……ガンズの町も壊滅していたことを確認できた」
「……」
今度は誰も喋らない。悪い予感が現実になったから、誰も何も言えなくなってしまった。
「ただ、全くの無駄足だったわけじゃねえ。他の村でガンズの町に住んでいたものを見つけることができた。その者から話を聞くと、ガンズの町がスタンピードによって壊滅したのは間違いないらしい。そして、その規模は今までのスタンピードとは桁違いに多い1万匹程度だと言う事が判明した」
……今、1万匹って言ったか?そんな数の魔物とどうやって戦えって言うんだ?
「魔物の数からして、我々だけでは歯が立たん。そこで今回のスタンピードには、複数の町が合同で当たる事と決定した。ここにいるお前らには、強制的にスタンピード鎮圧に参加してもらう。もちろん、他の町でもDランク以上のパーティが緊急招集されている。なんとか他の町と協力して、スタンピードを乗り切るぞ」
イベントの全容は何となく理解したけど、さて俺たちは生き残れるのか?




