2話 今後の指標
「ただいま、お母さん!」
「ハンナ、店では女将さんと呼べって何度も言ってるだろ?」
「ごめんなさ~い!女将さん、お兄ちゃんたち帰ってきたよ」
街中で食べ歩きをしてきた俺たちは、いつもの定宿『羊の夢枕亭』に戻ってきた。中に入ると、いつものハンナちゃんと女将さんのやり取りを見る。この2人のやり取りはワザとかと思うほどいつも一緒だ。だけど、これを聞くと帰ってきた気になるから狙ってやってるんだと、もっぱらの噂だ。真相は知らない、女将さんが怖いから聞けないし……。
「今日は早かったじゃないか」
「そうなんだよ、この辺の魔物たちは軟弱で今いち燃えねえんだ。もっと強い魔物がどこにいるか、姉御は知らねえか?」
カメリアは、宿に入るなりローザさんの所へいった。あいつ、本当にローザさんの事気に入ったんだな。俺たち以外の誰かと、ここまで楽しそうに話すカメリアはウドベラにいたアーネちゃん以外に見たことがない。こいつも、ちょっとちょっと変わろうとしてるんだな。まあ、2人で俺をおちょくるのは止めてほしいけど。
「あまり滅多なことを言うんじゃないよ。ここは、ただでさえ塔があって物騒なんだ。外の魔物まで手に負えなくなったら、この町の住人たちは逃げる事も出来なくなる。一番被害をこうむるのは、我々一般人なんだ」
「あっ……す、すまねえ。アタイ、自分の事ばっかり考えてた」
ローザさんがカメリアの増長ともとれる発言を注意してくれた。ローザさんが言わなきゃ、俺が言うところだったけどカメリアの奴、俺の話じゃ聞かないからな。ローザさんと言うブレーキ役がいてくれるのは、俺としても助かる。ただし、ローザさんが一般人と言うのは無理があるだろ。
ゴチンッ!
「いってぇ!!」
「お前、今良からぬことを考えたな?」
いつの間にか、俺の目の前にローザさんがいて拳骨で殴られた。なんでこの距離で、俺がローザさんの悪口を考えてたのが分かったんだ?
「お前は、顔に出やすいんだよ」
「……精進します」
「うむ」
俺の謝罪?を受けてローザさんは奥に消えていった。
「じゃあ、私もお店の手伝いがあるから」
ハンナちゃんもローザさんの後を追って、店の奥に消えた。ポロンは店に入ることも無く、恐らく裏庭の自分のねぐらに戻ったんだろう。
「さて、俺たちはどうする?」
「ギルドへの報告は、もう少しあとでも大丈夫だと思うから、お茶にしない?」
アサギが食堂の方を指して提案してくる。カメリアの方を見ると、頷いていたので俺たちは午後の紅茶と洒落込むことにした。
俺たちは、羊の夢枕亭に備え付けられた食堂に入って席に座る。昼を過ぎて、夕方までの時間帯はどこの店も暇になる。それは、この羊の夢枕亭も例外ではなく、今も俺たち以外には2組程度の冒険者と思しき連中しかいなかった。特に席は決まってないんだけど、いつも使っている席が空いていたので、そこに座る。俺の向かいにアサギ、横にカメリアという布陣だ。
俺たちが席に着くと、周りにいた冒険者たちの会話が聞くとはなしに耳に入ってきた。
「聞いたか?また、村が1つ全滅したらしい」
「またかよ、これっていよいよキナ臭くなってきてないか?」
「ああ、本格的に始まる前にリーザスを出た方が良いだろうな……」
そんなやり取りが聞こえてきた。途中から聞いたことで主語が分からないけど、何か悪いことが起こる、もしくは現在進行形で起こってるって事かな?あっちの話も気になる……けど、今はアサギに聞きたいことがあったんだ。
「で、この会を設けた意図はなんなんだ?」
「あれ、気付いちゃった?」
「そりゃ気付くだろ。普段アサギからこんな風に誘われたことは無かったしな」
アサギと言う女性は、見た目に反して以外に公私をしっかり分ける方だ。カメリアとパーティを組む前も、四六時中一緒だったかと言うと、実はそうでもない。朝と夜の食事は一緒の事が多かったけど、それ以外ではあまり一緒になることは無かった。俺が食堂にいるアサギを見つけたら、一緒にお茶をする程度だ。
「何かパーティメンバーで相談したいから、誘ったんだろ?」
「へ?ただ、甘いものを食べたいから誘ったんじゃないのか?」
俺とカメリアのこの温度差。もう少し物事を注意深く観察しようぜ、カメリア。
「ちょっとこれからのチームの方針を決めようと思って。私たちがチームを組んで、そろそろ1カ月でしょ?今まではお互いの連携なんかを確認する時間だったけど、それもだいたい解ったし、これから何を目標にするのかなって……」
「アタイは強い奴と戦って、もっと自分を高めたい」
「俺は願いの塔の踏破だな」
「なら、とりあえずCランクを目指すって事でいい?」
カメリアがどこまでの事を考えて言ってるか解らないけど、冒険者ランクを上げるってことは、より強い敵と戦う事になるだろうからCランクを目指すって言うのも間違ってはいない。それに俺の願いの塔は、Cランクにならないと入る事すらできないんだから、2人の共通した目標としてCランク冒険者って言うのは合ってるだろう。
「俺としては問題ない」
「アタイも無いぞ」
「じゃあ、Cランク冒険者になることを直近の目標にしましょう」
アサギがチームの方針をあっさり決めてしまった。こういう事は、本当はリーダーがやらなきゃいけないんだろうけど、上手く出来ないものだな。
「ごめんな、アサギ」
「ん?なにが?」
「今のって、リーダーの俺が仕切ってやることだよな。お前に言われるまで、全然思いつかなかった」
元の世界でも、他の人を取りまとめてリーダーシップを発揮するようなポジションになった事がない。野球だって、キャプテンとかしたことないし。
「それはいいの。多分ホクトくんよりも私の方が得意だから。リーダーって言うのは、チーム内で出た、色々な案をもとに方向を指し示すのが仕事よ。案を出すのは、私やカメリアで十分」
「え、アタイもやるのか?」
「当たり前でしょ、私1人に全部やらせる気?」
「いや、だってアサギ得意なんだろ?なら、アタイがやらなくてもいい……かなって」
「ダメよ、もちろんカメリアだけじゃなくてホクトくんも気付いたことがあったらどんどん発言してほしい。それを私が纏めて、最終決定をホクトくんにしてもらうようになると思う。カメリアだって、チームの一員なんだから、ちゃんと考えて話し合いに参加しないとダメよ」
「わ、分かったよ」
アサギはチーム内の頼れるお姉さんポジだな。でも、俺は最後に決めるだけでいいのかと思ったら、当然案出しもやるのか。まあ、思いついた時だけ発言するようにしよう。
「それで、どうしたらCランクになれるんだ?」
俺は、一番気になってたことを聞いてみた。ソウルがCランク冒険者になったって話を聞いてから、早く追いつきたいとは思ってたんだ。願いの塔にも入れるようになるし、できるだけ早くCランクに上がりたい。でも、方法が分からなかった。
「特にこれっていう方法はないの。だけど、ホクトくんとカメリアはすでに1つのダンジョンを踏破している。なら、あと1つダンジョンを踏破すれば余程の事がない限りはCランクに上がれると思う」
あと1つダンジョンを攻略か。それなら、何とかなるか……。
「ソウルも2つのダンジョンを攻略したのか?聞いている限りじゃ、そんな事はしてなさそうだったけど」
「明確な指標が無いのよ。基本的に、どれだけギルドに貢献しているかであがるから……早い話が功績ってこと。ホクトくんもDランクに上がったときは、ゴブリン殲滅作戦で、敵の親玉のホブゴブリンを倒したから上がれたのよ。あのとき、ホブゴブリンを倒せなかったら作戦が失敗していた可能性が高い。それを未然に防いだ上、倒してしまったから一気にDランクになれたのよ。それまでのホクトくんの実績じゃ、よほどの事がない限りは、あの時点でDランクに上がることはできなかった」
「あのホブゴブリン討伐は、余程の事ってことか?」
「さっきも言ったけど、ホブゴブリンに逃げられていたら作戦自体が失敗していた可能性があるわ。それを冒険者になりたてのホクトくんが食い止めたんだもの、ギルドはそこを評価したんでしょうね」
ギルドへの貢献、それはこの世界――人が暮らすエリア――の安全につながることをする。それは町の外での魔物退治だったり、ダンジョンの攻略。ダンジョンを攻略までいかなくても、ダンジョン内の魔物を狩ればスタンピードの確立を下げる手助けになる。そう言った、町に降りかかるリスクを取り除くことができれば、ギルドは評価してくれるって事だろう。
当然、難易度によって貢献度は変動するだろうけど、俺たちがCランクに上がるためには、ある程度危険とは解っていても受ける必要があるってことか。それを率先して行えば早い段階でCランクに上がれるかもしれない。
「その辺りの匙加減はアサギに任せるよ」
「任せて。私がCランクに上がったことも参考になるでしょうから、ギルドで仕事を探しつつ、より早くCランクになれるように計画を立てるわ」
俺とカメリアでは、こういう頭を使ってパズルを完成させていくって方法は、思うって事も無かっただろう。なんせ、2人とも筋金入りの脳筋だ。
「とにかく、第一に考えるのはリーザスから近くて、そこそこの魔物が多くいて、時間をかけないで攻略できる……こんなところね」
「そんな都合のいいダンジョンが、見つかるとは思えないけどな」
「それをギルドで見つけるの!」
「頼んだぜアサギ」
カメリアが、考えることを放棄してアサギに丸投げする。良くないとは思いつつ、俺には打開策を思いつくことなんてできない。なら、アサギの案で動いてみるのも良いかもしれない。
「まずはギルドに行って掲示板を見てみよう。良さそうなのがあれば受ければいいし、無いならしばらくは鍛錬に時間を割きたいな」
「なら、さっさとギルドに行ってみようぜ!」
俺たちは、今後の計画を纏め終えてからギルドへ向かった。




