15話 魔法と精霊術
夕食も終えて、俺たち3人は焚火の火にあたりながらアサギの話を聞く。左隣には仰向けに寝っ転がったカメリア、そして右隣にはカップを見つめるアサギ。こうして美女2人に囲まれたシチュエーションは大変おいしいと思う。
「魔法?」
「そう、魔法。私は、ずっと前からこの森のどこかにあると言われる、炎の魔法を習得するために通っていたの」
魔法、俺にとっては馴染みのない、だけどこの世界ではあって当たり前の現象。前にアサギが使っていたのを見たことはあったけど、実際どうやって魔法を覚えるのかとか知らないな。
「魔法って、どうやって覚えるんだ?」
「……そっか、ホクトくんの元の世界には魔法が無かったんだよね」
「へぇ、ホクトの世界ってのは魔法が無いのか?じゃあ、どうやって火を熾したりしてたんだ?人力ってのは不便じゃ無かったのか?」
「俺たちの世界は、科学が発展してたからな。魔法なんて無くても、大概の事は科学が何とかしてくれてたよ」
「カガク?」
「ああ……俺理系じゃないから、上手く説明できないな。アサギ、前に俺が説明したことをカメリアに説明できるか?」
「無理言わないでよ、1回聞いただけじゃ私だって理解できないわよ」
「そうか……え~っと、俺の世界の科学って言うのは、それを論理的に説明するための知識なんだよ。火で言えば、燃えるものと酸素と熱があれば燃える」
「……は?ホクトが何を言ってんのか解らないぞ?」
まあそうだよな。俺もこの2人に燃える理由を正しく説明できる気がしない。そもそも俺は文系――理系よりマシ――だったから、火が燃える理由を相手が理解できるところまでかみ砕いて説明できない。学校で習った気はするから、そんな難しいことでもないんだろうな……。
「燃えるものって言うのは、木とかだな。これに熱が加わることで酸素とカガクハンノウをおこして……結果として、モノがモエルンダヨ」
「お、おいホクト!大丈夫か?なんか顔色が悪くなってきたぞ?」
「ホクトくん!?あんまり難しいことを考えちゃダメ。ほら、これを飲んで深呼吸して」
ああ、頭がボウッとする。普段使わない脳を使った事でオーバーヒートしたみたいだ。あっちの世界でも授業について行けなくなると、いつもこうなってたな。
「ゴクッ……ゴクゴク……ふぅ」
「大丈夫?」
「ああ、ありがとう。もう大丈夫だ」
「まったく、知能が2なんだから無理に頭を使う無いよ」
「うるさいよ、お前だって知能8で似たり寄ったりだろ!」
「だから、アタイは頭を使わない!」
「自慢になんねえよ!」
しかし、元の世界でもそうだったけど、こっちの世界でも全然頭を使ってなかったんだな。野球のルールとか、作戦とかは頭に入ってくるのに、どうして学校の授業とかはダメなんだろう。
「さっきのホクトくんの言葉を、私なりに解釈してみたの。合ってるか解らないけど聞いてくれる?」
アサギが落ち着いた俺に聞いてきたので頷いた。もっとも、俺にアサギの言っていることが理解できればいいけど、それも解らなかったら合ってるかどうかも怪しくなるな。
「つまり、ホクトくんの世界のカガクって言うものは、火がなぜ燃えるのか?火はなぜ熱いのか?火はなぜ消えるのか?を、あやふやにしないで1つずつ解明していく学術ってことでいいのかな?」
「ああ、多分そういう事だと思う。俺は勉強が嫌いだったから、全然身についてないけどな」
なんせ学校の授業なんて、ほとんど寝てたし。試験の時に一夜漬けで頭に詰め込んで、試験が終わると綺麗さっぱり忘れてた。俺の学校は、試験で赤点の数が3つ以上だと強制的に補習と強制学習への参加で、部活動を禁止されてたからな。野球ができなくなるから、そこだけは死に物狂いで勉強したもんだ。
「凄い世界だよね、ホクトくんの歳でそういう学業を修めることができる環境があるなんて」
「ああ、俺の国は15歳まで義務教育って言って、親は子供の為に学校に通わせる義務があったんだ。そこから更に3年間、高校っていう、より高度な勉強をお金を払って受けるのが一般的だったんだよ。実際、高校までが義務教育みたいなものだな」
「ギムキョウイク?そんな制度があったの?」
「俺の世界でも全ての国がって訳じゃ無いけど、ある程度の国力のある国はだいたい取り入れていたな」
「凄い進んだ世界だったんだね。この世界では、子供だけじゃなく大人も真面に文字の読み書きができないのに」
「俺の世界の事は、これくらいでいいよ。アサギが魔法を覚えるって話だったろ?改めて聞くけど、魔法ってのはどうやって覚えるんだ?」
「……一番多いのは、魔法を使える人に師事して教えてもらう事。魔法使いは、魔法が使えるだけで色々な働き口があるから高給取りが多いの。だから、可能性が少しでもあるなら、高い授業料を払ってでも魔法使いになりたいって人は多い」
「私塾ってことか。でも、こんな森の中に私塾があるっていうのか?」
「今回の場合は、ちょっと特殊でね。私たち狐人族の扱う魔法は、他の種族とはちょっと違うの。厳密に言うと精霊術に近いかな……」
また知らない単語が出てきた。精霊術?魔法以外にも精霊術って言うのがあるのか?精霊って言うとあれだよな、エルフとかが使うイメージがあるやつ。
「精霊術って言うものを教えてくれ」
「聞いたことが無かった?精霊術」
「無いな。リーザスの町でもウドベラの町でも、使えるってやつを見たことがない」
「そうね、結構種族特有の能力だったりするから、あまり言葉としては出てこないかも。みんな総じて魔法って呼んでる事もあるしね」
魔法と精霊術、名前と響きは全然違うのに、この世界の人は同じものと考えている人が多いって事か?それは、ちょっと大雑把すぎないか?
「魔法は、周りにある魔力を練り上げて指向性を持たせて魔法とする。対して精霊術は、魔力を精霊への貢ぎ物……つまり餌として精霊に自分の思い描いた現象を起こしてもらう。こうやって話を聞くと、全然違うものだって解るでしょ?」
「確かに。でも、今の話の感じだと魔法の方が魔力を多く使うのか?」
「そのとおり!魔法は、起こせる事象も大きなものだけど、規模に比例して魔力を多く消費する。大して精霊術は、起こせる事象は小さいけど、最初に魔力を精霊に渡すだけで色々な事ができるわ。もっとも精霊との相性もあるから、なんでもできるって訳じゃ無いけどね」
人の目から見た魔法と精霊術は、確かに同じような結果になるのかもしれない。だけど、過程は大きく違っている。ぶっちゃけ、覚えられるなら省燃費な精霊術を覚えた方が今後の役に立ちそうだな。
「じゃあ、俺にも精霊術を教えてくれよ。魔法は合わなかったみたいだし、精霊術ならワンチャン覚えられたりしないか?」
「残念だけど無理よ。精霊術は、魔法以上に使える人が限られるの」
「でも、可能性はあるんじゃないか?やる前から無理ってことは無いだろう?」
「精霊術は個人よりも種族特性が高いの。例えば、エルフは風や水の精霊と相性がいい。ドワーフは火と土の精霊と相性がいいみたいにね。でも人は、全ての精霊と相性が普通なの。普通程度だと、よほど物好きな精霊を見つけられない限りは、精霊術を使えないわ」
種族か……俺は一応人族だろうから、無理か。ああ、精霊術使って見たかった。
「そう言うからには、狐人族が相性のいい精霊もいるんだよな?」
「ええ、私たち狐人族が相性がいいのは火と風ね。特に火に関しては、他のどの種族よりも相性がいいのよ」
火と風か、その二つを掛け合わせると、とんでもない広範囲殲滅魔法ができそうだな。あれ、だけど……。
「アサギって、前に使ってたのは水の魔法だったよな?狐人族って水とも相性がいいのか?」
「……いえ、狐人族は水とは相性が良くないわ」
「なら、なんでアサギは使えたんだ?」
「種族的相性があっても、個人では差がでるの。私が相性がいいのは水と風、少し弱くて火って感じね」
「じゃあ、今回手に入れようとしているのは水の精霊術か?」
「……いえ、今回私が求めているのは火の精霊術。それを使役するため火の精霊と契約したいの」
「火か……。さっきの話だとアサギと相性は悪いんだよな?それでも火が必要って事か?」
「種族特性って言うのは、個人で相性のいい精霊がなんであれ、付き纏うものなの。つまり、私は狐人族だから火に強いのに相性が良くないから強力な精霊術を使えない。個人的に相性のいい水の精霊術をどんなに鍛えても、火を使う狐人族に勝てないの」
スポーツ一家から、芸術の一芸を持った子供が産まれたみたいなものか。個人がどれだけ芸術方面を好きでも、持って生まれたポテンシャルはスポーツに特化してるってことだよな。
「かなり無理をしてるんじゃないか?」
「……私もね、いつまでも塞ぎ込んでてもダメだと思ったの。だから、みんなとバラバラになってから、何かできないかと考えて思いついたのが……」
「火の精霊を使役する事?」
「そう……」
アサギもカメリアたちと別れた後で色々後悔したんだろう。その中で、上を目指すにはどうしたらいいのかを模索して、辿り着いたのが火の精霊の使役。相性のいい精霊じゃないから、誰かに助けてほしいはずなのにパーティ崩壊の引き金を引いたと思っているアサギにとっては、独りで挑むしか選択肢がないわけだ。
「水臭いな……」
「え?」
「俺はアサギとパーティを組みたいと思っている。これは、最初にあったときから変わらない気持ちだ」
「……」
「アサギが色々あって、誰かとパーティを組むのを躊躇っているのは知っているよ。だけど、それでも俺とカメリアとパーティを組んでほしい。そのために火の精霊の使役がどうしても必要なら、俺たちを頼ってくれ」
「ホクトくん……」
「きっとカメリアも同じ気持ちだ。なあ、カメリア!」
同意を求めるために、カメリアに向き直った俺が見たのは……気持ち良さそうに眠るカメリアの寝顔だった。
「スピー……スピー……」
どおりで会話に参加してこないと思った。
「締まらねえな、おい……」




