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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
5章 パーティ名を決めよう
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14話 結構強くなってた

「落ち着いたか?」


「……ぐすっ、はい」


「……ああ」


2人が落ち着いたのを見計らって声をかける。アサギもカメリアも、何とか話ができるくらいには回復した。だけど、結構時間をかけてしまった。これは、今日はここで野宿だな。全くの予想外の展開だ、俺たちは野営の為の準備を何もしてきてない。


「色々話したいこともあるけど、とりあえず今日はここに野営しよう。もう陽も暮れてきたし」


「ごめんね、ホクトくん。私の為に」


「全くだ、俺もカメリアも暗くなる前に町に戻るつもりだったから、野営の準備をしてきてないってのに」


「アタイは別に構わないぞ、準備なんか無くったって野宿はできる。食べ物さえあれば問題ない」


「その食べ物が無いだろうが!」


「……なんて事だ。アタイはどうしたらいいんだ!」


カメリアのポンコツっぷりに拍車がかかってきた。心を縛り付けていたアサギとの和解が無事にできたことで、何か無くしちゃいけないモノを失ってしまったようだ。


「だ、大丈夫だから!2人の夕食は私が用意するよ」


そこに神降臨!


「あ、アサギぃ~」


アサギに縋り付くカメリア、あいつ恥も外聞もないな。


「ホクトくんも心配しないで。食料は少し多めに持ってきてるから」


「そうか、じゃあ俺たちも何か手伝おう」


「ありがとう、じゃあ薪を拾ってきてくれる?」


「ああ」


「カメリア、近くに川が流れてるから水を汲んできて」


「おう、アタイに任せろ!」


「はい、じゃあみんなで頑張ろう!」


アサギの号令のもと、俺たちはそれぞれの作業に取り掛かった。





さて、薪を拾うと言ってもここは森の中。見渡せばいくらでも見つかる。乾いた木の枝を見繕いながら、ズンズン森の中を進んで行くと気配感知に反応があった。


「これは……イノシシか?」


距離は、まだ50mくらいある。見逃してもいいんだけど、せっかくだから夕食に一品増やそうか。俺は気配を殺しつつ、イノシシに近づいて行った。


そして、俺が見たのは……。


「あれって、ジャイアント・ボア?確か最初にアサギが戦ってた奴だな」


目の前のジャイアント・ボアを観察してみる。こいつは、俺の存在に気付かずに草を食べている。今なら奇襲をかけられそうだけど、俺はジャイアント・ボアと戦ったことがない。こいつが、どれくらいの強さなのか知らないのだ。


「とはいえ、このまま見逃すって手はないよな。せっかく目の前に油断している奴がいる事だし……」


真正面から言っても勝てるか分からない。なら作戦を考えて、より安全に倒したい。あいつは、今のところ俺に気付いていない訳だから、できるだけ俺の存在に気付かれないように近づければ無傷で倒せるかもしれない。


何かないかと周りを見渡してみる。だけど目につくのは木の枝だけ。これじゃ、何の役にも立たないな。そう思っていた俺の脳裏に閃くものがあった。


「……使えるかもな」


少し大きめの木の枝を拾って、早速作戦を実行に移す。木の枝を右手で握りしめ、上半身だけを使って思いっきり投げる。まるで、キャッチャーが上半身だけでセカンドスチールを阻止するかのように。目標はジャイアント・ボアの尻の向う、木の幹に当たれば……。


ヒュッ……カン!


狙い通り木に当たって音が鳴る。


「ブヒィ!?」


草を食べていたジャイアント・ボアが、驚いて後ろを振り向く。これで俺の位置はジャイアント・ボアの後ろ脚側になった。後ろ脚に魔力を流して、一気にブースト加速する。


目にも止まらぬ速さでジャイアント・ボアに近づくと、身体に沿って移動をする。


「!?」


ここでジャイアント・ボアが俺に気付いた。だけど、俺の身体はすでにジャイアント・ボアの頭付近まで移動していた。


「ブヒィィ!!」


ジャイアント・ボアが俺に向かって牙を突き出すのを目で追いつつ、牙の下を掻い潜って顎に左拳を叩きつける。


「まず一発!」


浸透を発動して、顎を揺らす。テコの原理で振動が脳にまで到達したジャイアント・ボアは、俺を踏みつけようとするも、上手く動けず逆に横倒しになった。


「ブヒィブヒィ!?」


何が起こったのか解らなくて混乱するジャイアント・ボアに近づく。その目は未知の物を見たように恐怖に染まっていた。


「きっちり食べて糧にしてやるから、成仏しろよ」


ジャイアント・ボアにそう告げながら、右拳を握り込む。目標は耳のやや下、こめかみに向かって浸透を発動した。


「ブヒィィィ~~~!!!」





「あ、ホクトくん戻ってき……た!?」


アサギが俺の事を見て、素っ頓狂な声を上げる。まあ無理もない、今の俺はジャイアント・ボアの巨体を担いだ状態だし。俺が仕留めたジャイアント・ボアは、体長が3mを超えている。恐らくアサギから見た俺は、人の足が生えたジャイアント・ボアに見えるだろうな。


「ど、どうしたの!?そのジャイアント・ボア」


「さっきジャイアント・ボアの雄叫びが聞こえたけど、まさかホクトが倒したのか?」


カメリアも驚いた表情で俺を見ていた。2人の面白い表情も見れたし、俺としては大満足の結果だな。


「薪を集めてたら、油断しているジャイアント・ボアを見つけたから狩ってみた」


「そんな、ちょっと買ってきた、みたいなニュアンスで言われても……。怪我はないの?」


「ああ、無傷だ」


「やるじゃないか、それだけ大きなジャイアント・ボアを無傷で倒すなんて!」


まったく両極端な反応をする2人。どっちも目を見張るような美女だけど、見た目も性格も全然違うから一緒にいて飽きないな。特にアサギは揶揄うと楽しい。


「今日の夕食にと思ってな。それに、前はアサギに任せたんで強さが解らなかったし、一回くらい自分で戦ってみたいと思ったんだよ」


「だからって、いきなりジャイアント・ボアと戦わなくてもいいでしょ!」


「そりゃ、不利な状況だったら諦めたけど、今回は奇襲できそうだったし安全に倒せると思ったからやっただけだ。いつでも、どんな状況でもジャイアント・ボアを倒せるなんて己惚れるつもりは無い」


実際、あの木の枝を使った奇襲を思いつかなかったら、素直に帰ってくるつもりだったし。


「褒めてやれよアサギ、ホクトは男としてアタイたち女に良いところを見せたかっただけだ」


「え?……ホクトくん本当?」


「当然だろ、雄と言うものは雌に自分の優良さをアピールするものだ。アタイはジャイアント・ボアを倒したホクトをかっこよく思うぞ?惚れ直した!」


「か、カメリアは随分素直に感情を表に出すのね」


「当然だ、今までだってアピールしてきたけど、今はアサギもいる。ホクトをアタイのモノにするためには、遠慮していていい状況じゃない」


カメリアは相変わらずまっすぐな奴だ。そうやってストレートに言われると、俺としても嬉しい。それに、どうもアサギがそれに触発されたみたいで2人から意味深な視線を感じる。


「そ、そうだよね。あのねホクトくん、私もカッコいいと思ってるよ?その、ジャイアント・ボアは簡単に倒せる魔物じゃないから」


アサギはアサギなりに、俺を頼もしいと感じてくれているようだ。これなら、無茶をしてジャイアント・ボアを狩って来た甲斐があったってもんだ。


「2人に言われると嬉しいな。じゃあアサギ、悪いけどこいつを解体して夕食に加えてくれるか?」


「任せて!美味しいご飯にするね!」


きっと今日の夕食は、今まで食べたことの無いような美味しさになるだろうな。





食事を終えて、各々が寛いでいる。


「ああ、美味かった。ジャイアント・ボアってあんなに美味いんだな」


「アタイも、もう食えねえ」


俺の横では、食い過ぎたカメリアが腹を擦りながら仰向けに寝っ転がっている。おい女子、男の前でなんて格好をしてるんだ。


「カメリア、ちょっとその姿ははしたないよ。ほら、これ飲んで」


「ん?なんだ、これ……ああ、良い匂いがする」


「それは消化を早めてくれるハーブティーよ。ここに来るまでに見つけたから、取っておいたの。まさか、自分たちが飲むことになるとは思わなかったけどね」


苦笑しながら、俺にもカップを渡してくるアサギ。


「ありがとう」


カップに口を付けると、何とも言えない良い匂いが鼻腔をくすぐる。ゆっくりと飲んで行くと、身体の力が抜けるような感覚に陥る。


「ああ、美味い」


「アタイ、このまま寝れたらもう何もいらない」


俺とカメリアが、2人して弛緩していると、夕食の片づけを終えたアサギが俺の隣に腰を下ろす。さて、これで明日の朝までやることは無くなった。これで、心置きなくアサギの言葉に耳を傾けることができる。


「……話してくれるんだろ?」


「そうね……せっかくだから、聞いてもらおうかな」


アサギも俺たちと同じ飲み物を一口飲んで、それからゆっくりと口を開いた。


「私がこの森に来たのはね、ある魔法を手に入れるためなの」

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