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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
5章 パーティ名を決めよう
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13話 氷解

久しぶりに訪れた暗闇の森。前はとにかく町に行きたくて、あまり周りを注意してみてなかったけど、こうやって久しぶりに来ると感慨深いものがある。


「普通の森だな」


そんな俺の感想とは真逆の感想をカメリアが漏らした。まあ、そうだよな。元居た世界では、森なんて遠出しないとお目にかかれなかった。けど、この世界ではどこにでもあるありふれた場所だ。カメリアがそんな感想になるのも仕方ないか。


「カメリアって、森に入ることに抵抗とかないのか?」


「抵抗?変なことを聞くな、ホクトは。アタイにとっては、森に入るって事は狩りをすることだ。実家にいたときも、よく父さんや村の男衆に交じって森で狩りをしていた」


「そうか、狩りをするなら当たり前の場所なんだな」


「ホクトは何か感じるのか?」


「前に来た時は、薄暗くて怖かったな。今は……特に何も感じない。前は守られてないと、いつ死んでもおかしくなかったけど、今は自分の力だけで何とかなると思ってるから怖くは無くなったな」


こうしている今も、気配感知で周りの事が手に取るようにわかる。俺やカメリアを見つけた小動物たちが、慌てて巣穴に引き返していく。お、あれは鹿か?こっちを見つけて一目散に逃げていく。


「周りに魔物はいないな」


「なら、こんなところに立ち止まってないで、さっさと行こうぜ」


「とは言っても、アサギが森に入っていったって情報だけで、どっちに行ったかまでは分からないからな。さて、どっちに行くか……」


ここは、前にアサギと一緒に旅をしたところよりも南西の位置にある。目的地が無いから、とりあえずは前にアサギと出会った場所に行ってみるか。


「森の中に何があるか分からないから、とりあえず俺とアサギが出会った場所に行こうと思うんだけど、他に何か良い案はあるか?」


「アサギと出会った場所……それって、ホクトがこの世界に来たときの場所って事か?」


「そうなるな」


「なら、そこに行こう」


カメリアが薄く笑った。こいつ、なんか変なことを考えてないか?


「お前、何企んでんだ?」


「心外だなホクト。アタイは何も考えていないぞ?」


いや、絶対何かを考えている。あれは悪戯を思いついた子供みたいな表情だ。まあ、カメリアに文句が無いなら、そこまで行ってみるか。


「とにかく、まずは動こう。今の場所からなら、北東の方へ歩いて行けば着くはずだ」


「わかった」


こうして、何かを考えているカメリアと一緒に俺のこの世界での原点、アサギと出会った場所へ向かう事にした。





「これだけ深い森なのに、以外に魔物は少ないんだな」


あれからどれくらい歩いただろうか、木々が生い茂っていることで空が今いちよく見えない。明るさも、戦闘や歩く分には問題ないけど、今が何時なのかを把握することはできなかった。


「今は昼を少し過ぎた頃だ、もう少し言ったら飯にしようぜ」


「え、お前何で今の時間がわかるんだ?」


「そんなの、アタイの腹が教えてくれる」


ああ、随分高性能な腹時計を持ってるんだなカメリアは。何にせよ、俺も腹は減ってきたから、昼飯にするって案には賛成だ。


それから30分くらい歩いて、少し開けた場所を見つけた俺たちは、各々座り込んで昼飯にすることにした。


「これ美味いな!今まで仕事中に食べてた食事なんて、干し肉と薄いスープみたいなものだけだったから、こんなに豪勢な昼飯は初めて食べた」


今カメリアが食べている食事は、羊の夢枕亭の料理人、ローザさんの旦那さんが仕込んでくれたものだ。俺たちが朝から仕事に出かけると言ったときにローザさんが持たせてくれた。はっきり言って、昼に食べるには勿体無いくらい豪勢なメニューになっている。


「このパンに挟まってるのは、昨夜のシチューの残りか?汁気を飛ばしてパンがグズグズにならないように整えられているな。めちゃくちゃ美味い!」


「アタイ、あの宿屋に泊まれて幸せだ。姉御も稽古をつけてくれるから、腕の方も上達するし、飯は美味いしで言う事ない!」


カメリアが姉御と呼んでいるのは、宿屋の女将さんのローザさんの事だ。カメリアは稽古を――ローザさん的にはストレス解消――毎日つけてもらっている。その結果、今までよりも槍を持った時のバランスが良くなっていた。最初は、壊されるんじゃないかと心配してたけど、今のカメリアを見る限りちゃんと稽古になっているようだ。


「カメリアがそこまでローザさんに懐くとは思ってなかったよ。あの人の事だから、てっきり暇つぶし程度にカメリアを嬲って遊ぶのかと思ってた」


「おいホクト、姉御を悪く言うな。アタイにとっては、父さんに次ぐ尊敬する人なんだからな」


そこまで傾倒する何かがあったのか?


「だって、俺なんてローザさんと顔をあわす度にボコボコにされるからな。嫌いって訳じゃ無いけど、どっちかと言うと苦手な人だ」


「……ああ、ホクトはそうかもな。姉御も素直じゃないから……」


「何か言ったか?」


「いや、何も」


カメリアは慌てて残りの食事を平らげた。まあいいか、俺もさっさと食べてしまおう。





昼飯を食べて更に進むと、なんとなく見覚えのある場所が見えてきた。


「この辺りだな」


「分かるのか?今まで通ってきた場所と、そんなに違うようには見えないぞ?」


「なんか分かるんだよな、俺も来るまでは見つけられる自信は無かったけど」


今俺が立っている場所は、ゴブリンと死闘を演じた場所だ。あの時は死にたくなくて必死だったから、周りの風景を見ている余裕なんて無かったはずだ。にも拘らず今目の前にある場所が、その時の場所だと直感でわかった。


「死にそうだったからかな、脳裏に刻み込まれてる感じだ。理由なんてないのに、直感がここだって言っている」


「へぇ、面白いこともあるんだな」


その時のゴブリンの死体は当然ない。だけど、感慨深い感じに浸っているとカメリアが催促してきた。


「ホクトが気付いた場所は、ここじゃないんだろ?さっさと、そっちに行こうぜ」


「ああ、そうだな……」


カメリアと一緒にいると、感傷って言葉に浸ることはできないみたいだ。まあ、基本明るい奴だから一緒にいて楽しいけどな。


カメリアを先導しながら、しばらく進む。確かそこまで離れていなかったはずだ。周りへの警戒は怠らないように注意しながら足を進める。そうして見つけた場所には先客がいた。


「アサギ……」


「え?」


俺の方をキョトンとした表情で見つめるアサギ。普段では絶対に気付かない事は無いはずだけど、何かを考えていたのか注意力が足りていない。


「こんな森の中で、周りに気を配っていないのはちょっと不用心じゃないか?」


俺がそう言っても、アサギは動こうとしない。未だにキョトンとした表情のままだ。


「こいつどうしたんだ?」


横からカメリアも現れた事で、アサギの脳が再起動を始めた。


「え!?ホクトくん?それにカメリアも……どうして、こんなところにいるの?」


「それはこっちの台詞だ。アサギは、こんなところに独りで何をしてるんだ?」


「わ、私はちょっと仕事で……」


「仕事ってのは、街道沿いに現れる魔物の討伐依頼か?偶然にも俺たちも受けたんだけど、ここは街道から随分と離れてるな」


「うっ……」


アサギは誤魔化そうとしているけど、そうはいかない。こっちには目撃証言もあったわけだしな。


「ギルドで仕事を受けてってのは嘘だな」


「……」


ここに来て、アサギが何かを隠そうとしていることは解った。後は何を隠しているかなんだけど……。


「はぁ~……。なあ、アサギ」


「……なに?」


「覚えてるか?ここは、俺とアサギが初めて会った場所だ」


とりあえず、アサギを糾弾する手を緩める。今のままじゃ、アサギは何も話してくれないような気がする。俺としても、無理やりアサギが何をやっていたのかを聞き出すつもりは無い。できれば話してほしいと思うのは、すでにアサギを仲間認定しているからかもしれない。


「そうか……そうだったね。私がここでジャイアント・ボアと戦っていて、ホクトくんが……」


「『きれいなお姉さんは好きですか?』と尋ねた」


「そんな事は言ってなかったよね!?」


あれ、それは俺の脳内で生まれた問いかけだったか?じゃあ、あの時俺はなんて言ったっけ?


「……そうだ、確かそのフサフサの尻尾に見惚れて」


「そ、そういう事は思い出さなくていいの!」


「いやだって、思いっきりモフモフしたいと思ったから、こんなにも鮮明に覚えてるんだぞ?ああ、アサギの尻尾を思う存分モフりたい!」


「ただの願望!?」


「くく、ははは!」


俺たちのやり取りを眺めていたカメリアが、突然笑い出した。今の要素に何か笑いの要素があったか?


「か、カメリア!なんで笑ってるの?」


「そりゃおかしいさ。だって、姉ぶっているつもりのアサギが良いようにホクトに操られていればな。お前、昔と全然変わってないのな」


「はぅあ!?」


アサギが素っ頓狂な叫び声をあげた。そして、そのまま沈黙。またスリープ状態に入ったか?


「アサギって、昔もこんな感じだったのか?」


「ああ、事ある毎に『朝起きたら顔を洗え』だの『ご飯を食べるときは静かに』だの、うるさいくらい真面目だったな」


「オカンか!」


「なのに、突発的な出来事があると真っ先にテンパって失敗を繰り返すんだ。顔を真っ赤にして『はぅあ!?』とか『ひゃぁ!?』って叫び声をあげて動かなくなるんだ」


さっき見かけた光景だな。確かにあいつって、お姉さんぶるけど肝心な時に失敗とかしてたな。


「久しぶりに『はぅあ!?』も聞けたし、アタイは大満足だぜ」


太陽のような笑顔で、まるで鬼のようなことを言う。あ、鬼だった……。


「カメリア!昔の事は言わないで!」


「「あ、再起動した」」


見事にハモった俺たちに、アサギは涙を堪えたような表情で怒っている。怒っているが、全然怖くない。


「いいじゃねえか別に」


「良くない!昔の私の話なんて、ホクトくんは知らなくていいの!」


「それもひっくるめてお前だろうが。別に取り繕う必要なんてないだろう」


「私が気にするの!」


アサギが頭からヤカンのように湯気を出しながら、カメリアを問い詰めている。普段なら耳が痛いだろうけど、今のカメリアには格好の攻撃手段があるからニヤニヤ笑いながらアサギを眺めている。


「私は、もう失敗できないの。もっと強く、立派になって若手の見本にならないと」


「だから何度も言ってるだろ、あの時の事はお前の失敗じゃないって」


「だけど!」


「さっきも言ったろ、お前がテンパって失敗するなんざアタイたちからすれば織り込み済みなんだよ。いつも口やかましくて、誰よりも真面目なお前が、あの時失敗しないなんて誰も考えない。失敗しても問題ないと思ってたからアタイもリーダーも一緒にパーティを組んでたんだ」


「……」


「いい加減、胸をシャキッと晴れアサギ!」


「!!!」


「アサギ、リーダーと最後に別れる時の事を覚えているか?」


「もちろん、私のせいで顔を包帯で覆って……女性の顔に傷が残ることがどんなにつらいことか……」


「お前はリーダーの気持ちを全く理解しようとしてなかったのな」


「え?」


「あの時のリーダー、笑ってたろ?」


そう言われて思い出したのか、アサギの瞳にみるみる涙が溜まっていく。俺は会ったことがない、この2人がパーティを組んでいた時のリーダー。きっと、この2人を纏める立派な人だったんだろう。


「……笑ってた」


「そうだ、リーダーは笑ってた。お前に非があるんだったら、別れ際に笑うなんてできないさ。リーダーは、本気でお前の暴発のお蔭で命が助かったって思ってたんだ。もちろんアタイもな」


「そんな……だって、あのとき私が……」


「さっきも言ったろ、お前のテンパったときの暴発なんて織り込み済みだって」


「うぁ……」


ついにアサギの瞳から大量の涙が溢れた。今まで自分のせいだと、自分を責め続けていたアサギの気持ちに向かって、カメリアは真っ向からぶつかって氷解させた。多分、カメリアも納得いってなかったんだろう。自分たちを助けた恩人が、その時の事で今だに自分を責めていることに。


アサギの鳴き声だけが、辺りの森に木霊した。それを見下ろすカメリアに俺は近づいて行く。


「容赦ないな」


「これくらい言わないと、こいつは解ってくれないんだ」


目から涙を流しながら、泣き崩れるアサギを見下ろしているカメリア。こいつも苦しかっただろうに。


「よくやったな」


誰も労ってやらないのは可哀想だ。そう思った俺は、自然とカメリアの頭を撫でていた。


「ホクト……」


ああ、ついにカメリアも本格的に泣いちゃった。これは、しばらくここで気持ちの整理が着くまで待つことにしますか。

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