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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
5章 パーティ名を決めよう
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12話 目撃情報

今目の前では、烈火の牙の面々が必死にゴブリンたちと戦っている。なんか、こいつらいつもゴブリンと戦ってるな。


「うわぁぁ~!!」


「いや、こっち来ないで!!」


前後左右を完璧に包囲()()()烈火の牙のメンバーは、小さく固まって何とかゴブリンたちの攻撃を凌いでいる。だけど見た感じ、それもそろそろ限界みたいだ。


「ホクトの知り合いか?」


「ああ、あいつらも今回のゴブリン討伐に参加してたんだな」


「でも、あの腕で大丈夫なのか?」


「ダメ……だろうな。なんであいつらは、いつもいつも死にそうになってんだよ」


「キャァァ~~!!」


そろそろ助けようかと見ていると、後ろで庇われていたドジッ子シスターのエミルに3体のゴブリンが襲い掛かった。数にものを言わせた波状攻撃を仕掛けるゴブリンたちにとって、冒険者全員を殺す必要はない。相手が怯んだ隙に女を掻っ攫ってしまえば、それはゴブリンたちの勝利と同義だ。


「ヤバイ、いくぞカメリア」


「ああ!」


手遅れになる前に助けよう。烈火の牙に近づきつつ声をかける。ゴブリンたちに見つかるのは既にどうでもいい状態だ。


「おい、アレク!助太刀するぞ」


「!?ホクトか?」


俺の声を聞いて、パーティのリーダーであるアレクが振り向く。おいおい、戦闘中に敵から視線を切るなんて、あいつ何考えてんだよ。


アレクの横を素通りして、今まさに攻撃を仕掛けようとしていたゴブリンに飛び膝蹴りをかます。今回のゴブリン討伐依頼は、はっきり言って俺たちのレベルでは片手間の仕事だ。だけど、この前カメリアとの模擬戦で浮き彫りになった、俺の足技の弱点を克服するため特訓を兼ねて足技だけで戦おうとカメリアと相談していた。カメリアもいつもと違って、できるだけゴブリンの攻撃を躱しながら戦うことにしていた。


「戦闘中に敵から目を逸らすな!ほらアレク、エミルが大変なことになってるぞ?」


「え?」


とりあえずアレクに群がっていたゴブリンたちは蹴散らしたことで、周りに若干の余裕ができた。そこで呆けているアレクに、自分の仲間が大変だと教えてやったんだ。だって、エミルが本当に大変なことになってる……主にR18方向で。


「キャァァ~~!!!そんなところに頭を入れないで!」


裾の長い修道服なのに、どうすればスカートの中にゴブリンの頭が入るのか。見た感じエミルには外傷は見当たらないけど、このままだと貞操が危なそうだ。


「うわぁ、エミル!?待ってろ、今助ける!」


「それはキールに任せろ。お前より、あいつの方がエミルに近いんだから。それよりも、今のうちにゴブリンを減らすぞ」


「お、おう。キール、エミルを頼んだ!」


「任せろ」


キールは相変わらず口数が少ない。だけど、すぐさまエミルに近づきスカートの中に頭を突っ込んでいるゴブリンを踏みつけた。


「フギャギャァ!?」


頭を踏み砕かれたゴブリンは、そのまま絶命。その時の血糊や脳漿は、そのままエミルの修道服に飛び散った。


「ひぃ~~、お股が気持ち悪いぃ~!」


「……大丈夫なのか、こいつら」


「まあ、いつもの事だ。悪いけど、カメリアはあいつらのフォローをしてくれないか?」


「わかった」


カメリアにキールのバックアップを頼んで、俺はアレクと一緒にゴブリンの群れに飛び込んだ。棍棒や、錆びだらけの短剣を振り下ろしてくるゴブリンたち。それを難なく躱しつつ最小限の動きで倒していく。腕と違って、脚だと振りが大きい分隙ができてしまう。これからの特訓では、最小限の動きで、より早く蹴りを打てるようにしよう。


「ホクトはどうしてここに?」


「多分お前たちと同じだ。俺たちもギルドで街道の魔物討伐を頼まれたんだ」


ゴブリンの包囲網が機能を失いつつある今では、アレクが俺と会話をしながらでも戦える程度には余裕ができてきた。こいつらも、ちゃんと成長してるんだな。


ただ、咄嗟の時に最善の行動ができないだけで。


「ホクト危ない!」


アレクが俺の方を見て叫ぶ。俺の死角から2体のゴブリンが突っ込んできているのは把握していたんだけど、アレクは俺が気付いていないと思ったらしい。


振り向き様に1体のゴブリンの延髄に後ろ回し蹴りを入れ、残りの1体に向かおうとしたとき、ゴブリンの首に短剣が突き刺さった。


「危なかったね、あたしに感謝してもいいよ?」


ゴブリンの後ろから、赤毛を短めのショートカットにした女が現れた。烈火の牙の中で、俺が唯一ちゃんと面識のない相手だ。


「ミランダ……か?」


「そう、烈火の牙の斥候担当のミランダよ。前に助けてもらった時は、あたしが気絶しちゃってたから、ちゃんと自己紹介できなかったからね。改めて、あの時は助けてくれてありがとう。あなたのお蔭で、みんな命拾いしたよ」


「そう言うのは、周りの安全が確保できてからにしろ。ほらっ!」


ミランダの後ろから、首目掛けて短剣を突き刺そうとしているゴブリン。まるで殺された仲間と同じ目に合わせようとしているようだ。ゴブリンの突き出した短剣の腹に手を宛がい、軌道を逸らす。つられて泳いだ身体に向けて膝を見舞う。


「ギィギャッ!」


肋骨の折れる感触が膝から伝わってくる。どす黒い血を口から溢れさせてゴブリンは崩れ落ちる。どうやら折れた肋骨が内臓を傷つけたようだ。


「き、気付いてたよ?」


「俺も気付いてたよ」


若干青くなりながらも、気丈に振る舞おうとするミランダ。俺もお返しとばかりに切り返した。


周りのゴブリンは粗方倒したようで、気付いたら周りからゴブリンが消えていた。気配感知で辺りを探ってみたけど、近くに魔物の気配は無かった。


「……ふぅ。もう大丈夫みたいだ」


俺の言葉を聞いて、張り詰めていた空気が和らいだ。烈火の牙の面々は、各々その場に座り込んでいる。まあ、無理もないか。エミルなんて、その場で泣き始めてしまった。


「前も思ったけど、ホクトは本当に強いな」


さすがはリーダー、パーティメンバーの中では一番に余裕を取り戻したアレクが俺に話しかけてきた。アレクを観察してみたけど、特に怪我なんかはしなかったようだ。


「目標があるからな、こんなところで立ち止まってはいられないんだよ」


「最近見なかったけど、どこかに行ってたのか?」


ゴブリンの討伐証明は、全部烈火の牙に上げることにした。これだけの数から剥ぎ取るのは面倒くさいので、全部烈火の牙に任せる。代わりに俺たちの分も上げると言ったら、大喜びしていた。


「ああ、ウドベラまでダンジョン攻略をしに……な」


「ダンジョン?」


「聞いたことがある。リーザスから1日程度の距離にあるウドベラの町に、初心者冒険者でも戦える難易度のダンジョンがあると」


突然キールが冗長に語りだした。あれ、こいつこんなに喋れるのか。


「はは、キールは興味のある物に対しては口が止まらなくなるんだ」


「滅多にないけどね。この前はなんだったっけ?」


「たしか、町で見つけたクロワッサンについて……だっけ?しばらくプチブームだったよね?」


「……」


「って事は、キールはウドベラに行ってみたいのか?」


「ああ。みんなのステータスが上がったら、切り出してみようと思っていた」


「へぇ、良いんじゃないか?」


俺に言われたことで勇気付けられたのか、キールは満更でもない表情だ。こいつら、危なっかしいところもあるけど、見ていて羨ましくなるくらい仲が良いよな。


「そんなの待ってないで、とっとと行けばいいじゃねえか」


そして、空気を読めないカメリア。せっかく纏まったんだから、茶々いれるなよ。


「今の我々では、いざと言う時に全滅しかねない。もっと経験を積んでから向かうべきだ」


それに対して、キールは真面目に答えた。確かに烈火の牙の力量では厳しいかもしれない。だけど、今回に関してはカメリアの方が正しいと思う。


「頭で考えるよりも、行ってみたら何とかなるかもしれないぜ。行くまでは乗合馬車で行けば、他にも冒険者がいるから、ある程度は安全だし。ウドベラに着いたらダンジョンじたいは、そこまで難易度は高く無い。自分たちにあった階層で戦えば、今よりも多くの経験が積めるんじゃないか?」


「……そうか。そういう考えもあるんだな」


キールは考え込んでしまった。なんか余計な口出しをしたかな?


「ありがとうな、ホクト。キールは俺たちの安全を第一に考えて行動してくれる。だから、いつも助けられているんだけど、たまには自分を押し通すくらいの行動力を見せてほしいと思ってたんだ。目標であるお前に、背中を押してもらえた事で冒険してみようと思ったんじゃないかな」


目標?俺が?


「俺なんかが目標なのか?」


「なんか、なんて言うなよ。お前は俺たちの命の恩人だ。それに、ゴブリンの集落壊滅作戦の時の活躍もある。俺たちにとっては、一番身近にいる憧れの存在なんだよ」


やめろ、背中が痒くなる。俺は誰かを目標にすることはあっても、誰かに目標にされることなんて無かったから、恥ずかしいやら嬉しいやら。


「ぷっ、ホクトの奴照れてやがる」


「うるせえ!黙ってろよカメリア」


そんな和気藹々としながら、束の間の休息を取った。





「それじゃ、俺たちはそろそろ行くよ」


「ああ、ホクト」


「なんだ?」


休憩を終えて、魔物探しを再開しようとしたとき、アレクが俺に声をかけてきた。


「お前確か、Cランク冒険者のアサギさんと知り合いだったよな?」


まさか、こんなところで意外な人物からアサギの名前が出るとは思わなかった。


「ああ。ちょうど探していたところなんだ」


「そうか……やっぱり、あれはアサギさんだったんだな」


「アサギがどうかしたのか?」


胸の奥がチリチリと痛む。何か良くない事がアサギの身に起きているんじゃないか。そんな不安を感じさせる。


「特に何って訳じゃ無いんだけど、今朝アサギさんを見かけたんだよ。てっきり俺たちと同じで街道の討伐依頼を受けたのかと思って、声をかけようとしたんだけど、アサギさん街道とは別の方向に歩いて行ってしまったんだ。それも独りで」


「街道とは別の方向に行った?」


「しかも独りで?」


俺とカメリアは同時に驚いた。そりゃそうだ、街道の魔物討伐依頼以外でアサギがこんなところにいる理由が無い。独りってのはいつも通りだから、俺は驚かないけど……。何かすごい気になる。


「それで、アサギはどっちに行ったんだ?」


「あっちよ」


アレクに聞いたのに、答えたのはミランダだった。


「どうしてミランダが?」


「だって、アサギさんを見かけたのはあたしだから。今朝、周りの魔物の分布を調べようと他の連中が寝ているときにテントを抜け出したの。そうしたら……」


「アサギを見かけた?」


「うん」


そんな朝早くに、アサギは何をやっていたんだろう?ミランダが指示した方向を見ると、なんとなく見覚えのある森が目に入ってきた。


「あの森か?」


「そうよ」


「……」


「あの森に何かあるのか?」


この辺りの地形に詳しくないカメリアが、アサギが入っていったであろう森を見ながら聞いてきた。


「何があるかは正直分からないけど、俺がアサギに初めて会ったのも、あの森の中だったな。その時もアサギは独りで何かの依頼を受けていたみたいだ」


「……行ってみるか?」


「他に情報も無いしな。魔物を探しながら行ってみよう」


「わかった」


カメリアは、俺に従ってくれるようだ。さて、随分長々と休憩してしまったけど、森に入るならさっさと行動し始めよう。準備もしていない状態で、森の中で野宿なんて絶対に嫌だ。


「よし、いくか。アレク達も気を付けろよ?」


「ああ、そっちもな」


そう言ってアレク達と別れた。目指すは、俺とアサギが初めて出会った森。そこでアサギはいったい何をしているのか?カメリアの方を見て、頷き返してくれたのを確認して、俺は森へ向かって歩き出した。

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