11話 街道の異変
「おはようございます、ホクトさん」
「おはよう、ノルンさん」
俺とカメリアは、朝からギルドに来ていた。昨日までは旅の疲れを癒すために、2人とも自由行動にしていた。とは言え、俺は久しぶりにダッジさんと模擬戦。カメリアはローザさんと意気投合したのか、暇を見つけては稽古をつけてもらっているようだ。
そして今日から、いよいよ冒険者稼業を再開することになった。なので朝早くからギルドに来て、ノルンさんに仕事を斡旋してもらうつもりだ。ついでにアサギの事も聞きたいし。
「今日から仕事を始めようと思って来たんですけど、何か俺たち向きの仕事ってありますか?」
「そうですね、ホクトさんとカメリアさんの実力なら、この辺りはどうですか?」
ノルンさんが差し出してきたのは、ゴブリンの討伐。まさか、ここに来てゴブリンを相手にするとは思ってなかった。
「ゴブリンかよ?」
「ええ、ゴブリンです。実は、最近街道沿いで多くのゴブリンが目撃されるようになりまして……。だけど、皆さんゴブリン退治は割に合わないからと敬遠されるんです。でも、街道の安全を守るのも冒険者の務め。そこで、信頼のおける方々にお願いしているんですよ」
なるほど。確かにゴブリンを退治するよりも、割のいい仕事はリーザスには沢山ある。Eランクの冒険者たちだと、いざと言う時に信用が今一つだし、逆にDランク以上になると他の魔物を狩っていた方が儲かる。つまり、俺たちとしても決して実入りの良い仕事ではない……ないが。
「カメリア、どうする?」
「このパーティのリーダーはホクトだ。アタイはホクトの指示に従うぜ」
「そうか……」
俺としては、一刻も早くCランクに上がりたい。だけどノルンさんには、これまでも融通を利かせて貰ったり相談に乗ってもらったりして色々助けられてる。俺としてはノルンさんの助けになるなら、やってもいいかと思っている。カメリアも俺に合わせてくれるらしいし、ここはひとつノルンさんを助けると思って受けてみるか。
「わかりました、俺たちが街道のゴブリン退治を受けますよ」
「本当ですか!?まさか、受けてもらえるとは思っていませんでした」
「思ってなかったのに、俺たちに頼んだんですか?」
「私個人としては、ホクトさん達にとっていい仕事だとは思ってないんです。でも、ギルド職員としては一刻も早く掃討してほしいので……。すいません、私の我儘を押し付けてしまって」
「気にしなくていいぜ、どうせホクトなら放っておいても勝手に街道に行ってただろうし」
「どういう意味だよ。俺は、そんな考えなしじゃないぞ?」
「お前の場合、頭で考えていることと体の行動がバラバラだからな。どこかで耳にしてたら、ノルンに言われる前に何とかしようとしてただろ?」
うむ、言い返せない。
「ありがとうございます、ホクトさん。カメリアさん」
「じゃあ、正式に街道のゴブリン退治を受けます」
「はい、こちらは受理されました。お2人ともお気をつけて」
依頼も受けたし、用は済んだので外に出ようと思ってアサギの事を聞くのを忘れてた。
「そう言えば、アサギはここに来ましたか?」
「アサギさんですか?いいえ、ここ最近は来てないですね。ホクトさん、アサギさんと何かあったんですか?」
「いや、来てないならいいです。じゃあ、いってきます」
「?」
ノルンさんは一瞬不思議な顔をしたが、それ以上は聞いて来なかった。俺とカメリアは、ノルンさんに見送られてギルドを出た。今日は元々魔物を狩りに行こうと思ってたから、特に準備も無く東門に向かう。
あ、今日はポロンは一緒じゃない。ポロンはハンナちゃんと羊の夢枕亭でお留守番だ。
「目的地の街道ってのは、東門から行くのか?」
「どうやら、そうみたいだな。最近東門の方には来てなかったから、そんな事になってるのも知らなかったな」
門に近づくと、見知った兵士が番をしていた。
「おや、ホクトじゃないか。随分久しぶりだな」
「ご無沙汰してます、ケントさん」
「最近はこっちに来ないで、別の場所で魔物を狩ってたのか?」
「ええ、しばらくウドベラに行ってました。一昨日ダンジョンを攻略したんで戻ってきたんですよ」
「へぇ、ダンジョンを踏破したのか!それで、そっちの鬼族の女性は……」
「アタイはカメリアだ。ホクトとはウドベラのダンジョンで知り合った。今は一緒にパーティを組んでるよ」
「カメリアか、俺はケント・ギリアム。この町の兵士で、東門を守っている。ホクトに君みたいな相棒ができたのは良い事だな。こいつは、ちょっと前までただの一般人だったからな」
「ああ、ホクトの事はアタイに任せておけ!アタイとホクトのコンビは最強だぜ」
カメリアって、以外にも社交的だったんだな。ウドベラでは種族的な問題で、誰とも仲良く出来てなかったけど、リーザスに来てからは誰とでも話してるな。ソウル、ノルンさん、ハンナちゃんにローザさん。そして、ケントさん。みんな俺の知り合いだとは言え、カメリアが苦手にするような相手は、今のところ出てきてないな。
「それで、ホクトはこれからどこに行くんだ?」
「ギルドで街道にゴブリンが沢山出て困ってるって聞いたんで、そいつらを退治しに」
「ああ、こっちにも情報が下りて来てるな。なんでも有力どころが、軒並み依頼を断ったってな。そうか、お前はあの依頼を受けたのか。なら、俺はお前を応援するよ」
「どういう事ですか?」
「そのゴブリンたちが現れる街道ってのは、この東門から出て少し行ったところにあるんだけど、この町から東側の町との交易は盛況でな。それがゴブリンのせいで行き来する商人たちが減ったんで、大分寂しくなってきてるんだよ。俺たち兵士は、ここを離れる訳にはいかないから、結構ヤキモキしてたんだ」
ケントさんとしては、街道まで行ってゴブリンを根絶やしにしたいんだろうな。なんだかんだで、ケントさんは仕事に誇りを持ってるから兵士として町の助けになれない現状に悔しさを感じていたんだろう。
「まあ、気をつけて行けよ。お前たちの無事を祈ってるよ」
「任せてください、ケントさんの分もキッチリお返ししておきますよ」
俺たちは、ケントさんに手を振りながら街道に向かった。
もう、この辺りはゴブリンの索敵範囲に入っているんじゃないか?リーザスの町からも、結構離れた。移動自体は大したことなきから心配してなかったけど、こんなリーザスの町と目と鼻の先の場所にゴブリンが出てくるのか。
「そろそろ、戦闘の準備をしながら進むことにしよう」
カメリアに一声かけてから、俺たちは街道を進むことにした。気配察知は当然使っている。今の俺なら半径100mくらいまでなら余裕で察知できる。周囲に気を配りながら、索敵に引っかかるものがいないか、調べながら歩いて行く。
「何にもないな、こんな静かなのにどこかに潜んでいるのか?我武者羅にツッコんでくるゴブリンたちが」
あいつら頭を使う戦略なんてできないだろう。そう思っていたら、早速魔物が察知に引っかかった。
「数は5、北東の方向からくる。10秒後にエンカウント」
「了解!」
俺とカメリアが慎重に進んで行くと、山の影から5体のゴブリンが現れた。全てが通常個体、これなら時間をかけずに倒せそうだ。
「アタイが3、ホクトが2でいいか?」
「いいぞ」
簡単なブリーフィングを行って、ゴブリンの方に再度意識を向ける。腰蓑だけを巻いた状態のゴブリンは、やっぱりみすぼらしい。
「俺が先行する、カメリアは後を追ってきてくれ」
「わかった。こんなのとっとと片付けるぞ」
「ああ」
ゴブリンの集団に向かって駆け出した。ゴブリンたちも俺の存在に気付いたのか、戦闘態勢に入って身構えた。俺は気にせず前へ出る。
向かって右側にいたゴブリンに狙いを定めて、一気に懐まで飛び込んで殴り倒す。速さについて来られなかったのか、ゴブリンは何が起きたのか気付く前に倒れた。そのまま奥にいる別のゴブリンに狙いを定めて、再度走り出す。左側はカメリアに任せておけば大丈夫だろう。
「おらぁ!」
こんな奴ら浸透を使うまでも無い。そして、わずか3分足らずでゴブリンたちは全滅した。
「ゴブリンって、こんなに弱かったか?」
「今のアタイたちにとっては、ゴブリンなんて何体いても同じだ」
「これなら、索敵が面倒なだけで意外と楽かもな」
その後も、パラパラとだけどゴブリンたちと遭遇しては倒してを繰り返した。基本ワンパンで片が付くから、特に疲れることも無く狩りは続く。
「前方に大きな集団の反応、これは……誰かが戦ってるな」
「助太刀が必要そうか?」
「囲まれてるけど、まだ余裕がありそうだ。だけどゴブリンの数が多い、擂り潰される前に合流しよう」
「わかった」
俺の感知に引っかかったのは、20体ほどのゴブリンと4人の人間の反応。今すぐにどうこうなる感じでもないけど、すぐに助太刀に入れる距離には入っておきたい。
俺はともかく、カメリアもあの重量級の朱槍を抱えている割には足が速い。これなら、すぐにでも視認できる位置まで行けそうだ。
「なあカメリア、どう思う?」
「どうって、何がだ?」
「ゴブリンだよ。確かに多いと言えば多いけど、こんな散発的な戦闘をする程度でしかないだろ?ギルドで問題になっているほどの脅威とは思えないんだよな」
「確かにな。だけど、ランクの低い冒険者なら5体でも苦戦するかもしれない。それが10体、20体なんて集団に襲われたらひとたまりもないぞ。可能性があるなら、自嘲するのが冒険者だろう」
カメリアの言う事も一理ある。可能性の問題で、例えば遭遇する確率が25%だった場合は4分の1の確率で遭遇するって事だ。これを高いとみるか、低いとみるかで冒険者としての危機管理能力を問われる。低いとみるなら、そいつは恐らく長生きできないだろう。冒険者とは、それくらい臆病でちょうどいい。
「見えた!」
俺たちから50mくらい離れた場所で、今まさに冒険者とゴブリンが死闘を演じている。数が多いとはいえ、ゴブリンと互角に戦っていることを考えると、あの冒険者たちはハズレを引いてしまったようだ。
「そろそろヤバそうだな。カメリア、俺が先行する」
「気を付けろよ」
「無理はしないよ」
冒険者たちとの距離が20mを切った頃、戦っている冒険者が誰なのかわかった。
「あいつらって、いつもハズレ引いてるんじゃないか?」
ゴブリンたちと戦っている冒険者には、とっても見覚えがあった。




