10話 懐かしい日常
なろうのメンテナンスに引っかかりそうだったので、短めですがアップします。
外へ走って逃げたアサギを呆然と見送った俺は、改めてカメリアに向き直る。
「おい」
「なんだ?」
「今のやり取りはなんだよ」
「ふっ、こういうのは最初が肝心だからな。ホクトが誰のものか、しっかりと教えてやったんだ」
これ以上ないくらいのドヤ顔でカメリアが言う。こいつ、本当に性格変わったよな。
「俺は誰のものでもねえよ!そもそも、お前とも付き合ってないだろうが」
「アタイの何がダメなんだ?強いし、顔だって整ってる方だと思うぞ」
「そういう問題じゃねえよ。俺は今、誰とも付き合う気は無い」
「なんでだよ!ホクトの好きなおっぱいだって大きいぞ、好きだろ?」
「大好きです!……いや、そうじゃなくてな」
ウドベラにいたときからだから慣れたけど、リーザスでもこうだと先が思いやられるな。何より、俺はまだまだパーティメンバーを増やす気だし、勧誘する度に相手が女性だと面倒なことになるのは勘弁だぞ。
「とにかく、アサギをパーティメンバーに入れることは既定路線だ。元々アサギとパーティを組むために、急いで冒険者ランクを上げてた部分もあるしな」
「……ホクトは、アタイよりもアサギの方が良いのか?」
「いい加減色ボケした思考から戻って来いよ。どっちがって話じゃなくて、俺はカメリアともアサギともパーティを組みたいんだよ」
「……わかった。アサギとは、ホクトが居ない場所でしっかりとOHANASHIするから」
「分かってねえじゃん!それ、絶対殴り合いだよな!?」
「……もう終わった?」
俺とカメリアが言い合っていると、食堂の中にハンナちゃんが入ってきた。
「ひとまずはね。ハンナちゃんは、ポロンと遊び終わったのか?」
「うん、ポロン日向が気持ちよくて寝ちゃった」
ポロンも、ハンナちゃんの前だと野生が失われるからな。一緒に旅をしていたときじゃ、そんな事は一回も無かった。平和に過ごすって意味じゃ、ハンナちゃんと一緒の方がポロンにとっても幸せなのかもしれないな。
「で、ハンナちゃんは何しに戻ってきたんだ?まだ休憩の時間は終わってないんじゃないか?」
「そうだよ、私はお兄ちゃんに用があってきたの」
「俺に?」
「ハンナ、アタイも聞いてていいか?」
「うん、カメリアお姉ちゃんも一緒でいいよ」
「へへ、そうか」
カメリアもハンナちゃんを構えるのが嬉しいのか、表情筋が緩んでいる。こいつ、完全に落ちたな。
「で、用事ってなんだ?」
「お兄ちゃん、私との約束忘れてないよね?」
約束?ハンナちゃんと何か約束したっけ?
「……」
「あ~っ!もしやと思って聞いてみたけど、やっぱりお兄ちゃん忘れてるでしょ!」
「……え~っと、何だったか?」
ハンナちゃんが半泣きで詰め寄ってくる。まずい、このままじゃ大魔王が降臨してしまう。
ガシッ
「おいホクト、うちの娘泣かして何やってんだ?」
「ギャー!デタァー!!!」
「やかましい!」
ギリギリギリ……
「痛い!痛いです、ローザさん!俺、何もしてないから勘弁して!」
「うおっ、アタイが接近に全然気付かなかった。ホクト、誰だこの女は?」
「今それどころじゃねえ!」
あ、ダメ……出ちゃう!なんか、出ちゃいけないモノが耳から出ちゃう!
「お母さん、やり過ぎ!お兄ちゃんを離して」
「……チッ」
舌打ちしましたよ、この大魔王は。俺、身に覚えのない事で虐待を受けたのに何でやった方がそんな態度なんですか!?
「おっかない女だな、ハンナの母親か?」
「口の利き方に気を付けな鬼娘、あんまり舐めた口の利き方してると……」
「……ゴクッ」
あのカメリアでさえ、ローザさんに睨まれると恐怖するのか、自然と一歩後ろに下がった。俺はと言えば、地面に崩れ落ちてローザさんに踏みつけられてる。
「ローザさん、いくら何でもこの扱いは酷くないですか!?俺、今日帰ってきたばかりですよ?久々なんですし、もう少し労わってくれても……」
「フンッ、お前の扱いなんてこれくらいで良いんだよ」
やっぱりローザさんには嫌われてるのかな?なにか気に障ることを言ったり、やった記憶は無いんだけどな。最初っから俺の扱い酷かったもんな。
「私はここの女将のローザ。鬼娘、あんたもうちに泊まるのか?」
「あ、ああ。今日から厄介になろうと思って……。アタイはカメリア、ホクトとパーティを組んでいる」
「へぇ、おい小僧。お前、ダンジョン攻略に言ってたんじゃないのか?何ダンジョンで女引っかけて帰ってきてんだよ」
「変な言い方しないでくださいよ、カメリアとはただの仲間ってだけです」
「それは酷くないか、ホクト。アタイはこんなにもお前の事を好きなのに」
だから、俺は今色恋沙汰に現を抜かしている余裕なんてないんだよ。お前も今の空気読めよ。
「ひゃ~、カメリアお姉ちゃんってお兄ちゃんの事が好きなの?」
「ああ、アタイはホクトが大好きだぜ」
漢らしく愛の告白をするカメリア。ハンナちゃんも小さくても女の子だ、恋愛事には興味津々なようだ。でも、とりあえずあなたの母親を俺の上からどかしてくれませんかね?
「とりあえず、ローザさんは落ち着いてくださいよ。それにハンナちゃん、俺との約束って言ってたけど……」
結局ローザさんが乱入したことで、最初の目的が全く分からずカオスな空間になってしまった。ハンナちゃんには悪いけど、本人の口から聞いて、とっとと解決してアサギを追いかけよう。
「ウドベラに出発する前に渡したでしょ?お兄ちゃんが旅の間も勉強できるようにって、文字の読み書きドリル」
「……ああ!それの事か。大丈夫、ちゃんと終わらせてるよ」
そう言って、俺は荷物の中からハンナちゃんが作ってくれた文字の読み書き用ドリルを取り出して、ハンナちゃんに渡した。ウドベラでは、色々と事件も起きたけどちゃんと最後までやり切ってある。お蔭で、大分文字の読み書きはできるようになった。
「うわぁ~、本当に全部やってある。お兄ちゃん頑張ったんだね!」
「もちろんだ、ハンナちゃんがせっかく作ってくれたんだから、ちゃんと全部終わらせたよ」
やり遂げたドリルをペラペラと捲って、ハンナちゃんは随分とご満悦だ。自分が手塩にかけて作った物が、人の役に立ったことが嬉しいんだろう。
「ハンナちゃんのお蔭で、ギルドとかでも誰の力も借りずに依頼を読むことができるようになったよ。ありがとうな」
「えへへ、なんか面と向かってお礼を言われると照れるね」
顔を赤くしてモジモジとするハンナちゃんは、はみ噛みながらも笑ってくれた。この笑顔を見ることができたことで、つらく厳しい勉強を乗り切った甲斐があったってもんだ。
「じゃあ、俺はちょっとアサギを探してくるよ」
「いってらっしゃい!もう少ししたら夕食の時間だから、あまり遅くならないでね~」
手を振って見送ってくれるハンナちゃん。この子は本当にできた子だ。なのに親はと言うと……。
「ほら鬼娘、お前は私に付き合いな」
「え、ちょっ……。アタイはホクトと一緒に……」
「良いから付き合え。私も最近訛ってて、ちょうど身体を動かしたかったんだ」
「そんなの1人でいいだろ、アタイを巻き込むな!」
「カメリアお姉ちゃん気を付けてね!お母さん強いけど、良い訓練になると思うよ」
ハンナちゃんがカメリアを笑顔で見送る。結果がどうなるか、分かっているのに笑顔で見送るハンナちゃん、こういうところは親子なんだなって感じるな。
「じゃあ、いってきます」
こうして俺は、羊の夢枕亭を出てアサギを追いかけた。だけど、この日も次の日もアサギを見かけることはできなかった。なんか、完全に避けられてるな。
ここ最近、ずっとほのぼのした話が続いてしまいました。
久しぶりに出てくるリーザスの町の人々を書くのが楽しくて、全然話が進みません。
明日以降は、もう少し冒険者らしい話ができると思います。




