9話 和解
アサギとカメリアの過去について聞いたけど……これ、俺に何ができるんだろう。カメリアは俺の仲間だし、アサギには助けてもらった恩もある。2人の事を何とかしたいと思うけど、たかがDランク冒険者の俺にこの2人を仲直りさせることができるんだろうか?
「そう言えばアサギって、いつも独りで依頼を受けてるよな?」
「え、うん」
「……今でも仲間を作ることが怖いか?」
「……」
アサギは仲間を暴発に巻き込んだことを後悔してるんだろう。だから巻き込む可能性のある仲間を作らず、いつも独りで依頼を受けてるんだろうな。助けてもらった恩もあるし、アサギには立ち直ってほしい。
その為には……。
「なあ、カメリア」
「なんだ?」
「お前は、今でもアサギの事を恨んでいるのか?」
「!?」
「……何だよいきなり」
「お前もアサギの魔法の暴発に巻き込まれたんだろ?だから、今でもアサギの事を……」
恨んでいる……俺はそう思ってた。だから再会したアサギとの関係もギクシャクしてたし、アサギを見る眼つきも厳しい。
「ホクトでも適当なことを言うと怒るぞ?」
目を細めて俺を睨みつけてくるカメリア。あれ、これって本気で怒ってるときのカメリアだ。って事は、俺は何か見当違いをしてるのか?
「カメリアは、アサギの事を恨んでいるんじゃないのか?」
「……」
「誰が恨むかよ!あの時は、アタイだって死を覚悟した。だけど、結局アタイは助かった……それは、間違いなくアサギのお蔭だ」
「そ、そんなことない!……だって、私が魔法を成功させていれば、カメリアだってあんなに傷を負う事は無かったのに……」
「ばぁか!アタイの怪我なんて些細な事だ。あのまま戦ってたら、傷どころじゃない。間違いなく死んでたんだ。それが、アサギの魔法でシャドウグリズリーたちは逃げて行った。間違いなく、お前のお蔭でアタイたちは命拾いをしたんだ」
カメリアはストレートに物事を捉える。そんなカメリアがこう言っているって事は、間違いなくカメリアの中ではアサギに助けられたと思ってたんだろう。
でも、アサギはそうは思えなかった。
「……嘘だよ。カメリアだって、本当は……」
「アサギ、お前とカメリアの方が付き合いは長いかもしれないけど、俺とカメリアだってパーティを組んでここまで来たんだ。そんな俺から見て、カメリアはこういう時ストレートにものを言うと思うぞ?」
「……」
本当はアサギにも解ってるんだろう。カメリアはアサギの事を変わらず仲間だと想って見ている。
あれ、でも……そうするとカメリアは何でアサギに怒ってるような態度を取ってるんだ?
「カメリア、お前がアサギを恨んでない事は分かった。だったら、なんでそんな態度を取ってるんだ?」
「っ!?べ、別にいいじゃねえか」
おやおや?この感じは……。
「お前、何隠してんの?」
「な、何も隠してねえ!ホクトも、ニヤニヤ気持ち悪い顔でアタイを見るな!」
「気持ち悪いって……それはちょっと酷くないか!?」
「うるせえ!」
「照れ隠しに、八つ当たりするなよ!」
俺とカメリアがギャーギャー騒いでいると
「プッ」
「「あっ」」
突然アサギが噴出した。それは俺の知っているアサギの、いつもの表情だった。
「カメリアも、ホクトくんも仲が良いんだね。なんだか、ちょっと妬けちゃうな」
「アサギ、お前も何笑ってんだよ!アタイは笑われるようなことは、何もしてないぞ!」
「カメリアって、昔から誤魔化すとき突然怒り出すよね」
「あるある。こいつ自分で気付いてないみたいだけど、隠しごとできない質だからな」
「あ、分かる。昔も非常食の干し肉が1つ無くなってたとき、カメリアに聞いたら突然大声で怒りだして……口の周りに食べかすが付いてて、怒って誤魔化そうとしてたんだけどバレバレで」
アサギが昔のカメリアを思い出して笑ってる。カメリアも怒ったフリをしてるけど、なんかいつもより楽しそうだ。これで少しは氷解してくれればいいけど。
「で、結局何を隠してたんだ?」
「そうよ、いい加減教えてよ」
「……アタイの目標が、昔の事でウジウジしてんのを見るのは我慢できなかったんだよ」
「カメリアの目標?」
そう言えば、ウドベラで模擬戦をしたときに言ってたな。あれってアサギの事だったのか。
「何でもできる小器用な奴……アサギが?」
「え、な……何よいきなり。私の顔に何かついてる?」
俺が食い入るようにアサギを見ていると、突然見つめられて照れたのか、アサギが恥ずかしがってる。こんなアサギを見ても、何でもできるなんて想像がつかない。
「あの時までは、本当にムカつくくらい何でもできたんだよ。近距離でも並みの戦士なんか目じゃないくらい強かったし」
「それは、家で護身術を習ってて……」
「野営の時の食事はいつもアサギだったし」
ああ、アサギの料理は確かに美味い。俺もリーザスまでの旅の途中で何度も味わったことがある。
「料理くらい誰でもできるでしょ?」
「あの時のパーティは、女4人もいたのに料理ができたのはアサギだけだったぞ」
「みんなが不器用過ぎるのよ」
「アサギ、それでも限度があるぞ。カメリアの料理って、肉をぶつ切りにして塩振って完成なんて言う漢料理だったしな」
「良いんだよ、食い物なんて腹に入ればみんな同じだ」
「お前、仮にも女なんだから、それは無いだろう」
野営中にカメリアの手料理を食べで、二度とカメリアには任せないと心に誓った。
「と、とにかく!私は別に何でもはできないわよ」
「極め付けが、あの乳だ。あれは魔乳だぞ、道行く男どもの視線を独り占め……と言うか匂いにつられて寄ってくる虫と食虫植物みたいなもんだ」
「カメリア!いくら私でも食虫植物呼ばわりは怒るわよ!?」
「確かに、あのおっぱいは破壊力があるな」
「ホクトも男だしな、あんなものを目の前でぶら下げられたら……ああ、クソッ!なんか話してたらムカついてきた。アサギ、その乳捥いでやる!」
「突然理不尽な事で怒らないでよ!それに、カメリアだって十分巨乳でしょ!」
「うんうん、カメリアのおっぱいも迫力あっていいよな」
「「……」」
「ん?どうした2人とも」
「ホクト……」
「ホクトくん……」
何だよ2人して……俺何か言ってはいけないことを言ったか?
「「ホクト(くん)のスケベ!」」
「息ピッタリだな!?」
ホント、さっきまであんなに空気が重かったのが嘘のように、アサギとカメリアは互いを見て笑いあえている。
最初はどうなるかと思ったけど、全部吐き出したからか、アサギもカメリアも良い顔で笑うようになった。これなら一緒にやっていくこともできるんじゃないか?
「なあ、アサギ」
「なに、ホクトくん」
「俺が冒険者になったときのことを覚えているか?」
「……私がホクトくんの面倒を見てあげるって言った事?」
「ああ。ランクが離れ過ぎていると評価が下がるって言ってた。だから俺もしばらくは独りで依頼を受けようと思ってたけど、最終的にはアサギと一緒にパーティを組むつもりだったぞ。お前は違ったのか?」
「……違わないよ」
今日アサギたちの過去の話を聞いて引っかかってた部分だ。アサギは俺とパーティを組むような雰囲気で話してた。俺もCランクまでとは言わなくても、そろそろ一緒にパーティを組んで依頼をこなしても良いと思ってたところだ。でも過去の話を聞いて、アサギはわざわざ独りで依頼を受けていることを知った。
「あの時の話は何だったんだ?俺とパーティを組むつもりは、最初から無かったのか?」
「森を一緒に旅してきたでしょ?その時に、そろそろパーティを組んでも良いかなって思えたんだ。だから、ホクトくんならパーティを組んでもいいと思ってたのは本当よ」
「だったら、改めて誘うぞ。アサギ、俺とパーt」
「ストップだホクト」
俺がアサギをパーティに誘おうとしたら、カメリアが待ったをかけた。
「アサギがパーティに入る事、アタイはOKしてねえぞ?」
「いいじゃないか、元々一緒に組んでたんだろ?俺も元々アサギと組む気だったし、前衛、中衛、後衛とバランスも良いじゃないか」
「それはそうなんだけどな。その前に、アサギ!」
「なに?」
「最初に言っておく、ホクトはアタイの男だ!ホクトに色目を使わないと誓うなら、仲間にしてやってもいい」
おいおい、この鬼っ子はいきなり何を言い出すんだ?
「おいカメリア、俺は別にお前の男ってOKした覚えはn」
「お前は黙ってろ」
そう言うとカメリアは、俺の頭を脇に抱え込んだ。イタイイタイ、お前の脇は万力か何かか!?頭蓋骨からミシミシって音が聞こえてくる。
「……えっ?ほ、ホクトくん!?」
そして如実にキョどるアサギ。お前も何パニクッてんだよ。
「いいかアサギ、もう一度言うぞ。ホクトはアタイの男だ、それでもいいなら仲間に入れてやる」
「……」
「アサギ!カメリアの言ってることは出鱈目だからな!?」
俺の声は、果たしてアサギに届いているのだろうか?アサギは俯いて、何かをボソボソ喋ってる。ああ、このパターンもダメな奴だ。
「ホクトくんが、知らない女に寝取られた~!!!」
アサギは、そのまま羊の夢枕亭を飛び出していった。




