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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
1章 冒険者になろう
8/240

8話 初めての魔法

追記:文末の・・・を……に変更しました。

翌朝、耳障りな鳥の鳴き声で目を覚ました。

あれは小鳥の囀りと言うには、かなり重低音が効いていたな。まあ人も寄り付かない森の中で野宿をしたんだ、こんなものなのかもしれない。


「おはよう、ホクトくん」


「おはようございます、アサギさん」


朝の挨拶をすると、なにやらアサギさんの表情が険しくなる。


「昨日も思ってたんだけど、なんで敬語なの?」


「だって年上の人と話をするのに、タメ口はよくないでしょう」


伊達に体育会系に所属していない。小さい頃から野球をやっていたから、先輩なんかと話をするときはいつも敬語だ。この辺本当に体育会系はうるさい。忘れたころにやってくるOBとかいるから、気が抜けない。


「私ホクトくんに年齢言ってないよね?どうして私が年上だってわかるの?」


目がヤバイ。印象から年上だと思い込んでいたけど、女性への年齢問題はセクハラだったか。


「すいません、女性に歳を聞くのは良くないと思っていたので……」


「じゃあ、これからは敬語禁止ね」


「ええっ、ダメですか?」


「だ・め・で・す」


そう言って拗ね始めたアサギさん。確かに仕草からは幼さすら感じる時があるからな、この人の場合。


「わかったよ。これでいい?アサギさん」


「敬語禁止なんだから、『さん』付けもダメ」


「それは勘弁してくださいよ。年上の女性を呼び捨ては難易度が高過ぎますって」


「ほら、また敬語!私がいいって言っているんだからいいの!

 ほらほら、声に出して呼んでみて」


完全に俺で遊んでるな、この人。とは言え、いつまでも呼ばないと機嫌がどんどん悪くなっていきそうだな。


「わかった……わかりました!…………アサギ」


「キャー、真っ赤な顔して私の名前を呼ばれるのはテレるわ~」


「もういいだろ!さっさと準備して行くぞ」


恥ずかしい……超恥ずかしい。生まれてから母親以外の年上の女性と、敬語以外の会話をしたことがない。俺の精神がガリガリ削られていく。

マジで勘弁してくれ……。





あの後、朝食を取った俺たちは町に向けて歩き出した。アサギさん、改めアサギは終始ニコニコしていた。クソッこっちは貧血でぶっ倒れそうだ。


「ホクトくん、ホクトくん」


「なんですか?」


うわっ、ムッとされた。


「……なんだよ?」


途端に太陽のような笑顔になった。完全に掌の上で転がされてるな。


「ホクトくんには、これを渡しておきます」


そう言ってアサギが手に持った剣を俺に向かって差し出した。


「それは……剣でいいんだよな?」


「そうね。これはショートソードと言われる剣よ」


手渡された剣は刃渡り50cmほど。


「これを俺に?」


「これから町に向かう間に魔物に襲われたら、それを使う時が来ると思うわ」


「俺も戦うのか!?」


「複数の敵がいたり、単体でも強いと私が判断した時は私が倒します。

 でも昨日のようにゴブリン1体だったら、経験のためにホクトくんに戦ってほしいの。難しいことを言っているとはおもうけど、お願いできない?」


ショートソードの照り返しを受けながら、俺は昨日の戦いを思い出した。

確かに武器のある状態で昨日のゴブリンと戦うことになったら、倒せる勝算は結構あると思う。


「ちょっと振ってみていい?」


「ええ、感覚を確かめてみて」


そう言うとアサギは俺から少し離れた。当たらないことを確認してショートソードを振ってみる。


ブンッ ブンッ ブンッ


正しい振り方なのかは分からない。振り方もへっぴり腰になっているような気もする。でも手に感じる重みが多少は自信をもたらしてくれた。


「こんな感じでいいのか?」


「私も剣は専門分野じゃないから、いいかどうかは何とも言えないけど……。

 自分の身くらいは守れるようになるんじゃない?」


確かに。昨日は素手だったからアサギにも逃げろと言われた。昨日このショートソードを持っていたら、俺でもジャイアント・ボアの相手ができたかもしれない。

……ないわぁ。剣持った途端に自信過剰になるのは、ちょっと恥ずかしい。


「死なないようにガンバリマス」


「なに、その言い方。大丈夫よ、危なくなったら私が助けるから」


自信満々に胸を反らすアサギ。まあ強いのは間違いないし期待しよう。


「……それに、目の前で戦う姿を見れば……何かわかるかも……」


「ん?何か言った?」


「い~え、何も」


そう言いながら、さっさと歩いていく。なんだろう?このショートソードを渡されたことに何か意味があるのか?まあ、どっちにしろアサギに頼るしかないんだ。

せいぜい彼女の期待に応えよう。





あれからしばらく歩いた。

この森の中だと、太陽が見えないから今何時なのか分からないな。

緊張もやや薄れてきた頃


「止まって……何かいるわ」


アサギが手で俺を制止した。俺も周りに意識を集中させてみるが、何も聞こえないし気配も感じない。だけど、恐らく冒険者としても凄腕なのではないかと想うアサギが何かを感じたってことは……どこかにいるんだろうな。


「方向は?」


「私たちの進行方向、やや右の繁みにいるわ」


そちらの方に目をやって集中してみる。言われれば確かに、他の繁みと動きが若干違って見える。風ではない不規則な動き。でも、言われなければ絶対に気付けなかったな。


「ホクトくんは、ここにいて。

 たぶん3体いるから……」


俺は無言で頷いた。

アサギはその場で手に持った杖を掲げ……


「水よ! 我が名に応え、岩をも穿つ礫と成れ! ウォーター・ジャベリン!」


アサギが朗々と読み上げる。あれは魔法か!?ヤバイ、テンション上がる!

俺の目の前で初めて魔法が使われる。

アサギが掲げた杖の周りには、槍のような形をした水の塊が幾つもできあがった。それらが一直線に音のした繁みに突き刺さる。


「ゲギャ!」

「ギョワァー!!」

「ギョギョギャーー!!」


聞こえてきた声は3つ。この鳴き声は、昨日嫌と言うほど聞かされたゴブリンのものなんだろうな。


「1匹逃した!ホクトくんお願い」


「え?マジで俺がやるの!?」


「マ・ジ・です!」


突然の無茶振りをされた俺はと言うと、何も準備ができていない。

慌ててショートソードを鞘から抜こうとしたが、慣れない動作の為か若干もたつく。そして、そんな俺の準備なんか待ってくれるはずもなく……


「ギャギャ!」


腕から血を流したゴブリンが、俺目がけて突進してきた。


「うわっ!ちょ、ちょっと待って……」


ゴブリンが突進の構えから木の棒を突き出す。俺は鞘からショートソードを抜くのを諦め、鞘で受ける。


ガキィッ!


鞘から鈍い音がして、支えていた手が痺れる。


「もう、なにやってるの。戦闘中なんだから、剣くらい鞘から抜いておかないと」


「そんなこと言ったって……クッ、剣を使った戦いなんて初めてなんだよ!」


自分でも解ってる。これは言い訳だ。アサギが魔法を使うといったから、てっきり全滅するだろうと軽く考えていた。戦闘では何が起こるかわからない。完全な俺の怠慢だ。


「クソッ、お前もいい加減しつこい!」


両手で持った鞘を、力いっぱい押し込む。

突然の圧力にゴブリンが怯んだ。俺はそれを目で追いながら、ゴブリンの腹を思いっきり蹴り飛ばした。


「グギャッ」


汚い声で鳴きながら、ゴブリンが離れる。これでなんとか仕切り直しができた。


「ホクトくん、慣れていないのはわかってる。

 だから集中して……相手の目を見て次の攻撃に備えて」


人心地ついたことで、ようやく鞘からショートソードを抜き放つ。

ゴブリンの様子を伺いつつ、ジリジリと距離を詰める。張り詰めた緊張感の中、我慢できなかったゴブリンが突っ込んでくる。だが、それはさっきの突進とは違い明らかに遅い。上段から振り下ろされた木の棒を余裕をもって左に避ける。避けた先で伸びきった右腕を、救い上げるようにショートソードの刃をきらめかせた。


ザシュッ


肉を切ったような嫌な手ごたえを感じて、思わず剣を止めてしまった。


「バカ!どうして途中で止めるのよ!」


言われなくても自分が一番分かってる。生物を斬った感触にビビったんだ。

中途半端に斬りつけられたゴブリンは、俺と目が合うと一目散に逃げだした。


「え、逃げるのかよ!」


追いかけても、追いつくには時間がかかりそうだ。そう思った俺の次の行動は、身体に染みついた普段どおりの動作だった。


「おらぁ!」


力任せにショートソードをオーバーハンドスロー。投げつけられたショートソードは、願い違わずゴブリンの後頭部を直撃した。


「……なんとか勝てたな」


「ショートソードって投擲武器じゃないと思うの」


そんなことを言うアサギの表情は、安堵と呆れが入り混じっていた。

主人公じゃないのかよ!というお叱りは甘んじて受け入れます。

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