3話 模擬戦
「……この世界の人間じゃない?」
「ああ、俺の生まれは地球という星の日本と言う国だ」
1つ1つ丁寧に説明をしていくが、やっぱりよく解っていないのか
カメリアは何度も首を捻ったり、顎に手を当てて考え込んだりしている。
「ようするに、ここじゃないもう1つの世界から来たって事だ」
「そんな世界があるのか?」
「俺もビックリだったけどな、ここは俺のいた世界とは全く違うから何が起こったのか理解できなかったよ。ただ、すぐにこの世界の人間……冒険者に助けられたからある程度の事は教えてもらえたけど」
あの時アサギに会わずにいたら、俺はどうなっていたんだろう。町に着くこともできずにゴブリンに殺されていたかもしれないな。
アサギと出会った時のことを思い出しつつ、ここまでのことをカメリアに話していく。ギルドの試験でソウルと戦った事、ダッジさんに鍛えられたこと、そしてDランクにあがった、ゴブリンの集落討伐作戦の事。
「とまあ、ここまで来たわけなんだけど……。俺は今でも元の世界に帰りたいと思っている」
「それで、願いの塔か……」
「そうだ。どんなことでも叶えてくれる願いの塔、俺は塔を踏破して自分の世界に帰りたいんだ」
一通り説明した後、改めて自分の思いをカメリアに聞かせた。
「……そうか」
それっきりカメリアは黙ってしまった。やっぱりショックだったか?それとも、これで見限る事ができたと思っているのか……。
「よし決めた!アタイはホクトに付いて行く」
「……は?」
「だ・か・ら!ホクトが願いの塔を踏破する手伝いをするって言ってるんだよ!」
「いや、だって……。お前にも自分の目的があるんだろ?」
「ああ、アタイは誰よりも強くなりたい。そのためにダンジョンに潜って修行してるんだ」
「なら、自分のことを最優先に考えろよ!」
自分の願いを棒に振ってまで付いて来てほしいなんて俺は思わない。誰しも譲れないものはあるんだから、カメリアはそれを成し遂げるための努力を続けるべきだ。
「なあホクト」
「なんだよ」
「願いの塔って、最高難易度のダンジョンだって知ってるか?」
「知ってるよ、だから冒険者はCランクにならないと中にすら入れないんだろ?」
「そうだ。そして、願いの塔は冒険者なら誰もが夢見るダンジョンだぜ。アタイの願いにもバッチリ合ってるだろう」
そうか……そうなのか?カメリアは、俺と離れるのが嫌だからって理由を作ってないか?
「なあカメリア、俺と別れるのが嫌だからって無理する必要はないんだぞ?」
「ホクト……いくらアタイでも怒るぞ。少しはアタイの気持ちを考えてから言ってくれよ」
そう言うと、カメリアはそっぽを向いてしまった。あれ、俺なんかまずったこと言っちゃったか?女の……しかも年上の女性の考えることは解らん。
「なんにしても、俺の為って訳じゃないんだな?」
「それも当然ある!だけど、強くなることとお前に付いて行くことはアタイの中では両立できるって思ってる。ホクトについて願いの塔に挑めば、今まで以上の強敵と戦えるんだろ?そうなりゃ、アタイは今よりももっともっと強くなれる!」
真っすぐと言うか、バカと言うか……。でも、そんなカメリアも嫌いじゃない。カメリアには、常に前を向いて突っ走っててほしいと思う。
「ちなみに、カメリアには達成したい目標とかあるのか?強くなりたいって漠然としたことじゃなくてさ」
「……ある。昔パーティを組んでた奴なんだけど、アタイはそいつにもう一度会う前に、そいつよりも強くなったって実感がほしい」
「ライバルってやつか?」
「そんなんじゃない、本当にムカつくくらい何でもこなせる奴なんだよ。槍ならアタイが勝てるだろうけど、総合的に見たら今のアタイでも歯が立たない」
カメリアがそこまで言うほどの奴がいるのか。俺もちょっと興味が湧いてきたな。
「そいつってどんな奴なんだ?」
「……言いたくない」
「え?」
「そいつの強さは認めるけどな、アタイはそいつが大っ嫌いなんだ!」
「ええ~……」
子供かよ、心底イヤそうな顔でそっぽを向いたカメリア。思い出しているのか、顔が徐々に怒りに染まっていく。
「ああ、変なことを聞いた」
とりあえず謝って、話しを先に進めよう。
「とりあえず、カメリアの決意は分かった。俺としても、これからもカメリアがパーティの仲間であってくれることは、とても心強いよ」
「そうか!アタイ、ホクトと一緒にいても良いんだな!」
「ああ、これからもよろしく」
「おう、任せとけ!」
お互い固く手を握り合う。俺たちは今、正式にパーティを組んだことになるんだろう。今までが偽物って訳じゃ無いけど、それでも別れるつもりだったから仮パーティってところだな。これからも、俺はカメリアと一緒にやっていく。結局カメリアとは男女の関係よりも、こういう開けっ広げで何でも話せる、そんな関係の方が気が楽なんだよな。
「今後の事も決まったし、実はホクトに頼みがあるんだ」
「頼み?」
珍しい……。いつもなら勝手に話を進めるくせに、今日に限ってなんで頼みなんていうのか。
「俺に出来る事なら良いぞ」
「1回で良いんだ……アタイと本気で戦ってくれないか?」
「……は?」
「アタイもダンジョンを踏破して、大分強くなったと思う。そしてホクトの事は、ずっと隣で見てきた。だから思うんだよ、今のアタイとホクトが本気で戦ったら、どれくらい楽しいかって」
楽しいの前提かよ、まあ俺も少しは興味があるけどな。
「いいぜ、やってみるか」
「ノリが良くて好きだぜ!じゃあ、明日ギルドの訓練場でやろうぜ」
「わかった、明日な」
「ああ」
俺との模擬戦が楽しみなのか、カメリアはウキウキしながら自分の部屋に帰って行った。
翌日、前日の酒も特に残る訳でも無くすこぶる快調だ。朝食を食べていたら、何時まで経っても下りて来ないカメリアを心配して部屋まで迎えに行ったのに、あいつは既に宿を出ていた。
「どんだけ楽しみにしてたんだよ、遠足前の子供か」
もっとも、俺も他人の事をあれこれと言えない。だってカメリアと本気で戦えるんだ、楽しみじゃない訳がない。
「あ、ホクトさん。おはようございます!」
ギルドに入ると、カウンターにいたアーネちゃんが挨拶をしてきた。昨日変な別れ方をしたから気になってたけど、どうやら気にし過ぎたみたいだ。
「カメリアさんから聞きましたよ。ホクトさんとカメリアさん、これから模擬戦をするんですよね?」
「ああ、ちょっと訓練場を借りるよ」
「それは申請があれば、冒険者の方なら誰でも借りられますけど……まさか、昨日の一件がここまで尾を引いている訳じゃ無いですよね?」
「ああ、そこは心配しないでくれ。お互いに思ってたことを話し合ったから、無事に和解できたよ」
「良かったぁ~。……でも、それならどうして模擬戦なんですか?」
「強いて言うなら、これからもよろしくって挨拶みたいなものかな?」
「なんですか、その頭の悪そうな挨拶は……あ、ホクトさんもカメリアさんも脳筋でしたね」
120%の笑顔で、さらっと毒を吐くアーネちゃん。実は昨日の事、根に持ってるのか?
「ははは……じゃあ、俺は行くよ」
「あ、ちょっと待ってください。私も今の資料を書き終ったら休憩なので、一緒に行きます」
「え、アーネちゃんも観戦するの?」
「もちろん、他にも知ってる人が何人か観に来るそうですよ」
意外と暇な奴が多いんだな、ウドベラの冒険者って……。まあ、邪魔しないなら減るもんじゃないしいいか。
アーネちゃんが資料の作成を終わらせるまでしばらく待ってから、一緒に訓練場へ向かった。道中、昨日の夜はカメリアと何を話したのか、しつこく聞かれたけど俺の出自に関する内容もあるからお茶を濁しておいた。アーネちゃんはプクゥっとホッペタを膨らませて怒ってますアピールをしてたけど、ただ可愛いだけだった。
「遅いぞホクト!」
俺とアーネちゃんが訓練場に着くと、準備万端なカメリアが俺に声をかけてきた。
「いや、お前が早過ぎなんだよ。どんだけ楽しみにしてたんだ」
「結局、あの後興奮して寝れなかったから、ずっとここで槍を振ってた」
まさかの徹夜!?あいつ大丈夫なのか?
「おいおい、大丈夫か?別に今日じゃなくてもいいんだから日を改めるか」
「いや、今が最高のコンディションだ。今日のアタイは誰にも負ける気がしねえ!」
やけにテンションが高いな。でも、あれは徹夜明けのテンションに近い気がする。
「じゃあやるか、審判は誰がやるんだ?」
「それは、俺が引き受けた」
声のする方へ振り返ると、ロドスが立っていた。なんだ、ロドスが審判をやるのか。まあ、あいつなら公平に見てくれそうだな。アーネちゃんが絡んでる訳じゃ無いから……。
「頼んだ」
俺はそれだけを言うと、カメリアに近づいた。お互いある程度離れた状態で対峙する。カメリアはいつもの装備に、いつもの朱槍を肩に担いでいる。昨日話してくれた親父さんの形見の槍だ。
「ルールはどうする?」
「参ったか、気絶で負けって事で良いんじゃないか」
いたってシンプル。俺にしろカメリアにしろ死ぬ気も殺す気も無いので、これくらいでいいだろう。
「殺しちまったらゴメンな」
さらっと言いやがった。
「いや、そこは嘘でも殺さないから心配するなくらい言えよ。なんだよ、殺したらゴメンって……軽いよ!」
「大丈夫だ、ホクトなら死ぬほどの目に合っても、きっと生きてるから」
「根拠がない!」
「ホクトさん!カメリアさん!」
あまりにあまりなカメリアの暴言にアーネちゃんがキレたか?
「ギルドの医務室が使えるので、ある程度なら大丈夫ですよ。あ、でも……即死は止めてくださいね。死んでたら治療できないので」
怖いよ!?カメリアもアーネちゃんも、やたら殺伐としてて超怖いんだけど。
「……もういいか?さっさと始めようぜ」
そして空気を読まないロドス。初めてカメリアと思う存分戦えるってのに、周りがうるさすぎで集中できない。
「ロドスもああ言ってるし、さっさと始めようぜホクト」
「わかった」
お互い獲物を構えて戦闘態勢に入る。模擬戦とはいえ、どっちも主力の武器を使っての戦闘だ。集中していかないと、本気で死ぬかもしれない。気合を入れよう。
「行くぞカメリア!」
「来いホクト!」
「……はじめ!」
ロドスの掛け声とともに、俺とカメリアが同時に前へ出た。




