1話 酒宴
今日から5章が始まります。
久々のメンツも登場するので、ご期待ください。
無事に工夫達の洞窟を踏破して町に戻ってきたのは、すでに陽も暮れた夜になってからだった。
「今日はパーッとやろうぜ!ダンジョン踏破記念だ」
「そうだな、こんな日は思いっきり騒いで疲れを忘れようぜ!」
「アタイたちだけで打ち上げするか?」
カメリアがこういう風に聞いてくるって事は、誰かを誘いたいって事だろう。俺としても声をかけたい人はいる。多分カメリアと同じだろうけどな。
「いいよ、アーネちゃんだろ?」
「お、おう……。なんだホクトも考えてたのか?」
「まあな、色々面倒を見てくれたし。何より俺たちがパーティを組むきっかけを作った恩人だからな」
「そうか、確かにアーネはアタイたちにとって恩人だな。よし、ギルドに行ってアーネを誘おうぜ」
他にもアンちゃんや、ノクト爺さんにも声をかけたいところだけど、今日は俺たちパーティと縁のある人だけにしよう。
俺とカメリアは、アーネちゃんを誘うため早速ギルドに向かった。
「あれホクトさんにカメリアさん、今日はどうしたんですか?」
陽も暮れて遅い時間だったけど、アーネちゃんはまだギルドで仕事をしていた。大丈夫なのか、こんな小さな子をこんな時間まで働かせて。労働基準監督署とかに文句言われないだろうな。まあ、あればだけど……ブラックだな異世界。
「聞いて驚けよアーネ、アタイたちダンジョンを踏破したんだぜ」
言われたアーネちゃんは、一瞬キョトンとした表情をしたけどすぐにパアーっと花が咲いたような笑顔になった。
「ほ、ほんとですか!?本当にカメリアさん、ダンジョンを踏破したんですか!」
「ああ、アタイとホクトでな。まあ、楽勝だったぜ」
楽勝なもんか、9階層なんて結局ゴリ押しで突っ切っただけだ。もう少しスマートな勝ち方とかあったんだろうけど、今の俺たちでは時間がかかり過ぎだな。
「……おい、聞こえたか?」
「ああ、カメリアが工夫達の洞窟をクリアしたって?」
「ウソ、ちょっと前まで4階層で止まってたのに……」
「あれだよ、リーザスから来たホクトとかいう小僧と一緒になってから一気に先に進んだみたいだ」
おお、噂されてるよ。確かにウドベラにも結構な冒険者がいるけど、工夫達の洞窟を踏破したって話はあまり聞かないもんな。
「すごいですカメリアさん!それにホクトさんも!最近はダンジョンを踏破される方も少なくなってたんです。でも、これで他の方々もやる気になるかもしれませんね」
「ケッ、やる気のない奴は何時まで経ってもやる気のないままだ。本気で打ち込んでる奴は、誰にも何も言われなくても勝手に踏破しちまうもんだ」
カメリアさん、ダンジョンを踏破して気が大きくなってるのは分かりますが、あまり周りの人を挑発しないでください。
「おい聞こえてるぞカメリア」
ほらぁ、いらんこと言うから絡まれた。そう思って声のした方を見ると
「……あれ、あんたは」
「なんだよ覚えてないのか?俺だよ、ロドスだよ」
……ああ、ロリコンのおっさんか!町に来た時以来会ってなかったから、すっかり存在を忘れてた。
「もちろん覚えてるさ、ろり……ロドス」
「お前、今なんて言おうとした?」
ドスの利いた声に目の座った顔、ハッキリ言って怖いです。
「なんだロリコン、ホクトになんか文句でもあんのか?」
対抗してカメリアまでガンを飛ばし始めたよ、しかもオブラートが仕事してない。
「カメリアさんもロドスさんも、喧嘩はダメですよ!」
「カメリア、俺はロリコンじゃねえ!アーネちゃんを温かく見守ってるだけだ」
「だからロリコンだろ?いい歳して、あんなちっちゃい奴追いかけて恥ずかしくないのか?」
うわぁ、やめてあげてカメリアさん!ロドスだけじゃなく、周りで誤爆してる人達が……。
「私の話を聞いてください!……聞いてくれないと……ふぇ」
あ。やばい。
「カメリア!」
「ロドス!」
「おう!」
カメリアもロドスも肩を組んで仲良しアピール。そしてなぜか俺も一緒に肩を組んでいた。お願いだから、俺を巻き込まないで。
「……グス、皆さん喧嘩しませんか?」
「しないしない、なあロドス」
「ああ、俺とカメリアは仲良しだからな!」
あんなことを言いながら、背中の方で抓り合いを始めた2人。この2人は徹底的に水と油なんだろうな、それでもアーネちゃんが間に入ると纏まっちゃうんだから、アーネちゃんはこの町……ギルドには無くてはならない人材なんだろうな。
「スン……それで、カメリアさん。私に何か話があったんですか?」
「お、おう。アタイたちこれからダンジョンの踏破記念に飲みに行こうと思ってるんだけど、アーネも来ないか?」
「えっ、私もご一緒していいんですか?」
「ああ、もちろんだ。アーネはアタイたちの仲人みたいなもんだからな!」
カメリア、それ違うから。
「……ヒソヒソ」
ああ、噂になっていく……。女性冒険者たちの生暖かい視線と、男性冒険者たちの殺意の波動垂れ流しの視線に晒されて辛いです。
「と、とにかく。俺たちとしては、アーネちゃんにも参加してほしいんだけど……どうかな?」
「……わかりました、ホクトさんとカメリアさんのお誘いでは断れません。私もご一緒させていただきます」
「ありがとう。誘っておいてなんだけど、仕事の方は大丈夫?」
「はい、今日のお仕事はちょうど終わりだったので。これから着替えてきますから、ギルドの前で待っててもらえますか?」
「わかった」
アーネちゃんが奥に引っ込んだので、俺とカメリアもギルドの前に移動しますか。
「じゃあなロドス」
「おう、ホクトもカメリアもダンジョン踏破おめでとさん」
「最初からそう言え、ロリコン!」
「だから、俺はロリコンじゃねえ!」
あれもロドス流のお祝いなのかもしれないな。言った方も、言われた方も笑ってるから、ここではこんなのが当たり前なのかもしれない。
しばらく待っていたらアーネちゃんが来たので、俺たちは酒場に向かった。
「ぷはぁ~~!!やっぱり仕事終わりのエールは堪んねえな!」
店に着くなり、さっさとエールを頼んだカメリアは1人で飲み始めた。
「おいカメリア。今日は祝いなんだから、せめて全員分来るのを待ってから乾杯しようぜ」
「そうですよ、私が来た意味がないじゃないですか!」
「細かいことは良いんだよ、ング……ングング……くぅ~、美味い!」
この野郎、とっととおっ始めやがって。ジト目でカメリアを睨んでいる俺とアーネちゃんの前にエールと果実酒が置かれた。これで準備は整った。
「ほらカメリア、お前はフライングしたけど乾杯するぞ」
「あん?……チッ、しゃあねえな。じゃあホクト、リーダーとして音頭取れよ」
「俺が?……まあいいや。じゃあ、無事工夫達の洞窟を踏破できたことを祝って……」
「「「乾杯!!!」」」
「ゴク……ゴク……ングッ……ぷっはぁ!一仕事終えた後の酒は美味いね」
「コク……コクコクコク……ふぅ。美味しいです」
「お、2人とも良い飲みっぷりだ。アタイも楽しくなってきたぜ」
そう言いつつも、カメリアはさっさと2杯目のおかわりを注文する。こいつは、いつも最初だけ勢いで飲み続けて、その後轟沈するから手がかからなくて良いんだけどな。アーネちゃんは、いっつもマイペースに飲み続けるけど、実はこのメンバーの中じゃ一番の酒豪だ。
「さて、色んなものを注文して、飲んで食べて騒ごうぜ」
「おう!」
「お~!」
酒宴を始めてどれくらい経ったか、カメリアの顔はすでにトロンとしてて、いつ落ちてもおかしくない。だけど、今日は気分が良いからか普段よりは頑張ってる方だ。
「ところで、ホクトさんはこの後どうされるんですか?」
「え、俺?……多分、カメリアが潰れるから担いで宿まで戻るよ」
「あんだとぉ~、ほくとぉ、アタイはまだまだのめるじぇ~」
「これはダメだな……」
「ダメそうですね……」
顔を真っ赤にして、今にも机に突っ伏しそうなカメリアを見て、今日も俺が連れ帰るのかと少し億劫に感じてしまう。
「先ほどの話しですけど、今日の話しではなくて、これからの話しです」
「これから?」
「はい、ホクトさんはリーザスからダンジョンを攻略するためにウドベラにいらしたんですよね?」
「ああ」
「工夫達の洞窟を踏破した今、すでに目標は達成しましたよね。なら、この後はどうするのかと……私としては、公私ともにウドベラに残って冒険者を続けてほしいと思ってます」
ウドベラに残ってか、アーネちゃんも随分突然だな。まあ、この子の性格だから言われるだろうとは思ってたけどな。けど、俺の答えは決まっている。
「帰るよ、リーザスに」
「……即答ですか」
「ああ、確かに今回の目標は達成できた。だけど、俺には叶えたい最終的な目標があるからな。そのためにはリーザスにいる必要があるんだよ」
「……それは『願いの塔』ですか」
「そうだ。俺は、願いの塔を踏破して叶えたい願いがあるんだ」
この願いは、どんなものよりも優先される。例えアーネちゃんに引き留められても簡単に覆すことができないくらいに。俺は今でも諦めていないんだ。自分の世界、地球に帰ることを。
「すぐにって訳じゃないけどな。顔見知りもできたから、その人たちにもお別れを言いたいし。その辺りが全て終わったら、リーザスに帰るよ」
「……そうですか」
アーネちゃんも俺の決意の固さが分かったのか、それ以上は何も言わなかった。だけど、それで片付かない奴も当然いる。
ガンッ!
突然店内に響き渡る破壊音、それは俺の目の前から聞こえてきた。
「……どういう事だホクト」
完全に目の座った、マジでキレる5秒前なカメリアが店のテーブルを叩き割った音だった。




