20話 エピローグ
「さてホクト、お前の出番だぞ。本当に大丈夫か?」
目の前には不死の魔物たちの集団が見える。今までなら、できるだけ狭い通路に入って少しずつ倒していくことしかできなかった。だけど、今日は違う。
「任せとけ、上の階でも試したんだから大丈夫だ」
銀の籠手の性能をギルマスに調べてもらってから数日、俺は魔法の検証を行っていた。流し込む魔力によって効果はまちまちだったけど、今の俺にできる最大限の魔力を注ぎ込むと、それはもうとんでもない威力を発揮してくれた。
「後の事はアタイに任せろ、ホクトはあの集団を倒す事だけを考えろ」
「分かった……」
カメリアにそう返して俺は魔力を籠手に注ぐ。俺は拳闘士なのに魔法を撃つ力を手に入れた、だけどすべてが完璧な訳じゃない。この魔法にも欠点はある。それがチャージ時間だ。最大限の威力を発揮しようとすると、チャージに時間がかかってしまう。その結果が広域殲滅魔法になる訳だから、痛し痒しだけど。
「ホクト、まだか?」
前衛で敵を食い止めるカメリアから催促が来た。だけどまだダメだ、今撃っても全ての魔物を殲滅するほどの力は無い。
「もう少し待ってくれ、あと30秒」
「クッ、わかった!」
ただでさえ多い魔物たちの群れ、今までは俺と2人で抑えていたものを今はカメリア1人で抑えている。あいつにかかる負担は想像を絶するだろう。
だけど、俺は心配していない。カメリアなら必ず抑えてくれるだろう。そしてカメリアも期待しているはずだ、俺なら期待に応えてくれると。
「あと10秒……5……3,2,1。行くぞカメリア!」
俺の合図でカメリアが後ろに下がる。それを確認して右手と左手の掌を前方に向ける。
「消し飛べ!!!」
蓄えた魔力を一気に開放する。両の掌から解放された魔力は炎となって吹き出し、目の前にいた魔物の群れを一気に焼き尽くす。
面あたりの殲滅力はアサギの方が上だろう。だけど、俺の魔法は指向性のある炎を前方に撒き散らす。その直線上にいるものは、どんなものでも焼き尽くす。
「「…………」」
あまりの光景に俺もカメリアも言葉が無い。ここまで幾度となく挑んできた9階層の物量攻撃。何度も何度も押し流され、挫折しかけたけど。今、俺たちはそれを攻略した。
「一気に走り抜けるぞ、あれは何発も撃てないんだ!」
「おう!」
俺とカメリアが階層の奥に向かって走り出す。遅れてポロンも付いてくる。この魔法、俺の魔力を半分近くも持っていく。結果として、俺は全力の魔法を2発しか撃つことができない。次の波が来る前にできるだけ前進しておきたい。
「ワンワン!」
ポロンが後ろから警告する。俺もポロンの意図を組んで、前方右側に意識を集中する。
「右側から集団だ来ている、飲み込まれたら面倒だ。カメリア、左から進むぞ」
「分かった!」
俺の指示を聞いてカメリアが進路を左に変更する。そうして何度か魔物の群れをやり過ごして、俺たちは前へ前へと進んで行く。
そしてついに、下へ降りる階段を見つけた。
「いよいよ最下層か」
「ここはどんな階層なんだ?」
「一本道だよ、後は階層ボスを倒したらクリアだ」
カメリアから最下層の情報を聞いて、嫌でもテンションがあがる。俺たちは遂にここまで来た、絶対今日中にダンジョンを踏破してやる。
「ホクト、あれだ」
カメリアが向ける視線の先、そこには大きな両開きの扉があった。おそらくあれがボス部屋なんだろう。
「やっとここまで来れたな」
「ああ……ホクト、ありがとうな」
「え、なんだよ突然」
「アタイ独りではここまで来れなかった。ここまで来れたのは、ホクトが一緒にいてくれたからだ」
「それはお互いさまだ。俺独りでも絶対にここまで来れなかった、ありがとうな」
カメリアと2人見つめ合う。別に色気のあるシーンではない、これからボスを倒そうぜという意思の確認だ。
「じゃあ、行くか」
「ああ」
俺とカメリア、2人で扉を押し込んでいく。さあ、最終戦闘だ!
中は直径50mほどのドーム状の部屋だった。その部屋の中心、そこに大型の魔物が見える。
「あれが、ここのボスか?」
「恐らくな、あれはトロールだな。耐久力と攻撃力が高い大型の魔物だ」
トロール……ファンタジーではお馴染みの魔物だな。某有名RPGで緑色の肌をしたやつだ、今目の前にいるトロールは土色をしているけど。
「動きはそんなに速くない、ただいくら攻撃を与えても平気で反撃してくるくらいダメージが通り難い」
「よし、基本は俺が前であいつの注意を惹く。カメリアはその間に回り込んで攻撃してくれ」
「分かった」
カメリアの返事を聞いて、俺はトロール目掛けて走り出した。様子見なんてしない、一気に殲滅してやる。
「グォオォォォ!!!」
トロールが手に持った棍棒で薙ぎ払う。それを身体を沈めてやり過ごし、相手の足元へ潜り込む。ここが俺の戦闘エリアだ。
「ほら来いよ、デブ野郎!」
軽い挑発を入れて、脛に殴りつける。
ゴンッ!
「!?堅ってえ……うおぉ」
その堅さに驚いていると、頭上から棍棒が振り下ろされた。咄嗟に後ろに飛んでやり過ごす。
「思った以上に堅い奴だな。デブかと思ったら、あれ筋肉の上に脂肪を纏ってんのかよ」
関取みたいなもんだな、ただ殴っただけじゃ芯まで攻撃が届かないだろう。でも、俺には攻撃手段がある。
「もういっちょ行くぞ!」
トロールの注意を惹いて、真正面から向かっていく。俺の視界の隅ではカメリアがトロールを回り込むように移動している。トロールも、俺に挑発されて怒っているのかカメリアに視線が行くことは無い。
「うおぉぉ!」
トロールとの距離を詰める。
「グフォォォ!」
トロールは、俺を蹴ろうと足を振り上げる。
「そんな攻撃当たるかよ!」
身体の軸をずらして回避する。俺のすぐ傍を、大きな質量の塊が通り過ぎていく。気にせず前へ。蹴り上げて若干体制が崩れたトロール目掛けて、俺は隠し玉を使う。
「跳躍!」
地面を思いっきり踏み込んで、一気に上空向かってジャンプ。振り上げたトロールの足を使って更に上空へ。すぐ目の前にトロールの顔が見える。
「まさか、こんな高さまでくる方法があるとは思わなかったか?」
驚きの表情を見せるトロールに向かって右拳を振りかぶる。狙いは顎、魔力を流した拳を顎先に向かって叩きつけた。
「浸透!」
顎の先に拳がめり込み、一気に魔力を解放する。その衝撃でトロールの脳はシェイクされ、バランスが崩れていたこともあって仰向けに倒れ込む。
「カメリア!」
「任せろ!」
俺の合図を聞いて、カメリアがトロールに突っ込んでいく。普通に攻撃したんじゃ大したダメージにならないけど、狙う場所が急所なら話は別だ。俺たちよりも遥かに高い身長も倒してしまえば、狙いやすい高さに弱点が見えてくる。
「鬼心尖牙!」
仰向けに倒れたトロールを駆け上がって、右目に向かって思いっきり突き刺す。
「グゴォオォォォ!?」
痛みに身体が暴れるけど、カメリアの朱槍はしっかりと眼球に食い込んでいる。右目を完全に潰しても更に奥へ突き刺そうとしているカメリアに向かって、トロールが張り手を見舞う。
「チィ!」
朱槍を引き抜いて張り手をガードするけど、さすがに威力が半端ない。カメリアの身体は軽く10mほど飛ばされて地面に着地した。
「大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
カメリアの無事を確認して、俺の方も次の行動に移る。カメリアの攻撃は確かにトロールにダメージを与えたけど、致命傷には届かなかった。
「まだまだ、こんなもんじゃ終わらないぞ!」
倒れたトロールに向かって駆け出す。片目を失って平衡感覚がおかしくなったのか、無闇矢鱈に棍棒を振り回すトロールだったけど、その全てが見当外れの方を攻撃していた。
「もうお前が起き上がることは無い!」
左足に取り付いて駆け上がる、目標は膝だ。膝の皿に向かって思いっきり拳を叩きつける。
「浸透!」
左拳が触れた瞬間に魔力を解放する。その瞬間、拳に何かが砕け散った感触があった。
「グォオオォォオォ!」
激痛に悶えるトロール、慌てて俺目がけて拳を振り下ろす。
「良いのか?敵は俺だけじゃないぞ?」
潰れた右目の死角からカメリアがトロールに迫る。それに気づいたトロールだったけど、もう遅い。
「はあ!」
気合一閃、カメリアの朱槍が振り下ろされたトロールの右腕に突き刺さる。それだけじゃ大したダメージにならないけど、カメリアには続きがある。
「鬼心尖牙!」
赤銅色に変化した穂先が、触れるものすべてを焼き切る。その結果、槍の穂先が突き刺していたトロールの右腕が斬り飛ばされた。
「ウオォォォオォォ!!!」
「ホクト、止めを!」
「おう!」
トロールの身体を駆け上がり、左胸……つまり心臓目掛けて銀の籠手を叩き込む。魔力の流れが、銀の籠手のお蔭でスムーズになったためか以前よりも浸透の威力が上がっている。
「これで、終わりだ!」
抉り込むように左胸に突き込んだ右拳、そこに流した魔力を一気に解放した。
「終わったのか?」
「ああ、これにてダンジョン踏破だ」
「「……」」
お互いの顔を見合わせる。カメリアの表情が、徐々に喜色満面に変わっていく。多分俺の表情も同じようなもんだろう。
「「やったーーー!!!」」
長かった、ウドベラに来て1か月くらい経ったか。人生初のダンジョン踏破、最初は独りでと思ってたけど今はカメリアと一緒で良かったと思える。こういう事は誰かと一緒に分かち合った方が絶対に楽しい。
「大変だったけど、何とかなるもんだな」
「ああ、3階層でカメリアに会わなければどうなってたか分かんないよ」
「それはアタイも同じだ、ホクトと出会えたから今ここにいる」
カメリアはこみ上げてくるものがあるのか、少し瞳が潤んでいる。俺が見ていることに気付いたのか、咄嗟に顔を隠してしまった。
「さ、さて。ダンジョンボスのドロップは何かな?」
急な話題転換だったけど、ここは意地悪せずに乗って上げよう。
「これは……腕輪か?」
「効果が解んないな、また爺さんに見てもらうか?」
「さすがにもうダメだろ。また金が貯まったら鑑定してもらうよ」
腕輪をカバンにしまう。これで、このダンジョンでやれることは全てやり尽した。
「……で、ダンジョンを踏破するとどうなるんだ?」
「……へ?」
「何か魔道具みたいので、一瞬で入り口まで戻れたりしないの?」
「そんなわけあるか、また入り口まで戻るんだよ」
「マジか!?」
こうして、俺とカメリアの初ダンジョン踏破は幕を閉じた。
名前:ホクト・ミシマ
性別:男
年齢:17
レベル:20↑
職業:拳闘士(Lv5)↑
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体力 :271 +12↑
精神力:170 +8↑
攻撃力:177(+10) +4↑
防御力:181(+6) +3↑
敏捷 :351(+3) +16↑
知能 :2
魔力 :141 +4↑
運 :42
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スキル:
ダーレン大陸共通言語(Lv3)
鷹の目(Lv9)、集中(Lv9)
気配感知(Lv2)、魔力制御(Lv4)
跳躍(Lv1)拳術(Lv1)NEW
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称号 :
初心者冒険者(体力に小補正)
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装備 :
銀の籠手(攻撃力+10)
ショートソード(攻撃力+5)
皮鎧(防御力+6)
グリーブ(敏捷+3)
名前:カメリア・フレイム
性別:女
年齢:23
レベル:25↑
職業:槍士(Lv6)
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体力 :346 +16↑
精神力:186(+15) +6↑
攻撃力:306(+30) +8↑
防御力:218(+11) +12↑
敏捷 :118(+3) +2↑
知能 :8
魔力 :88
運 :25
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スキル:
槍術(Lv8)、剛力(Lv5)↑
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称号 :
中級冒険者(体力に中補正)
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装備 :
鬼神の朱槍(攻撃力+30、精神力+15)
手甲(防御力+8)
皮の胸当て(防御力+3)
グリーブ(敏捷+3)
これにて4章は終了となります。
今章は色々な事に挑戦した結果、上手く纏まり切らずに話数がどんどん増えてしまいました。
しかもエピローグがエピローグになっていないという……。
これからも精進していきますので、引き続きよろしくお願いします。




