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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
4章 ダンジョンを踏破しよう
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18話 犯人はこの中(ギルド)にいる

3階層でセミの魔物を倒した俺たちは、ダンジョンの入り口まで戻ってきた。


「ふぁ~、やっと外の空気が吸えたな。あんなのに出会わなければ、もっと早く帰ってこれたってのに……」


「そう言うなよ、結果的には俺たちのプラスになるぞ。()()は」


無事外に出れたことで浮かれる俺たちに、入り口を守っていた門番が声をかけてきた。


「おいおい、大丈夫なのか?ボロボロじゃないか」


「ああ、お久しぶりです。俺たちは大丈夫ですよ」


「しばらく見ないと思ってたら、ずっと中にいたのか?」


「はい、安全マージンを取りつつ潜ってたので問題ありません」


満面の笑みでそう言う俺の全身を見ながら、呆れた顔で言い返してくる門番。


「いや、全然安全じゃないだろ。お前、防具も付けないで……しかも身体のあちこちもボロボロじゃないか」


まあ、そう言うよね。今の俺の格好は、セミの魔物にやられて皮鎧も付けてない、皮の籠手も壊れて付けてないで、ただの町人と同じだ。しかも、服も所々破れていてみすぼらしさもアップ。


「3階層までは普通の冒険者の格好をしてたんですよ。ただ、3階層で変な奴に会っちゃったんでこんな格好になっちゃいましたけど……」


「3階層?おい、お前が会った奴ってどんなやつだった?」


「セミの幼虫みたいな魔物でした。俺もこのダンジョンに結構潜りましたけど、初めて出会った魔物です」


俺の説明に険しい表情になる門番。それも当然だろう、巷で噂になっている殺された冒険者が死んでいたのがダンジョンの3階層だ。しかも、その一番の容疑者が……


「お前、確かカメリアだったな。お前も見たのか、そのセミの幼虫の魔物を」


「見たぜ、アタイもホクトと一緒に戦ったんだから当然だろ」


「うぅむ……。しかし、お前たちの証言だけでは決定的な証拠にはならないだろう。なにしろ、一番疑われているのがカメリア、お前なのだから」


その言葉にカメリアが一気に激昂しそうになったけど、俺が手を掴んで止めた。気持ちは分かるけど、門番の言っていることは正しい。いくら俺たちが見た、戦ったと言っても所詮は苦し紛れの言い訳にしか取られないだろう……普通であれば。


「大丈夫ですよ、3階層にはまだそいつの死骸がありますから」


「……は?」


「そのセミの魔物って不思議なんですよ、殺したのに消えないんですよ。だから、今ならまだ3階層に転がってるはずです」


「そ、そんな馬鹿な話があるか!?ダンジョンで死んだ魔物は、全てダンジョンに吸収されるんだぞ?」


「知ってます、だから不思議と言ったじゃないですか。とにかく、見に行ってもらえますか?俺たちだって、口で説明しただけで疑いが晴れるなんて思っていません。だから倒した後に疲れた状態でも、ここまで急いで戻ってきたんです」


「うっ、わかった。ちょっと待ってろ」


そう言って門番は仲間が待機している小屋に入っていった。そうして、しばらくしたら複数人の武装した人たちがダンジョンに入っていく。


「事情は聴いた。君たちには申し訳ないが、しばらくあそこで待っていてくれないかね?私の部下が3階層へ確認に行っている」


「どうする?」


「……アタイは別に構わないぞ」


カメリアに聞いてから門番の人に向き直る。


「わかりました、よろしくお願いします」


「うむ、では付いて来てくれ」


そう言って俺たちを先導してくれる門番の偉い人。多分、普段俺たちが会っている門番たちの上司?じゃないかな。なんか、偉そうだし。


「これでカメリアにかかってる疑いが晴れますか?」


「……私も軽率なことは言えないが、少なくとも捜査が進展することは間違いないだろう」


それを聞いて、少しだけホッとした。これだけで全てが解決するとは思えないけど、少なくともカメリアだけが疑われている今の状況よりは良くなると思おう。


そうして俺たちは、ダンジョンに入った門番たちがセミの死骸を持って戻ってくるまで小屋の中で休むことにした。





明けて翌日、俺とカメリアはギルマスに呼び出されてギルドマスターの部屋にいた。セミの死骸は、すでにギルドに運び込まれて検証が行われている。


「何にしてもご苦労じゃったな。まさか、お主たちが襲われるとは……」


「結構ヒヤヒヤでしたよ。あのセミ、動きが速過ぎて捕まえるのが難しかったです」


「ふむ、それなのにどうやって倒したのじゃ?」


「カメリアが抑えつけて、胴体にブスッと。それこそ、標本のように」


ギルマスの部屋に飾られた虫の標本集のよなものを見ながら、俺はギルマスに戦闘のあらましを説明した。


「標本?……ほっほっほ、なるほどなるほど。それは実に面白い」


「全然面白くねえよ、アタイたちは少し間違えれば死んでたんだぞ!」


「すまんな、確かにお主の言う通りじゃ。面白いと言ったことは訂正しよう」


「……ケッ!」


相変わらず臆面も無く謝る人だな。カメリアも直接謝られると、ああして照れちゃうから、あまりしないでほしいんだけど。


「とにかくじゃ。今セミを調べておるから、その結果次第でカメリアの疑いが晴れることになるじゃろう」


そう言いながら、ギルマスの爺さんは疑いが晴れることを微塵も疑っていないようだ。


「随分はっきり言いますね、まだカメリアの可能性は無くなっていないんじゃないですか?」


「おいホクト、お前はどっちの味方なんだよ!」


「ああ、悪いカメリア。俺が言いたいのは、今のギルマスの発言はすでに何かを掴んでいるような言い方だったから、気になったんだよ」


「ホントか?」


ジ~ッと俺の事を睨み付けてくるカメリアを、宥めながらギルマスの方を見る。その表情は俺程度の若輩では読み取ることができなかった。


「ほっほっほ、ワシも何もしていなかった訳ではないからな」


意味深なことを言う爺さんだ。そうして、しばらく爺さんと他愛ない話をしながら待っていると、部屋のドアがノックされた。


「ギルドマスター、失礼します」


入ってきたのは、やけに高圧的だったギルドの職員だ。こいつって結構厳しくギルマスに言われてたよね、なんで今更出てくるんだ?


「なんじゃ、お主の事は呼んでおらんぞ?それに、お主には自宅謹慎を言い渡しておいたはずじゃが?」


ギルマスの表情も厳しいものになる。それに、やっぱり謹慎させられていたのか。俺からすると、大した罰には感じないけどな。


「いやいや、やっとザズ殺しの犯人が見つかったと聞いてね。どうやら、私の直感が当たっていたようですね」


「……なんのことじゃ?」


「いやだな、隠さなくても知ってますよ。このカメリア・フレイムが犯人だとわかる決定的な証拠が見つかったのでしょう?」


何言ってんだ、コイツ。俺たちはセミの魔物に襲われて、それを倒して捕獲しただけだぞ?なのに、なにをどうすればカメリアが犯人である証拠なんて話になるんだ?


「どういうことじゃ?ワシにもわかるように説明してもらえるか?」


「ええ、喜んで」


本当に嬉しそうな顔をして俺たち、特にカメリアの方を見る。こいつ殴りたい。


「ダンジョンは、言わば冒険者たちの領域(テリトリー)。そんなところで本来居ないはずの新種の魔物が見つかった。これは、どう見ても冒険者たちがダンジョンで何かを行っていたという隠しようのない事実。そしてそれは、ソロで活動している者ほど見つかり難いと言う事です……そこのカメリア・フレイムのようなね」


「……それが何だと言うんじゃ?」


「お解りになりませんか?このカメリア・フレイムが、セミの魔物を3階層で飼っていて……それが今回冒険者を殺したことで、証拠隠滅のために討伐したのです」


ムフゥ~っと鼻息荒く、そんなトンでも理論を展開する職員。


「それはちと無理があるのう。そもそも今回セミの魔物を討伐したのはカメリアだけではない、ここにいるホクトも一緒に居ったのじゃぞ?そこはどう説明するつもりじゃ?」


「それは簡単な事です、このホクトもカメリアと共犯だと言う事です」


な、なんだって~~~ΩΩΩ!


「って、そんな訳あるかい!」


「どうしたホクト!?」


「いや、余りの事にツッコんでしまった」


「お前さんの言い分は分かった。しかし、どれもこれも推論の域を出ないの」


「今はまだ……ね。それも、もう間もなく解る事です」


なんだ?こいつの言い方が気になる。なんで、こうも自信たっぷりにそんな事が言えるんだ?謹慎していたこいつが、なんで俺たちがここにいることを知っている……誰かギルドの人間から聞いたのか?


「なあ、なんであんたは俺たちがここにいることを知ってるんだ?あんた、確か自宅謹慎してたんだよな?」


「そ、それは……善良な市民たちが噂していたのだ。セミの魔物がダンジョンから運び込まれたとな。そこで私は閃いた、これは真犯人による証拠隠滅に違いないと!確かに私は謹慎中の身ではあったが、正義の使命に動かされて厳罰覚悟でここまで来たのです!」


こいつの言ってることはおかしい、絶対何かを隠している。そもそも、なんでこいつはギルマスの部屋に乗り込んできたんだ?何かを訴えに?……それとも、ギルマスにこの部屋から動いてほしくな……ハッ、時間稼ぎか。


「ギルマス、急いでセミの魔物の所に!こいつの仲間が証拠を消すかもしれない!」


「なっ!?」


「どういうことじゃ?」


「説明している暇はない、とりあえずセミの所に急ごう!」


「おい、待ちたまえ!まだ私の話しは終わってないぞ」


職員の事を無視して、俺たちはセミの魔物が運び込まれた部屋に急いだ。





「これは……いったい、どういう事じゃ?」


部屋の中に入ると、デカいセミの魔物と数人のギルド職員たちがいた。


「こ、これはギルドマスター。なにか御用でしょうか?」


「どういう事かと聞いておるんじゃ!ワシが任じた検証班の連中はどうした?」


「彼らには荷が重いと思い、我々が代わったのですよ」


激おこなギルマスに怯むことなく説明する職員たち。でもどうもギルマスが頼んだ連中とは違う奴らが、今この部屋の中にいるらしい。


「なあホクト、アタイ展開に全くついて行けてないんだけど……結局どういうことだ?」


「つまりな、俺たちに……というかカメリアに濡れ衣を着せようとしてたのは、ここにいるギルドの連中だったって訳だよ」


俺がカメリアに説明してやると、カメリアと話を聞いていたギルマスの顔が般若のように変貌した。


「……ほう、そういう事か」


「アタイに罪を擦り付けたのは、こいつらか」


「ま、待ってくださいギルマス。その男の言ってることは出鱈目です!私たちは正義の使命をもって、ここにいるのです」


こいつらと言い、さっきの職員と言い変な宗教でも流行ってんのか?言ってることがおかしいぞ。


「ホクトよ、なぜお主には解ったのじゃ?」


「解ったって言うか、さっきの職員の行動がギルマスをあの部屋から出したくないように感じたので。そうやって考えていくと、今この瞬間に証拠が消されるんじゃないかと……」


「なるほど……」


「はぁ~、ホクト頭いいな」


「フフフ、そうだろ。俺の灰色の脳細胞が活性化してるからな!」


もっと褒めていいのよ?俺が鼻高々になっていると、職員の1人がセミに近づこうとしていた。


「おい、お前!動くなよ?今動くと怪我だけじゃ済まないぞ」


「ヒッ!?」


咄嗟に近づいて、職員の腕を捕まえる。捻じり上げるように腕を掴むと、手から何かが零れ落ちた。


「あん?……なんだ、それ」


カメリアが近づいてきて、落ちた何かを拾い上げた。


「ホクト、これなんだかわかるか?」


「解んない。ギルマス、これが何か解りますか?」


捕まえていた職員をカメリアに任せて、俺は落としたものをギルマスに持っていった。


「……こ、これは。お主たち、いったい何をする気だったんじゃ!」


いきなりギルマスがキレた。なにか余程のモノを持っていたらしい。


「それ、なんですか?」


「これは……強力な酸じゃ。こいつで溶かせないのはドラゴンの鱗くらいってほど、何もかもを溶かしてしまうな」


「うげっ」


「こんなものをセミの死骸にかければ、何もかもが溶けてしまうわい」


予想以上にトンでも無いものだった。しかし、あるんだな。こっちの世界にも強酸とか科学的な物が。


「凄いですね、それって簡単に手に入る物なんですか?」


「そんな訳なかろう。これは、特殊な魔物から取れる体液でな。強固な鱗や皮で覆われた素材を剥ぐときに使うのが一般的じゃ。それをまさか証拠品に使おうなどど……貴様たちはいったい何を考えておるんじゃ!」


「ヒィ!?」


「そのものズバリでしょうね。多分、こいつらがセミの飼い主なんですよ。それで捕まってしまった証拠を隠滅しようと……」


「うむむ……まさかギルドの職員がそのような悪事に手を染めていたなんて」


よろけてテーブルにしがみ付くギルマス。今の姿は、威厳のあるウドベラ冒険者ギルドのギルドマスターではなく、その辺にいる老人のように頼りない。よっぽどショックだったんだろうな。


「おい、今だ!」


そんな哀愁を感じるギルマスの姿に、チャンスだと思ったのか職員たちが一斉に逃げ出そうとした。


「させるか!お前らに頭に来てんのは、アタイも一緒だからな!」


蜘蛛の子を散らすように逃げ出した職員だったけど、カメリアがあっという間に取り押さえてしまった。俺にも出番を分けてほしかった。


「ギルマス、大丈夫ですか?」


「……う、うむ。世話をかけるのぅ」


これはボケるかもしれんね。哀愁のせいで背中が煤けて見えるギルマスに同情しつつも、今回の下手人である職員たちをどうしようかと考えていると


「だ、誰かいるんですかぁ?」


なんとも、この場には似つかわしくない間延びした声が聞こえてきた。この声の主には心当たりがある。


「アーネちゃんか?」


「その声は、ホクトさんですか?」


「悪いけど、ちょっと入ってきてくれないかな?」


俺の声だとわかった安心したのか、アーネちゃんが扉から入ってきた。


「緊張しました。普段使われていない部屋から声がしたので、ドロボウさんかとおもい……ヒィ!?な、何なんですかこれは」


安心したのも束の間、部屋の中の惨状を見て混乱したアーネちゃん。ちょっぴり涙目だ。


「ごめんなアーネちゃん。でも君しか頼れないんだよ」


年上のお姉さんとは思えない混乱っぷりのアーネちゃん、俺は落ち着かせるように言葉を続ける。


「ギルマスが心労で倒れそうでね、悪いんだけど代わりに町の警備兵を呼んできてくれないかな?」


「ふぇ、ぎるます?……ってギルドマスター!?どうしたんですか!」


驚くアーネちゃんに、根気よく今の状況を伝える。同じことを何回も繰り返し繰り返し伝えると、やっとアーネちゃんも落ち着いたのか警備兵を呼びに行ってくれた。


「なんか大変なことになったな、俺もすっげぇ疲れた……」


「なあホクト」


疲れて椅子に腰かけると、カメリアが俺に近づいてきた。


「カメリアも自分の事だし、疲れたろ?何にしても、これでカメリアの疑いも晴れそうで良かったな」


「それは嬉しいんだけどな。アタイ、ちょっと気になることがあるんだ」


「どうした?」


「ギルドマスターの部屋にいたアイツ。あいつも捕まえとかないと逃げるんじゃないか?」


…………あっ


「しまった~~~!!!」


慌ててギルマスの部屋に行ったけど、職員の姿は影も形も無かった。

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