表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
4章 ダンジョンを踏破しよう
72/240

17話 セミ(後編)

「そう言えばカメリア、さっきのスキルは何なんだ?俺、初めて見たぞ」


「ああ、『鬼心尖牙』か。あれは槍術で覚えるスキルだ」


「へぇ、そういうスキルもあるのか。だったら、俺もいつか格闘術みたいなのを覚えたりするのかな?」


「覚えると思うぞ。ホクトはずっと素手で戦ってるんだから、そのうち嫌でも覚えるだろ」


早く覚えてみたい格闘術、それで色々なスキルが使えるようになれば今よりももっと強くなれるだろう。


「おっと、いつまでも話していられなそうだ。あいつがこっちを見てるぞ」


「激おこだな」


気に入ったんだ。まあ、使い方は間違ってないけど。


「俺があいつの注意を惹くから、カメリアはできるだけさっきのスキルでダメージを与えて行ってくれ」


「任せとけ!」


カメリアの声を聞きながら、俺はセミに突っ込む。さっきの鎌の攻撃は脅威だけど、あいつが自由に動き回るとカメリアには捉えることが難しい。俺があいつの注意を惹き付けてカメリアが死角から攻撃する。これが俺たちパーティの必勝パターンだ。


「あと何本か、足をもらうぞ!」


一気に加速してセミに詰め寄る。直線的に向かってくる俺に対して、セミは両手の鎌を振り回す。足を()がれたことで頭に血が上っているのか、さっきよりも鋭さの無い鎌の攻撃を俺は確実に回避していく。避けながら少しずつ距離を詰め、セミとの距離がどんどん無くなっていく。焦ったセミは更に無闇矢鱈に鎌を振り回す。そうして余裕をなくしていったセミを回り込むように、カメリアがセミの後ろに回る。


「おりゃぁ!」


セミの鎌を避け、一瞬の隙をついてブースト加速する。さっきは避けられたけど今度は当てる。右拳に魔力を流して、狙うは前脚。鎌の付け根目掛けて拳を繰り出す。


「ゲェギャギャ!?」


セミは咄嗟に横に飛んで回避しようとする。しかし、今回はそれを見越したカメリアが上空から襲い掛かる。


「『鬼心尖牙』!」


頭上に構えた朱槍を足元のセミ目掛けて突き出す。狙いは、残った後ろ脚。完全に作戦が決まったと思った瞬間、確かにセミの魔物が笑ったように見えた。


突き出されたカメリアの朱槍は、しかし対象を見失って地面を穿つ。


「なっ!?」


絶対に当たると思っていた攻撃を躱されて、驚愕の表情を浮かべるカメリア。俺にしても、最後の最後まで問題なく行っていた作戦は絶対成功すると思ってた。だけど結果は失敗……しかも


「くそ、どこにいった?」


周りを見渡してもセミの魔物がいない。上空に視線を向けても、あの巨体が隠れる場所は無い。いったいどこに行ったのか……。


「おいホクト、聞こえるか?」


「……えっ?」


カメリアに言われて耳に意識を集中する。すると、微かに音が聞こえる。それも一か所からじゃない、周りのいたるところから聞こえてくる。


「これって……」


「アタイたちには見えていないけど、セミ野郎が周りを跳ね回ってる音……だと思う」


「嘘だろ」


俺は今でも集中と鷹の目を使っている。なのに、周りを跳ね回っているセミの魔物が全く見えない。いったい、どれだけの速さで跳ね回っているのか。


しばらく聞こえてきた、セミの魔物が壁を蹴りつけるような音が次第に変化していく。


「ホクト、気付いたか?」


「ああ、跳ね回る範囲が小さくなってきているな」


最初の頃より、明らかに音と音の感覚が狭まってきている。まるで、周りに張られた結界がどんどん小さくなってるようだ。このままじゃ、見えない敵に嬲り殺しにされる。覚悟を決めて飛び込むしか方法は無い。


「カメリア、俺は右から行くからお前は左から攻撃してくれ。上手くすれば、どちらかは抜け出せるかもしれない」


「でも、下手したら一発で死ぬ可能性があるぞ?」


「そうかもしれない。でも、何もしなかったら2人とも死ぬ」


俺に言われてカメリアはしばらく黙り込む。意識はセミに向けられているから、隙は無いけど一応カメリアの方にも意識を向けておく。短い時間考え込んでいたカメリアが口を開く。


「わかった、合図は任せるぜ?」


「ああ、任せろ」


2人とも周りに集中する。いつ見えない攻撃に晒されるか分からない、極限状態がしばらく続いた。


「……今だ!」


俺の合図を契機に、カメリアと俺が同時に前方に攻撃を繰り出す。


ブウン!シュバッ!


「「……」」


お互い手には何も手応えを感じなかった。これは外したな……。無音の中先に気付いたのはカメリアだった。


「上だ!」


咄嗟に上空に目を向けると、両手の鎌をまるで天使の羽のように広げたセミが俺たち目掛けて落ちてきていた。


「ヤバッ!」


咄嗟に回避するけど、遅かった。回避したことで若干はダメージを減らせたけど、俺の背中には一条の切り傷が付けられた。


「がぁっ!?」


吹き飛ばされながら、カメリアの方を見る。あいつも俺と同じように鎌で斬りつけられていた。


「がっ!?」


左足の太ももをザックリと斬られたカメリアは、立ち上がったところで動けなくなった。


「だ、大丈夫か!?」


「ああ、何とかな……。ホクトは?」


「お前よりは、動けそうだ」


痩せ我慢に近いけど、間違いなくカメリアよりは軽傷だ。だけど、カメリアがあんな状態になってしまった以上、セミの相手は俺1人でやるしかない。


「カメリア、お前はしばらく休んでろ。あいつは、俺が何とかする!」


「バカ言うな!今まで2人で戦ってて、このザマだぞ?お前1人じゃ無理だ」


確かに、たった一撃くらっただけでパーティが半壊したんだ。そんな奴相手にどうしたら勝てるのか?無い頭を使って一生懸命考えてみる。


「しかし……クソッ!あいつ最初から、このタイミングを狙ってやがったな。まさか、セミのくせにアタイたちに頭脳戦で勝つなんて……」


カメリアが愚痴をこぼしている。確かに虫に頭脳戦で負けるって、霊長類としてどうなんだと思わないでもないけど……ん?虫?


頭の中で何かが閃いた。思い出される子供の頃の記憶。


「……いけるか?ダメだ、俺1人じゃ上手く行く気がしない」


しかし思いついた案は、今のダメージを受けた俺には成功するビジョンが見えなかった。でも、他に何かを思いつくことも無い。1人で浮き沈みの激しい行動を取っていると


「なあ、ホクト。何か思いついたのか?」


そんな俺に気付いたのか、カメリアが声をかけてくる。


「まあ、案……というか、思い付きはある」


「なら聞かせろよ」


「でも、今のお前の状態じゃ……」


「良いから聞かせろ、アタイたちパーティだろ?」


真剣な顔でカメリアが言ってくる。こんなに真面目な表情をしたカメリアは、初めて会った頃依頼じゃないだろうか。何かを覚悟したようなカメリアを見て、俺も覚悟を決めた。


「多分あいつを倒せる方法を思いついた。だけど、俺1人じゃ上手く行く気がしない。だからカメリア……俺に力を貸してくれ」


俺の顔を見たカメリアは、こっちに来いとばかりに右手を使って俺を招く。何かあるのかと思い、カメリアに近づくと……突然カメリアから頭突きをされた。


ゴキンッ!


「~~~~~~っ!!!?」


受けた衝撃に声も出ない。鬼族の頭蓋骨ってどうなってんだよ、明らかに頭同士がぶつかったとは思えないような音がしたぞ!?


「ホクト、当たり前のことをいちいち聞いてくるなよ。アタイがお前に力を貸すのは当たり前だろ!」


若干……いや、かなり怒った顔をしてカメリアが言ってくる。その怒り受けて、俺も考えが浅はかだったと気付いた。


「……悪かった、お前の気持ちを考えない言葉だった」


「フンッ!」


俺の言葉に、そっぽを向くカメリア。あれは、真正面から謝られて照れてる証拠だ。俺は、そんなカメリアの仕草に可笑しさを覚えて笑った。


「ははっ、確かに他人行儀過ぎたな」


「全くだ!」


「よしカメリア、力を貸せ。俺とお前であいつをぶっ倒すぞ!」


「おう、任せとけ!」


気風の良い返事を受けて、俺はカメリアに作戦の内容を伝える。これは、俺よりもカメリアに多くの負担がかかる作戦だ。だけどカメリアは二つ返事でOKする。


「任せな!」


そんなカメリアに笑いかけて、俺はセミの方に向き直る。すでに1人の行動を無にできたことで余裕を見せるセミの魔物。虫とは思えない、その仕草にテンションを上げていく。


「虫野郎、絶対お前は俺たちが倒す!」


俺も覚悟を決めて、セミの魔物に突っ込む。今までと違って、多少のダメージは覚悟の上で真っ向から殴り合うつもりだ。


セミの方でも、そんな俺の気配に気づいたのか両手の鎌を振り上げていく。


「無理するなよホクト!」


「大丈夫だ!」


俺が気を張れるのは、今この時だけだ。作戦の大部分をカメリア任せになってしまうため、せめてここだけは意地でも死守する。


「カメリアには絶対に攻撃を届かせない」


上下左右から繰り出される鎌の猛攻を、最小限の動きで躱していく。俺の役目は、動けないカメリアをセミの攻撃に晒させないこと。いつもと違って、近づくことも離れることも許されない。ハッキリ言って攻撃を捨てて避けに徹する事だ。


左から薙ぎ払うような鎌の攻撃をしゃがんで躱し、袈裟斬りのような右の鎌を右手でいなす。そうして、その場を大きく離れることなく左右の鎌に対処していくと、セミの方もストレスが溜まってきたのか大振りが増えてきた。だけど、さっきもこれが罠だったわけだから、気は抜けない。


「クッ、ハッ……うぉ!」


一時も休まることなく続く攻撃。俺も必要最低限の動作で避けて入るけど、人間ってそういつまでも動き続けられる訳じゃない。次第に被弾箇所が増えてきた。


「チッ……ウクッ、がぁ!?」


厄介なのは鎌のような両手に意識を集中していると、突然襲い掛かってくる中足の攻撃。この中足の先っぽは、キリのように尖っていて何度か突き刺されることになった。


「ホクト!」


「だ、大丈夫……だから。もうちょっと待ってろ」


すでに痩せ我慢もできないくらいのダメージを受けている。このままだと、予想以上に早く動けなくなりそうだ。


「もういいから、後はアタイが……」


「クッ……うがぁ!……カメリア、そこを動くな。絶対何とかするから」


皮の籠手が、皮鎧が弾け飛ぶ。すでに身を守る防具が無くなっても、いつか来る瞬間を待って避け続ける。突いても斬っても倒れない、動かない俺に業を煮やしたセミの魔物は遂に動き出す。


「ギィイィィイィィィ~~~!!!」


一気に勝負を決めるつもりなのか、また見えない速度で飛び回り始めた。


「「来た」」


お互い顔を合わせなくても分かる、この瞬間を2人とも待ってたんだ。俺は更に集中して、セミの攻撃に備える。カメリアからも気迫が伝わってくる。


立体的に跳ね回るセミが、頭上からカメリアに向かって飛びかかる。


「アタイかよ!?」


多少は避けることができる俺よりも、確実に動けないカメリアに止めをさすべくセミはカメリアの頭上から襲い掛かった。


「舐めるなよ、この虫野郎!」


カメリアは持っていた朱槍を、頭上に向かって思いっきり投擲する。直線的に跳ね回るセミが、空中にいる以上は避ける事の出来ない必殺の一撃。そうなるはずだった……


「なっ!?」


しかしセミの魔物は、口吻(こうふん)を壁に突き刺し自身の身体を引き寄せる。虫とはいえ、どんな口してんだよ!


壁を蹴って軌道を変え、再度カメリアの頭上に戻ってくる。完全に失敗だ、俺たちはカメリアを固定砲台にすることで空中にいるセミの魔物を磔にしようと思っていたんだ。昆虫の標本を思い出した俺が考えた作戦だったけど、まさか空中で軌道を変えるなんて考えてもいなかった。


愕然と項垂れる俺だったけど、カメリアは諦めていなかった。


「ホクト!こいつはアタイに任せろ、お前は槍を!」


頭上を指さすカメリア、その先には天井に当たる朱槍が。カメリアの意図を理解した俺は、壁に向かって走り出す。


「死ぬなよ、カメリア!」


「当たり前だ!」


カメリアに向かって襲い掛かるセミの魔物、両手の鎌を振り上げて切り刻むつもりなんだろう。


「うおぉぉぉぉ~~~!!!」



咆哮して前方に駆け出すカメリア。落下地点はズレた事で、鎌の直撃は避けることができたけど、セミの魔物は構わず鎌を振り下ろす。


ズシン!


セミの魔物の全体重を、頭上に伸ばした両腕でしっかりと掴んだカメリア。セミの方も下半身を地面に付けて、強引に力でカメリアをねじ伏せようとする。力と力がぶつかり合って拮抗する。


それを俺は壁を駆け上がりながら目撃した。カメリアは約束を果たした、死なずにセミの魔物の身動きを封じたんだ。なら、次は俺の番だ。


壁を走って天井近くまで行き、天井に向かって思いっきりジャンプする。


「『跳躍』!」


天井に足を付けて足裏に魔力を流し、落下する朱槍に向けて一気にブースト加速。普段であれば持つこともできない朱槍だけど、空中にあれば誘導することは難しくない。朱槍の落下先をセミの身体のど真ん中に調整してやる。


「いっけえぇぇ~~!!!」


「ギィッ!?」


複眼で見えたのだろう、セミの魔物が落下してくる朱槍を見て焦りだす。でも残念、動こうにもカメリアにガッチリと掴まれ、身動きが取れないでいた。


「つれないな、もう少しこのままでいようぜ」


当然朱槍はカメリアにも見えているだろう。俺の考えを分かってくれたのか、カメリアは意地でもセミを離すまいと更に力を入れる。鬼族のフルパワーには、さすがのセミの魔物も太刀打ちできないのか、逃げ出すことができない。


「死ねぇぇぇ!」


ズンッ!


背中の甲殻を突き破って、朱槍が地面にセミの魔物を縫いとめる。


「ギィイィィギャァァァ!!!」


セミの断末魔の咆哮。だけど、これだけじゃ終わらせない。


「お前には散々甚振られたんだ、これはそのお礼だ!」


セミの頭目がけて落下する。


「浸透!」


落下速度をのせた肘が、セミの頭を直撃する。確かな衝撃を感じた瞬間に魔力を解放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ