12話 9階層の洗礼
「ホクト、食事ができたぞ」
「ああ、今行く」
俺とカメリアは9階層にある袋小路にある、小さな広場に野営していた。9階層に辿り着いて3日、残りの食料を考えると明後日には帰り始めないと飢えることになる。
「もう干し肉以外は無くなってしまったな、あと1日とは言え温かい食事が恋しいな」
「そう言うなよ、あるだけましなんだから……」
俺たちの周りの空気は重い。それもこれも、9階層の攻略が上手く行っていないからだ。8階層をなんとか攻略して、意気揚々と9階層に辿り着いたものの、そこに待っていたのは理不尽なまでの物量攻勢だった。
「まさか、ここまでの数がいるとは思わなかった。1体1体は大したことなくても、あれだけの数に纏わりつかれたら、体力なんてあっという間に無くなるな」
「なんだ、ホクト。あいつらの事を思い出してるのか?食事の時くらい忘れようぜ」
「それは……まあ、そうだよな」
俺たちが苦戦している相手、それはこの世の者たちじゃない。朽ちて尚、彷徨い歩く亡霊たちの群れ。ここ9階層の魔物はスケルトンやゾンビ、グールと言った生ける屍たちだった。
「あのゾンビたちの臭いったらない、そんなものを思い出して食事なんてしたって美味しい訳ないぞ?」
「ごもっとも。せっかくだし、美味しくいただこう」
お互いに笑い合いながら干し肉を齧る。横を見るとポロンが寝ていた、このフロアに来て臭いのせいでポロンの元気が無い。
「ポロン、大丈夫か?」
「……クゥ~ン」
顔を撫でてやると、手に顔を擦り付けてくる。ここはまだ良いけど、日中にフィールドを歩いているとポロンにとっては苦痛と言えるほどの臭いに襲われるらしい。
「なあ、ホクト。ポロンもそんなだし、1日早く切り上げるか?」
「……それもありかもな」
これが順調に攻略が進んでいるなら、迷うことなく前進を選ぶけど。残念ながら攻略が順調に進んでいるとはお世辞にも言えない。なら、早く切り上げるのも良いかもしれない。
「元気のないポロンは見ていて辛い、アタイは構わないから戻ろう」
カメリアも随分ポロンを可愛がっているから、元気のないポロンは見ていられないのだろう。
「……ワン、ワンワン!」
俺たちが戻る相談をしていると、ポロンが突然立ち上がって駆け出した。
「お、おいポロン!無理しないで休め」
「ワンワン!……ワンワン!」
一生懸命自分は元気だとアピールする、賢い賢いとは思ってたけど……まさか、俺たちがポロンに気を遣って繰り上げて帰ろうとしていることに気付いているのか?
「わかった!あと1日頑張るから、無理しないでくれ」
慌ててポロンを追いかけて抱き上げる。そのちょっとの事で、ポロンは息が上がりダルそうにしている。こいつも一生懸命攻略しようとしているんだ、俺たちが逃げ出すわけにはいかないな。
「ふふ、ポロンに怒られたな」
「……ああ」
全身を優しく撫でながら、俺は明日の攻略は全力で前に進むことを決意した。
明けて翌日、俺とカメリアは10階層への階段を探して探索を続けていた。既に動くのも億劫になっているポロンは、カメリアが背負っているカバンに顔だけ出した状態で入っている。
「気配感知に引っかかった、道の先から来るぞ」
「あいよ」
ポロンの入ったカバンを地面に置き、カメリアが戦闘準備をする。そこで待ち受けて戦闘に入ろうとしたとき、俺は別の気配を感じた。
「チッ、カメリア!後ろからも何か来る。多分敵の増援だ」
「挟み撃ちか!?ホクト、アタイはゾンビがいる方を受け持つぞ」
「頼む!」
ゾンビは俺の浸透が効き難い。内部を攻撃しようとしても、そもそも腐敗していて魔力が上手く流れないのだ。9階層での俺の立ち回りは、スケルトンとグールを主に受け持っている。これも数日9階層を歩き回って得られた経験だ。
「来た、前方!スケルトンの群れ」
「後方も見えた、ラッキーだカメリア!こっちもスケルトンだけだ」
挟み撃ちで複合した魔物たちと戦うのは、軽く絶望できる。未だになったことは無いけど、想像だけでも生き残れる気がしない。今回はスケルトンだけ、なら勝機は十分にある。
「カメリア、お前は前を頼む!」
「わかった!無理するなよ、ホクト」
「それはお互いさまだ!」
カメリアと軽く声を掛け合い、別々の方へ動き出す。俺の相手は後ろから来たスケルトンの群れ、およそ30体。数の上では1対30だけど、こいつら程度ならなんとかなるだろう。スケルトンには浸透も効く、足ではまだ打てないけど両手両肘を駆使すれば問題ない。
「行くぞ、おらぁ!」
前方で槍を持ったスケルトンに近づき、攻撃される前に背骨を叩き折る。でも、こいつらはこれくらいじゃ死なない。地面に落ちた上半身に向かって右足を振り下ろす。胸、人間でいうと心臓の位置に黒い石炭のようなものがある。これが、スケルトンを動かす動力のようで、ここを破壊されるとスケルトンは動かなくなる。
「おら、おら、どうりゃぁ!」
左にいる奴の頭蓋骨に浸透を叩き込み、右にいる奴の尾てい骨を蹴りで叩き割る。前から剣を振り下ろしてきた奴には剣を躱しつつ頭突き。
「い、痛くない!」
当然だけど痛い、いや痛くない!我慢して次の相手に攻撃する。スケルトンたちの攻撃も多彩だ、剣、槍、斧、様々な武器を持って襲い掛かってくる。中には初めてまみえる武器もあって、どう相対したらいいのか分からないものまで。
「分銅、鎖鎌って宍戸梅軒かよ!?」
この世界の人には通じないツッコミを入れながら、分銅を避ける。俺の後ろにいたスケルトンが頭蓋骨を分銅で割られて首なし……いや、この場合頭無しになっている。分銅を引き戻すよりも早く近づき攻撃態勢に入る。その俺目がけて鎖鎌が下から襲い掛かる。
「お前、ちょっとは周りに気を遣えよ!そんなんじゃ死んでからもボッチになるぞ!」
アドバイスを送りつつ、半身になって鎖鎌を躱す。遠心力でより早くなった鎌の部分に注意を払いつつ一歩前へ。足元に魔力を流してブースト加速。鎌が俺に辿り着く前に胸元の石炭のようなものに浸透を叩き込む。
「よし……うわっ!」
しかし急加速したことでバランスを崩して転んでしまった。
「や、やばい!」
頭上から次々に刃物が襲い掛かる中、俺はスケルトンたちの足を片っ端から蹴っていく。脛を砕かれ倒れるもの、爪先に攻撃を受けてつんのめるもの様々。俺はしばらく立ち上がれずスケルトンの足元を転げ回った。
どれくらいそうしていたか、30秒?1分?10分ってことは無いと思う。荒れる息を整えようと周りを見たとき、俺の近くにはスケルトンがいなくなっていた。
「あれ、いつの間に……」
ゆっくり立ち上がる。見ると蹲って起き上がろうとしている奴らが数体いるけど、そいつら以外は動かないようだ。モソモソしているスケルトンたちを踏みつぶしながら、後方から来ていた群れは粗方片付けた。
「さて、カメリアは?」
人心地ついてカメリアの方に目をやると、カメリアの方はまだ戦闘を続けていた。どうやら、こっちよりもカメリアが戦っている群れの方が数が多いようだ。
「下手に手助けに入っても槍を振るう邪魔になりそうだな。あの群れの向う側に回り込んで挟撃したいな」
周りを見回す。スケルトンの群れが津波のように波打って見える。これはカメリア1人じゃ抑えきれないだろう。道幅は槍を振るうには十分な幅があるけど、そこにはすでにスケルトンたちの壁ができている。脇をすり抜けて、と言う訳にはいかなそうだ。
「なら……上か?」
俺は跳躍スキルを持っている、これなら向う側にいけないだろうか?
「無理だな、向うが見えない。跳躍スキルじゃ距離が足りないだろう」
どうしよう、このままカメリアと横並びでひたすらスケルトンを狩るか……いや、やっぱり槍の間合いギリギリの道幅を考えると厳しい。
「……となると」
壁を見る。この工夫達の洞窟の壁は、場所によって打ち付けられていたり、剥き出しだったりと様々だ。この9階層の壁は剥き出し、下の方は傾斜があるけど俺の腰辺りだとほぼ垂直に近くなっている。
「……行けないかな?」
俺の脳裏には、とある忍者が思い浮かぶ。
「このまま、ここにいても埒があかない。ここは覚悟を決めよう」
地面に手を付き尻を突き出す、所謂クラウチングスタートの格好。心の中でカウントダウンをしていく。
「……3、2、1……GO!」
足に魔力を流し、圧倒的な力で身体を前に弾き飛ばす。壁に向かってブースト加速をしながら距離を測る。
「あと、10m……7……5……3、2、1。今だ!」
壁に向かってジャンプ。壁とできるだけ平行になるように飛んで、足を壁にかける。後は一所懸命足を動かして壁を地面の如く踏みしめていく。
「秘儀、壁走り!」
槍を振り回しているカメリアを横目に壁を走る、重力に引かれ落ちないように兎に角足を前へ前へと出していく。
「え、おい!?どこ走ってんだホクト!?」
戦いながらも俺が見えたのだろう、カメリアが素っ頓狂な声をあげる。
「ちょっと挟み撃ちにしてくる!」
スケルトンの群れを半分くらいは超えたろうか、奥の方にやっと切れ目が見えてきた。でも、こっちも厳しい。すでに最初の勢いは無く、もういつ落ちてもおかしくない。
「まだまだ……」
できれば、後10mは進みたい。足の筋が切れそうになるのを堪えながら壁を走る。壁を走る俺の横を、虚ろな眼窩を晒したスケルトンたちが通り過ぎていく。
「……もう、無理!」
そろそろ本当に限界だ、壁を走ることができるのはここまでだろう。今落ちたら、スケルトンの真っ只中に落ちて飲み込まれる。でも俺には奥の手がある。
「頼むぞ、跳躍スキル!」
最後の力を振り絞って跳躍スキルを発動する。真上にではなく、斜め上方向に。
「おらぁ!」
走り幅跳びの選手も真っ青の、空中散歩をして着地。足裏が地面を踏みしめ、勢いを殺すため前方に飛んで回転。
「……はぁ、はぁ。や、やったぜ……」
ギリギリ、本当にギリギリでスケルトンの津波を超えた。最後方のスケルトンが背中をチョリッてた。
「さて、休んでる暇はない。このままカメリアと挟み撃ちだ!」
俺の方を見ていないスケルトンの群れに、俺は再び突入した。
「今までもホクトの行動は大概だなって思ってたけど、今日のは輪をかけて意味が分からないぞ?」
「いやぁ、走れるかと思って……」
頭を掻いて誤魔化してみる。あんな発想は日本人しか出てこないかも……いや、最近でもNINJAブームは去ってないみたいだから、海外の奴らも思いつくかもない。とにかく地球人的には壁を走るのは常識です!
「それよりも、カメリアは怪我は無いのか?」
「アタイは大丈夫だよ、ちょっと疲れて動くのが億劫なだけだ」
「それは、俺もそうだ」
あれだけの大群を2人で倒しきった俺たちは、朝立った場所まで戻ってきていた。何故かここには魔物が来ない、一種の安全地帯みたいだ。スケルトンの群れを倒して1時間ほど歩いたか、疲れはピークに近い。
「とりあえず、ステータスを確認してから軽く仮眠を取ろう。飯は起きてからでいいや」
「それにはアタイも賛成だ」
「これで今回の探索は終了だな、後は戻るだけだ」
「そうだな。今回の遠征で結構数値も上がってるし、次こそは9階層を超えて見せるぜ」
明日の朝には9階層を上へあがり始めないと餓死しそうだ。それでも、ここまで来れたこと、そしてレベルが上がったことは素直に嬉しかった。
「でも、帰ったらカメリアの無実の証拠探ししないとダメだろうな」
「ええ、面倒くさい……」
「お前の為だろうが」
「なんか、外に出たら何もかも終わっててくれないかな?」
「無理だろ。でも、3階でちょっと調べてみるのも良いかもしれないな」
「そんな余裕あるのか?」
どうだろ、3階くらいなら町に戻るまでにそんなに時間はかからない。まさか、今回も外で待ってるって事は無いと思うけど、できるだけ情報はほしい。
「3階に上がって、余裕があったら調べてみよう。ポロンの事もあるし、俺たちも疲れが溜まってるから、無理そうならそのまま直帰で」
「分かった」
こうして方針も決まり、お互いのステータスを見せ合ってから眠りについた。結局疲れが酷すぎて仮眠では済まなくて朝まで寝てしまったのは内緒だ。
名前:ホクト・ミシマ
性別:男
年齢:17
レベル:20↑
職業:拳闘士(Lv4)
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体力 :271 +12↑
精神力:170 +8↑
攻撃力:181(+5) +8↑
防御力:182(+6) +4↑
敏捷 :357(+3) +22↑
知能 :2
魔力 :147 +10↑
運 :42
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スキル:
ダーレン大陸共通言語(Lv3)
鷹の目(Lv9)、集中(Lv9)
気配感知(Lv3)↑、魔力制御(Lv4)
跳躍(Lv1)
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称号 :
初心者冒険者(体力に小補正)
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装備 :
皮の籠手(攻撃力+5)
ショートソード(攻撃力+5)
皮鎧(防御力+6)
グリーブ(敏捷+3)
名前:カメリア・フレイム
性別:女
年齢:23
レベル:24↑
職業:槍士(Lv6)
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体力 :353 +23↑
精神力:188(+15) +8↑
攻撃力:310(+30) +12↑
防御力:211(+11) +5↑
敏捷 :118(+3) +2↑
知能 :8
魔力 :88
運 :26 +1↑
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スキル:
槍術(Lv8)、剛力(Lv5)↑
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称号 :
中級冒険者(体力に中補正)
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装備 :
鬼神の朱槍(攻撃力+30、精神力+15)
手甲(防御力+8)
皮の胸当て(防御力+3)
グリーブ(敏捷+3)
途中に出てきた忍者、皆さんはどの忍者を思い出しましたか?




