11話 8階層攻略
ギルマスの爺さんへと情報共有を行ってから2日後、俺とカメリアは再び8階層に来ていた。カメリアの無実を証明する証拠を探す必要があるのだが、それとは別に俺たちには目的がある。それは工夫達の洞窟の踏破、今のままだといつ何時ギルドに拘束されるか分からない。それならば、とっとと10階層を攻略してからゆっくり証拠探しをしようと言う事になった。
「とはいえ、1日2日でクリアできるものでもない」
「それはそうだ、だからこんな荷物を持ってダンジョンに来てるんだし」
カメリアの背中には、今まで持ったことも無いほどの大きな荷物が括りつけられている。これは数日分の食料とテントだ。そう、俺たちが出した答えは、町に戻らずにダンジョンに潜り続けて、攻略速度を上げるという方法だった。脳筋上等、難しく考えずに一番簡単な方法で最速を目指す。
「しかし、大丈夫か?正直女性にだけ荷物を持たせるのは気が引けると言うか、心苦しいというか……」
「気にするな、これも最初に話して決めたことだろ?」
「それはそうなんだけどな……」
「索敵も、初撃を与える速度も圧倒的にホクトの方が早いんだ。そのアドバンテージを荷物で殺すのは勿体無い」
そう決めたのは良いんだけど、今のカメリアの姿は肩幅の倍はあるリュックサックに、これでもかと詰め込まれた食料の数々。肩に食い込む荷物は非常に重そうだ、でもやっぱり鬼族なんだな。俺では持てそうもない量を事もなげに担いでいる。
「そんなことより、早いとこ8階層をクリアしちまおう。早ければ早いほど、アタイが楽をできるんだから」
「そうだな」
カメリアの言葉を受けて、気配感知の範囲を広げる。今までの範囲では索敵に引っかからないなら、もっと広い範囲にすればいい。ただ、その分精神力を食うけど、結果として早く進めるなら今は速度を優先したい。
ちなみに8階層で出てくる魔物は、マウント・トータス。背中の甲羅が山みたいになっている亀だ。この甲羅が曲者で、守ってよし攻撃して良しのオールマイティな難い奴である。
「アタイの槍じゃ、マウント・トータスに対してダメージを与えられなかった。ここはホクトの独断場じゃないか、カッコいいとこ見せてくれよ!」
「おうよ、7階層で出遅れた分は取り戻してやる!」
そう、どんなに甲羅が強固でも俺には浸透がある。浸透は内部に魔力を送って、内側から破壊する攻撃だから、甲羅なんて合っても無くても関係ない。
「お、あの二股に分かれてる道を右に行ったところに気配がある。どうする?戦うか?」
「まだ8階層のマッピングも完璧じゃないからな、どこに9階層の階段があるか解らない以上、魔物がいるほうに進んでも良いんじゃないか?」
「え~と、二股を右には……ああ、まだ言ってないな」
「なら、決まりだ」
「了解!」
ポロンに右の道に言うように伝えて、俺もカメリアも付いて行く。分かれ道に入ってしばらく進むと、前方に大人一人では抱えきれないほどの大きさの岩が2つ道を阻むように転がっていた。
「あれがマウント・トータスだ。岩のフリして傍を通った奴に攻撃してくるみたいだ、ギルドで調べてきたから間違いない」
「ホクトも良くやれるよな、アタイなんて本に囲まれただけで頭痛がするってのに。で、どれくらい近づいたら襲ってくるかな?」
「こればっかりは当たってみないとなんとも……」
カメリアも担いでいた荷物をいったん地面に下ろして戦闘態勢に入る。マウント・トータス相手では槍は効き難いけど、俺が攻撃している間にもう1匹の方を牽制してもらう。
「よし、俺は左のやつをやる。右の牽制は任せた」
「任せとけ」
「よし、ポロンはここで待機な」
「ワン」
作戦会議は終わって、俺は左のマウント・トータス目掛けて突っ込んだ。5mを切った頃になってマウント・トータスが甲羅から首と手足をだす。でも遅い、動き始める前に俺は甲羅に取り付いた。
「カメリア、5メタだ!」
「了解!」
カメリアにマウント・トータスが動き出す距離を伝えて、右拳に魔力を流す。硬い甲羅に無理して拳を叩きつける必要も無く、俺は拳を甲羅に触れた状態から魔力を解放した。
「浸透!」
ズンッとした手応えが返ってくる。ダメージを与えたことを確信して後方に下がる。今の一撃で倒せているか解らない以上、いつまでも相手の射程に留まる理由も無い。
「キュイィィィ~~~!!!」
マウント・トータスが絶叫をあげて動かなくなった。良かった、とりあえず一撃で倒せるようだ。
「カメリア、こっちは片付いた。そっちに加勢するからフォローよろしく」
「あいよ!」
残る1匹の注意を引いて動き回っていたカメリアから、威勢のいい返事が返ってきた。直接戦えないことにストレスを感じるんじゃないかと思ってたけど、案外大丈夫そうだ。
「ホクト!これからはできるだマウント・トータスとは避けて行こうぜ。直接戦えないのはつまんない!」
あ、そうでもなかった。戦闘中だから、表情には変化が無かったけど、しっかり鬱憤は溜めてたみたいだ。
「俺の気配感知じゃ、引っかかった奴がマウント・トータスかどうかわかんないぞ?」
マウント・トータスとの距離が5mを切った。しかし、今回はカメリアが注意を引いているので俺には見向きもしない。俺は余裕を持って甲羅に取り付き魔力を解放する。
「それでも、できるだけ回避してくれよ!」
「キュウィイィィ~~!!!」
「あ、死んだ」
哀れマウント・トータス、俺たちの会話中に死んでしまった。
「よし、ドロップ品を回収しよう。さて……こいつは何を落とすかな?」
マウント・トータスの死体が消えた後には、甲羅の一部に見える硬い素材が落ちていた。
「これは、甲羅なのか?」
「そうみたいだな、確か依頼の中に甲羅の素材を集めるのがあったはずだ」
「って事は、ある程度はマウント・トータスとも戦わないとダメって事か?」
「そういう事」
「そんなぁ……」
甲羅を拾い上げてカバンの中に入れる。元々パンパンに詰まっているカバンだけど、今日の食料を消費すれば素材を入れることもできる。こうして、少しずつ荷物に空きを作りつつ素材を入れていけば、最終的にはカバン一杯の素材になるって寸法だ。
「それよりも、8階層からは複数の魔物がいるって本当なのか?」
「そうみたいだ。え~と、マウント・トータス、ブラッド・バット、ハイコボルド、こんなところか。ブラッド・バットは宙に浮いてるだろうから、カメリアでも戦闘できそうだな。あとはハイコボルド、こいつはコボルドと違って単体で徘徊しているようだ」
「へぇ、面白い階層だな。ならブラッド・バットとハイコボルドを探そうぜ」
「そう上手く行けばな」
俺の気配感知は距離の方角しか解らない、ひょっとしたらレベルが上がれば種類も分かるのかもしれないけど、現状では無い物ねだりだな。
「……なあポロン、お前の鼻で魔物の種類とか分からないか?」
「おい、無茶言うなよ」
「ダメもとだよ」
ポロンの鼻で魔物の種類が分かったら世話無いだろ。俺はそう考えていたんだけど……。
「……わぅ?」
「そう魔物の種類だよ、分かんないか?」
「……わふ!」
「ホントか!?お前すげえな!」
「なにポロンと普通に喋ってんだよ、ほんとにポロンが分かるって言ってるのか?」
「間違いないって!なあ、ポロン?」
「わふ、わふぅ!」
俺の目から見ても、自信満々に頷いているように見える不思議。え、ほんとに分かんのか?
「……マジか、ポロン?」
俺が信じてないのが納得できないのか、ポロンが俺の足に向かって前脚でテシテシと叩いてくる。
「悪かった……悪かったって。機嫌治してくれよ、ポロン」
しゃがんでポロンの頭を撫でる、気持ち良さそうな顔をしているポロンをみて、さすが白狼種と思ってしまった。
「よし、じゃあ俺が気配感知で距離と方向を探すから、ポロンはマウント・トータスじゃない敵の方に進んでくれ」
「ワン!」
こうして俺たちは、その後マウント・トータスとはできるだけ遭遇せずに進み、野営ができそうな場所を見つけて、その日のダンジョン攻略を終えた。
一夜明けて2日目、俺たちは順調に8階層を攻略していた。昨日に引き続きマウント・トータスとは極力戦わないようにしながら歩を進める。とはいえ、マウント・トータスの甲羅を素材として一定数持ち帰らないといけないから、最低限の戦闘はしているけど。
「俺はマウント・トータスでも構わないから、カメリアはそれ以外の奴を優先して倒していいぞ」
「さすがホクト、アタイの事を理解してる!」
そういう事は、落ち着いた場所で言ってほしい。少なくとも敵に囲まれて乱戦になっているときに言われても、ありがたみもへったくれもない。
「ほら、横からブラッド・バットが来てるぞ!」
「大丈夫、ちゃんと見えてる!」
さすがカメリア、四方八方をブラッド・バットに囲まれながら一度も攻撃を受けていない。上空から突っ込んでくる奴には槍の穂先で、後ろから攻撃してくる奴には槍の石突で攻撃している。まるで、そこに円の結界があるかのように一定距離まで近づいたものから順に倒していっている。
「おっと、俺も余所見している場合じゃない」
俺の方にハイコボルドが襲い掛かってきた。こいつはブラッド・バットと戦闘に入った後に乱入してきたやつだ。最初はカメリアに向かおうとしてたけど、さすがに複合した魔物たちを相手にするのは厳しいだろうと、俺が割って入った形だ。
「しかし、こいつはコボルドよりも速いな」
図体もコボルドの1.5倍くらいある。そんな大型なのにも拘らず下の階層にいたコボルドたちよりも断然速い。基本は両手の爪での切り裂き攻撃だけど、気を抜いていると頭上から噛み付いてくる。
「っと……危ない。だけど」
下から爪での突き刺し攻撃を半歩だけ下がって避け、攻撃の隙を突いて一歩踏み出す。この半歩分が明暗を分けた。掬い上げた腕を、今度は肘打ちとして打ち下ろしてくるその攻撃を、鎧の肩部分で受けつつ右フックを右下から打ち上げる。
「おっらぁ!」
「ギャン!」
吹っ飛ばされたハイコボルドを追いかけ、止めを刺そうとする。しかし、追いつく前に立ち上がる。
「さすが上位種、浸透を入れても一撃で倒せないのか」
こうなると持久戦になってしまう。元々の俺の攻撃力はあまり高く無いので、乱打戦になってしまう事が今までにも何度かあった。
「ホクト、手助けいるか?」
緩い声でカメリアが聞いてくる、どうやら向うは戦闘が終わったらしい。なら、こっちもとっとと終わらせないと。
「いらない!」
「がんばれ~!」
背中からカメリアの声援を受けて、ハイコボルドに突っ込んでいく。狙いは頭、そこなら一撃入れるだけで倒せる可能性がある。
「起き上がってきたみたいだけど、さっきみたいな速さは無いな」
ハイコボルドの動きを見て、そう結論付けた。恐らく浸透が効いているのだろう、であれば今がチャンスだ。さっきよりも威力も速度もない右爪の切り裂き攻撃を皮の籠手で弾き飛ばす、続けて左から水平に突き出された左爪を、勇気を出して前進。背中に衝撃を感じるけど、無視して更に前進。
「もらった!」
懐深くから、一気に顎目掛けて右拳をカチ上げる。顎の骨を砕く感触と同時に魔力を解放する。
「止めの浸透!」
脳をシェイクされ、顔じゅうの穴から血を噴出してハイコボルドは倒れた。
「……ふぅ、1対1でここまで苦戦したのは久しぶりだ」
「お疲れさん、ホクト」
「さすが8階層になると、簡単には進ませてくれないな」
「そうか?今の戦闘も結局ダメージは無かったろ?」
確かに何度か攻撃を受けたけど、全部鎧や皮の籠手で受けている。ダメージらしいダメージは一発ももらってない。
「まあな、でも2種類でこれならマウント・トータスを入れて3種混合になったら、更に大変そうだな」
「アタイは歯ごたえがあって好きだけどな」
「……戦闘狂め」
「それはアタイにとっては褒め言葉だ」
ニコニコして豪語されると何も言えないな。確かに戦ってるときのカメリアは楽しそうだった。
「さて、ドロップ品も回収したし先に進むか」
「おう、今日中に9階層に行くからな!」
その後も何度か戦闘を行った。酷いときはマウント・トータス2匹、ブラッド・バット5匹、ハイコボルド2体の大所帯と戦闘になってしまった。さすがにその時はカメリアも青い顔をしていたけど、それでも俺たちは勝つことができた。この時は俺がブラッド・バットを相手取り、カメリアがハイコボルドを相手にする変則的な組み合わせで難を逃れた。マウント・トータス?あいつら遅いから、他の奴らが全滅してから俺1人でサクッと倒したよ。
「おい、ホクト!あれあれ!」
「見えてるよ、やっと9階層か……」
結局その日のうちに9階層の階段を見つけることはできず、明けて翌日の昼前に俺たちは9階層への階段を見つけることができた。8階層に初めて来てから4日目、意外と時間がかかってしまった。




