10話 痺れる灰色の脳細胞
「大凡分かっているかもしれんが、念のため説明しよう。先日、冒険者のザズ・ネーズが工夫達の洞窟3階層で遺体で発見された。それ自体は別段珍しくも無いんじゃが、その男について情報を集めていくと、本来の攻略階層は8階層で3階層あたりで死ぬような腕ではなかったそうじゃ」
「そこまでは俺たちも知っています」
「うむ、更に以前報告を受けていた、そこのカメリア・フレイムと揉めたという話し。我々ギルド内部でカメリア・フレイムから事情聴取をすることを強く推す者たちがおっての。こればっかりはワシの一存で取り消すこともできぬ。その代わりと言っては何じゃが、今日招集をしてワシ自らが情報提供という形を取って話を聞くことを奴らには納得してもらった。すまんが、しばらく付き合ってはくれぬか?」
どうもギルド内の動きがキナ臭いな。なんか、無理やりカメリアに擦り付けて事件をうやむやにしようとしてる奴が内部にいるんじゃないか?この爺さんにしたって、どこまで信じていいのか怪しいものだ。まあ、情報提供って体裁は取ってくれるみたいだから、今日どうこうは無さそうだけど。
「つまり、今日ここに呼んだのはあくまでカメリアから話を聞く為と?」
「無論じゃ。そもそも、ただ揉めたからと言っていきなり犯罪者扱いをするはずがなかろう」
「でも、さっきの偉そうなおっさんは、はなからカメリアを犯罪者扱いでしたよ?」
「うぅむ……それに関しては詫びのしようも無い。あやつには、ちゃんと情報提供者に粗相があってはならんときつく言っておいたのじゃが……」
「自分の脳内で好き勝手に解釈したんでしょうかね、それともカメリアが犯人にならないと何かまずいことでもあるのか……」
あのおっさんが強硬派というなら、随分雑なシナリオだけど多分違うんだろうな。ああ、いやだ。頭の良い奴の悪巧みって、俺とかカメリアじゃ対処できなそうだ。
「詫びだけではなく、態度で示してくださいね。俺たち公衆の面前で結構酷い扱い受けましたから」
まあ、衆人環視の元ひたすら悪口を言われ続けることに耐えてただけだけど。カメリアにしろ俺にしろ、しばらく街中歩けないんじゃないか?
「それは無論じゃ、あやつの処罰も追って知らせよう」
「そんな事はいいからさ、アタイに話が聞きたいんだろ?とっとと話して帰ろうぜ、ホクト」
「お、おぅ」
「これはすまなんだ、歳を取るとどうも長話になっていかん」
飄々と答える爺さん、いかん誰もかれもが怪しく感じる。なんでもかんでも疑っていたら、相手の思う壺なんだろうな。はぁ、頭良くなりたい。
「では、話してもらおうか。なぜあのパーティの連中と揉めたのか、その経緯を」
カメリアが語り終えたあと、しばらく部屋が静寂に包まれた。爺さんとしても思った以上の出来事だったようで、途中から険しい顔つきになった。
「今の話しが本当なら、殺されても文句は言えんじゃろうな」
「アタイはやってないぞ!そもそも、ダンジョンで闇討ちなんて情けなくてできるか!」
俺の知ってるカメリアなら、そう言うだろう。俺もだけど、こいつにも暗躍とか悪巧みとかできる知能を持ってないよ。……自分で行ってて悲しくなってきた。
「すまんな、悪気があっての言葉ではない。軽率なことを言った、謝罪する」
「お、おぅ……解ってくれればいい」
素直に謝罪されたことで戸惑ってるカメリア、こういう事に慣れてないからアタフタしてる。
「今の話しで情報提供になりましたか?」
「うむ、実際に何が起こったのかを事細かに知ることができた。これは十分な収穫と言えよう」
どうだろ、さっきの爺さんじゃないけど動機としては十分過ぎる内容なんだよな。この爺さんは、どうも最初からカメリアを疑っていないっぽいから余り感じないのかもしれないけど。俺が又聞きで今の話を聞いたら『犯人は、この中にいる!』って思いっきりカメリアを指さす自信がある。
「こっちからも情報を提供したんですから、そちらからも教えてくださいよ」
「ふむ、それは別に構わんが公開できない内容もあるぞ。それでもよいか?」
「ええ、構いません」
何か展開が推理小説っぽくなってきた、実は俺大好きなんだよね。本格、新本格ミステリーとか、漫画の推理物も大好きだった。
「えと、まず死んだザズさんでしたっけ?その人が死んだのはいつ頃なんですか?」
推理物と言えば、まずは死亡推定時刻だろ。そこから俺たちのアリバイが確立できれば、一気に無罪になるんじゃね?
「死んだのがいつか、そんなことを聞いてどうするのじゃ?」
「だって、その時間に俺たちがどこにいたかを証明できれば、俺たちが殺せるわけがないって解るじゃないですか?」
「?ホクト、アタイもよく解んない。それって、どういう事?」
なんだ、カメリアもか?これは俺の灰色の脳細胞が活動を始めちゃうよ?
「そのザズって人が死んだ時間が解れば、例えば俺たちが7階層に籠っていた時間と同じなら俺たちに3階層の人を殺せないってことになるじゃん?」
「うん。だから、どうやって死んだ時間を調べるんだ?」
「……え?」
「ワシも知りたいのぅ、それが解れば確かにお主たちの無実が証明できるかもしれん」
あ、あれ?なんか会話が噛み合ってない気がする。
「つかぬことを伺いますが、死んだ時間って解らないですか?」
「ワシは知らんぞ、そんな研究がされていることすら聞いたことも無い。だが、言うからにはお主には調べる方法が解っておるのだろ?」
やっべぇ~!すっかり忘れてた、ここ異世界だった。現代日本の感覚で科学捜査があるもんだと思ってたよ。……ダメじゃん、探偵出番ないじゃん。
「……すいません、早とちりでした。そういう便利な物があるのかなぁ……と」
「なんじゃい、期待させおってからに」
「ホクト、今のはアタイでもないと思うわ」
うわぁ~、2人の視線が氷点下だ。仕方ないじゃん、そんな初歩から躓くとは思ってもみなかったんだから。
「……ゴホン、では気を取り直して」
「あ、流した」
黙っててカメリア、今の俺に突っ込む余裕とか無いから。
「じゃあ、ザズさんの死体に外傷はありましたか?」
「ああ、それならあったそうじゃ。背中の左肩甲骨の辺りに何かで突き刺したような傷跡が」
「突き刺した?裂傷とかじゃないんですか?」
「そう聞いておる、幅は10シードメタ程度。斬ったにしては小さな傷じゃ」
10シードメタ、それだと確かに裂傷としては小さいな。果物ナイフを使っても気を付けないとそれ以上の大きさになるな。
「死因、つまりそれが原因で死んだんですかね?」
「そうじゃな、他に外傷は見当たらなかったようじゃし間違いないじゃろう」
そんな10cmほどの切り傷で人間は死なない、ということは傷は思いのほか深いって事か……突き刺したって意見は、そこからの予想なんだろう。俺が見てもそう言うだろうな。
「なんかホクト生き生きしてないか?そんな無理に頭使わなくてもいいんだぞ?」
カメリアが失礼なことを言う。そもそも、お前の疑いを晴らすために俺がこんなに頭使ってんだから、お前も頑張れよ!
「状況だけで推理すると、まるで槍……のようなもので刺されたってことですね?」
「そうじゃ、それもあって槍使いのカメリア・フレイムに疑いがかかっておる」
だと思った、そんな揉めてたってだけで疑われる世界なんて嫌だ。これはつまり、直前に死んだ奴らと揉めてて、尚且つ死因となる傷が槍で突き刺されたよう見えるからカメリアを疑っているって事だ。状況証拠だけでお腹一杯だな。動機、凶器、おまけに科学捜査が無いための曖昧な死亡推定時刻。数え役満じゃないか。
「うぅん……」
「ホクト大丈夫か?」
カメリアが心配そうに俺を見てくる。ありがとうな、でも今心配なのはお前の方なんだよ。この世界であれば、これだけで殺人犯になるんじゃないか?どうやってカメリアの無実を証明するか……逆にどうやっても殺すことなんてできなかったって証拠を1つずつ見つけていくしかないか。
何にしても、時間は必要だよな。ラッキーだったのは、今回は任意の情報提供を求められただけって事だ。しばらくは時間が稼げる。その間に証拠を集めないと。
「なあ、ホクト。そろそろ帰らないか?」
「ああ、俺も脳ミソ使い過ぎて疲れた。宿に戻って休みたい」
「おお、すまんかったな。お主たちはダンジョンから戻って、そのままここに来てくれていたのだ。疲れていて当然じゃな」
「今日はもういいですか?」
「おお、十分じゃ。情報提供感謝するぞ」
良かった、とりあえず今日は終わりみたいだ。カメリアが席を立つのに続いて俺も席を立つ。
「あの、ギルマス。また話を聞きに来ても良いですか?」
「話とは、今回の事件についてかの?」
「はい、もうちょっと知りたい事とかあるので」
「よかろう、次にギルドに来た時に受付に伝えるといい。ワシも暇ではないので、いつでもとは言い難いができるだけ時間を作ろう」
「ありがとうございます」
ギルマスの爺さんに頭を下げてお礼をする。慌てて隣のカメリアも頭を下げる。
「ほっほっほ、構わんよ。ワシとしても、早く解決したい問題じゃ」
とりあえず、この爺さんは信用してみよう。白に近いグレーだけど。こうして俺たちは事情聴取と言う名の情報提供を行ってギルドを出た。町に帰って来た時は夕方前だったのに、いつの間にか完全に夜になってたよ。
俺とカメリアは食事をしてから宿に帰り、そのまま爆睡した。痛覚が無いはずの灰色の脳細胞が痺れて痛い。
何故か突然のミステリー展開になってしまいました。
あ、言っておきますけどオチには期待しないでください。
所詮ファンタジーなので……。
一度はこういう話しも書いてみたいという思いが溢れた回でした。




