9話 工夫達の洞窟殺人事件
「いやぁ、8階層まで行けたな。これで残り3階層だぜ、踏破まであと少しだ」
1階層まで戻ってきた俺とカメリア、8階層を見れたことでカメリアのテンションはMAXだ。かく言う俺も、8階層を見たときはテンション振り切ったけどな。
「明日からは、また探索とマッピングの日々だ。どんな魔物が出るか、今日は町に戻ったらギルドで調べてみるか」
「そうだな、アタイとホクトなら、どんな魔物が出てきても下手打つことはないだろうけどな」
「それはちょっと調子に乗り過ぎだ。8階層に行ったからって油断してると、手痛いしっぺ返しを食らうかもしれないぞ」
「心配性だなホクトは、こういうのは勢いが大事なんだよ」
カメリアの調子に乗っかりたいところだけど、こればっかりはやっておかないと尻の収まりが悪いというか、なんかムズムズする。俺の精神安定のためにも、一通りは調べておいた方が良いだろう。
そんな明るい気分も、ダンジョンを出るまでだった。入るときに警戒してたのに、出るときになってすっかり忘れてた。ダンジョンを出た俺たちを待っていたのは、偉そうな服装の男と、それを取り巻く冒険者の方々だった。
「カメリア・フレイムだな」
「あん?何だお前らは……」
疑問形じゃ無い辺り、やっぱりギルドの関係者何だろう。
「あんたたちは、どこのどちらさま?」
「私はウドベラ冒険者ギルドの使いでここにいる。カメリア・フレイム、今すぐ私たちと一緒に来てもらおう」
「なんでアタイが、お前らの言う事を聞かないといけなんだ?」
カメリアの方は、なぜ自分なのかと訝しんでいる。こいつ、アーネちゃんから忠告されたこと忘れてるんじゃないだろうな?多分、その件だと思うよ。
「お前にはザズ・ネーズの殺害容疑がかかっている。抵抗せずに我々に従うことだ」
「誰だよ、ザズって!」
やっぱり覚えていなかったか……。仕方ないので、カメリアに助け舟を出す。
「カメリア……多分アーネちゃんから聞いた、ほらお前を嵌めた奴らの仲間だ」
「……ああ、あいつそんな名前だったのか」
お願いしますよホント、ダンジョンに入るときにもそれとなく会話してたでしょ?
「とりあえず、言う事を聞いた方がいい。ここで暴れて逃げても、何にも良い事はない」
「それは……そうかも知れねえけどよ、なんか言われたとおりに従うのって、負けた気にならないか?」
「お前の性格からするとそうなのかもしれないけど、後で絶対面倒くさいことになるから言う事聞いとけって」
なんとかカメリアを宥め賺して、穏便に付いて行くように仕向ける。でも俺の努力を無にする奴がいた。
「ええい!つべこべ言わずにさっさと従わんか!」
いるよね、こういう権力をかさに着て、何でも自分の思い通りになると思い込んでる人。せっかく行く気になってたカメリアの額に青筋が浮かぶ。
「んだよ、てめえが何様なのか知らないがな、アタイにあれこれ言い聞かせたかったら頭の一つでも下げやがれ!」
まさに売り言葉に買い言葉。ただでさえピリピリしていた空気が、一気に戦闘態勢にまで行きかねない状況になってしまった。ほら、あっちの冒険者(多分護衛)の方々もやる気になっちゃってるじゃん。ああいう人たちって、長いものに巻かれるの大好きな人たちだよ?
「ちょ、ちょっと待て!カメリアも落ち着け!そっちの人も、無駄にカメリアを煽らないでください。そんな言い方しなくても付いて行きますから」
「ホクト!あんなこと言われて、黙ってついて行く気か!?」
「そうだよ、お前もちょっとは落ち着け。今この瞬間は、何も罪を犯してないんだから任意同行がせいぜいだ。けど、ここで突っぱねると後で強制連行されかねないぞ?」
「だけどよ!」
「1回頭を冷やせ、せっかくアーネちゃんがくれた情報を無駄にするのか?」
アーネちゃんの言葉を出したら、さすがに大人しくなった。まったく血の気の多い奴だ。
「そちらの人も、無闇に煽っていいんですか?もし、俺たちが無罪だった場合どうなるか……解ってますよね?」
どんな手を使っても公開させてやるぞ?的なニュアンスで言ってみる。
「ほう?お前のようなよそ者が、私に何かをできると思っているのか?」
こういう小物を相手にしても埒が明かない、とっととギルドに行って無実を証明しないと。
「良いからとっとと行きましょうよ、俺たちも暇じゃないんで」
「チッ、口の減らないガキだ!」
さっきまでは慇懃丁寧だったけど、今の方が似合ってる。お里が知れるよ、おっさん。
俺たちは周りを冒険者たちに囲まれながら、町に向かった。ダンジョンを離れるときに心配そうに見ていた門番に軽く手を振っておいた、この件で彼が気に病む必要はないからな。
周りを冒険者に囲まれながらの任意同行に、町の人々からの視線が刺さる。俺たち別に悪いことしてないのに、この仕打ち。勘違いだったときに、どう晴らしてくれようか?そんなことを考えていたらカメリアに声をかけられた。
「おいホクト、あんまり変な笑い方するな。今のお前、どこかのマフィアのボスみたいだぞ?」
「え、そんな顔してた?」
自分の頬に両手をあてて揉み解す。いかんいかん、俺の人当たりの良い爽やかフェイスが台無しだ。
「クゥ~ン……」
それを見てポロンがとても残念な表情をしている。失敬な奴だな、お前のご主人様はそこまで悪役顔じゃないよ?
「何をブツブツ言っておる。ほら、さっさと入らんか!」
俺たちの一挙手一投足が気に入らないのか、このおっさんはダンジョンからここに来るまでの間、ずっとこの調子で俺たちを罵倒し続けている。さすがのカメリアも相手にするだけバカバカしいと、無視を決め込んでいる。こんな小物はそれくらいの扱いで十分だよ。
「すいませ~ん、反省してま~す」
「この!き、貴様~!」
たまにおちょくる位は許してほしい。俺だって17歳のガキだ、そこまで人間ができてる訳じゃない。隣でカメリアが笑いを堪えているのが見えたが、どうやら怒りも収まったらしい。
そうやって時たま偉そうなおっさんをおちょくりつつ、ギルドの前まで来た。
「ほらこっちだ、キリキリ歩かんか!」
おっさんに先導されながら中に入る。ギルドの中は時間帯もあってか、結構な人で賑わっていた。そんな冒険者たちからも視線が集まる。
「おい、ありゃカメリアだろ?」
「遂に何かしでかしたのか?」
「いつも一緒の坊主もいるぞ、あいつも不憫な奴だ。カメリアと一緒にならなければ……」
方々から聞こえてくるのは、カメリアがいつかはやらかすと思ってた言動が目立つ。
「こういうところで、普段の行いが出るもんだな」
「……うるさいよ、アタイはそこまで素行が悪かった覚えは無い」
ニヤニヤしながらカメリアを見てみると、なんともバツが悪そうな顔をしている。若干思い当たる節があるのか、顔が赤い。
「とはいえ、俺が巻き添えってのは勘違いも甚だしいな。カメリアと一緒のパーティなのは俺の意思であって、巻き込まれた訳じゃないのにな」
「……ほ、ホクト~」
情けない声で俺の方を見てくるカメリアを無視して、カウンターの奥へと進んで行く。どうやら結構上の立場の人間と会う事になりそうだ。いつも使っている応接室も素通りした。
「さて、どこまで連れていかれるのか……」
「アタイ、こんなところまで来たのは初めてだ」
「右に同じ」
しばらく奥へ奥へと進み、1つの扉の前でおっさんが止まった。軽いノックの後、中から声がする。くぐもってよく解らなかったけど、多分爺さんじゃなかろうか?
「失礼します」
偉そうなおっさんが一声かけて扉を開ける。こういうおっさんって、権威に諂うイメージだけど、解り易いほどのテンプレおっさんだな。
おっさんたちに促されて、俺たちも中に入る。
「やあ、時間を取らせてしまってすまなかったな」
中にいたのは予想通りの爺さんだった。歳はかなりの高齢だろうってだけで、いくつなのか想像もつかない。長い顎鬚に腰まである髪の毛、そのどちらも真っ白で俺のイメージにある魔法使いの爺さんそのままの人だった。
「ワシは、このウドベラ冒険者ギルドの主、ギルドマスターのユーシュンじゃ」
思ったよりも上の人だった。いきなりのトップとの遭遇に、俺もカメリアも声が出ない。
「ささ、立ち話もなんじゃ。2人とも座っておくれ」
前のソファを勧める爺さんに、とまどりながらも席に着く。カメリアは俺の横、俺は爺さんの正面に座った。
「君たち、ご苦労だったね。行っておいた通り、失礼な事はしていないだろうな?」
「もちろんです、彼らは従順に従ってくれました」
どの口が言うのか、偉そうなおっさんは尻尾を振りそうな勢いで爺さんに報告している。
「確かに丁寧でしたね、丁寧に強制連行してくれました」
俺がボソッと爆弾を投げつける、このままおっさんの功績になってしまうのは癪に触った。せっかくだしギルマスにも聞いてもらおう。
「……ホゥ、それはどういう事かな?」
ギルマスの爺さんの視線が厳しくなった。俺は構わず言い募る。
「ダンジョンを出たところを有無を言わさず連行されました。町に向かう間も延々と文句を聞かされました。町に入ってからも終始偉そうでした」
俺がベラベラと喋る度に、偉そうなおっさんの顔が青くなっていく。どうもギルマスからは丁重に扱うように言われていたのに、このおっさんは何でもしていいと勘違いしていたようだ。まさか俺がここでギルマス本人にぶちまけると思わなかったんだろうか?俺、そんなに性格良くないっすよ?
「どういう事だ?ワシの言ったことを理解していなかったのか?」
「いや、そ、それは……」
「現段階では、あくまで情報提供者だと言ったはずだぞ?それをお前は、さも犯罪者のように扱ったのか?」
「そのようなことは……決して……」
「では彼が言っていることは全て口から出まかせの嘘だと言うのか?」
「そ、それは……」
ぷぷぷ、困ってる困ってる。いい気味だ、もっと困れってんだ。
「……ホクト、やり過ぎ……」
「えぇ、これくらいじゃ足りないと思うな」
隣のカメリアとコソコソ話していると、件の偉そうなおっさんが凄い形相でこっちを睨んでいた。いくら睨まれたって、口撃を止めるつもりは無いけどな。そもそも、浅はかとしか言いようがない。こんなこと、俺から事情を聞けば一発でばれるだろうに。
「貴様の事、相分かった。今は彼らから情報を得る方が重要だからの、後でたっぷり聞いてやる。おい、こやつを別室に連れていけ」
爺さんが一緒に来た冒険者たちに命令する。冒険者たちも、おっさんよりもギルマスの方が怖いのか素直にいう事を聞く。
「良いか、決して逃げられぬようにしておけよ?」
「は、ハイ!」
爺さんに睨まれた冒険者たちが、慌てておっさんを連行していく。さすがギルマス、怖いなんてもんじゃないな。
「アイツに成り代わり謝罪する、すまなかったな」
「い、いえ。そこまで酷い事をされた訳ではないので……」
「アタイも別に……」
「そうか、それは良かった」
爺さんが穏やかな顔に戻り、緊張も解けた。それを見計らったのか、職員の人が飲み物を持ってくる。って、あれアーネちゃんじゃん。
「飲み物をお持ちしました」
「うむ、そこに置いて行きなさい」
俺が何かを言おうとすると、アーネちゃんが俺の方を見てウィンクをした。この子もなんだかんだで場慣れしてるな、隣のカメリアがアーネちゃんが入ってきたことにビックリしている。
お茶を人数分テーブルの上に置くと、アーネちゃんはお辞儀をして出て行った。これは、アーネちゃんが何かしらギルマスに働きかけてくれたって事かな?次に会った時にそれとなく聞いてみよう。
「さて、改めて自己紹介じゃ。ワシの名はユーシュン・ロックウェル、ウドベラ冒険者ギルドのギルドマスターじゃ」
「俺はホクト・ミシマです。リーザスの町の冒険者で、工夫達の洞窟に潜るためにウドベラにきました」
「うむ、君の事は聞いておる。ここに来る途中でシャドウ・グリズリーを退治した若者じゃろ?」
「ええ、まあ……。たまたまかち合っちゃいまして」
「ほっほっほ、謙遜じゃな。シャドウ・グリズリーほどの魔物を倒したのじゃ、もっと誇ってよいぞ?」
「俺1人じゃ勝てませんでしたよ。それに、自慢するのってどうも苦手で……」
「若者は多少自信過剰くらいでちょうどいい」
「はあ……」
なんかうちの学校の校長先生みたいだ。俺たち生徒をいつも笑顔で見てくれていて、ここぞって時に褒めてくれる。そんな先生だったな。
「アタイはカメリア・フレイム。この町のギルド所属だ、つまりあんたの部下だな」
カメリアがぶっきらぼうに答える。
「まあ確かにワシはギルドマスターじゃが、別にお前さんの上司と言う訳じゃないぞ?冒険者なんて、言ってしまえばみんな個人事業主みたいなものじゃ」
「……難しい事はよくわかんねえ」
ある意味男らしいカメリアの答え、完全に考えるのを止めてます。それにしても、冒険者は個人事業主か。そういう風にも考えられるのか、地球で言うところのフリーエージェントみたいなものか?どっちかと言うと派遣社員みたいなものか。ギルドが派遣元で冒険者が斡旋されていくみたいな。
「冒険者は、全ての行動が個人に委ねられておる。そこには当然個人に対して責任が付いて回るがの」
「じゃあ、ギルドって何なんですか?」
疑問に思ったので聞いてみた。地球の派遣元って、薄給で派遣社員を雇って自分たちだけ良い思いをしていたイメージがある。こっちのギルドもそうなのか?
「ギルドとは、個人では対応できない物事に対して群れで当たるための仕組みじゃよ。例えば相手が個人商店であったり、町であったり、それこそ国であったりした場合に個人ではどうやっても太刀打ちできない。そんなときに間に入って仲裁するのがギルドの仕事じゃ」
「へぇ、そうなんですね。俺頭悪いから、よく解ってないかもですが」
「ほっほっほ、こういうものは年と共におのずと身に付く者じゃ。今は気にせんでええ」
「はい」
ギルマスの爺さんに色々と聞けただけでも収穫かも。隣でカメリアもウンウン言っている。
「さて、一通り自己紹介も終わったことだし、今日来てもらった意味を説明しよう」
さあ、いよいよ本題だ。このギルマスが俺たちに何を要求するのか?
「ウドベラ冒険者ギルドでは、カメリア・フレイムによるザズ・ネーズ殺害の可能性を検討しておる」




