5話 パーティメンバーのステータス(後編)
「どうだった、アタイのステータスは?」
「そうだな、カメリアの強さの理由が分かったのは収穫だったな」
どっちかというと、パラメータに現れない強さが目立ったけどな。弱点を気にするよりも得意な部分を伸ばす。これは解っていても、なかなか難しいことだ。きっとカメリアは今までも、そうやって自分らしい強さを求めてきたんだろう。それは素直に尊敬できる部分だし、俺もそうありたいと思う。
「それにしても、意外だったのはスキルが少ないんだな。槍術と剛力の2つだけなんだ」
「そうか?スキルなんて、そんなにいっぱい持つ物でもないだろ?剛力はアタイら鬼族なら誰でも持ってるし、アタイとしては槍術だけで十分だけどな」
「そうか?色々なスキルがあれば、戦闘に幅が出ないか?」
「アタイは槍一辺倒だから、槍を使うのに必要な槍術だけで満足だけどな。だから、他のスキルは売っちまったよ」
……今聞き捨てならない事を仰いませんでしたか?この鬼っ子は。
「……え~と、スキルを売ったとは?」
「あれ、ホクト知らないのか?スキルは売れるんだよ、この町にもスキルショップがあるから知ってると思ってた」
「え、は!?スキルって売り買いできるの?」
「できるぞ。不要なスキルは売って金にできるし、必要だと思うスキルは勝って自分に取り込めばいい」
初耳なんですけど!?アサギの奴、なんでそんな重要なことを教えないんだよ!
「知らなかった……ちなみにどうやって売るんだ?」
「スキルショップに行って、不要なスキルを取り出してもらったり、欲しいスキルを買って入れてもらえば良いんだよ。まあ、有用なスキルは品薄だったり結構な金額するから、本当に欲しいものはなかなか手に入らないけどな」
そ、そんなゲームみたいなシステムがあるとは……。
「そんなに興味あるなら、明日行ってみるか?」
「行きたい!」
「そ、そうか……なら明日はダンジョンに行くの止めて買い物にするか?」
「お願いします!」
まさに土下座をする勢いだ。スキルを買えるって事は、手っ取り早く強くなることができるって訳だよな。こんな抜け道があるなんて知らなかったよ。まあ、練習とか修行って響きは嫌いじゃないし、自分のパラメータが上がっていくのは楽しいから鍛える事自体は好きだ。だけど、今のダンジョン攻略も進行が遅くなってきたから、何か打開策が欲しいと思ってたところだ。
「でもホクト、お前そんなに一杯スキルあるのに、まだ必要なのか?」
「スキル組み合わせたら、今までできなかった動きができるかもしれないじゃん。直接数値が上がるだけが強さじゃないだろ?」
「まあ、そうだな……。アタイは今のままで十分だけどな」
「分かんないぞ、ひょっとしたらお前に隠れた才能があって、何かのスキルで開花するかもしれない」
俺の言葉にカメリアの頬がピクピクと動いた。あ、こいつ気にしだしたな。
「そ、そんな都合のいい話がある訳ないだろ?」
「だから試すんだろ。自分の可能性を自分で塞いじゃダメだろ?俺はちょっとでも強くなれるなら、色々挑戦する価値はあると思う」
俺の言葉を聞いて何やら考え込んでいたカメリアが、やおらエールのジョッキに手を伸ばすと勢いよく一気に煽った。
「ングッ……ングング……ングッ……ぷはぁ!よし、アタイも乗った!」
一気にエールを煽るその姿はたいへん男らしいです。カメリアも乗り気になってくれたみたいだし、明日は楽しみだ。
「他に何かないか?俺今まで知らない事が結構あったみたいだし、この際色々教えてくれよ」
「そんなこと言われてもな、アタイだって他人からの又聞きだし……。ああ、こんな時アイツがいれば都合が良いのに」
「アイツ?」
「あ、いや……何でもないんだ。すまん、忘れてくれ……」
突然しおらしくなってしまったカメリア。何か言ってはいけないことを口走ってしまったのか、さっきまでが嘘のように沈んでいる。
「……なら、称号はどうだ?この称号って何のことか分からないんだけど」
せっかくの楽しい食事が台無しになるのは嫌なんで、違う話題を振ってみる。
「お、おう……称号の何が分からないんだ?」
カメリアも幸いと乗ってきてくれた。こいつの沈んだ顔は見たくないな。
「ほら、俺は『初心者冒険者』だろ?で、カメリアは『中級冒険者』だ。この違いってなんなの?」
「ああ、『中級冒険者』ってのはダンジョンを1つでも踏破したら得られる称号だ…………アタイが前にいたパーティでみんなで取ったんだ」
やべぇ~、まさかこんなところに地雷があったなんて!せっかく元の表情に戻ったカメリアが、また沈んじゃったよ。でも、これは回避不能だろ!
「ごめん、喋りにくかったら無理に言わなくても良いぞ」
「……大丈夫だ。称号ってのは、何か功績を遺したときに得られるんだけど1人1つしか付けられないんだ。新しく称号を手に入れても、ギルドで変更しないと効果がでないけどな」
カメリアの事が気になったけど、それ以上に称号のシステムの方が気になった。また出てきたぞ、ゲームのシステムみたいなものが。
「俺の称号の『初心者冒険者』ってのは、多分冒険者ギルドで登録するときに付いたんだよな?で、カメリアの『中級冒険者』はダンジョンを1つ踏破した時。その差が体力の小補正と中補正になるわけだ」
「そうだな、称号にはそれぞれ別の補正がかかってて、レアな称号ほどとんでもない能力を持っているらしい」
「レアな称号?」
「アタイも見たことは無いけど、例えば『勇者』とか『英雄』とかかな」
「いるんだ『勇者』なんて……」
異世界に転移して、なにも無く冒険者してたけど『勇者』がいるってことは『魔王』もいたりするのか?
「なあ、勇者がいるなら『魔王』もいるのか?」
「もちろんいるさ、何が条件で手に入る称号か解らないけど過去に手に入れた奴はいるらしい」
やっぱりいるんだ……。まあ、勇者も魔王も俺には関係ないけどな。
「俺今まで称号なんて気にしなかったから、ひょっとしたら増えてるかもしれないのか?」
「その可能性はあるな、称号はギルドじゃないと見れないんだよ」
「ええ、面倒くさいな。せっかく自分でステータス見れるんだから、ここから変更できればいいのに」
「アタイもそう思うけどな、何でも専用の魔道具を使わないと解らないんだと」
そんなとこだけリアルにしなくてもいいのに。ゲームのようなシステムのくせにサービスが行き届いていないな、アップデートを期待する。
「ちなみに称号はスキルみたいに売買できるのか?」
「称号はできない。あれは自分が残した功績に対して得られるものだから、それを別の誰かに渡したところで効果が無いだろうって言われている」
「へぇ、カメリアって以外に博識なんだな」
「そ、そうか?……へへ、なんかホクトに褒められると嬉しいな!」
カメリアが残ったエールを一気に煽った。そして、飲み干すと新しいものを注文する。こいつさっきから飲むペースが上がってないか?
「おい、大丈夫か?そんなペースで飲んで」
「へ?大丈夫大丈夫、鬼族が酒になんて酔う訳ないだろ?」
顔を真っ赤にして言われても、全然説得力が無いんですが……。ちょっと注意してみておこう。酔い潰れても俺だけじゃ宿まで連れて帰れなそうだし。
「なんにしても、今日2つの新しい事実が判明したな。スキルと称号、この2つはパラメータ以外で自分の能力を高めることができる可能性だ。色々検証してみるのも良いかもしれない……」
「真面目だな、ホクトは。せっかくの食事の席なんだから楽しく行こうぜ!」
「そうだな、考え込むのは帰ってからするか!」
俺もカメリアに乗せられて、新しいエールを注文することにした。
「へへぇ~♪ほくと~飲んでるかぁ~」
「……どうしてこうなった」
鬼族は酔わないなんて言ってたカメリアだったが、見事に酔い潰れている。俺も注意はしてたんだけど、そもそも自分も酒の経験が少なかったこともありカメリアの突然の変調に付いていけなかった。
「ほらほら、ホクトも飲もうぜぇ~」
「……くぅ~ん」
ポロンが酒臭さにイヤな顔をしている。その気持ちは十分理解できる。酔っ払いと言うのは古今東西、地球も異世界も関係なく面倒くさい生き物だ。どんなに美人であっても酔い潰れてしまうと、一気に色っぽさが無くなり大変残念なことになってしまう。
「カメリア飲み過ぎだ、そろそろ帰るぞ」
「えぇ~!ヤダヤダ、もっとのむぅ~!」
「ダメだ。ほら、明日買い物に行くんだろ?そろそろ帰って寝ないと、明日に響くぞ?」
「ふぇ……買い物?ホクト、アタイと買い物行くの?」
すでに記憶まで怪しくなってる。これは早々に帰った方が良さそうだ。
「そうだ、明日お前は俺と買い物に行く約束をした。忘れたり、二日酔いで動けなかったりしたら嫌いになるかもな」
「……アタイ帰る」
嫌いの単語を出したことが良かったのか、効果は抜群だ。膝に乗せていたポロンを地面に下ろして、俺は2人分の清算をする。
「あれ、アタイもだすぞ~」
「今は良いよ、後でもらうから」
「……ヒック、おぅ……わかったぁ」
こんな状態のカメリアに支払いを任せたら、どんなことになるかは火を見るよりも明らかだ。
「ご馳走さま、今日も美味しかったよ」
ウェイトレスにお金を渡して席を立つ。
「毎度どうも~♪お連れ様は大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫。同じ宿だし一緒に連れて帰るよ」
「あら、それはご馳走さま。今夜は激しそうですね~♪」
何を勘違いしたのか、ウェイトレスはニヤニヤしながら俺とカメリアを交互に見やる。この酔っ払い相手に何があると言うのか。
「ほらカメリア、肩に掴まれ。帰るぞ」
「……おぅ」
このまま時間をかければ、遠くないうちに寝てしまいそうなカメリア。カメリアの腕を取って脇の下に頭を通す。
「いくぞ……」
身長差があるから、少なくともカメリアの意識があるうちに宿まで帰り着かないと本気で途方に暮れてしまいそうだ。
俺はニヤニヤ笑いで見送るウェイトレスに手を振って店を出た。その後の事は、あんまり話したくない。途中で気持ち悪くなったカメリアを介抱したり、眠くて動けないとワガママを言うカメリアを叱咤しつつ……普段なら30分も歩けば着く宿屋までの道のりを2時間もかけて帰る羽目になった。
地球ではお酒は20歳になってから。




