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羊の夢枕亭の人々

前半はハンナちゃんの視点で話が進みます。

後半は女将さんこと、ローザさん視点で話が進みます。

「おまちどうさま~、鳥のもも肉のソテーとエールです!」


「おお、美味そうだな!待ってたよハンナちゃん」


「えへへ、さっきつまみ食いしちゃったんですけど……とってもおいしかったです!」


「お、ハンナちゃんのお墨付きか。じゃあ、こっちにも1つくれ!」


「まいど~♪」


新しい注文を受けて、わたしは厨房に戻った。


「おとーさん、鳥のもも肉ついかです」


「……おう」


わたしのおとうさん、ミリアム・ロドリー。わたしやおかあさんと違って人族で、元探索者。無口であまり喋らないけど、料理は美味しいし、仕事が終われば優しい。わたしの大好きなお父さん。


「次の料理できるまで、ちょっと休んでろ」


「うん、ありがとう!」


ホールの忙しさもひと段落した。おとうさんから許しが出たので、ちょっと休憩。


「……はぁ、ちょっと疲れたかな」


うちは宿屋と食堂をしていて、朝と夜はいっつも混んでる。おとうさんのご飯が美味しいから毎日いっぱいのお客さんが来てくれるんだよね。お客さんのほとんどは冒険者の人たちで、周りのおばちゃんたちはわたしのことを心配していた。何が心配なのか解らなかったけど、この前近所のハンスが教えてくれた。


「冒険者って、見た目怖い人たちばっかじゃん。うちの母ちゃんも言ってたぞ。あんまり冒険者に近づくなって」


冒険者が怖い人……言われてもわたしにはピンとこなかった。毎日会ってる人たちだし、うちに来る冒険者の人たちはみんな優しい。


「みんな優しいよ?」


「それって、お前の母ちゃんが怖いからだろ。お前の母ちゃん、よく男の人をぶっ飛ばしてるもんな!」


どうだろう?確かにおかあさんは、よく冒険者の人たちを叩いてるけど本気で叩いてるようには見えない。叩かれた人たちも、叩かれた後いつも笑ってるし。


「おかあさんが乱暴なのは知ってるけど、そんなの関係なくみんないい人だよ?」


「え~、うちの母ちゃん言ってたぞ!お前の母ちゃんは、この辺りのボスだって」


そうなのかな?……そうなのかもしれない。おっかない人たちも、おかあさんを見るといつもペコペコしてる。そうか、おかあさんはボスなんだ。


そんなハンスとの会話を思い出していると、おかあさんから声がかかった。


「ハンナ!悪いけど、ちょっと手伝ってくれ」


「はーい!」


おかあさんに呼ばれてそばまで行く。さっきハンスが言ってたことを思い出しちゃって、おかあさんの顔を見て笑ってしまった。


「ふふふ……」


「なんだい、思い出し笑いか?人の顔を見て笑うんじゃないよ」


「ご、ごめんなひゃい……」


思いっきりほっぺを抓られた。痛すぎず、かと言ってまたやられたくないくらいの絶妙な力加減だ。おかあさんは人を怒るのが上手い。


「ふん、どうせホクトの事でも思い出してたんだろ?」


「……ホクトお兄ちゃん?」


突然ホクトお兄ちゃんの名前が出て驚いてしまった。ホクトお兄ちゃん……本当のお兄ちゃんじゃないけど、うちに泊まってくれていた冒険者さんだ。しょっちゅうおかあさんに頭を叩かれて謝っていた。けど、本当は優しいお兄ちゃん。


「あいつがいなくなってから、そろそろ1か月か。ハンナはあいつに懐いていたから、寂しいんじゃないか?」


「大丈夫だよ!アサギお姉ちゃんもいるし……あ、でもポロンと遊べないのは寂しいかな」


「はは、ホクトの奴も飼い犬以下の扱いとはね」


ポロンはホクトお兄ちゃんが拾ってきた真っ白い犬の赤ちゃんで、わたしのお友達。宿の仕事が落ち着いたら、いっつも一緒に遊んでた。


「ポロン元気にしてるかな?……ついでにお兄ちゃんも」


「……大丈夫だろ。あいつだって冒険者の端くれだ、よその町に行ったって上手くやってるさ」


おかあさんはそう言うけど、わたしは知っている。おかあさんも時たま寂しそうにしていることを。おかあさん、ホクトお兄ちゃんの相手をしているとき、いっつも楽しそうに怒ってた。そう言う人がいなくなっちゃうのは……やっぱり寂しい。


「……」


「……ハンナ、そろそろホールに入ってくれ。忙しくなってきた」


「……わかった!」


おかあさんから言われて、私はホールへ向かって駆け出した。





「あ、アサギお姉ちゃん。こんな隅っこじゃなくて、もっと広いところに座ればいいのに」


「ハンナちゃん……いいの。今は静かに食事をしたいから」


ホクトお兄ちゃんがいなくなって、一番変わったのはアサギお姉ちゃんだと思う。ホクトお兄ちゃんと一緒の時は本当に楽しそうに喋ってたのに、今は誰とも話そうとしない。最近じゃ、わたしやおかあさんやたまに来るノルンお姉ちゃんくらいとしか会話しているのを見たことない。


「お姉ちゃん、もっと元気出さないと病気になっちゃうよ?」


「……でも、でもねハンナちゃん。今の私には圧倒的に足りないのよ!ホクトくん成分が」


「お兄ちゃんせいぶん?それって……なに?」


「ホクトくん成分っていうのは、ホクトくんの匂いだったり抱き心地だったり笑顔だったり……五感で感じるホクトくんの全てよ!」


アサギお姉ちゃんが何を言ってるのか、よくわからない。1つだけ言えるのは、お姉ちゃんはすでに病気なんだってことくらい。


「……そ、そう。早くホクトお兄ちゃん帰ってくるといいね」


「そうね……あんなダンジョンなんてさっさと踏破して、私のもとに帰ってきてほしい」


シクシクと泣きまねをする、最近お姉ちゃんがよくやる仕草なの。


「ハンナちゃんだって、早く帰ってきたらいいと思うでしょ?」


「わたし?……うぅん、そうだな。確かに早く帰ってきてほしいかも……」


「でしょ!」


「うん、早く帰ってきて溜まってる書き取りの問題を解いてほしい。お部屋でかさばって邪魔なんだよね?」


「そこ!?そこなのハンナちゃん?」


「え、うん……」


実際わたしの部屋にある机の上には、いつお兄ちゃんが帰ってきても良いようにわたしが作った書き取りのノートがいっぱい積まれている。このままじゃ床の上にまであふれてしまいそうだ。


「それじゃアサギお姉ちゃん、わたし仕事に戻るね?」


「え、ええ……あ、ハンナちゃん。エールちょうだい」


アサギお姉ちゃんは、なにか腑に落ちないって顔をしていたけど、それとはまったく関係なくいつものエールを頼んできた。このあたりのマイペースなところは変わってないかもしれない。





「ハンナ、今日はあがっていいよ!」


「わかった~!」


おかあさんから終わりを告げられ、わたしは自分の部屋に戻る。部屋に戻って服を着替えていると、視界の隅に机の上のものが目に入った。これはホクトお兄ちゃんのためにわたしが作った書き取り用のノートだ。さっきアサギお姉ちゃんにも言ったけど、そろそろ机の上から溢れそうだ。その山を見ていると、不意に涙があふれてきた……。


「ふ、ふぇ……」


さっきまでは我慢できた。でも、お兄ちゃんのためを思って作ったノートの山を見て抑えていたものが噴出した。


「ふぇぇ~~~ん、ホクトお兄ちゃん……」


寂しくない訳がない、思わない訳がない、だってあんなに遊んでくれたのだ。あんなに優しくされたのだ。お兄ちゃんが居ない事が悲しくない訳がない!


「ホ、ホクトお兄ちゃん……いつになったら帰ってきてくれるの?」


ノートの山を見ながら、ここにいないお兄ちゃんに聞いてみる。こんなに帰ってこないとは思ってもみなかった。今何をしているの?怪我をしないで元気にしているの?


「さみしいよ……お兄ちゃん」


今までにもわたしに優しくしてくれた冒険者の人はいっぱいいた。その人たちから可愛がられても、その人たちが居なくなった後にここまで寂しかったことはない。でも今回はダメだった……わたしどうしちゃったんだろう?


「……グスッ。お兄ちゃん、今度帰ってきたら酷いんだから。わたしが良いって言うまで書き取りの勉強やってもらうんだから……」


寂しさを紛らわすために布団に潜り込む。そのまま枕にギュッとしがみついていると、いつの間にかわたしは眠ってしまった。





「……今日もお疲れ」


「あんたもね」


チンッ


宿屋のみんなが寝静まった頃、私と旦那はいつものようにグラスをぶつけた。これは毎日の日課であり、ロドリー家のルールみたいなもんだ。夜、全ての仕事が終わってから旦那と私でそれぞれ今日あったことを報告しあう。宿の事で気付いたこと、問題点など、とにかく何でも話すのが私たちのルールだ。


「ゴク……ゴクッ……ふぅ。ハンナの奴無理してるな」


唐突に旦那が切り出した。みんなからは無口だなんだと言われているけど、私には比較的良く話す。まあ、伊達に長い付き合いじゃない。


「ゴクッ……ゴクッゴクッ……ぷはぁ。そうだね……」


ハンナの事は私も気付いていた。ホクトが宿を出てから結構経つが、未だに慣れないのか時折泣きそうな顔をしている。あれで本人は周りに気付かれていないと思っているあたり、まだまだ子供だ。


「こういうことは、ゴクッ……時間が解決してくれるさ」


「まあそうなんだが、男親としては複雑だな。娘がよその男の帰りを寂しそうに待ってるってのは……」


「あんた、もう酔ったのかい?ハンナのは、そう言うんじゃないだろ」


「そんな事は知っている。……だが、男親ってのはそういうもんだ。例え相手が兄のように慕っていた奴だったとしてもな」


驚いた。確かに子煩悩な旦那だが、あまりそういうことは表に出さない質だ。ホクトに対して密かにそんなことを思ってたなんて。


「ホクトも帰ってきたら大変だ、あんたの剛腕が久しぶりに見れそうだね」


「ゴク……ゴクッゴクッ、ふぅ……お前だって人の事言えないだろ?」


「……私がどうしたって?」


「お前は隠すのが上手いが、オレには通用しないぞ。実は結構気に入ってたろ、あのホクトって坊主の事」


「ハッ、何言ってんだい。そんなことあるもんかい」


「言ったろ?オレにはお見通しだって」


まったく……これだから長年の連れ合いっては嫌になる。私の心の奥底まで覗かれてる気分だ。まあ、嫌って訳じゃないけど……。


「私は別に……ただ、叩く頭が近くになってのは収まりが悪いだけさ」


「……ふぅん」


「チッ」


思わず舌打ちが出てしまう。


「早く戻ってくるといいな、ハンナの為にも」


「そうだね、ハンナの為にも」


いつの間にやら業務報告の時間が、ホクトの話しに置き換わってしまっていた。とりあえず、あいつが帰ってきたら一発殴ろう。私は、そう心に誓った。

ハンナちゃんのお父さん初登場。

こんな風に思われていることにホクトくんは感謝すべきでしょう。

今頃盛大にクシャミを連発しているかもしれませんが。


主観視点は、他の人たちの心情を書き難いので今後も間章などで他の人たち視点の

やり取りを書いていきたいです。書いてて新鮮ですし・・・。

これで間章2は終わりです。

感想などいただけると励みになります。


明日から4章を始めます。

引き続きよろしくお願いします。

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