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寂しいとき!ダッジ式解決方法

ダッジ視点で話しが進みます。

目の前の訓練場を見渡す。少し前には考えられないほど、この場所は活気に満ちている。ここが、これほど人で溢れたのも不肖の弟子、ホクトのお蔭だろう。


オレの名はダッジ、リーザス冒険者ギルドのBランク冒険者だ。最近は後進の育成に力を入れている。ホクトと出会ったのも、そんなギルドの要請を受けて参加した新人冒険者の力量テストだった。久しぶりにオレと同じ拳闘士のヒヨッ子を見つけて、ちょっと揉んでやろうと目を付けたんだが、あいつは本当に何も知らなかった。間合いの取り方どころか拳の握り方すらしらない、ずぶの素人。


「それが、いざ戦闘になったらどうだ……」


「何がですか?」


突然の思考への割り込みに驚いて横を見た。そこにはギルドの制服を着た受付嬢が立っていた。ノルン・ウィスパー、ホクトの担当受付嬢であり、オレの同僚だ。


「珍しいな、お前さんがここに来るなんて……」


「ええ、ちょっとご報告とご相談がありまして……っつ」


「……どうした?そう言えば顔色が優れないな。風邪か?」


気付かなかったが、ノルンの顔は少し青ざめて見える。この娘が自己管理を怠るとは珍しい事だ。


「すいません、実は昨日少し飲み過ぎまして……」


「ほぅ、そりゃ明日は槍でも降るんじゃないか?お前さんが飲み過ぎで二日酔いとは、天変地異の前触れか?」


「もう、茶化さないでください。昨日は色々あったんですよ……アサギさんと」


その一言で納得がいった。そうか、アサギに付き合って深酒をしてしまったのか。この娘は本当に真面目な子だ。冒険者のプライベートな時間が職員からしたら時間外の事だろうに。


「あいつは、相変わらずか?」


「はい……あれはしばらくは使い物にならなそうです」


アサギ・ムラクモ、ホクトをこの町に連れてきた張本人だ。道で迷っていたところを保護したと言っていたが、ちょっと離れ離れになっただけでこうも塞ぎ込むとは。


「ホクトが町を出てから、どれくらい経ったか?」


「今日でちょうど2週間ですかね」


「……まだしばらくは使い物にならんな」


「……そうですね」


まったく、難儀なものだ。


「それで、報告と言うのは?」


「そうでした、先ほどソウルさん達が戻ってきまして……Cランクへ昇格しました」


「もうか!?遅かれ早かれなるとは思っていたが、予想以上に早かったな」


ホクトの悪友、ソウル・スタントがCランクになった。これは異例の速さでのスピード昇格となる。


「ソウルさんもですが、同じパーティのお2人もずば抜けていますから」


「それは確かにそうだが、やはりソウルの力があってこそだろう」


「そう言うものですか?」


「ノルンは、ホクトとソウルの闘いを見ていなかったな」


「はい、その時は別の職員がホクトさんを誘導しましたので」


なら仕方ないか、あの闘いを見ていなければソウルなぞ、ただの女ったらしにしか見えないだろう。あいつも普段はちゃらんぽらんのナンパ野郎だ。パーティメンバーの募集をナンパと勘違いしている節がある。


「そんなに凄かったんですか?」


「凄いなんてものじゃない、ソウルの初撃を見た瞬間鳥肌が立った」


ノルンが唖然としている。そりゃそうだろう、オレは腐ってもBランク冒険者だ。これまでにも凶悪な魔物を何体も倒してきた。ドラゴンこそ戦ったことは無いが、Aランクの魔物だって中にはいた。そんなオレですら恐怖を感じるレベルの攻撃を新人冒険者がしたのだ。


「化け物クラスじゃないですか!?」


「あいつは間違いなくAランク、下手したらSランクまで行くかもな」


「はぁ~、凄いですねソウルさんって……」


「そうだ凄いんだよ。そして、その初撃を受けて立ち上がったホクトもな」


「え、ホクトさんがですか?」


ノルンの反応に思わず苦笑いが出る。やっぱり解ってないか……。


「試験の時、ソウルの対戦相手はホクトだった。オレが恐れた一撃をホクトはまともに受けて、そして立ち上がったんだ。これがどれだけ凄い事か解るか?」


「……信じられません、あのホクトさんが」


「普段のお前さんとホクトのやり取りを見てるとな。お前さんホクトを弟みたいに思ってるだろう?あれも、ああ見えて冒険者の端くれだ」


「そんなことは解ってます!ホクトさんは十分以上の結果を残してきてます」


その認識からして間違いなんだが、今のランク制ではその評価が精一杯だろう。


「将来Sランクになるかもって男と、真っ向から闘って引き分けたんだぞ?ホクトは」


「……へっ?」


「なんだ試験の結果見てなかったのか?ギルド内に張り出されてただろう?」


「見てませんでした……試験とは足切りを見極めるためのものなので、そこまで興味を持っていませんでした」


こういう抜けてるところもあるから、この娘は人気があるんだろうな。若い連中の多くが入れ込んでいるギルドの受付嬢、ちょっとくらい抜けてる方が人間味が出るのかもしれないな。


「そもそも、そんな結果を出したのに何故ホクトさんは1か月もダッジさんの監視が付いたんですか?それだけ凄いなら、普通に考えて監視なんていらないじゃないですか」


「そりゃ、オレが上にねじ込んだからな」


「酷い!それって職権乱用じゃないですか!?」


「酷くない。当時のあいつじゃ、放っておいたら死んじまっていた可能性の方が高い。だから、その前にオレが戦い方を教えてやったんだよ」


「それにしたって……ホクトさん、そのせいで自由に依頼を受けられなかったんだすよ!?」


「確かに周りの同期からは出遅れたかもしれない。だが、結果的に今のあいつは格段に強くなってる」


そもそも拳闘士なんて職業、希少過ぎてだれも教えることができないし、聞かれても困るだろう。俺以外はな。


「なんか色々納得できませんが……ホクトさんの何がどう凄いんですか?」


喰い気味に聞いてくる。まあ、この娘にとってもホクトは気になる存在と言う訳だ。我が不肖の弟子のくせに、なかなかやるじゃないか。


「あまり人に言うなよ?」


「言いませんよ、それくらいの分別は持っているつもりです」


「……ホクトはな、目が良いんだ。それも、ものすごく」


「目……ですか?それって、視力が良いって事ですか?」


一般人が目が良いと言われて真っ先に思い浮かべるのが、まさしく視力だろう。だが良いに越したことは無いが、そこまでの差になる訳でも無い。


「視力じゃなくてな、物体を捉える力……というのか?そういった能力がずば抜けているんだ」


「物体を捉える……動体視力ですか?」


「ああ、そうそう。それだ、動体視力」


オレの頭じゃ適切な単語が出てこなかったけど、ノルンは最適な単語を言ってくれた。動体視力……この能力が高いと戦闘中一気に有利になれる。


「動体視力ってのは、つまり物体を捉える力だ」


「……ダッジさん、今のは少し馬鹿みたいに聞こえますよ?」


「うるさい!オレだって苦手な事くらいある。とにかくだ、戦闘中に動体視力が高いと相手の攻撃や体捌きなんかが良く見える。オレも悪くはないがな、ホクトが実際どの程度見えるのかは奴だけが知っていることだ」


「動体視力、それが凄いことは解りますが、でもそれだけで強いって言われるものなんですか?」


「そんなことは無い。どんなに動体視力が良くても、それを支える身体能力が無いと宝の持ち腐れだ」


「ですよね……と言うことはホクトさんは身体能力も高かったんですか?」


「高かったらソウルに勝ってたろうな」


今のホクトと、試験の時のソウルなら互角の戦いができたかもしれない。でも、当時のホクトは素手で戦う行為自体が初めてで、どう身体を動かせば良いのかすら知らなかった。これは素手で戦うには致命的だ。


「あのころのホクトじゃ、どう逆立ちしてもソウルには勝てなかった。なのにあいつは引き分けまで持って行ったんだ。正直我が目を疑ったよ、あり得ないことが起こったって」


「そこまでですか」


「ホクトに勝つ術は何もなかった。攻撃しても当たらない、当たっても大したダメージにならない。避け続けるには身体能力が足りない、無いもの尽くしでオレなら棄権してるな」


本当に今考えても不思議で仕方ない。なぜあいつはソウルと引き分けにできたのか?神様の悪戯があったとしか思えない出来事だ。


「それで、ホクトさんはどうやって引き分けに持っていったんですか?」


「わからん、オレが教えてほしいくらいだ。ただ、ソウルの一撃で意識を刈り取るような攻撃をすべて受けながら、急所にだけは当たらないように動いていた。それで粘って粘って、星を掴むようなあり得ない奇跡に縋った結果が引き分けだ」


「ソウルさんが本気を出していなかった……とか?」


「確かに途中までは本気じゃなかった。だが、最後の方は紛れもなく本気だったよ。あいつ、後で悔やんでいたけど大勢の前でユニークスキルを使ってしまったからな」


「ユニークスキル……そこまで追い込まれたって事ですか?」


「咄嗟に使ってしまったらしい。まあ、その辺りソウルもまだ未熟だな」


でもそれだけだ。オレが見たソウルのユニークスキル『ドッペルゲンガー』は初見じゃまず回避できない。オレがホクトに代わって闘っていたとして、あのユニークスキルを初見で見極める事なんで絶対無理だ。


「初見殺しのユニークスキル。ソウルのは、そう言う類のものだ。なのにホクトは避けた。ただ避けただけじゃなく、ソウルのユニークスキルの攻撃に合わせて反撃までしたんだ……解るか?これが、どれだけ異常なことかを」


「落ち着いてくださいダッジさん」


おっと、あの時の興奮がぶり返してきた。あれは、それくらいの奇跡だ。オレには真似できないことをやった奴がいるのだ。しかも、それが何の因果かオレの弟子になるなんて興奮が抑えられるわけがない。


「オレは神に感謝したよ、そんな逸材をオレが鍛える事ができることに」


「結局、ダッジさんもホクトさんにメロメロなんですね」


何か微笑ましいものを見る目で見られた。年下の、それも娘程度の歳の同僚にそんな目をされると恥ずかしくなってくる。


「やめろ、オレをそんな目で見るな」


「はいはい……うふふ」


話しはここまでとばかりに視線を訓練場の方に向ける。すると、いつの間にかオレとノルンの近くに訓練生たちが集まっていた。


「……なんだ?どうしたお前たち」


「どうしたじゃないですよ教官!何ひとりだけノルンちゃんと楽しそうに話してるんですか!俺たちも混ぜてください!」


「そうだそうだ!!」


「おっさんは、若い子を独り占めにするな!」


オレが見ていた訓練生たちが、好き勝手言い始める。


「……ほう?今日は腰が立たなくなるまで(しご)かれる事が望みか。良いだろう、全員纏めて面倒を見てやる!」


「うわぁ!?」


「やばい、逃げろ!」


「おっさん、大人げない!」


「うるさい!それにさっきからおっさんおっさん呼んでる奴、お前は他の奴の3倍扱いてやるから、死んでも文句言うなよ!!!」


「「「うわぁ、おっさんがキレた!!!」」」


こうしてオレはノルンからの視線を誤魔化すために、生贄となった訓練生たちを徹底的に扱く事にしたのだった。


「……うふふ、ダッジさんも寂しかったのね」


そんなノルンの呟きは、すでに聞こえていなかった。

ダッジ式のストレス発散法は、下を扱く事でした。

いやですね、こんな上司。


周りの自分への評価が変わっていくさまっていうのは、熱い展開で私は好きです。

特に今回の間章はホクト以外の視点なので、その辺りが上手く表現できるといいなと思っています。


あと1本間章を書いて3章に入ります。

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