16話 モンスターハウス(後編)
追記:文末の・・・を……に変更しました。
守りを意識しだしたオークたちは堅牢だった。俺も動く範囲を限定されるから、上手く隙を誘導できない。結果的にカメリアも一撃で倒すことができなくなり、泥沼のような混戦にもつれ込んだ。
「ぐぅ!……この野郎!」
殴り殴られ、俺もカメリアも身体へのダメージが蓄積して上手く動けなくなってきた。
「カメリア、大丈夫か?」
「うるさい、黙って戦え!」
カメリアも大分やばそうだ。それでも1対1の状態を作り出して上手い事戦っている。当然こぼれるオークがいて、そいつらは俺に群がってくるわけだけど、これは元々の作戦通りと言えば作戦通り。ただ想定と違うのが、いつまでもカメリアの攻撃が無いから一向に数が減らない。ここに来て俺たちの殲滅力は落ちていた。
「……まずいな。何とかしないと、そのうち動けなくなる」
それが解っているから焦る。その結果、俺は被弾が増えてより動けなくなる。わかっちゃいるけど、ここにきて経験の低さが露呈してきた。
「こうなったら、出し惜しみしている場合じゃない。俺もオークを倒す気で行かないと詰むな……」
つまり魔力も精神力もフルに使っての死闘になるってことだ。先が見えない戦いではやりたくない選択肢だけど、この際仕方ない。俺たちには選択肢がない。
「いい加減、死ねよ!」
オークの腕を掻い潜って懐に潜り込み、膝に向かって左拳を叩きつける。ただ殴っただけでは大したダメージにはならないけど、俺には浸透がある。
「ブモォ!?」
悲鳴を上げるオーク、下がる頭に向けて今度は右拳を叩き込む。
「まず1匹!」
浸透に頭が破裂したオーク、ようやく1匹倒したと安心した矢先
「ぐおぉ!?」
空中にいる俺をオークたちは見逃してくれなかった。まるでハエ叩きのように、棍棒を使って俺を地面へ叩きつける。1回バウンドして勢いは無くなったけど、これはやばい……左腕が動かなくなった。
「うぅ……いってぇ……」
見ると左腕は肩の方からダラリと垂れ下がるだけで、俺の意思では動かなくなってしまった。
「これは、折れた感じはしないから……肩が外れたのか?」
脱臼……そんな単語が頭に浮かんだ。これで浸透は右手でしか打てなくなった。そうなると、当然殲滅力はまた下がる。
「ブフォッフォ!」
喜んでいるのか、オークたちが笑っているように見える。
「この豚野郎どもが……もう買った気でいるのか」
カメリアの方を見ると1匹倒して2匹目と戦っていた、これであと4匹。戦線を維持するのもそろそろ限界だ……特に俺の方が。
「オーク1匹は、浸透が頭に当たらないと一撃で倒せない。頭に直接攻撃するためには、足にダメージを与えて届く距離まで下げさせる必要がある。足にダメージを与えるためには強力な攻撃、つまり浸透が必要。で、今左手が使えないから浸透を連発することができない……あれ、これ詰んでね?」
解ってることを声に出していってみる。現状は詰んでる、俺の目の前にいるオーク3匹を倒す方法が思いつかない。さあ、どうする?
「「「ブオォォォォ!!!」」」
3匹のオークが一斉にかかってきた。くそ、考える余裕もない。四方八方からの攻撃を避けて、避けて、避けまくる。躱し、いなす。距離を取りたいことだけど、それをさせてくれるほどオークたちは馬鹿ではないようだ。
「……ハア、ハア……ハァ……」
酸素が足りない。今は何とか避けているけど、酸欠で判断が鈍ればあっという間に殺されてしまう。
左右にいるオークが足元を狙って棍棒を払う。仕方なくジャンプして避けるけど、これは当然罠だ。残りのオークが棍棒を振り上げて、目一杯の力で振り下ろす。
「!!!」
足が地面に着くのが一瞬早かった。咄嗟に足に魔力を流してブースト。姿勢を低くして棍棒を掻い潜り、オークの股下も通り抜ける。そのとき、目の前にこれ以上ないくらいの急所が俺の目の前に露わになった。
「見たくねぇ!!!」
爪先を思いっきり袋に突き立てると、何かが潰れる感触が足先から感じ取れた。
「プギィィギャァァァ!」
玉を潰されたオークはそのまま蹲る。俺はオークの背を駆け上がって後頭部に向けて右拳を叩き込む。
「気持ち悪い事、させやがって!」
鬱憤をオークに叩きつける。玉を潰され、頭を潰されたオークにとっては八つ当たり以外の何物でもない。
「おぇ……あの感触は夢に見そうだ」
「何の感触だ?」
背中側からの声に驚いて振り返る。そこには同じく背中合わせのカメリアがいた。
「あれ、いつのまに……」
「お前がオークの背中を駆け上がった頃だ。やるじゃないかホクト」
良かった、股下を潜って玉を潰したところは見てないようだ。見ていたら、何を言われるか分かったもんじゃない。
「調子はどうだ?」
「悪くない、そっちは?」
「左腕が使えなくなったくらいだ、特に問題ない」
「そうか……あと3匹。倒せそうか?」
「どうだろう……まあ、何とかなるんじゃないか?」
あと3匹、良くここまで来れたもんだと思う。すべてを出し尽くして辿り着いた感じだ。
「俺が左腕、カメリアが右腕……これはバランスがいいな」
「ははは、そう考えれば確かにそうだ」
背中合わせに感じるカメリアの鼓動と息遣い。まだピンチは脱していないけど、なんとかく安心できる。とりとめ無いやり取りも心を落ち着かせてくれる。お互いの目の前にはオークが鼻息荒く佇んでいる。
「いくか……」
「おう……」
同時に走り出す。オークの射程入る直前に足に力を入れて減速、払い除けようと出された棍棒をやり過ごす。そこから魔力を足に流しての再加速、一気に懐に飛び込む。
「ブオォォォ!!!」
オークが雄叫びをあげて棍棒を返してくる。
「待ってたぜ!」
ジャンプして棍棒に掴まる。色々と考え抜いてこの案を思いついた。棍棒に掴まれば頭の上まで連れてってくれるんじゃないか?って。
「俺って天才だな!」
オークの頭の上まで上がったところで手を離して頭に飛びかかる。
「死ね!」
右拳をオークの側頭部に叩き込む。
「プギィヤァァァァ!!!」
頭を破裂させて倒れ込むオーク、残り2匹。そう思った俺の耳に悲鳴が飛び込んできた。
「キャァァァ~~~!!!」
声の方を振り向くと、カメリアが地面に倒れていた。何があった?殴られたのか?近くにいるオークを見ても状況がよく分からない。
「ブフゥゥゥ……」
倒れたカメリアへ近づくオーク。やばい、このままじゃ捕まる。
「カメリア!逃げろ~~!!」
気は失っていなかったようで、俺の声を聞いたカメリアは片腕で身体を引き上げるように逃げる。
「あいつ、足をやられたのか!?」
慌ててカメリアの方に近づこうとしたら、目の前にオークが立って通せんぼをする。
「このぉクソ豚!そこをどけ!」
「ブフォオォォォ!」
こいつ、笑いやがった。
「待ってろカメリア、すぐ助けに行く!」
目の前のオークに向かってダッシュすると、オークがヒラリと後ろに避けた。
「……?」
どういうつもりだ?
「ブフゥゥ……」
まともに戦うつもりが無いのか?なら、まずはカメリアの安全を先に確保しよう。俺はオークの横を通り抜けようと駆け出した。でも、今度はオークが目の前に立ち塞がる。
「……お前、どういうつもりだ?」
相手の意図が理解できない。なぜ、このオークは俺が攻撃しようとしたときに避けた?どうして横を通り抜けようとしたときに邪魔をした?
「……まさか、時間稼ぎか?」
ある答えに辿り着いたとき、オークの顔が邪悪に歪んだ。
「ブッフォッフォォ!」
オーク越しに見えるカメリアは、もう捕まりそうだ。つまり、コイツは時間稼ぎをして仲間がカメリアを捕獲するのを待っているんだ。何のために?
「人質……か」
最悪のシナリオだ。カメリアの生死を人質にされたら、俺はどうしたらいい?無視して攻撃するか……俺にそんなことができる訳ない。
「クソッ、オークってのはこんなにも頭が良いものなのか?」
ゲームや小説の中のオークとは大違いだ。とはいえ、カメリアが後ろのオークに捕まるまでに、せめて目の前のコイツは倒しておきたい。
「……」
逃げ回る奴を相手にどうすればいいか、決まってる。
「うおぉぉぉぉ~~!」
オーク目掛けて突っ込んだ。俺には頭を使って罠に嵌めるような知略はない。とにかく動いて、動いて、動き回ってやる。
オークの懐に飛び込むようにダッシュ、後ろに引いて避けようとしているオークを見ながら右に直角に曲がる。
「ブフォ!?」
突っ込んでくると思ったオークは慌てて、俺の前に回り込むように動く。俺はその動きを皮膚の皺まで見える極限状態の中で観察する。オークの左足に重心が移る。
「今だ!」
咄嗟に右足に魔力を流して左前方にブースト。左足に重心が移った瞬間のオークは動こうにも身体の重さで上手くできない。その隙を見逃さず横をすり抜けるように動く。
「ブフォオォォ!」
オークは左足から重心を右足に移すべく体重移動を行う。身体の思いオークが重心を逆足に動かすとき、自然と重心が下がる。この時を待っていた。
オークに向かってジャンプ、だけどまだ頭まで足りない。俺はオークの右足の膝に足をかけてさらに跳躍。俺の目線とオークの目線の高さが揃う。
「浸透!」
オークの眉間に右拳を叩き込み魔力を開放する。顔面が爆ぜて動かなくなったオークには目もくれず、カメリアの方へ駆け出す。しかし……。
「ブフォッフォ……」
一歩遅かった。カメリアはオークに鷲掴みにされて身動きが取れなくなっていた。
「ホクト……すまねえ」
握られた圧力に顔を歪めながらも、俺に謝ってくるカメリア。せっかくここまで来たのに、こんなところで終わりなのか。
「ちょっと待っててよ、今助けるから」
「無理だ……こうなったら、お前だけでも逃げろ……」
「悪いけど、それだけは嫌だ。俺は絶対カメリアを助ける」
「なんで……なんでだよ。ホクトにはアタイと心中する理由なんてないだろう!」
「そりゃ心中する理由なんてない。だけど、だからって見殺しにできるほど浅い関係でもない。せっかく打ち解けることができたんだ、ここは絶対カメリアを助けて2人でダンジョンを脱出する」
驚いた顔をしたカメリア、その顔はちょっとおかしかった。
「待ってろ、絶対に助けてやる!」
そう言ってオークに駆け出す。オークの方も分かっていたようで、カメリアを立てにするように突き出す。これでは攻撃しても、オークでなくてカメリアに当たっちゃう。オークの奴、人質だけじゃなくてカメリアを盾としても使う気か。
「ブッフォォ……」
立ち止まった俺を見て何を考えたのか、邪悪な笑みを湛えながら掴んでいるカメリアの左腕を摘まむ。
「おい、ちょっと待てよ!」
言うよりも早く、オークはカメリアの左腕を摘まむ指に力を入れた。
パキィィィ!
「ギャァァァァ~~!」
折りやがった。
「お前!なんで、こんなことを!?」
「ブフォッフォッフォォ!!」
俺の慌てっぷりがお気に召したのか、更に笑い声をあげるオーク。ここまで下衆な奴は初めて見た。
「カメリア、大丈夫か!?」
「あ、ああ……これくらいなんてことない……」
顔を真っ青にしながらも、気丈に答えてくる。いくら頑丈な鬼族と言えど、こんな仕打ちにどれだけ耐えられるものか解らない。悪戯に時間を費やせば、オークはどんどんカメリアを痛めつけるだろう。ここは俺も覚悟を決めよう。
「……カメリア、先に謝っておく。ゴメンな、ちょっとの間我慢してくれ」
俺の言葉を受けて、なにか悟ったのか笑顔を向けてくれた。
「ホクト……お前のことを信じる。この下衆をとっとと倒して町に帰ろう」
「おう、任せておけ!」
カメリアの返事を聞いて、俺は再度オークに向けて駆け出した。奴は懲りずにカメリアを盾にして、今度は右足を摘まんで一気に力を入れた。
「グアァァァァ~~~!!!」
絶叫をあげるカメリアと、それを見てサディスティックな表情を浮かべるオーク。
「ブフォッフォォォ……ブホ?」
てっきり俺がまた立ち止まると思っていたのか、カメリアの声を聞いて尚足を止めない俺をみて驚愕の表情を浮かべるオーク。
「残念だったな、俺たちはすでに覚悟を決めてるんだよ。例え五体満足じゃなくても、絶対お前は倒す!」
苦しそうに呻くカメリア、待ってろ今助けてやる。
掴まれたカメリアの横をすり抜け、オークの胴体に近づく。カメリアも覚悟を決めたんだ、俺もただでは終われない。走りながら右手で左手を掴む、下方に力を入れて強引に肩を嵌めこむ。
「グアァァァァ~~~!!!」
地獄のような痛みに耐え、何とか腕が動くようになった。とりあえず動けばいい、ちゃんとした治療は街に戻ってからやる。最悪動かなくなっても、今死ぬよりはマシだ。
左手に魔力を集める、ここ最近ずっとやってきた動作。振りかぶって殴りつけると言うよりも添えるような動作で、オークの膝に左手を当てる。
「まず、膝だ!」
魔力を開放をすると、オークの足が波打つ。直後一気に爆ぜた。
「ブフォォォォ~~~~!」
余りの痛みにカメリアを掴んでいた手を開いてしまう。カメリアは重力に従って落下するけど、今は構っていられない。下がってきた頭に目標を設定して右拳を振り上げる。
「お前のような下衆い奴なら、こっちも遠慮しなくていいから楽だな。とっととクタバレ!!!」
パァン!
最後のオークが地面に倒れた。こうして、俺とカメリアはモンスターハウス内にいたすべての魔物を倒すことができた。
名前:ホクト・ミシマ
性別:男
年齢:17
レベル:16↑
職業:拳闘士(Lv4)
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体力 :251 +16↑
精神力:156 +10↑
攻撃力:170(+5) +5↑
防御力:177(+6) +7
敏捷 :325(+3) +13↑
知能 :2
魔力 :133 +12↑
運 :41
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スキル:
ダーレン大陸共通言語(Lv2)
鷹の目(Lv9)↑、集中(Lv9)↑
気配感知(Lv2)↑、魔力制御(Lv3)
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称号 :
初心者冒険者(体力に小補正)
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装備 :
皮の籠手(攻撃力+5)
ショートソード(攻撃力+5)
皮鎧(防御力+6)
グリーブ(敏捷+3)
3章も、明日のエピローグで終わりとなります。
明日もよろしくお願いします。




