11話 またまた鬼現る
追記:文末の・・・を……に変更しました。
拝啓
お父さんお母さん、異世界とは本当に理解に苦しむ場所であり……。
「聞いていますか、ホクトさん?」
「え、ああ聞いてなかった」
「もう、ちゃんと聞いてください!」
目の前でアーネちゃんが頭から湯気をピーッと吹いている……古典的だ。俺は今、アーネちゃんに連れられて鬼女と一緒にギルドの応接室にいる。なんで、こんなにテンションが低いかと言うと……。
「アタイに非は無い!全部、そこの男が悪いんだ!!」
目の前で真っ赤な髪を逆立てながら怒る女のせいだ。こいつは、ここに連れて来られてからも一貫して自分は悪くない、俺が悪いと騒ぎ立てている。俺の話しなんて聞いちゃいねぇ。
「カメリアさんも落ち着いてください、このままじゃ話しが進みません!」
それに乗っかるように声を荒げるアーネちゃん。まるで、天災直前の動物園のようだ。とにかくうるさい。
「アーネはどっちの味方なんだ!」
「どちらの味方でもありません!私はギルド職員として、公平にお2人の話を聞く義務があります」
アーネちゃん、あんなに子供っぽいのに難しい言葉知ってるんだね。お兄さん驚いちゃったよ。……あぁ、ダメだ。何もかもが面倒くさい……。
「なあ、俺帰っていいか?早く宿決めないと野宿になりそうなんだけど」
「ホクトさんも真面目にやってください!あなたの今後にも関わってくるんですよ?」
「そうは言ってもなぁ……ここまで話を聞く気のない奴相手に、何を言えばいいんだよ」
「それは……そうですが。……いえ、それでも居てもらわないと困ります!」
なら、とっとと話を進めてくれないかな。
「とにかくです!カメリアさん、いい加減協力してくれないと、ギルドとしてペナルティを課しますよ?」
「なんでアタイがペナルティを受けなきゃならないんだ!ペナルティを受けるのは、そっちの男の方だろ!」
「……話す気は無いんですね?」
うお、いきなり声が底冷えするほどに低くなった。アーネちゃんがついにキレるか?
「うっ、とにかくアタイは何も悪い事はしてねぇ!」
「…………グスッ」
「「え!?」」
「ひっく……うぇ……」
え、なにこの超展開。アーネちゃんがお目々に涙を溜めて、まさに決壊寸前だ。
「ちょ、アーネ?なにも泣かなくても……」
「だぁって……かめりぁさんが……はなしをきぃてくれなぃのがわるぃんじゃなぃですかぁ……」
ああ、もう駄目だ……来るぞ。
「びぃえぇぇぇ~~~~~~ん!!!」
「「泣いたぁ!?」」
その後は、もう大変だった。騒ぎを聞きつけた別の職員が乱入。泣き止まないアーネちゃんを宥め賺し、状況把握のため俺と鬼女を延々問い詰め、全てが落ち着いたころには辺りは真っ暗になっていた。
「……ひっく……ずびっ」
落ち着いたとはいえ、まだ鼻をすすっているアーネちゃん。この子もすごいな、まさに音響兵器ってくらいに泣き喚いていた。
「アーネ、悪かったからさ。もう、泣き止めよ」
「……ちゃんと、話してくれますか?」
「話す、話すよ」
「……ホクトさんもですよ?」
「ああ、とは言っても俺は全部アーネちゃんに話してるはずだけどな」
「あぁん?てめぇに都合のいいことばっかり言ったんじゃないのか?」
「俺は起こったことをそのまま伝えたんだよ。お前の方こそ、何も話そうとしなかったくせに」
「……じぃ~、また、けんかするのぉ?」
あ、やばい・・。
「「ごめんなさい」」
泣く子には勝てん。それは鬼女も同じようで、しきりにアーネちゃんを気遣っている。なんだ、こいつちゃんと人のこと労われるんじゃないか。
「さて、まずはカメリアさんにお聞きします。工夫達の洞窟の中でホクトさん、こちらの男性に会いましたか?」
アーネちゃんが立ち直ってギルド職員の顔になった。やっとまともな取り調べが始まるよ、ここまで長かったなぁ。
「……あぁ、会った」
「そのとき、ホクトさんはカメリアさんが危なかったことから手助けをしたとおっしゃっていましたが、それは本当ですか?」
「あれは!……あんなのは危ないとは言わない」
あれが危なく無かったら、何だっていうんだ。ひょっとして、鬼女的に死が確定するまでは危なくないのか?
「そうですか。では、戦闘後にホクトさんから割り込んだことについて謝罪がありましたか?」
「……あった……ような気がする」
「では、謝罪をしたホクトさんにあなたは何をしましたか?」
いよいよ核心だ。ほら、はきはき喋らんかい!
「……なぐった」
「え、聞こえませんよ?」
「殴ったんだよ!」
やっとゲロッたか。ほんと、この証言を引き出すためにどれだけ労力を割いたことか……。まあ、これで俺の言っていたことは真実だと証明された訳だ。
「ここまではホクトさんの証言と食い違いはありません」
「当然だ、俺は本当の事しか喋ってない」
すると、みるみる鬼女の顔が真っ赤になっていく。こいつ沸点低いなぁ。
「だけど!こいつがアタイの尊厳を踏み躙ったことは間違いないんだ」
「では、次にその尊厳を踏み躙った部分についてお聞きします。私としてもホクトさんの行動に落ち度は無かったと思いました。それは、鬼族だけが感じることなのですか?」
おお、アーネちゃんが踏み込んだ。
「……」
「私は最初、ドロップ品の割り当てで不満が出たことが原因ではないかと疑いました。でも、ホクトさんに聞いたらカメリアさんはドロップ品を取らずにその場を後にしたと言っています。この点は合っていますか?」
「合ってるよ。アタイは別に素材が欲しくてダンジョンに潜ってるんじゃないからな」
素材が目的じゃない?じゃあ、この鬼女がダンジョンに潜る目的ってなんだ?
「アタイは強くなりたいんだ。1匹でも多くの魔物と戦って、心身ともに強くなりたい。だから、多少無茶でも独りでダンジョンに潜るし怪我を負うかもしれない。でも、それがアタイの訓練なんだ。……それを、こいつが」
「え、それだけ?」
「それだけとは何だ!アタイは自分を鍛えることに命を懸けてるんだ。お前らみたいに金儲けが目的の奴らがアタイの邪魔をするのが一番腹が立つんだよ!!」
「……そう、なのかもしれない。けど、それって尊厳を踏み躙るって言うか?」
「……え、違うのか?」
あ、この鬼女俺と同類だ。知能一桁の奴の反応だ。
「カメリアさん、尊厳かどうかは分かりませんが。カメリアさんの言い分を聞く限りでは癪に障ったから殴った……ということになりますよ?」
「え、え?」
「あれくらいの事で癇癪起こすって事は、俺以外の奴に何かされたのか?」
そうとしか考えられない。なぜ殴られたのか、未だに意味不明だしさっきの話を聞く限り金稼ぎにダンジョン潜る奴全員が嫌悪の対象って感じがする。
「ここに来てからも思ってたんだけど、あんた沸点低過ぎだ。それで殴られるこっちとしては堪ったもんじゃないぞ」
「でも、てめぇだって金を稼ぐためにダンジョンに潜ってんだろ?」
「う~ん、確かに金は大事だけど。俺今回が初ダンジョンだったし、どちらかと言うと好奇心の方が強かったかな」
「……うぇ、アタイの勘違い?」
あ、目に見えて落ち込みだした。さっきまで怒髪天を衝く勢いで髪の毛が逆立ってたけど、今は見事にしんなりしてる。やっと勘違いに気付いてくれた。
「では、これで聴取を終わりにしますけど何か言っておくことはありますか?」
アーネちゃんが締めに入った。まあ、もう外真っ暗だしな。
「じゃあ俺から。あのときのドロップ品預かってるんだ。袋別にしてるから、これで全部のはずだ……ほらっ」
俺は革袋を鬼女に投げる。
「……え?」
慌てて両手で受け取る鬼女。よし、これで後腐れ無し!
「俺の用も済んだから終わりにしようか。アーネちゃん、今からでも泊まれる宿紹介してくれない?ポロンも一緒に寝れる部屋がいいな」
「そうですね……ちょっと調べてみます」
そう言って、アーネちゃんは部屋の外に出ていった。恐らく1階のカウンターで宿屋を調べてくれるのだろう。アーネちゃんが戻ってきたら、とっとと宿に行って寝よう。
「ちょ、ちょっと待て!なんだこれは?」
「ん?さっき言ったろ、お前が倒した魔物が落としたドロップ品だよ。お前の分だから預かっておいた」
「アタイの話しを聞いてなかったのか!?アタイは別に金稼ぎの為にダンジョンに……」
「解ってるよ。でも拾っちまったし、それを倒したのは間違いなくあんただし。俺としてはあんたが手に入れるのが一番自然だと思ったから渡したんだよ」
「……お前、アタイのせいで宿屋を追い出されたのに……なんで、こんなことするんだよ」
ええ、おかしいかな?確かに宿を追い出されたときは頭に血が上ってたし、喧嘩腰ではあったけど、別に鬼女に報復したかった訳じゃないしな。それになにより、親近感の湧く頭の弱さ!
「まあ勘違いだったってことで、お互い犬に噛まれたと思って忘れようぜ。俺も気にしないから、あんたも気にすんな」
途端に潮らしくなる鬼女。なんでもいいけど、感情の浮き沈みの激しい奴だな。
「あ、あの……」
「お待たせしました、ホクトさん!宿屋見つけてきましたよ!」
鬼女が何か言う前に、勢いよく扉を開けてアーネちゃんが戻ってきた。
「おう、ちゃんとポロンも泊まれるのか?」
「もちろんです。私の仕事に抜かりはありません!」
ドヤ顔の合法ロリ、アリです。
「あ、カメリアさん。カメリアさんも宿を追い出されちゃったので、別の宿屋を用意しました。一応ホクトさんとは別の宿屋になりますので……大丈夫ですよね?」
「……あ、ああ」
魂が抜けきったような鬼女、大丈夫か?こいつ……。
「まあいいや、ありがとうなアーネちゃん。世話になった」
「いえいえ、ギルドとしても冒険者同士の諍いが解決できてなによりでした」
「じゃあ、俺はもう行くわ。また明日依頼を受けに来るよ」
「お待ちしております」
アーネちゃんにお礼を言って席を立つ。扉から出る瞬間、鬼女の方を見てみたが俯いていて何か考え込んでるように見えた。まあ、今はそっとしておこう。そうして俺はギルドに紹介された宿屋に向かった。
明けて翌日。昨日ギルドから紹介された宿屋『ノームの金床亭』でグッスリ眠ってリフレッシュできた俺は、ポロンと一緒に宿を出た。問題は全て解決したことだし、ダンジョンに行く前に買い物でも済ませていくか。
まだこの町にも慣れていないし、ちょっと散歩がてらぶらつきながらウィンドウショッピングと洒落込もう。屋台で軽く朝食を食べ、道具屋で使った薬の補充、雑貨屋で生活必需品の物色とあれこれ見て回って、最後に防具屋に入った。
「いらっしゃい」
ウドベラの町では武器屋と防具屋が別れているようだ。リーザスではゴドーのおっさんの店しか行ったことが無かったから、防具しか並んでいない店内は新鮮だ。
「何かお探しですか?」
「ああ、鎧がボロくなってきてね。ダンジョンに潜るのに支障がありそうだったから……。皮の鎧で、これより良さそうなのある?」
店主に鎧を見繕ってもらう。
「これは、低価格層では良い品ですね。これを買ったところで新しいのを調達した方が良さそうですが?」
「ああ、そうしたいんだけどリーザスの町なんだ。今はダンジョン攻略中だから、戻るわけにもいかなくて……」
「なるほど……」
寡黙な店主だな。ゴドーのおっさんなんて客を平気で殴るからな……。
「確か奥に良さそうなのがあったはずなので見てきます。その間、ご自由に店内をご覧になってください」
「ああ、そうさせてもらうよ」
奥に消えた店主を見送って、店内を見て回る。結構色々な種類があるな。そうやって店内をブラブラしていると……
「わりぃおっさん、ちょっと見てもらえるか?」
聞き覚えのある声が店の玄関から聞こえてきた。
「……あっ」
「……えっ?」
まさかの鬼女、三度目の接近遭遇だった。




