8話 いざダンジョン攻略へ
追記:文末の・・・を……に変更しました。
昨日は1日使ってダンジョンの情報集めと道具の買い出しに勤しんだ。アーネちゃんはさすが冒険者ギルドの職員とばかりに有用な情報を幾つも教えてくれた。ダンジョンまでの道や出てくる魔物の種類、それにダンジョンの階層。これらはダンジョン初心者である俺にとって、何よりも得難い情報となった。
「さて、そろそろ出発するか」
「ワン!」
俺はポロンを連れて、町の門を出た。ここから1時間くらい歩くとダンジョンに着くらしい。今の時間は日が上ってからさほど経っていないくらい。何もなければ朝飯前には着けそうだな。
「今回行くダンジョンは、通称『工夫達の洞窟』と言われるダンジョンだ。全部で10階層、1階層ごとに出てくる魔物が違うらしい」
俺はポロン相手に、アーネちゃんが教えてくれたダンジョン情報を1つ1つ話していく。ぶっちゃけ暇過ぎて、ポロン相手に語り掛けてないとその辺の草むらで昼寝をしたくなってくる。
「1階層の魔物はゴブリンだ。……おっとポロン、また?って顔をするな。気持ちは分かるがな、実際俺もそう思った」
「……」
足元でポロンが欠伸をしている。こいつ、そもそも俺の話を聞いていない。
「ポロンよ、油断は禁物だぞ?例えゴブリンが相手とはいえ、始めていく場所だ。気を引き締めろよ?」
そうポロンに忠告すると……
「ワゥ?……ワンワン!」
蝶々を追いかけて行ってしまった……。
「……はぁ。お前は自由で羨ましいよ」
俺はポロンが迷子にならないよう気を付けながら、ダンジョンまで黙々と歩いた。
ウドベラの町から1時間は歩いたか。そろそろダンジョンが見えてきても良い頃合いだろう。
「ワンワン!」
足元のポロンが吠える。ポロンの視線を追うと、半径3mほどの大きな穴が見えてきた。あれが、俺たちが目指すダンジョンの入り口で間違いないだろう。入り口の周りに人はあまりいない。
「あれ、ウドベラがダンジョンで有名だから結構人気があるのかと思ってたけど、そうでもないのか?」
閑散とした広場のようになった場所に入り、入り口にいる係の人に声をかける。
「ここはダンジョンの入り口で間違いないですか?」
「ああ、ここは『工夫達の洞窟』ダンジョンで間違いない。お前たちは冒険者か?」
よかった、ここで合ってるみたいだ。
「はい。初めて来たダンジョンなんだけど、いつもこんなに人が少ないんですか?」
「え?……ああ、ここのダンジョンはいつもこんな感じだ。人によって潜る時間はまちまちだからな。夜に入るってやつもいる」
「え、夜にダンジョンに入るのか?」
それって大丈夫なのか?自殺行為だったりしない?
「ここのダンジョンは同じ階層でも、昼夜で魔物の種類が変わる階層があったりするからな。そういう魔物を狙う奴らは、夜に入るか事前に入ってダンジョン内で野営するからな」
「へぇ……」
「なんだ、お前さんダンジョンは初めてか?」
「そうなんだよ。知り合いからダンジョンに初めて潜るなら、ここって薦められたんだ」
「なるほどな。なら早速入るか?中に入るには1000ゼムだ」
事前にアーネちゃんに聞いていたから持ってきてる。ダンジョンに入るのに金がかかるとは思ってもいなかったわ……。
「はいよ。こいつは俺の相棒なんだけど、コイツの分も金が必要か?」
足元のポロンをさして聞いてみる。
「こいつはお前の従魔か?基本的に金が必要なのは人間だけだ」
「りょうかい。さて、そろそろ行きますか!」
「気を付けて行って来いよ?俺たちは基本ここにいるけど、何かあっても外に出てくるまでは手を貸せないからな」
「わかった、色々ありがとう」
番をしていた兵士に礼を言って、俺とポロンは中に入る。さて、いよいよダンジョンだ……俺の最終目標は『願いの塔』を踏破すること。だけど、それまでに色々なダンジョンに潜って経験を積む必要がある。ここは、その第一歩になる。気合入れていくぜ!!
入り口の洞穴をくぐってまず気になったのが、洞窟内の明るさだ。壁が薄ボンヤリと光って見える。中の視界は悪くない……こういう光景を目の当たりにすると、ここがファンタジー世界だと改めて思い知らされるな。壁が光らない階層もあるらしいから、一応松明は持ってきている。これはアーネちゃんに教わった。
しばらく歩いたけど、未だに分かれ道の類は無い。魔物も出てこないし、ちょっと肩透かしを食った感じだ。
「……何にも起こらないな」
「……ワン」
ポロンも若干残念そうだ。まさか、このまま直進したら1階層が終わりって事はないだろう。無駄に緊張するのは良くないけど、ちょっとは気を緩めておかないと長丁場では保ちそうにないな。そんなことを考えながら、さらにしばらく進むと……目の前に分かれ道が現れた。
「やっと1つ目の分かれ道だ。さて、ポロン。どっちに行こうか?」
ポロンに聞いてみるが、答える気はないようで俺の顔を見続けている。
「俺に決めろって事か?」
「ワン!」
主の決定に従うって事か……できた忠犬だな、狼だけど……。さて、ゲームの中のダンジョンなんかだと、とにかく虱潰しにしないと気が済まない俺だけど実際のダンジョンとなると、自分の命がかかってくる。できるだけ安全に攻略を進めたいな……あれを使ってみるか。
「よし、気配感知を使ってみるか……」
意識を前の穴に向ける。俺の持つスキル『気配感知』はレッド・コメット先生と訓練をしていた時に身に着けたスキルだ。俺のレベルだと、道の先に生物がいる程度しかわからない。それでもダンジョンの中で使っていけば、自分に有利な状況で戦闘ができる可能性は高くなるだろう。
意識を左に向けてみるが、反応はナシ。右に向けてみると……お、反応がある。数までは解らないし、ひょっとしたら同業者かもしれないけど行くなら右だな。
「よし、ポロン。右に行くぞ」
「ワン!」
ポロンも文句は無いのか、素直に従ってくれる。こいつ、実は右に何があるのか分かってるんじゃないか?とにかく、何かがいるのは間違いない訳だからさっきよりも注意して進む。
緩やかにカーブする道を歩いていると、前方に人影らしきものが見えてきた。慌てて内側の壁に隠れる。
「こんな時は……スキル『鷹の目』」
最近は常時発動している鷹の目だけど、初めてのダンジョンと言うこともあり、無駄に消耗する必要もないと切っていた。
「ゴブリンが4匹……あぁ、これは気付かれてるな」
結果的に鷹の目を切っていたことが裏目に出たな。
鷹の目は遠くを見通すスキルだ。相手より先に敵を発見できるこのスキルは、ダンジョン内でもできるだけ常時発動しておいた方が良さそうだ。
「……よしポロン、作戦だ。俺が突っ込むから、お前は1匹だけ注意を引き付けてくれ」
「ワン」
手早く作戦を決めて突っ込む。まずは、一番手前にいるお前だ。俺が突っ込んできたことに驚いたゴブリンたち、一番手前にいる槍を構えたゴブリンに狙いを定め近づいていく。
俺を串刺しにしようと構えるゴブリンに気にせず突っ込む。槍の射程に入った瞬間ゴブリンが槍を突き出した。俺は突き出された槍の穂先を見て右に回避、すぐさま右足に魔力を流して一気に加速。槍を戻す動作よりも早くゴブリンの懐に潜り込んだ。
「まずは1匹」
顎目掛けて右アッパーをかます。もちろん浸透を使っている。
「ゲギャギャァァ~~!」
目や耳、鼻から紫色の血を噴出して倒れた。まあ、即死だろうな。
今回俺は、ダンジョンの敵と戦う上で浸透を鍛える気でいる。どの程度の魔力で相手を倒せるのか?魔物ごとに流す魔力を変える必要があるのか?とにかく、もっと浸透と言う技に精通する必要があるだろう。
「次はお前だ」
倒れるゴブリンに焦りを感じたのか、攻めてこないゴブリンたち。こいつら本当に頭悪いな……そんなの、各個撃破してくれって言ってるようなものだぞ。横を見るとポロンが1匹の足元で動き回って注意を引き付けている。グッジョブ、ポロン。
次の相手は盾と剣を構えたゴブリンだ。だけど、俺にとって盾ってあんまり意味ないのよね。盾に魔力を通した右手を添える。さて、実験だ。
「盾越しの相手に、これでダメージが入るかな?」
魔力を解放する。すると、盾の向うで「ゲギャッ!」と悲鳴が聞こえた。気にせず3匹目へ。
「検証は後だ、まずは殲滅する」
残り2匹になったゴブリンは、すでに敵でもなくあっという間に戦闘は終了した。さて、盾持ちのゴブリンはどうなったかな?
「……なるほど、こうなるのか」
盾をどかしてゴブリンを見てみる。ゴブリンは既に死んでいたけど、体内から壊されたってよりは外側からの力で潰れた感じだな。これは運に左右される可能性が高いな。
「盾と身体の距離によって、致命傷にならない可能性があるな……。これなら、盾を粉砕して直接殴った方が効率は良さそうだ」
浸透を色々試すのは悪くない。本当に危険な魔物が出てくるまでは、検証を続けていこう。
倒した魔物たちが次第に洞窟の床に吸い込まれていく。ダンジョンでは倒した魔物が一定時間で床に吸い込まれるって聞いてたけど、これは。
「見ていて、あんまり気持ちの良いものじゃないな」
床に身体の全部が埋まる直前、身体の一部をドロップ品として残すんだけど、それを討伐証明部位としてギルドに持っていけば、報酬が貰えるってわけだ。
「よし、この調子でガンガン行こう!」
「ワンワン!」
あの後も2回ほどゴブリンと戦闘をしたが、特に問題は無かった。
「浸透を使うと、魔力が減るのか……。つまり、スキルを発動すると精神力が減って、浸透を使うと魔力が減ると。ってことは、浸透って厳密には魔法なんだな」
戦闘の度にステータスを開いて、パラメータの変動を確認する。今までは気にしたことなかったけど、アーネちゃんが気になることを教えてくれた。
「スキルは精神力を使って発動します。魔法は魔力を使って発動します。自分のスキルや魔法が、どれくらい消費するのかを知ることは冒険者にとって重要な事ですよ」
まさか、あのアーネちゃんから冒険者のイロハを聞くことになるとは思ってもみなかった。俺、いままではステータス画面って訓練の時しか開いたことなかったな。それも体力とか、俊敏とかのパラメータがどれくらい伸びたかしか見てなかった。
「1回の戦闘で消費する数値か……。単発で終わる外と違って、ダンジョンでは連続して戦闘することが多いってアーネちゃんは言ってた。つまり、いかに1回の戦闘で消費する精神力と魔力を抑えるかが生き残る術って事だな」
ダンジョン内を歩きながら、あれこれ考えていると奥の方に下に降りる階段らしきものが見えてきた。
「あれが1階層の終わりか?……当然いるよね」
2階層へ続く階段を見つけたのはいいんだけど、階段のある場所は小さなドーム状の広場になっている。そして階段の傍には6匹のゴブリンと……。
「ゴブリンアーチャー……。そんなのもいるのかよ、このダンジョン」
全部で6匹のゴブリンとゴブリンアーチャー。
「……どうやって、ゴブリンアーチャーを倒すかだな。できれば普通のゴブリンたちと戦闘を始める前にゴブリンアーチャーを倒したい」
とはいえ、後ろにいるゴブリンアーチャーをどうやって倒すかだな。ポロンにしても6匹のゴブリンを掻い潜ってとなると、ちょっと厳しいか。何かないかと周りを注意深く見てみる。……とはいえ、ここは洞窟の中だ。何かあるにしても足元に転がってる石コロくらいしかない。
「……石コロか。なんだ、あるじゃないか。俺向きの武器が」
よし、戦法は決めた。あとは……突っ込むだけだ。
ゴブリンの軍団に向かって走る。当然俺たちに気付いたゴブリンが戦闘態勢に入り、遠距離攻撃を持っているゴブリンアーチャーは矢を番えて引き絞る。
シュバッ!
俺目がけて弓矢が飛んでくるが、難なく回避。そんなに精度が高くなさそうだ。これなら近づくまでに2,3発避ければ射程に入るだろう。とっととゴブリンアーチャーを黙らせよう。
「ポロン、ゴブリンアーチャーは俺がなんとかするから、後から来いよ」
「ワン」
ゴブリンアーチャーの射る弓矢を避けながら、足元の石コロを拾い上げる。ここからゴブリンアーチャーまでの距離は30mくらいか?だいたいサードからホームベースまでの距離に感じる。右腕に魔力を流して、全力のバックホーム!
魔力を流した右腕から放たれた石は、とても石とは思えない速度で飛んでいき、ゴブリンアーチャーの右目を抉った。
「ギャギャァァァ~~~!!」
右目から入った石は後頭部を突き抜けて壁に当たった。周りにいたゴブリンたちも信じられないようなのもを見る目で、倒れたゴブリンアーチャーを見る。
「よし、残りは雑魚だ。とっとと片付けよう」
俺は常時2匹を相手取りながら戦闘を進める。とはいえ、浸透を使えるのは右手だけなわけだから早いところ左手でも浸透を打てるように練習しよう。
あっという間に全てのゴブリンを殲滅して、ドロップ品を漁る。すると、見覚えの無いものが目についた。
「……これは、牙か?」
ゴブリンアーチャーからのドロップ品だろうか、後で鑑定してもらおう。
「よし、2階層に降りて今日は帰るか」
「ワン!」
ドロップ品をすべてカバンにしまってから階段を下りる。そして、2階層を確認して元来た道を戻って外に出た。こうして、俺の初ダンジョン攻略1日は終了した。




