6話 ウドベラの町(後編)
追記:文末の・・・を……に変更しました。
ちょっと前に来たばかりの病院の前に、俺とロリーさんは立っていた。
「さて、中に入りましょう」
そう言うと、ロリーさんはさっさと中に入っていく。俺も慌てて後に続く。
「あ、いらっしゃいm……お母さん!」
「ただいまアン、良い子にしてた?」
「うん!あれ、後ろにいるのはホクトお兄さん?」
「あら、もう自己紹介していたの?」
話しの流れに付いていけない。さっきアンちゃんはロリーさんのこと、お母さんって呼んだのか?
「……え!?ロリーさんってアンちゃんのお母さんだったの?」
「ふふ、そうよ。改めてロリー・ロージンです。よろしくホクトさん」
確かロリーさんは昔病院で働いてたって言ってたけど、まさか実家が病院だったなんて……。
「お母さん、ホクトお兄さんと知り合いなの?」
「ええ、積もる話もあるけど……まずはお父さんに話を聞かないと」
「じゃあ、お爺ちゃん呼んでくる!」
アンちゃんは弾かれた球のように奥へすっ飛んでいった。
「それにしても驚きました。ここがロリーさんの家だったんですね」
「隠すつもりは無かったんだけどね、ホクトさん無償の施しは受けてくれそうになかったから」
「……ああ、すいません」
「良いのよ、結果としてホクトさんを我が家の面倒事に巻き込んでしまったわけだし……」
そんな感じに俺とロリーさんで話し込んでいると
「ロリー!帰って来ったって……ん?」
爺さんがロリーさんに声をかける、同時に俺にも気づく。
「なんじゃ小僧、貴様さっきの冒険者ではないか!?さっきも言ったが、ワシは冒険者は診んぞ。何度来ても同じじゃ、帰れ!」
ほら、やっぱり……。
「お父さん!」
「うぉっ!?なんじゃロリー、大声出して」
「大声出しているのはお父さんです。それにホクトさんは私の命の恩人なんですよ?そのような方に失礼な態度は止めてください!」
「命の恩人?……いったいどういうことじゃ?」
ロリーさんがウドベラに来るまでに起こった出来事をざっと説明した。それを聞くうちに爺さんの表情が険しいものになる。
「……まさか、婆さんだけではなくお前も魔物に襲われるとは」
「お母さん、大丈夫なの!?」
「私は大丈夫。ここにいるホクトさんに助けてもらいましたから」
「ホクトお兄さん、お母さんを助けてくれてありがとう!」
「どういたしまして」
ここは素直に受けておこう。助からなかった命もあるけど、俺にできる事にも限度があるからな。
「お主、ホクトと言ったか……先ほどの非礼を詫びさせてほしい。すまんかった、そしてロリーを助けてくれたこと感謝に耐えん」
おお、あの爺さんが冒険者に頭を下げたぞ。頑固一徹かと思いきや、以外に素直だな。まあ、婆さんに続いて娘まで魔物に殺されそうになったところを助けられたんだ。態度が変わるのもしようがないか。
「頭を上げてください。俺はただ、治療さえしてくれればいいので」
「うむ、ロリーを助けるために負った怪我じゃ。ワシが責任を持って完治させてみせるぞ。もちろん、金は取らん!」
「よろしくお願いします」
「では、ホクトさん。私とアンはここで待ってますね」
「わかりました。あ、アンちゃん。良かったら外にいるポロンの面倒を見てもらっても良いかな?」
「わかりました!」
2人と別れて診察室に入る。やっと、治療してもらえるよ……。
爺さんの回復魔法は大したものだった。左腕の骨折なんて、骨が粉々で二度と元通りにならないんじゃないかって心配してたけど、ちゃんと元通り動かせるようになった。
「どうじゃ?動かしてみて違和感はあるか?」
「ありません、完全に元通りです。ありがとうございます!」
「なに、お前さんがロリーにしてくれたことを考えれば、これくらいどうってことはない」
「お蔭で時間かけずにダンジョンに入ることができます」
よかった。ひょっとして当分ダンジョンに潜れないのではと思っていたから、こんなに簡単に全快できたのは素直に嬉しい。
「お前さん、ダンジョンに潜るためにウドベラに来たのか?」
「はい、初めてのダンジョンはここの近くにあるダンジョンがお薦めと冒険者ギルドの受付の人に聞いたので」
「……そうか。自分の命を顧みないやつは好かんが、お前さんなら話は別じゃ。もしダンジョンで怪我をしたらワシの所へ来なさい。お主なら格安で診てやろう」
「金取るんですね」
「当たり前じゃ、今回はロリーを助けてくれたお礼にタダじゃが、これからはしっかり診察料を取るぞ」
さっきまで冒険者が嫌いと言っていた爺さんと同じ人とは思えないな。でも、診察料を取るとは言っても、格安で診てくれるというならお言葉に甘えよう。
「ありがとうございます、これで怪我をしても腕利きの医者が付いていてくれるって思えるんで安心です」
「バカモノ!だからと言って、気を抜いていると人は簡単に死んでしまうぞ」
「もちろんわかっています。俺は死にたくないので、無理はしませんよ」
「それならいい……」
やだ、何このツンデレ爺さん。そんな需要はどこにもないぞ。
「じゃあ、俺は帰ります」
「うむ、次は患者ではなく客として来い」
「はい、わかりました」
爺さんにお礼を言って外に出る。ロリーさんとアンちゃんが外まで見送りに来てくれた。あと、今日中にしなきゃならない事って……。
「あ、そうだロリーさん。このあたりでお薦めの宿屋ってないですか?」
「宿屋ですか?……そうですね、ちょっとお高くなりますけど今日入ってきた門の近くにある『金の落穂亭』が料理も美味しくて評判が良いですよ」
「『金の落穂亭』ですね、ありがとうございます」
「ホクトお兄さん、また来てね!あ、でも患者さんとして来ちゃダメだよ?」
「ははは、爺さんにも同じことを言われたよ。次はアンちゃんに会いに来るよ」
俺がそう言うと、パァッと明るい表情になった。
「うん!絶対だよ。ポロンも一緒にね?」
「ワンワン!」
すっかりポロンと仲良しになったみたいだ。さすがポロン、幼い子に好かれるのが早い。
「じゃあ、また」
2人に手を振って、その場を後にした。
「……ここが『金の落穂亭』か。結構立派な宿屋だな」
病院のある通りから大通りに戻り、そのままもと来た道を戻ってきた。目の前にはリーザスにある『羊の夢枕亭』にも見劣りしない立派な佇まいの建物があって看板に『金の落穂亭』と書いてある。この世界に来てやっと看板の文字が読めるようになった、これもハンナちゃんのスパルタの賜物だ……と思おう。
俺とポロンは玄関から中に入った。
「すいません、部屋を取りたいんですけど空いてますか?」
中に入ってカウンターにいる人に声をかける。
「いらっしゃい、『金の落穂亭』にようこそ。宿泊かい?大部屋なら1500ゼム、個室なら2000ゼムだよ」
『羊の夢枕亭』よりも安い。このレベルで、その金額なら格安と言っていいんじゃないか?どうやら物価はリーザスよりもウドベラの方が安いみたいだ。
「個室でお願いします」
「あいよ、食事はどうする?2食付けるなら400ゼムだ」
食事は『羊の夢枕亭』よりも高い。それだけ自信があるってことだろう、これは期待できそうだ。
「2食付きでお願いします」
「なら合計で1泊2400ゼムだ。前金になるよ」
「あの、この子も部屋に入れたいんですけど大丈夫ですか?」
ポロンを抱き上げて女将さんに見せる。ここまで来て、ポロンを部屋に入れれないとなれば別の宿屋を探すしかない。もはやポロンだけ外に出すことなんてできない。甘やかしていると言われても、こればっかりは譲れない。
「う~ん、本当は良くないんだけど……。まあ、その子くらい小さいなら問題ないだろう。いいよ」
「ありがとうございます!」
「その子の食事を付けるなら、プラスで100ゼムもらうよ?」
「わかりました、とりあえず7日分お願いします」
金貨1枚、大銀貨7枚、銀貨5枚を渡す。
「部屋は3階の一番奥だよ。食事は日没後だったらいつでもいいよ」
「わかりました」
鍵を受け取ってから階段を上がる。2階に上がるとドアが2つある、それぞれが大部屋になっているようだ。続けて3階に上がるとドアは4つあった。一番奥のドアに鍵を差し込んで捻る。ドアを開けて中に入ると、8畳ほどの部屋にシングルベッドと机、服を収納するクローゼットが目に入ってくる。部屋の大きさは『羊の夢枕亭』よりもやや小さいが、独りで寝泊まりするには十分な大きさだ。荷物を下ろすとベッドに大分する。
「はぁ~、やっと落ち着ける」
ベッドに顔を埋めて息を吸い込む。太陽の匂いのする布団だ、ちゃんと日干しにして管理しているのだろう。ここの宿屋は当たりだ。俺がベッドに寝っ転がっているとポロンも俺の上に飛び乗ってきた。
「ポロン、とりあえずウドベラに着いたぞ。明日はギルドでダンジョンに出る魔物の情報を集めて、明後日からいよいよダンジョンに潜るぞ」
「ワン!」
俺のテンションが上がったのを感じたのか、ポロンも嬉しそうに鳴く。初のダンジョン、一体どんな体験が待っているのだろうか?




