5話 ウドベラの町(前編)
追記:文末の・・・を……に変更しました。
「やっとウドベラに着いた~!」
たった1日半の間に、随分色々なことが起こった気がする。最初リーザスの町を出たときは13人いた同乗者たちも、ウドベラに着いた時には8人にまで減っていた。うち1人は犯罪者として拘束中ではあるけど……。
「この者が最近街道沿いを襲っていた魔物を使役していた召喚士であるか?」
「そうです。我々に紛れ込んで野営中に襲ってきました。それを彼が退治してくれたのです」
交渉事は商会の会頭であるケニさんに全部丸投げである。まあ、俺がやっても上手くいく気がしないし面倒だしな。
「わかった。詳しい事は詰め所で聞くとしよう」
アンザスは拘束したまま兵士たちに連れられて行った。しばらくは終わらないだろうけど、俺はどうしようかな?
「ホクト君は病院に行ってくれ、ここは俺たちだけで大丈夫だ。
後で詰め所に来てもらえれば、報酬を渡してもらえるように話しておくから」
ケニさんはそう言ってくれるけど、どうしよう。俺だけ自由行動をしても良いものだろうか?
「行ってください。助けられた私たちにできることはこれくらいですから」
ロリーさんにも言われたので、お言葉に甘えることにしよう。兵士の人に病院の場所を聞いてその場を離れる。
「確か、この辺りって言われたけど……」
初めて歩く町だから勝手が全く分からない。言われた通りに歩いてきた気がするけど、病院らしい建物は見当たらない。仕方ないので、その辺を歩いている人を捕まえて聞いてみよう。
「すいません、この辺りに病院があるそうなんですけど知りませんか?」
「病院?ああ、それなら……」
道行く人に場所を聞いた。方向は合っていたらしい……。
「ここ……かな?」
そうしてやっと見つけた建物は、俺の思っていた病院とはかけ離れていた。
「これって……ただの民家じゃないか?」
足元にいるポロンに愚痴ってみたけど、当の本人は欠伸をしている。
「じゃあ、ちょっと行ってくるからポロンは外で待っててくれ」
「ワン!」
ポロンを外で待たせて中に入る。すると、保健室のような匂いが鼻につく。外見は民家みたいだったけど、ここは間違いなく病院みたいだ。
「すいません、怪我をしたので治療してほしいんですけど……」
玄関から入って要件を言ってみる。ここは確かに病院なんだろうけど、受付みたいなものはないし、見渡す限り人もいない。どうしたものかと思案していると。
「はい、どちらさまですか?」
奥から少女が顔を出した。ここの子かな?
「ああ、ちょっと怪我をしちゃってね。診てもらおうと思って来たんだけど」
「患者さんですか?今ちょうど暇なんで、大丈夫ですよ。
おじいちゃん!患者さん!」
少女は奥に向かって声を張り上げた。病院内で大声出してもいいのだろうか?すると、奥から立派な髭を蓄えた爺さんが出てきた。
「患者ってのはお前さんか?」
「はい、ウドベラに来る途中で魔物と戦って怪我をしまして……」
「お前さん冒険者か?」
途端に機嫌が悪くなる爺さん。え、冒険者ってだけでそこまで機嫌が悪くなるのか?
「ワシは冒険者は診んぞ。自分の命も大事にできんような輩は、そのままくたばっちまえばいいんじゃ!」
なんかとんでもないことを言い出した。おいおい、患者の職業で診察を拒否すんのかよ、この世界の医者は。
「確かに俺は冒険者ですけど、だから受診を拒否って酷くない?」
「うるさい!ワシは冒険者の治療はせん。さっさと帰れ!」
ダメだ、取り付く島もない。仕方ない、ここは諦めて帰ろう。玄関を出てポロンと帰ろうとすると、中からさっきの少女が出てきた。
「ごめんなさい、うちのお爺ちゃん冒険者が嫌いなの」
「そうみたいだね、好き嫌いで患者を選ぶのはどうかと思うけど、診てくれないっていうなら帰るさ」
「うぅ……前はこんなんじゃなかったんだよ?お婆ちゃんが死んじゃってから冒険者の人を嫌うようになったの……」
「お婆ちゃん?冒険者と何かあったのか?」
「……うん。隣町から帰ってくる途中に乗っていた馬車が魔物に襲われたの。そのとき一緒に乗っていた冒険者の人たちがいたらしいんだけど、その人たち逃げちゃったらしくて……」
なんかどっかで聞いたような話だな。
「そりゃ冒険者は魔物と戦うのも仕事だけど、自分の手に負えないような奴に出くわしたら逃げても仕方ないんじゃないか?」
「その冒険者の人たち、馬車の護衛の人たちだったの。それが一般人を逃がす手も貸さないで真っ先に逃げちゃったんだって」
「おぅ……。それは、何を言われても仕方ないか」
「結局お婆ちゃん助からなくて……それを聞いたお爺ちゃんが、それ以来冒険者の人を見ることを嫌がるようになったの。だから、ごめんなさい」
そういう事か。そんな事があったんじゃ、冒険者を嫌うのも仕方ないかもしれない。世の中そんな冒険者ばかりじゃないんだけど、こればっかりは本人が納得しないと無理だろうな。
「君が気にすることはないよ。俺も大丈夫だからさ」
「……うん」
悲しそうな表情をしている少女を見かねたのか、ポロンが足元に縋り付く。
「ワンワン!」
「何この子。お兄さんのペット?」
「相棒のポロンだ」
しゃがんでポロンの頭を撫でる少女。ポロンも元気づけるようにペロペロと少女の顔を舐める。
「わっ、くすぐったいよワンちゃん」
笑顔を取り戻した少女、グッジョブだポロン。
「俺はホクト、ホクト・ミシマ。こいつはポロンだ。君は?」
「私はアン、アン・ロージンって言います。お爺ちゃんはノクト・ロージンです」
「アンちゃんか、よろしくな」
「うん!」
笑って手を振るアンちゃんと別れて、俺は兵士の詰め所に戻ることにした。
詰め所に戻ると、まだ聴取は終わっていなかったようだ。俺を見つけたロリーさんが声をかけてきた。
「あら、ホクトさん。治療はどうされたんですか?」
「それが、病院に行ったら診察を拒否されまして……」
「え!?」
ロリーさんが驚いている。やっぱり、この世界でも好き嫌いで患者の受診を拒否することは無いんだろうな。
「呆れた……事情はわかるけど、医者がそんなことをするなんて」
ロリーさんは何か思うところでもあるのか、憤慨している。
「それより、こっちはまだ終わらないんですか?」
「え、ええ。でも、そろそろケニさんも戻ってくるんじゃないかしら?」
そうこう言っているうちに詰め所の中からケニさんが出てきた。
「おや、ホクト君。まだ病院に行ってなかったのかい?」
苦笑する俺を見て、不思議そうな顔をするケニさん。
「それより、こっちはもう終わったんですか?」
「ああ、街道を脅かしていた魔物の退治も認められたよ。これが、魔物退治の報酬だホクト君が全額受け取ってくれ」
「……やっぱり、みんなで割りません?なんか俺1人もらうの気が引けるんですけど……」
「実際魔物と戦ったのは君1人だろう。気にすることは無いと何回も言ってるだろう」
「そうよ、これはホクトさんが貰うべき正当な報酬よ」
「う~ん、それは確かにそうなんだけど……」
俺1人が報酬を貰うのは、起こった出来事が出来事だけに気が引ける。命の危険に見舞われたんだから、その補填はどこかがするべきだと思うんだけどな。
「君が魔物を退治したのか?どうも他の人たちを気遣っているようだけど、彼らにも町から荷物の補填や命を脅かされた償いの為のお金は出るんだよ?」
横で聞いていた兵士さんが教えてくれた。
「え、そうなんですか?」
「そうだとも。だから君は誰に憚ることは無い、受け取りなさい」
「……そう言うことなら、ケニさん我儘言ってしまってすいません。
報酬を受け取ります」
「うむ、確かに渡したよ」
うわ、袋がズシッと重い。これは結構入ってるんじゃないか?さすがにここで中を確認するようなことはしないけど……。
「では、俺はこれで失礼するよ。早く孫の顔が見たいからな」
「色々とお世話になりました」
「礼を言うのはこっちだ。妻共々君に命を救われたことは忘れないよ。リーザスの町に戻ったら、是非ともケニーエル商会に顔を出してくれ」
横で奥さんも頭を下げている。ちなみに、奥さんの名前はエルさん。ケニさんとエルさんで起こした商会だからケニーエルって言うらしい。仲睦まじい事でなによりだ。握手をして別れると、2人は街の雑踏に消えていった。
「さて、ホクトさん。もう一度病院へ行きましょう」
「え、でもあの雰囲気じゃ何度行っても変わらないと思いますよ?」
「大丈夫。今度は私も一緒に行きます」
ロリーさんが胸を張る。
「まあ、騙されたと思って付いて着てください」
「……はあ」
こうしてロリーさんと病院に戻ることにした。




