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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
3章 ダンジョンに行こう
37/240

3話 シャドウグリズリー

追記:文末の・・・を……に変更しました。

バリッ、ボリッ……。目の前で人が食べられる非現実的な光景。隣のケニさんは完全に腰が抜けてしまって、尻餅をついていた。


「……ケニさん、動けますか?」


「……無理だ、俺たちも食われちまう」


「あの熊野郎の情報を、もう少し下さい。今はケニさんだけが頼りなんです」


恐怖で身動きが取れないケニさんには悪いと思うけど、今は少しでもシャドウグリズリーの情報がほしい。


「……いやだ、死にたくない。せっかく孫ができたんだ、これからってときに……なんで、なんでこんなことに」


「ケニさん!」


強めに名前を呼ぶと、一瞬身体がビクッとしたあと俺の顔を見上げてきた。


「お孫さんの顔が見たいんでしょ?なら、今できることをしましょう。

 俺には、あの魔物の知識がありません。ケニさんが知っていることを教えてください。それで、みんなで生き残りましょう!」


「……」


怯えて動けなくなっていたケニさんだったけど、今の一言で目に力が戻ってきた。


「……そうだな、俺独りじゃ生きて帰れないかもしれないけど。みんなで力を合わせれば、何とかなるかもしれないな……」


「そうです。今諦めちゃったら、この先の楽しい事全部無くなっちゃいますよ」


「よし、シャドウグリズリーの情報だったな……あの魔物は単体でCランク相当の魔物だ。この辺りにいるなんて聞いたことなかったが、現に目の前にいるって事はどこかから流れてきたのかもしれない」


この辺りに棲息する魔物じゃないのか。


「本来はもっと北の、寒い地方にいる魔物だ。全身を剛毛に覆われていて、斬りつけるような攻撃は効果が無い」


「毛が剣よりも硬いんですか?」


「そう言われている。俺も冒険者じゃないから詳しくは知らないが、シャドウグリズリーを倒したとなれば、それなりに評価されるような魔物だ」


参ったな、駆け出しの俺でどうにかなるか?ここは、俺が時間を稼いでケニさん達を逃がす方が現実的だよな。


「ケニさん、俺があいつの注意を引きつけます。その間に残った人たちを連れて逃げてください」


「ホクト君、それは……」


「ハッキリ言って、俺の力量じゃ皆さんを守りながらあいつと戦うなんてできそうにないです。それよりも、生き残った人たちで冒険者の人たちを探してきてほしいんです」


「冒険者……君は生き残りの冒険者がいると思っているのかね?」


生き残りの冒険者……どうだろう、望みは薄いかもしれない。でも俺だけじゃ勝てる可能性が低いなら、そっちの方が可能性がありそうだ。


「お願いします。まだ生き残った冒険者の人がいるかもしれませんので」


「……わかった。とにかく行動しよう、ここにいたってあいつに食われる未来は変わらなそうだしな」


震える足を叩いて気合を入れるケニさん。さすが、商会を預かる会頭さんだ。俺はシャドウグリズリーから目を離さずに、テントから距離を取るように位置取りを変えていった。シャドウグリズリーが俺を追うように視線を向ける。よし、あいつの注意は俺に向いている。


ケニさんは徐々に俺から離れてテントの方に這いずっていく。


「それにしても、ポロンはどこにいったんだ?」


ポロンも心配だけど、まずは自分の心配が最優先だ。今、一番死に近いのは間違いなく俺だろう。ポロンがあいつに殺されていないことを祈りつつ、シャドウグリズリーと一定の距離を取ったまま移動する。こうなると、テントを出たときに装備を身につけ忘れたツケが大きく伸し掛かってくる。


視界の隅でケニさんが奥さんを抱きしめているのがわかる。あの悲鳴は奥さんの悲鳴だったようだ。2人で支え合いながら他のテントに向かう。


「間違いなく、この前のホブゴブリンよりも強敵なんだろうな……」


殺気を撒き散らすシャドウグリズリーに注意を払いながら集中と鷹の目のスキルを発動する。いつでも迎撃できる態勢を取りつつ、ケニさんが他の生存者と逃げるのを待つ。


すると、俺に殺気をぶつけていたシャドウグリズリーが笑った気がした……ハッ、あいつまさか。俺が気付くのと同時にテントに向かって駆け出したシャドウグリズリー。


「ふざけんな、この毛玉!お前の相手は俺だ!!」


ケニさん達に向かって駆け出したシャドウグリズリーと、ケニさん達の間に割って入った俺だっだけど、俺ではあの体躯を止める手立てがない……考えろホクト、何か方法があるはずだ。


……あれを使ってみるか。


「ケニさん、動かないで!」


ケニさんに叫びつつ右手に魔力を流す。だけど、これを直接シャドウグリズリーにぶつけても吹っ飛ばれるのは俺の方だろう。だけど、相手が地面なら……。


「食らえ!」


足元の地面に向けて拳を振り下ろす。拳が地面に触れた瞬間魔力を開放する。


ドバァァ~ン!!


足元の地面が爆ぜた。舞い上がる土埃に驚いたシャドウグリズリーは直前で直角に曲がって土埃を回避した。……まったく、なんて運動性能をしてる毛玉だ。だけど、とりあえず初撃は封じることができた。


「ふぅ……。ケニさん、今のうちに」


「あ、ああ……」


俺の後ろで驚いていたケニさんだったけど、状況は良くなったわけではない。慌てて奥さんと他のテントに向かう。残るテントは2つ、頼むから生きててくれよ。


「毛玉、お前随分頭が良いな……まさか俺に気がある振りをしてケニさん達を狙うなんて」


「グゥルルゥゥ……」


俺を威嚇しながら睨み付けてくる。自分の思い通りにいかなかったことが我慢できないのか、怒りを露わにしている。


さっきので解ったことだけど、あいつに突進されると防ぐ術がない。ってことは、あいつの手が届く範囲で戦うしかないって事か……まったく、あの質量の塊と接近戦とか絶対死ぬって。


「頼むから、俺の素早さが上回っててくれよ……」


覚悟を決めてシャドウグリズリーに突っ込む。迎え撃つように二足で立ち上がり俺を迎撃するつもりのシャドウグリズリー。これは、ヘビー級とフライ級の殴り合いだな。


右から丸太のようなシャドウグリズリーの腕が襲い掛かる。ステップを踏んで回避、地面に叩きつけられた爪に抉られた破片が俺に襲い掛かる。嘘だろ、これじゃショットガンを目の前で打たれるようなものだ。全てを避けるのは諦めて、大きなものだけ避けていく。シャドウグリズリーも、それだけでは終わらず続けて左の腕を俺目がけて叩きつけてくる。


「クソッ、攻撃する暇がない!」


腕の攻撃を何とか回避しながら、シャドウグリズリーに近づく隙を伺う。今は躱せているけど、これは長引いたら詰むな。俺は多少のダメージを覚悟でシャドウグリズリーに突っ込む。


右の腕を叩きつけてくる。これをただ避けてしまうとさっきと同じだ。左に避けつつシャドウグリズリーの右腕に向かって肘を打ち付けて軌道を変える。


ゴンッ!


「硬っっってぇ~~!」


打ち付けた肘がから右腕全部が痺れる。ああ、これ角に肘をぶつけたときに似て腕に力が入らない……。とはいえ、叩きつけの軌道を変える事には、何とか成功した。そのまま前に、更に近くに踏み込む。右腕は痺れて使えないから、左フックをシャドウグリズリーの脇腹に叩き込む。もちろん魔力を流した状態でだ。


ドムッ、バフン!


当たると同時に魔力が爆ぜた。


「効いたか!?」


殴った部分を見ようとしたけど、戻ってきた裏拳を避けるのに一旦引いた。風圧だけで吹っ飛ばされそうになりながら踏み止まる。


「全然効いてないのかよ……」


シャドウグリズリーの動きは効いたようには見えない。毛皮の上から攻撃しても大したダメージを与えられないだろう。


「……そうなると、浸透を使うしかないんだけど」


そう、ダッジさん直伝の必殺技『浸透』。だけど……


「俺は、まだ右手でしか浸透を打てないんだよ!」


痺れて使い物にならない右腕。これが治るまでは浸透が使えない……その間あいつの攻撃を避けながらチャンスを待つしかない。


「いよいよ詰んできたな……」


一歩先にある死が近づいてくる気配に恐怖しながら、それでもチャンスを待つしかない自分。ホブゴブリンを倒して、Dランクになって、俺も冒険者としてやっていけると調子に乗っていたらこのザマだ。次から次へ超えなきゃならない壁が現れる。本当にこの異世界と言う世界は、俺に優しくない。


「ホクト君!」


ケニさんの声に、折れかけていた思考から抜け出す。極力シャドウグリズリーから視線を外さないようにケニさんの方を見ると……。


「5人……他にも生き残りがいたのか」


そう、ケニさん夫妻とは別に3人。男性1人に女性が2人生き残っていた。みんなシャドウグリズリーの方を見て、顔を真っ青にしているけど外傷は無い様だ。


「ケニさん……お願いします、みんなを連れて逃げてください」


「本当にいいのかい?みんなで一斉にかかれば、シャドウグリズリーだって」


「無理です、こいつはそれくらいじゃ倒せません。だから、最初の予定通り冒険者を探して連れてきてください」


「……わかった。君も死ぬんじゃないぞ!」


ケニさん達が野営地から離れていく。シャドウグリズリーが餌が逃げると、追いかけようとしていたけど俺がさせない。ケニさん達が走り出したタイミングで、シャドウグリズリーに突っ込む。今はダメージを与える必要はない、ここはあいつが追いかけられないように邪魔をすればいい。


「もうちょっと俺に付き合えよ、目移りしている場合じゃないだろ?」


執拗に攻撃を繰り出す。当たってもダメージは無いけど他の餌が逃げる事に我慢できないシャドウグリズリーは、怒って俺を殺そうと躍起になる。その我武者羅な攻撃を避けて、避けて、避けまくる。多少の無茶でも、ここは俺しかこいつを引き付けておく人間がいない。


付かず離れず、一撃でももらえば行動不能になりそうなシャドウグリズリーの攻撃を、命綱無しの綱渡りのようなまさに命がけで躱していく。息をする暇さえない、呼吸が荒くなる……まだ止まらないのか、この毛玉は。一瞬、本当に一瞬だけ集中が切れたタイミングをシャドウグリズリーは見逃してくれなかった。


「グォォォ~~!」


右腕を大きく振りかぶって地面に叩きつける。飛び散る土塊を避けようと左側に回り込む。しかし土塊は飛んでこなかった……代わりに左から掬い上げた腕。ここでフェイントを使うのかよ!?掬い上げた左腕の先についている爪が俺を切り裂いた。


ザシュッ!


「ぐあぁあぁぁ!」


着ていた服ごと俺の身体を切り裂く。勢いを殺せず、もんどりうって地面を転がる俺をシャドウグリズリーは追いかけてくる。やばい、ここで決めるつもりだ。


「こんのぉ~!!」


無理やり左手で地面を叩いて身体を起こす。右腕は……もう少しで痺れが完全に取れそうだけど、今は浸透を打てそうにない。万事休すか……。突進を左腕一本でガードする……が、当然それでは止まらない。突進をもろに受けて吹っ飛ばされる。


「あ、これ……死んだ」


3mくらい空中に打ち上げられる。眼下にシャドウグリズリーが見えるが、あいつも俺のことを見失っているようだ。自分で吹っ飛ばしておいて、俺の場所が分からないって所詮獣だな。


ゆっくりした思考のなか、地面が徐々に近づいて……


ゴシャァ!


激突。なんとか勢いを殺そうと受け身を取る。左腕は……ぐにゃりと歪んで力が入らない。これは完全に粉砕されている。1回転、2回転、3回転する前に仰向けで止まった。


「ゴフッ、ペッ……まだ、生きてる」


左上では使い物にならないけど、両足は無事。右腕は……あともう少し。立ち上がってシャドウグリズリーの方を向く。両腕が使えなくなった今、攻撃手段は両足と頭だけ。頭は使いたくないな……絶対あっちの方が硬そうだ。


ノッシ、ノッシ……


シャドウグリズリーがゆっくり俺に近づいてくる。すでに勝敗は決したとばかりに余裕を見せる。こいつは本当に野生の獣なのか?どうも、こいつから野生の匂いがしない。


俺の目の前まで来て二本足で立ち上がる。デカい、改めて感じるシャドウグリズリーのデカさ。体長は俺の倍くらいありそうだ。首元には首輪?小さい宝石が埋め込まれた首輪が光る。ゆっくりと両腕を振り上げる……ああ、あいつが振り下ろされたら俺は死ぬのか。振り下ろされる、まさにその瞬間……


「アオォォォ~ン!!」


「!!!」


遠吠え、この鳴き声は俺のよく知るものだ。周りの繁みから黒い塊が飛び出し、一斉にシャドウグリズリー目掛けて攻撃を仕掛けた。突然のことに振り上げた両腕を止めて黒い塊を振り払うシャドウグリズリー。


「これは……」


「ワン!」


鳴き声に足元を見ると、ポロンが足に身体を擦り付けていた。普段は真っ白な毛が今は薄汚れてしまっている。どこで何をしていたのやら……。


「ポロン、こいつらはお前が連れてきたのか?」


「ワン!」


すごいでしょ、と言わんばかりの表情に思わず笑みが漏れる。こいつはこいつで、何かを感じて俺の助けになるべく動いていたんだろう。まったく……


「お前は最高の相棒だな」


しゃがんで頭を撫でてやる。あ、右腕も動くようになった。


「さて、それじゃそろそろ終わらせるか」


「ワンワン!」


シャドウグリズリーに群がっていた黒い塊は、どうやら狼のようだ。ポロンは森にいた狼たちを率いて俺のピンチを救ってくれたんだな。


所詮狼ではシャドウグリズリーには勝てない。だと言うのに、シャドウグリズリーに向かっていく狼たちは恐れを知らないのか果敢に攻め立てる。それでも1匹2匹と数を減らしていく。こいつらはこいつらでポロンと何かあったんだろう……狼たちに感謝しつつ右腕に魔力を集める。右腕が動くようになった以上、シャドウグリズリーは俺が倒す。


「行くぞ!」


狼に交じってシャドウグリズリーに近づく。最後の1匹が爪で切り裂かれ、足元に転がる。俺はそいつに感謝しつつも足を止めない。


「グオォォォ~~!!」


ひと吠えしてシャドウグリズリーが両腕を広げる。それに構わず突っ込んでいく。両腕で俺を挟み込もうとするシャドウグリズリーの腕の下を掻い潜り体に触れる。


「死ね!」


シャドウグリズリーの身体に触れた右拳から魔力を開放する。目標はもちろん剛毛に覆われた更にその先。


「グゥッ!?……グゥゴォォォォ~~!!!!」


確かに感じる手応え。シャドウグリズリーの体内は、俺の魔力がズタズタに引き裂いているのだろう。苦しみだしたシャドウグリズリーだったが、しばらくすると前のめりに地面に倒れた。


「……はぁ、なんとか勝てたか」


「ワンワン!」


ポロンが嬉しさをアピールするように、周りを駆け回る。俺の方は、もう一杯一杯だ。倒れたシャドウグリズリーに寄り掛かって休憩を取る。この後、ケニさん達を探さないと……。薄れる意識の中で、そんなことをおもった。

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