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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
3章 ダンジョンに行こう
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2話 乗合馬車に揺られて

追記:文末の・・・を……に変更しました。

リーザスの町から南西に1日半。俺たちが向かっているウドベラと言う町は、そのくらい離れている場所にあるらしい。俺たちというのは、俺とポロン、それと乗合馬車に一緒に乗っている人たち。馬車を護衛する冒険者たちもいる。


「今回はアサギたちもいない、俺とお前だけだ。仲良くやっていこうなポロン」


「アン!」


ポロンは一日中俺に甘えられるのが嬉しいのか、馬車に乗ってから常にベッタリだ。俺の方も久しぶりにゆっくりできるから、ポロンに甘えられるのは嬉しい。ゴブリンの殲滅作戦が決まってからは、慌ただしくてポロンをかまってやる時間が減っていた。せめて移動中くらいは満足するまで甘えさせてやろう。


「白いワンちゃんね、本当に可愛いわ」


「ありがとうございます、ほらポロン。可愛いって言われてるぞ」


「ワンワン!」


同乗している人たちにも大人気だ。こいつが白狼種だって知ったら、みんなどんな表情するのかな……まあ、言わないけど。


今回、俺の目的はウドベラの近くにあるダンジョンに潜って素材を集める事。行けるところまでは行こうと思ってるんだけど、アサギからは慎重に進むようにと注意されている。俺としても死ぬのは嫌だから、ウドベラで情報収取したら1階層ずつ慎重に進もうと思ってる。まあ、今回は初ダンジョンを堪能する事ができれば良しとしよう。


「今日は、このあたりで野営をしようと思います。みなさま、準備をお願いします」


御者さんから声がかかる。それに合わせて馬車が止まると、乗っていた人たちが各々馬車を降りて野営の準備を始める。野営をするときは、街道から少し外れた場所に馬車を止めて焚火を中心にある程度自由にテントを張ることになる。食事は自分で用意することになるんだけど、慣れてる人達は各々具材を持ち寄って色々な種類のおかずと少しの酒で酒盛りを始めるようだ。


「俺たちも準備するか。今回はゆっくりできるしな」


「ワン!」


俺も馬車を降りて、自分の寝床の準備を始める。


「お前も冒険者だろう?なんで依頼で護衛の仕事を受けなかったんだ?それなりに稼げるだろうに……」


「え、ああ。ちょっと今回は護衛をしている時間が無いと言うか……」


「なんだそれ?」


今回護衛をしている冒険者たちのリーダー、トマスさんが声をかけてきた。トマスさんの言っていることは正しい。本来冒険者が別の町なんかに移動するときは、その町に向かう馬車の護衛の仕事を受けて向かう方が効率がいい。独りで歩いて行くって言うなら話しは別だけど、大概は纏まって行く方が野盗なんかも襲ってこない可能性が高い。数が少ないって事は、それだけリスキーな旅になる。


「ちょっと、宿題を言い渡されまして……。夜警をやってる時間が無いんですよ」


「宿題って……幼年院じゃあるまいし」


そう、今回俺が護衛の仕事を選ばなかった理由は……。ハンナちゃんからたんまりと出された書き取りの宿題の数が膨大な量だったからだ。夜警なんてしていたら、ウドベラに行った後も宿題に追われて、とてもダンジョンに潜っている時間が取れなそうなんで今回は護衛の仕事を諦めたのだ。


「それより、すいません。同じ冒険者なのに夜警に参加しなくて」


「それは気にするな。俺たちは金をもらって仕事でやってることだしな。

 金を払ってるお前さんは、今回はお客さまだ」


「お言葉に甘えます」


「おう、この旅の間くらいは羽を伸ばしてゆっくりするといい」


俺の現状を知らないトマスさんは朗らかに笑ってそう言う。そうですね、何もせずに寝ていられたらどんなに楽でいいか……ハンナちゃん、あの子は鬼だ。


「よし、俺もテントを張ろう」


俺はトマスさんと別れて、自分たちのテントを張るための場所を探しに行った。





独り用のテントなんて、あっという間に用意が終わってしまう。俺はカバンから携帯食を取り出して焚火の方に向かう。足元にポロンが纏わりついてくる、ハイハイお前の食事も準備するから落ち着け。


干した肉を串にさし、軽く火で炙る。お湯を沸かしてカップに注ぎ完成。ハッキリ言うが、俺は料理が全くできない。向うにいた頃は、寮に食堂があって栄養士のおばちゃんが朝と夜の食事を用意してくれていた。小腹が空けば、近くにコンビニがあったし自分で何かを作る機会なんてカップ麺くらいしかない。


俺が今作っているものは、野営をする旅人用に開発された携帯食だ。お湯さえ沸かせば、それなりの味で温かい物が旅の途中でも取れる優れものだ。味にとやかく言わないのであれば、これだけ買っておけば問題ない。


「……クゥ~ン」


しかし、ポロンはご機嫌斜めだ。こいつ『羊の夢枕亭』でハンナちゃんから、餌付けをされていたせいで、舌がしっかりと肥えてしまっていた。


「そんな顔するなよ、俺はこれでも十分美味いと思うぞ?」


しかし、そんな俺に向けてポロンは冷めた視線を向ける。仕方なく、本当に仕方なくといった表情でご飯を済ませると、さっさと俺たちの寝床の方へ行ってしまった。


「あいつ、普段から俺より良い物食い過ぎなんじゃね?」


どこか遣り切れない思いがこみ上げてくるが、スープと一緒に流し込む。


「あの犬は、随分と自由奔放なんだね」


「え、ああ……。今日の夕食がお気に召さなかったようで」


「え、それでヘソを曲げたのかい?それはまた、随分と人間臭いねぇ」


話しかけてきたのは、同じ馬車に乗っているケニさん。ウドベラに嫁に行った娘さんに子供が産まれたとかで、初孫の顔を見に行くらしい。ケニさん自身はそこそこ大きな商会を切り盛りするやり手の人みたいだ。馬車の中で、聞いてもいないのにあれこれと話してくれた。


「ちょっと周りが甘やかせ過ぎなんです。まあ、可愛い奴なんで仕方ないですけどね」


「はは、キミも甘やかせる方か」


「怒ろうとすると、気配を感じて甘えてくるんです。あいつ、頭が良いんですよ」


俺は焚火に当たりながら、ケニさんや他の同乗していた人たちと他愛もない会話を1時間ほど続けて、ハンナちゃんから出された宿題に取り掛かることにした。


「ほう、書き取りの勉強かね?」


「ええ、文字の読み書きができないと色々と問題が多くて覚えることにしたんです。そうしたら、宿屋の娘さんが旅先でも勉強できるようにって……宿題を渡されました」


「それは……また、随分とスパルタだね。その娘さんは幾つくらいなんだい?」


「10歳です」


「10歳……ははは、それはしっかりやらないと帰るに帰れないな」


「まったくです」


俺が書き取りの勉強をしていると、ケニさん以外にも集まってきて俺の横で酒盛りを始めた。いや、文句を言う筋合いじゃないのは分かってるんだけど……なんでわざわざここでやるかな。


「ほらそこ、そこの綴りが間違ってるよ」


「おいおい、きったねぇ字だな。そこはもっと流れるように……」


「あ、また間違いました。これはいつになったら覚えられるのやら」


「だぁっ、うるさい!俺のことなんて気にせず酒飲んでてくださいよ!」


おっさんたちに寄って集って注意を受けていた。


「いや、君を弄っていると酒が進むんだよ」


「そうそう、これほど肴になる奴も珍しい」


くそ、言いたい放題言いやがって……もう無視だ。俺は黙々と書き取りを進める。どれくらい経ったのか、いつの間にか俺の周りにいたおっさんたちも自分たちのテントに戻っていた。あれ、俺そんなにやってたか?


「もう、こんなに真っ暗だ」


上を見上げれば満天の星空。集中し過ぎて周りのことが見えていなかった。


「今日はこれくらいにして、向うに着いたら残りをやるか」


俺も寝る準備をするため、テントに向かう。途中夜警中のトマスさんに軽く挨拶をしてテントに入った。


「あれ、ポロン?」


テントに入って中を確認してもポロンが見当たらない。あいつどこいったんだ?


「おしっこか?まあ、そのうち戻ってくるだろ」


寝袋を出して潜り込む。夜警をしなくていいから、これで朝までぐっすり眠れる。慣れない馬車での旅行で大分疲れていたのか、俺はポロンが戻ってくる前に闇の中に落ちていった。





目が覚めたのは、何が原因だったのか?突然に意識が覚醒した。


「……ん、なんだ?」


辺りを見渡してみる。テントの中は真っ暗だ。眠りについてから、そんなに時間は経ってないんじゃないかな。だけど、どうして起きてしまったんだ?今日は結構疲れたから朝まで起きないと思ってたのに……。すると、普段感じない違和感を感じた。


「なんだ、この感じ。なにか見落としちゃいけないことを見落としてる気がする」


なんかイヤな感じだ。テントの中を見てもおかしなところはない……あれ?


「そういえば、ポロンはどうした?まだおしっこから戻ってきてないのか?」


それはおかしい。寝てからどれくらい経った?10分や15分ではきかないだろう……なのに、テントの中にポロンがいない。


「ポロン?」


呼んでみるが返事が無い。テントの中にポロンの気配がしない。


「ポロン!」


慌ててテントを飛び出した……


「あれ?」


テントを出て辺りを見回してみたが、やけに静かだ。


静か……そう、静かなんだ。普段野営をしていると、焚火の爆ぜる音や夜警をしている人たちの話声などそれなりに音が聞こえてくるものだ。なのにまるで音がしない。


「夜警の冒険者たちはどうしたんだ?」


周りを見回してみるが、人っ子一人いない。焚火も大分弱くなってて、このままじゃ消えてしまいそうだ。


「トマスさん達、仕事を適当にするような人たちには見えなかったけど……」


俺は弱くなった焚火に薪をくべて、他のテントの人たちを見に行くことにした。順にテントを見て回るが、時間も大分遅い。テントの中からは火との微かな気配とイビキの音がする程度だった。


しかし、左端にあるテントに近づいたときにおかしなものを見つけた。テントの出入り口から男の足だけが外に出ている……これって、酔ってとか寝ぼけてとかじゃないよな。恐る恐るテントに近づいてみる。


「あの、大丈夫ですか?」


男に声をかけてみるが反応が無い。明らかにおかしい。


「あの……」


意を決してテントの入り口をまくってみる。


「うわっ!」


途端に感じる血の匂い。倒れた男の腰から先がなかった……テントから出ていた足の、ほんのちょっと先で無くなっていた。血の海に沈んでいる下半身には見覚えがあった。


「確か、俺が書き取りをしていた時に一緒に酒盛りしてた人だ」


そう、ケニさんと一緒になって俺の字が汚いって笑っていた人だ。あれからそんなに時間も経ってないのに、こんな変わり果てた姿になるとは思ってもみなかった。


「……夜警をしていた冒険者たちはどうしたんだ?」


夜警をしていて、この状況に気付かないとは思えない。そもそも、夜警をしているはずの冒険者がどこにもいない現状が最悪の事態を想定させる。


「今は冒険者たちと合流しよう」


テントの入り口を元に戻して遺体を隠す。

辺りに意識を集中する、だけど焚火の音以外に聞こえるものは何もない。こうなったら、他のテントも見て回ってみんなの安全を確認しないと。俺は近くのテントを1つずつ確認することにした。


「すいません、夜分遅くに失礼します」


テントに向かって声をかけるが、返事が無い。心臓の音がうるさくなるが、気にせずテントの入り口をめくった。


「……クソッ、ここもか」


テントの中には、折り重なって倒れる老夫婦の無残な死体があった。お婆さんを庇う形で覆いかぶさって死んでいるお爺さん。多分襲撃してきた何かからお婆さんを守って死んだんだろう。背中に深々と獣の爪のような痕があり、恐らくそれが致命傷だったんだろう。お婆さんの方は首筋を鋭く切り裂かれている、こっちは即死だろう。苦しまなかった分、良かったのかもしれない。


「襲ってきたやつは爪の鋭い獣か?」


凄惨なテントから外に出る。俺も随分この世界に染まってきたもんだと思ってしまう。ホラー映画ならまだしも、現実でこんな惨い死体を前にしても気持ち悪くなったりはしなくなった。


「生存者はいるのか?」


次のテントに向かう。


「すいません、起きておられますか?」


声をかけると、中から微かに人の気配がした。


「すいません、大丈夫ですか?」


「……んあ?なんだ、こんな時間に……」


この声はケニさんだ。


「ケニさん、すいません。非常事態です」


俺の慌てた声を聞いて、ケニさんがテントから顔を出した。


「……ホクト君。いったいどうしたって言うんだい?」


「その前に確認させてください。テントの中はなにも問題ありませんか?」


俺の話した内容を訝しんでいたけど、ケニさんは答えてくれた。


「何があるっていうんだね。うちのカミさんが中でグーグー寝てるよ」


このテントは大丈夫なようだ。思わずホッとため息が出てしまった。


「それより、ホクト君。こんな時間にどうしたって言うんだ?

 ちゃんとした説明をしてくれ」


「ちょっと俺に付いてきてください。話すよりも見てもらった方が早いです」


あの死体を見せるのはちょっと気が引けるけど、今は一刻も早く状況を共有できる人がほしい。俺はケニさんを連れて、老夫婦のテントへ向かった。


「中を見てください。あ、大声は上げないようにお願いします」


俺の言い方で何があるのか気付いたのか、ケニさんは神妙な顔つきでテントをめくった。


「ウゥッ!?」


慌てて自分の口を抑えるケニさん。なんとか絶叫することは止めてくれた。だが、汗をびっしょり書いて青ざめている。


「ホクト君、これは一体どういうことだ?」


「俺にもわかりません、俺も起きたら護衛の冒険者が居ないことに気付いて他のテントを見て回っていたら、こうなっていたんです」


「そうか……だが誰が、いや何がこの近くにいるんだ」


傷口から人ではないと判断したんだろう。ケニさんが言い直した、そのとき


「キャァァァッ~~~~!!!!」


女性の悲鳴が聞こえ、振り返った俺たちの目の前に


「……熊?」


「あ、あ……ああ。あれは……」


隣でケニさんが震えている。


「ケニさん、あいつを知ってるんですか?」


「あ、ああ。あいつは……シャドウグリズリー」


名前のとおり、漆黒の巨大熊が口に冒険者の成れの果てを咥えた姿を俺たちの前に現わした。

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