14話 緊急討伐依頼
追記:文末の・・・を……に変更しました。
町に戻った俺たちは、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
「すまない、通してくれ重傷者がいるんだ!」
アレクとキールはミランダを連れて、ギルドの奥へ入っていった。エミルも2人を追って奥に入っていく。
「ホクトさん、これはどうされたんですか?」
「ノルンさん。ちょっと色々ありまして……」
「……わかりました。詳しくは奥の部屋でお聞きします。
私に付いて着てください」
ノルンさんに促されて、ギルドの奥へ入る。へぇ、ギルドの奥ってこうなってたんだ。
「こちらでしばらくお待ちいただけますか?」
「わかりました」
案内された部屋は応接室?なんか、うちの学校の校長室みたいな感じだ。ちょっと高価そうなソファーとか置いてある。いつまでも立っている訳にもいかないので、とりあえずソファーの1つに座る。
「今飲み物をご用意します」
そう言って、俺の返答も聞かずにノルンさんは部屋を出ていった。
「……」
こういう部屋は落ち着かない。下手に触って壊れでもしたら払いきれなそうだ。居心地悪くソワソワしてると、ノルンさんが飲み物を持って戻ってきてくれた。
「こちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
手渡されたお茶を飲んで落ち着く。……はぁ、お茶が美味しい。
「さて、では何があったのかお話しいただけますか?」
聞く姿勢になったノルンさんに対し、こちらも姿勢を正して話し始める。森で戦う音を聞いたこと、その場所にいくとアレクたちがゴブリンと戦っていたこと。ゴブリンは自分とアレク達ですべて倒したこと……。
「そうでしたか……それは災難でしたね」
「まあ、結果的にアレク達も助かって全員無事だったんで良かったですよ」
「ふふ……そういうことを言えてしまうホクトさんは、やっぱり冒険者としては珍しいですよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、本来冒険者は全て自己責任が原則になりますから。
この場合、ホクトさんがアレクさん達を見殺しにしても罪にはなりません」
「まあ、そうなんでしょうけど……それはそれで後味悪過ぎますよね」
「ですから、ホクトさんは珍しいと言ったんです。普通の冒険者であれば、よほどの利益が無い限りは無視します。それをギルドが推奨する訳ではないですが、皆さん自分の命を張っている職業なので、こちらとしても強く言うことはできないんですよ」
「……なんか、夢も希望もないですね冒険者って」
「私は、そういった行動を自然に行えるホクトさんは立派だと思いますよ」
「あれ、ノルンさんの中で俺の株上がりました?」
ちょっと茶化して聞いてみる。
「はい、爆上げです」
ノルンさんも分かっていたのか、冗談で返してくる。そんな他愛もないやり取りでやるせない冒険者という職業に嫌気がさしかけた俺の心を救ってくれた。
「話を戻しますが、一角兎が棲息している森でゴブリンに襲われたんですよね?」
「そうです。俺が行く場所って基本あそこしかないですから」
「ですね。ただそうなると、少し話がややこしくなってきます」
「ややこしくですか?」
「あの森では、ゴブリンが確認された事例は無いんです。なので、比較的安全ということでEランク冒険者にも薦めているんですよ」
「……でも、俺たちは確かにあの森でゴブリンと戦いました」
「はい、なので今回が初めてということになります。
これは……ひょっとすると、あの森で良くないことが起こっている可能性があります」
「良くない事ですか?」
なんだろう?俺が感じた嫌な予感に通じる何かが起こってるっていうのか?
「とりあえず、今の話を上に報告して調査をしてみます」
「そうですね、その方がよさそうです」
「……そうなりますと、調査が終わるまであの森は特定ランク未満の方は侵入禁止処置がとられることになると思います。ですので、ホクトさんは……」
「……えっ!?俺入れなくなるんですか?」
「おそらく。Eランク冒険者は入れなくなると思います」
そんなぁ~!それは俺の財布に直結する一大事だぞ。なんせ、俺はあそこの森で一角兎を狩ることで生活できているんだから。
「侵入禁止って、どれくらいの期間になるかわかりますか?」
「調査の規模にもよりますが、2,3日は……」
あかん、干上がってまう。何とかならないかノルンさんに聞いてみよう。
「それだと、俺生きていけなくなるんですけど……何とかなりませんか?」
「すいません、規則ですので。あ、でもこの話はダッジさんにも伝わりますので、ダッジさんが何かしら対処してくれるとおもいます」
ダッジさんが?……そんな事くらいで、方針を変えるかな?
「運が悪かったな。そういうことも含めて冒険者だと諦めろ」
何ともなりませんでした……。
それから3日間は、町の中で訓練を積みつつ初期の頃に行っていた南の森で薬草採取の依頼をこなした。……まあ、完全にゼロよりはましだったけど、お蔭で手持ちの資金がスッカラカンになってしまった。
「ホクトさん、今日この後お時間ありますか?」
そんな胃に来る日々を送っていると、ギルドのカウンターでノルンさんに声をかけられた。
「え、ええまあ。やることないですから……ハハハ」
「そ、そうですか。……では、今日の夕方に2階の会議室に来ていただいてよろしいですか?この間の一角兎の森の調査が終わりましたので、そのご報告があります」
「え、終わったんですか!?行きます行きます……よかったぁ、このままだとマジで生きていけないところでしたよ」
「では、夕方に2階の一番手前の会議室にお越しください」
「わかりました!」
さて、どんな結果がでたのかな?
夕方になったので、再びギルドを訪れて2階に上がる。確か一番手前の部屋って言ってたよな?ノルンさんの言葉を思い出しながら部屋のドアを開ける。
「あ、ホクト。君も呼ばれたんだね?」
中にはすでに烈火の牙の面々が座っていた。
「あれ、アレク達も呼ばれたんだ」
「まあ、僕たちも当事者だからね」
烈火の牙の面々を見回す。すると、奥に座っていた女性(ミランダだっけ?)が俺の方に近づいてきた。
「あなたが、あの時私たちを助けてくれたホクトさんね。ありがとう、あなたのお蔭で命を落とさずに済んだわ」
俺よりもちょっと年上の、ツンッとした印象を受ける女性だ。
「ミランダさんですね。この前は挨拶もできませんでしたが、改めて。
俺はホクトです。よろしくお願いします」
「私はミランダ。見てのとおり魔法使いよ。
改めて、助けてもらってありがとう」
お互いに握手する。見た目はきつめの人だけど、以外に良い人っぽい。
「おう、全員揃ってるな。ホクト、お前も席に着け!」
扉の外からダッジさんとノルンさんが入ってきた。どうやら、この2人が事情を説明してくれるらしい。烈火の牙の面々は左側に固まって座っているので、俺は反対の右側に腰を下ろした。
「皆さま、本日はご足労頂ありがとうございます。
本日は、皆さまが遭遇した一角兎が棲息する森の調査結果が出ましたので
当事者である皆さまにご報告いたします」
ノルンさんが説明を始める。普段俺に見せるような柔らかな印象は微塵もなく、ひたすらできるキャリアウーマンのような佇まいだ。
「調査結果については、オレから説明する。オレはダッジ、ここリーザスの町所属のBランク冒険者だ」
ダッジさんが自己紹介をすると、烈火の牙がざわつき始めた。
「お前らも色々聞きたいことがあるかもしれないが、まずはこちらから報告を聞いた後にしてくれ。それでは報告を始める」
そう切り出したダッジさんが語った内容は驚くべきものだった。あの森の奥にゴブリンが大きな集落を作り、繁殖を行っていると言うのだ。
「あの森は今後『角の森』と呼称する。調査してきた連中の話しを聞く限りでは100匹以上がいるそうだ」
「100匹!?すでに、そこまで大きなコロニーになっているんですか?」
アレクがダッジさんに聞き返した。
「そうだ。お前たちが遭遇したゴブリンたちは斥候だったんだろう。調査を行った冒険者たちも、何組かの集団に出くわしている」
これってまずいんじゃないか?気付かれることなく100匹のゴブリンが生活していた……。ゴブリンは1匹1匹では大した脅威じゃないけど、それが100匹だと町が襲われかねない脅威となる。
「で、どうすんですか?」
俺の方からダッジさんに聞いてみる。
「当然討伐する。準備やなんやらで3日ほどかかるが、緊急討伐依頼をギルドが発令することになる」
「そんなこと、俺たちに話してよかったの?」
「いいんだよ。だからお前たちに先んじて知らせたんだ」
俺とダッジさんが馴れ馴れしく話していることが不思議なのか、俺たちを見ていた烈火の牙の面々がポカンとしている。
「この緊急討伐はC、Dランクを中心にメンバーを集める。ただ、それだけだと人手が足りないからお前らのようなEランクにも声をかけることになっている。ただし、Eランクに限っては誰でも良いと言う訳ではない。ゴブリンたちと渡り合える実力を加味した上で、ギルドから指名することになる」
誰でも受けられる訳じゃないのか。C、Dランクって事はアサギやソウルは参加する可能性があるな……クソッ、俺もあいつらと戦いたい。
「なんてツラしてんだホクト。お前にも行ってもらうぞ」
「え、じゃあ俺も、その緊急討伐に参加できんの?」
「お前だけじゃなくて、お前らな」
「僕たちもですか!?」
「今回のゴブリン集落発見は、お前たちが情報を持ち帰ったことが発端として発覚したことだ。だから、他のEランク冒険者たちよりも先にお前たちに知らせたんだ。確認の意味も込めてな」
「やる!俺やるよ、ダッジさん!ここまで話すって事は、一角兎討伐以外でも参加していいって事だよな?」
「もちろんだ。そっちの烈火の牙はどうする?」
「ちょっと相談させてください」
「ああ、いいぞ。ただし、この部屋の中だけにしてくれ。今はまだ極秘情報だからな、外に出た瞬間にお前たちの討伐参加権利をはく奪する」
「わかりました」
そういって烈火の牙の面々は集まって話し合いだした。
「なあ、ダッジさん。あちらさんは元々パーティだからみんなで行くんだろうけど、俺ソロでいいの?」
「心配すんな。今回のような大型討伐の場合は、現場で即席のパーティを組んでもらうことになる。お前みたいにボッチを集めてパーティを作るんだよ」
「ボッチ言うな!そうか、ならアサギと組んでもいいのか?」
「それは……難しいんじゃないか?」
そう言いながらダッジさんはノルンさんの方を見る。
「そうですね。即席のパーティを作ると言っても、基本的に同じランク帯での話になります。アサギさんはCランクですから、集落殲滅の主力になると思いますよ」
なんだ、ダメなのか。久しぶりにアサギとパーティが組めると思ったのに。
「今回の討伐はCランクはCランクに見合った仕事を、DランクにはDランクに見合った仕事を割り当てることになる。当然EランクにはEランク用の仕事が割り当てられるからな」
「まあ、稼げればなんでもいいっす」
そんな俺の言葉に苦笑するダッジさん。俺がここ最近金に困っているのは当然ダッジさんも知っている……というか元凶だ。
「金々言うのもいいがなホクト、無理だけは絶対にするなよ」
「わかってます。俺そこまで無謀じゃないですよ?」
「無謀の意味を知っていること自体が驚きだからな、お前の場合」
「それくらい知ってます!それに、もうちょっと自分の弟子を信用してもいいんじゃないですか?」
「無論、信用はしている。だから、オレはこの話をお前にしたんだ」
……なんか照れるな、面と向かって評価されるって。隣でノルンさんがニコニコしてる、止めてください。そんな顔で見ないで!
「決めました。僕たちも参加します」
メンバーを代表してアレクが言った。そうか、これで次の任務はアレク達と一緒にやれるんだな。
「わかった。では、烈火の牙及びホクトは3日後早朝に東の門前に集合しろ。
今回の依頼では馬車を出すが、それ以外のものは各々に負担してもらう。
以上だ」
こうして、俺にとって初めてになる大型討伐依頼を受けることになった。
ダッジさんは意外に有名人




