12話 レッド・コメット道場
追記:文末の・・・を……に変更しました。
ポロンと一緒に町に戻ってきた俺は、そのままギルドに迎いダッジさんを探した。訓練場を見たが、姿が無かった。仕方ないので、カウンターに行ってダッジさんの行き先を聞いてみる。
「すいません、ノルンさん」
「おかえりなさい、ホクトさん。依頼の達成報告ですか?」
「ええ、それもあるんですけど。ダッジさんの居場所を知りませんか?」
カウンターに乗せられたトレーの上に、今日狩ってきた一角兎をのせつつノルンさんにダッジさんの居場所を聞いてみる。
「ダッジさんですか?今日は、午前中に予定があるとかで……もう少ししたら戻ってきますよ」
俺と会話を続けながらも、手は止めずにトレーを別の職員に渡すノルンさん。仕事のできる女性、素敵です。
「じゃあ、ダッジさんが戻ってきたら訓練場で待ってることを伝えてもらえますか?」
「わかりました、確かに言付かりました」
ノルンさんから今日の報酬を受け取り、俺は訓練場に戻る。
「さて、ダッジさんが戻ってくるまで時間ができちゃったな」
訓練場に腰を下ろした俺の横にポロンが寝っ転がる。これは撫でて構えっていう合図だ。しばらく一緒に暮らしているから、大分俺に懐いてきた。
「ほ~らポロン、ゴロゴロ~~」
ポロンと一緒に遊ぶ。これは俺にとって重要な癒しの時間だ。
「よ~し、よし。お前は可愛いな!」
身体中を撫で回すと、ポロン気持ち良さそうにはしゃぎ回る。しばらく遊んでいると、満足したのか俺の横で丸くなる。俺はそれを見てから、魔力錬成の練習を始める。
「そろそろ、できるようになってもいいのにな……」
目を瞑って体内に向けて集中する。前にダッジさんが肩から流した魔力の温かさを思い出しながら、身体の深い部分を探っていく。
「……」
すると、今まで感じたことの無い何かが身体の中を流れている気がした。
「……あっ!」
しかし、あとちょっとのところで逃してしまった。後少しだったのに……。
「……よし、もう1回」
「おうホクト、俺に何か用だって?」
そう思っていたら、ダッジさんがやってきた。……この人も大概間の悪い人だな。
「ええ、今日森で強い魔物に出くわしたので何か情報が無いかと思って……」
「強い魔物?」
俺の前に腰を下ろしながら、ダッジさんが聞いてきた。
「はい、赤い一角兎です」
「!!!お前、あいつに会ったのか!?」
途端に目の色を変えてダッジさんが聞いてきた。
「やっぱり、ダッジさんはあいつが何なのか知ってるんですね!」
「……あいつは、あの森の主だ。赤い一角兎、一角兎のユニーク個体だ」
「一角兎のユニーク個体?」
「ああ。魔物ってのは、たまに突然変異種が生まれることがある。
こいつらは通常個体よりも強く、特殊能力を持ってることが多い」
「あいつって有名なんですか?」
「ああ、昔からいる森の主だ。出会ってしまうと、殺されることは無いんだが
森に入る度に襲われるようになる」
「ゲッ!じゃあ、次に森に入っても……」
「お前が森に入ったら、襲い掛かってくるだろうな」
マジかよ……やっと、一角兎を討伐できるようになって生活の目途が立ったっていうのに。
「何か特性とか、弱点ってないんですか?」
「お前、あいつと戦う気か?」
「だって、せっかく一角兎を狩って生活できるようになったのに、また薬草採取に戻るのなんてまっぴらごめんですよ」
「……そうか、じゃあオレの知ってる範囲で話そう。
あいつは、通常『レッド・コメット』素早さに特化した個体だ」
レッド・コメット?マジで赤い○星かよ。まあ、あれだ速く動き回られたら、そんな渾名が付いてもおかしくないか……。
「とにかく速くて、目で追うこともできませんでした」
「ホクト、これはチャンスだと考えよう」
「え?チャンスですか?」
「そうだ、あいつは襲ってきても死ぬまでのことはしてこない。
ならば場数を踏んで、あいつに稽古をつけてもらっているつもりで、とにかく毎日戦いに行け。そうしたら、いつかは倒せるかもしれない」
「そんな方法ってありなんですか!?」
それって、レッド・コメットに弟子入りして鍛えてもらえってことだよね!?いいの?魔物に鍛えてもらって本当にいいのか?
「お前が諦めない限りは、あちらさんも諦めないからな。良かったじゃないか、俺以外にも師匠と呼べるような存在に出会えて」
ニヤニヤしながらダッジさんが俺に言ってくる。クソッ、こっちは笑い事じゃないのに……。
「それしか方法が無いなら、やれるだけやってみます」
こうして、レッド・コメット先生による訓練が始まったのだった。
それから更に3日、俺は毎日レッド・コメット先生に訓練を付けてもらっていた。
「おりゃ、当たれ!」
何度目かの空振りの後、強い突進を受けて吹っ飛ぶ。
「だぁ!また、やられた!」
懲りずに立ち上がって、先生の方を睨む。ちなみにポロンもいるにはいるが、レッド・コメット先生が脅威ではないと分かってからは、戦いに参加せずに周りで遊んでいる。お気楽でいいなお前。
「たまに見えるようにはなってきたけど、まだまだ攻撃を当てられるところまで行ってないな……」
消えたレッド・コメット先生の気配を探しながら構える。とにかく先生は速い、その上気配を絶つのが非常に上手だ。まったく先生には頭が上がらない。避ける訓練と同時に気配感知の訓練まで並行して指南してくれているんだ。
頭に血が上った状態では対処できない。俺は深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「……ふぅ。よし、集中と鷹の目」
今は『集中』と『鷹の目』を常時発動しながら、戦闘を長時間行えるように訓練している。俺の切り札ともいえる、この2つのスキルを鍛えるにはもってこいの相手だ。
死角からレッド・コメット先生の突進を食らう。
「がぁ!また、やられた!」
まだまだ、先は長い。
訓練開始から5日目。まだまだレッド・コメット先生を捕まえることはできないけど、昨日1日追いかけていて1つ分かったことがある。レッド・コメット先生が通った道筋に目に見えない流れがあることが分かった。これが何なのかは分かっていないけど、それを辿った先に先生がいることが多い。
今も道筋を目で追って、1つの繁みに行き当たる。
「そこだ!」
「キュィィィ!!!」
ビンゴ!だけど、まだ攻撃を当てるまでは行かない。すんでのところで避けられた。
「おしい!でも、何となく分かってきたぞ……。あれって、先生が使っている魔力の流れなんじゃないか?」
自分の体内の魔力はまだ掴めてないけど、先生の魔力の流れが分かるってどうなんだ?
「先生も身体を動かすときには、魔力が流れ出すのか……。これって魔力で動きを補助してるってことか?人間にもできるのかな?」
先生は色々なことを教えてくれる。先生との訓練は成長を感じられて楽しい。
「さぁ、もういっちょいくぞ!!」
訓練開始から6日目。今日は訓練場で魔力錬成の訓練をしている。レッド・コメット先生との訓練はお休みだ。
「先生のお蔭で魔力の流れは分かるようになってきた。
あとは、自分の中の感覚を掴めれば……」
自分の奥深くまで意識を向ける。集中力を高めて、ちょっとちょっと……。そのとき、カチッと。本当にカチッと何かがハマった気がした。チャンネルが合ったというか……クリアになったというか。とにかく、いきなり見えるようになったのだ。
「解る、解るぞ!これが、体内を流れる魔力の流れか!」
俺が突然騒ぎ出したことで、近くにいたポロンがビックリしてこっちを見た。
「ポロン、すごいぞ。身体の中の魔力の流れが見える……ははは、すげぇな」
「ワンワン!」
俺が喜んでいるのが分かるのか、ポロンも一緒になって喜んでくれている。
「ここまではできた。……次は、この流れを自在に動かせるか試してみよう」
そう、俺の考えが正しければレッド・コメット先生のように、身体を動かすときの補助を魔力で補えるはずだ。
まずは、身体の中を循環している魔力の流れを1か所に集めてみる。
「右の拳に体の中の魔力を誘導して……」
魔力が右拳に集まってくると、拳が熱くなってきた。これは、成功しているって事か?
「よし、こんなもんでいいか。じゃあ、試してみるか……せぇの!!!」
右拳を地面に叩きつけてみる。すると、地面が陥没してクレーターのようになった。
「……すげぇ。魔力ってすげぇな!」
ちょっと集めただけで、これだけの威力になるのか。まだ、ダッジさんの浸透には及ばないけど、これはこれで魔物と戦う時の武器になりそうだ。
「よし、魔力を集める方法は分かった。明日先生にリベンジだ!」
先生との訓練開始から7日目。今日こそ先生を捕まえたい。いつもと雰囲気の違う俺に気付いたのか、先生は最初から全開で動き回っている。
「さすが、先生は速いな。だけど、俺だっていつまでも遅れは取らないよ!」
魔力を足に流して脚力を強化してみる。
「うわっ!」
加速力が一気に上がった。これにはレッド・コメット先生もビックリ!しかし制御が甘かったせいで、木に突っ込んだ。
「ペッペッペ……。うわぁ、口の中がザリザリだ。でも、これを上手く制御できれば俺の素早さは一気に上がる」
懲りずに足に魔力を流し、制御しながら先生を追う。
先生が右に動けば右に、左に動けば左に、突っ込んでくれば咄嗟に躱し、何時間も先生を追いかけっこをした。お蔭で制御は大分上手くなった。
「よし、先生とも互角にやれる。後は集中を切らさずにどこまでできるかだ」
スキル『集中』と『鷹の目』、そして魔力を足に流しての素早さ強化。俺のすべてで先生を捕まえる。
「先生、よろしくお願いします!」
そう言って、先生に向かっていく。先生の方も今までとは違い、本気で向かってくる俺に本気で対抗してくれた。右や左だけではなく、上や下への立体起動も織り交ぜて俺から逃れようとする。俺は、それを鷹の目で予測しながら先手先手を取りに行く。
「!!!こっちだ!」
俺の読みが当たり、先生の毛に若干手が触れる。
「おしい!でも、掠った。……先生、以外に手触りいいですね」
そんな褒められ方をしても嬉しくないのか、更に動きが複雑になる。だけど、一度触れることができたことは自信になる。俺は自分の読みに自信を持って先生を追いかける。
「右、上、左下……次は左上!」
強めに足に魔力を流す。ブーストの如き加速力で一気に先生を追いつめる。しかし、さすが先生。咄嗟に軌道を変えて回避しようとする。
「残念だけど、俺の勝ちっす!」
しかし、そこまで読んで動いた俺の両手が先生をついに捕まえた。
「!!!……やった、やったぞぉぉぉ~~!先生を捕まえた!」
捕まったことが信じられないのか、先生は俺の手の中で大人しくしている。俺はその間に先生の毛並みを十分に堪能した。
「いや~、長く苦しい道のりだったけど、この手触りの為だったと思うと許せるな」
モフモフのモコモコ……先生、捕まってからも最高です!しばらく堪能した後、俺は先生をそっと離した。
「レッド・コメット先生、ありがとうございました!
先生の訓練のお蔭で、俺は強くなれました!」
先生としては、お礼を言われる筋合いは無いんだろうけど1週間に渡って付き合ってくれたレッド・コメット先生に対して、確かな子弟の絆を感じていた。
俺をしばらく見ていた先生だったけど、フッとその場から消えた。気配も遠ざかったから、もう俺の前には姿を見せないかもしれない。俺は先生に認められたんだ。胸を張って見送ろう。
「ありがとうございました!」
名前:ホクト・ミシマ
性別:男
年齢:17
レベル:4
職業:拳闘士(Lv2)↑
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体力 :198 +3↑
精神力:126 +20↑
攻撃力:140(+5)
防御力:153(+6)
敏捷 :274(+3) +24↑
知能 :2
魔力 :110
運 :41
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スキル:
ダーレン大陸共通言語(Lv2)
鷹の目(Lv8)↑、集中(Lv8)↑
気配感知(Lv1)NEW、魔力制御(Lv1)NEW
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称号 :
初心者冒険者(体力に小補正)
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装備 :
皮の籠手(攻撃力+5)
ショートソード(攻撃力+5)
皮鎧(防御力+6)
グリーブ(敏捷+3)