10話 必殺技
追記:文末の・・・を……に変更しました。
ダッジさんに連れられて訓練場までやってきた。でもダッジさんから放たれる威圧感は尋常じゃない……やばいな、これ相当怒ってるんじゃないか?
「……」
訓練場に着いてからもダッジさんは一言も喋らない。これはとっとと謝って、拳骨の1つでも貰えば納まってくれるかな。
「……さt」
「すいませんでした!!」
ダッジさんが何かを話そうってタイミングに被せてしまった……なんて間の悪い。でも、このまま言ってしまえ!
「ダッジさんのお怒りはごもっともですが、今日の決闘は降りかかる火の粉を払った結果でして……その……ええと……とにかくすいませんでした!」
「……何を謝ってるんだ?お前は」
「へ?」
あれ、決闘したことを怒ってたんじゃないの?
「だって、さっきからダッジさん怒ってるじゃないですか。思い当たる節は決闘を受けたことかなぁ……と」
「そんなことで怒ったりせん!」
「じゃあ、なんで怒ってんですか!」
「お前が時間通りに来ないからだ!」
「ええ、それ!?いや、まあ遅れたことは悪いと思ってますけど……決闘したことよりも、そっちで怒るんですか?」
「冒険者なんて荒くれ者どもが集まるのが冒険者ギルドだ。喧嘩の1つや2ついつものことだ」
「じゃあ、それに巻き込まれたから遅れたんですから俺悪くないですよね?」
「オレが待たされたことが我慢できんのだ!」
「そんな理不尽な!?」
何この人怖い。ダッジさんって、もっと大人な感じがしてたけど……やっぱり冒険者なんだな。
「……そんなことはどうでもいい。で、一角兎は狩れたのか?」
「ええ、狩れました。それで浮ついてた気持ちも全部吹っ飛びましたけど」
「何匹狩れた?」
「5匹狩れました」
「ふむ……」
何かを考え込むようなダッジさん。あれ、5匹じゃ少なかったか?
「今後もしばらくは一角兎の討伐を受けてもらうとして、今日はお前に見せたいものがある。いつものように自己鍛錬が終わったら見せてやる」
「はあ……」
なんのことだろう?まあ、今聞いても教えてくれそうにないから、とりあえず走り込んできますか。そうして、俺は自己鍛錬に励んだ。
「ダッジさん、終わりましたよ」
いつものように走り込みや、瞬発力を鍛えるトレーニング、体幹を鍛えるトレーニングを終えてダッジさんに報告する。
「よし、では模擬戦を行う」
「あれ、なにか見せてくれるんじゃないんですか?」
「戦いながら見せてやる……もっとも、見れればの話しだがな」
なんか含むものを感じるな。素直に見せてくれればいいのに……。いつものようにある程度距離を取ってダッジさんと対峙する。
「一角兎を捕まえられるようになったんだ。少しは抵抗して見せろよ」
「がんばりまっす!」
ダッジさんに打ち込む。初めの頃は両拳だけしか攻撃方法がなかったけど、最近は足や肘、膝などあらゆる身体の部位を使った攻撃をできるようになってきた。まだまだ、隙も大きく稚拙だけど気にせずダッジさんに打ち込んでいく。
「攻撃の瞬間に気を緩めるな!ほら、ほら、ほら!」
1発打ち込むと2,3発返ってくる。
「お前の攻撃はまっすぐすぎる。それでは、頭のいい奴には通用しないぞ!」
おかしいな、フェイントも入れてるのに全然通用しない。すべて見透かされたかのように逆にカウンターを食らう羽目になる。
「ガードを意識し過ぎるな!いいか、ホクト。拳闘士は最後の最後までガードをするな。拳闘士の防御は躱すことにある。すべての攻撃を最小限の動きで躱して、最大限の攻撃を叩き込むんだ。防御力の無い拳闘士がガードをしてもたかが知れている」
こっちの攻撃の合間にアドバイスをしてくれる。それって、つまり喋れるほど余裕があるって事なんだよな。わかっちゃいるけど、ダッジさんとの差が埋まる気がしない。
「防御から攻撃に移るときの行動が遅い!何のための『俊敏』だ。ステータスの俊敏を最大限に活かすのは、行動の節目節目だ」
クソッ、どんなに打ち込んでも全く崩せない。戦法をちょっと練り直すかと、ちょっと意識が後ろ向きになった瞬間、ダッジさんが恐ろしい勢いで前に出た。
「!!!」
ヤバイ!なんだか解らないけど、何か仕掛けてくる。そう思ったけど、ダッジさんを抑えるすべがない。右のフックは下からの拳で打ち上げられ、左のボディは肘で叩き落とされた……そのまま無防備な胴体に向けてダッジさんの右拳が押し当てられる。
「……?」
あれ、大してダメージがn……
「ガハァァッ!!?」
膝から崩れ落ちて、身動きが取れなくなる。
「焦らずに深呼吸してみろ。しばらくすれば治る」
見下ろすダッジさんの言うとおりに深呼吸をする。最初のうちは肺が言うことを聞いてくれなくて、なかなか空気が入ってこなかったけど、しばらくしたら呼吸できるようになった。
「……ハァ、ハァ……何をしたんですか?」
未だに指一本動かせないまま、ダッジさんに聞いてみた。
「所謂必殺技ってやつだ。……お前には、コレを覚えてもらうつもりだ」
「……だったら、ハァ……ハァ……言葉で説明してくださいよ。
なにも……ハァ、直接当てなくても……」
「お前に言葉で言って理解させるのは無理だ」
……そうっすね、自分知能2ですから!
「お前がバカだからではない、まあバカなのは否定せんが……。
今までにも何人かの拳闘士に、この技を教えた。だが、誰一人覚えることができなかったんだ」
「え、誰もですか?何回か教われば身に付きそうですけど……」
あ、やっと普通に喋れるようになってきた。
「この技はスキルではない。体内の魔力を拳から相手の体内に直接叩き込む技だ。だから、魔力の練り方から打ち出すタイミングまで、全て自分でモノにしていかないと覚えることはできない」
「あれ、魔力を使ってたんですか?……ちなみに、なんて技名なんですか?」
「オレは『浸透』と名付けた」
キターーー!!厨二心をくすぐる必殺技名。
「これから通常の訓練以外にも、魔力の練り方から教えていく。
1回食らえば、どんなものか理解しただろう」
「そりゃもう、これ以上ないってくらいに……」
身体の中で何かが爆発したような感じだった。あれを本気で打たれたら、内側から破裂するんじゃないか?
「この技は、相手の最も深い場所まで辿り着いて、相手の防御力を無視してダメージを与えられる拳闘士最強の攻撃だとオレは思っている。確かに今以上に相手に近づかないといけないデメリットはあるが、それを補って余りあるメリットがあると考えている」
「……確かに、内側からダメージを与えられるなら半端ない攻撃っすね」
「明日から本格的に教えていく。今日はもう帰れ、何か約束があるんだろう?」
そうだった、アサギがお祝いをしてくれるって言ってたし。今なら何とか身体も動かせる。鈍い身体の感覚を無理やり言うことを聞かせてなんとか立ち上がる。
「ありがとうございました。明日からもよろしくお願いします!」
「うむ……」
ダッジさんにお礼をしてギルドに向かって走り出した。
「まさか、こんなに早く教える準備が整うとは……。
あいつ、もしかしてバカだけど天才なんじゃ?」
そんなダッジさんの独り言は、俺の耳には届かなかった。
「それでは、ホクトくんの課題達成を祝って、乾杯~!」
「「「「乾杯!」」」」
それぞれが持ったコップを打ち付けて、一気に中の飲み物を煽る。
「ゴクッ、ゴクッ……ゴクッ!……プハァ!!!」
豪快な飲み方をしているのは、まさかのノルンさん。委員長キャラかと思ったら酒豪キャラでしたか。
「さあ、ホクトくん!どんどん飲んで食べてね。今日は私持ちだから遠慮はいらないよ~!」
「いいのかよ。いや、嬉しいんだけどさ。……ほら、お前には借金まであるし」
「気にしない気にしない。こういう時は思いっきり食べて、飲んで騒げばいいの」
そう言いながらアサギも豪快にジョッキを煽る。アサギもノルンさんもお酒だ。まあ、この2人は成人してるから関係ないけど。
「ほら~、ホクトくんも飲みなよ~~♪」
すでに出来上がってるんですけど、大丈夫か?
「ホクトさんお誘いいただいてありがとうございます。でも、私なんておばさんが参加しても良かったんですか?しかも、娘まで一緒に……」
声をかけてきたのは、資料室で知り合ったマテラさん。娘がいるって言ってたから、一緒にどうですかって誘ってみたら、なんと一発OKだった。
「良いんですよ。俺知り合いも少ないんで、来てもらえて嬉しかったです」
マテラさんの隣には、知らない大人たちに囲まれて若干涙目になってる女の子がいた。
「こんにちは、俺の名前はホクト・ミシマ。ホクトって呼んでほしいな」
涙目の女の子に優しく自己紹介をする。
「アンナ・ライアです。8さいです」
「そうか、アンナちゃんか。よろしくね。
あ、そうだ。お~い、ハンナちゃん!」
「なにお兄ちゃん、呼んだ?」
アンナちゃん1人じゃつまらないと思って、同年代のハンナちゃんを呼んでみた。
「うん。ほら、ちっちゃい子1人だとつまらないだろうからさ。
ハンナちゃんが話し相手になってくれない?」
「ちっちゃい子?……あ、アンナちゃん!」
「ふぇ?あ、ハンナお姉ちゃん!」
「あれ?二人とも知り合い?」
「うん!幼馴染なんだ……ねえ?」
「うん!」
良かった。せっかく誘ったんだから、楽しんでほしいと思ってたけどハンナちゃんが入ってくれるなら大丈夫かな。俺はアンナちゃんのことをハンナちゃんに任せて、マテラさんと話すことにした。
「あの後会えませんでしたけど、無事一角兎を討伐することができました。
これも色々手伝ってくれたマテラさんのおかげです、ありがとうございました」
「そう言ってもらえると、手伝った甲斐がありました」
「ほんと、マテラさんがいなかったら俺今でも資料室の本とにらめっこしてますよ。文字が読めない俺に、あんなに親身になってくれて……本当に嬉しかったです」
「あらあら……あまりおばさんをからかわないで」
この人自分でおばさんっていうけど、なんか仕草が可愛いんだよな。もっと困らせてみたくn……。
ガシィ!!
誰かにこめかみを捕まれた、所謂アイアンクローってやつだ……てか、超痛い。
「イタイイタイ!……何か出る、出ちゃう!!
音、ほら、頭から鳴っちゃいけない音が聞こえてるから!!!」
「小僧、何人妻口説いてんだ?あぁん?」
まあ知ってたけどね、こんなことする知り合い女将さんしかいないし。
「まあ!ちょっとローザ!ダメよ、あなたの力でそんなことしたら……死んでしまうわ」
ローザ……って女将さんの名前!?初めて知った……じゃなくて、なんでマテラさんが女将さんの名前を知ってるんだ?
「マテラ、こういう餓鬼はね、一度絞めといた方がいいんだよ」
「もう、またそんなこと言って。知ってるのよ、あなたがそういうことをする人って、たいてい気に入っている人でしょ?あなた、ホクトさんのことかなり気に入っているみたいじゃない?」
「な!?な、なに言ってるのかな、この人妻は……あ、アハハハ」
「ギャーッ!女将さんギブ!マジで死んじゃうから~~~!!!」
柄にもなく照れまくる女将さんだったが、その調子で締め付けが厳しくなって……あ。
チーン……
「あれ、小僧が……」
「気を失ってるわね……」
「おかみさ~ん、もう1っぱいちょうだ~い!」
「こっっちぃも~ついか~~!!」
宴はツッコミ役不在で、混沌の度合いを深めていった……。
お酒は20歳になってから




