8話 ポロン
累計PV1000を超えました。
呼んで頂いた皆さん、ありがとうございました。
これからも、がんばって投稿を続けていきたいと思います。
追記:文末の・・・を……に変更しました。
「ただいま~」
定宿にしてる『羊の夢枕亭』の玄関をくぐって中に入る。アサギは食堂で昼食を取っていたようだけど、俺を見つけると食事はそのままに近づいてきた。
「おかえり、ホクトくん。遅かったね」
「ああ、色々あってね……」
ほんと、色々あった……。一角兎の討伐に成功したのは良かったけど、その後に予期していなかった事態がいくつもあったから、ちょっと疲れたよ。
「ホクトおにいちゃん、おかえr……ひゃあぁ~、何その子可愛い!!」
アサギの声にハンナちゃんがカウンターの奥から出てきて、速攻子狼に食いついた。
「たたいま、ハンナちゃん。森で迷子になっていたところを保護してね。飼うことにしたから、連れてきたんだよ」
「飼うの!?飼うの!?」
うわぁ~、テンション振り切ってるな。ハンナちゃん、可愛いものに目がないみたいだ。
「へぇ~、森の中で……ねえ。その子犬……じゃないよね?狼の子供?」
「ああ、細かい事情は後で話すよ」
アサギは何かを感じたのか、若干引き気味だ。ハンナちゃんに抱いている子狼を渡してあげる。
「ひゃわぁぁ~モフモフだぁ~~!お兄ちゃん、この子なんて名前なの?」
「え?……あぁ、名前か。そうだな……お前は今日からポチだ」
ハンナちゃんに抱きかかえられた白い毛玉に指を突き付けて宣言してみる。すると、なにが気に入らなかったのか毛玉はご機嫌斜めなご様子た。
「えぇ、可愛くない……もっと可愛い名前にしようよ。リンゴちゃんとかどうかな?どうかな?」
ハンナちゃんがグイグイくる。おかしいな、ポチは由緒正しき犬の名前だよ?こっちでは違うのかな?
「それはハンナちゃんが好きな物でしょ?それよりも、ローストビーフが良いと思うの!」
「「それはお前(お姉ちゃん)が好きな食べ物だろ(でしょ)!」」
「うわっ、ハモりながら否定された!?」
俺たちがやいのやいのやっていたら、当事者である子狼は呆れたような表情で頭を抱えた。前脚で目元を覆うなんて、こいつ芸達者だな。
「わかった、わかった!なら良いとこ取りしてポロンだ。コイツの名前は今日からポロンに決定!」
「ポロン?ポチの『ポ』と、ローストビーフの『ロ』、でリンゴの『ン』?いいの?そんな適当な決め方で……」
「ポロン……ポロン、良いね可愛い!!」
アサギはシックリこなかったようだけど、ハンナちゃんは気に入ってくれたようだ。子狼の方はというと……
「ワン!ワンワン!」
尻尾をブンブン振って喜んでいる。
「お、お前も気に入ったか?」
「……ワン!」
俺が見つめていると、視線を逸らした。あ、こいつ妥協しやがったな。変な名前を付けられるよりはマシとでも思ったのか……賢いやつだな。
「よし、名前も決まったし一通りのことは終わったな」
「いいや、まだだ……」
カウンターの奥から底冷えのする低い声が聞こえてきた……。そう言えば、許可を取る必要があるものが、もう1つあった……。
「お、女将さん……ただいまです」
「おかえり。……で、この毛玉はどうしたって?」
『羊の夢枕亭』の女将さんが般若のような表情で立っていた。
「えと……森で保護しまして、子供だけでは生きていけないだろう……と。
宿で飼いたいので、許可をいただければ……と」
「ああ!?」
「すべての面倒は俺が見ますから、部屋で飼う許可をください!」
全力でお願いしてみる。
「小僧、お前食堂で動物を飼うって事がどういうことか解ってて言ってんのかい?」
「ご迷惑をおかけすると思います。でも、見捨てられないんです。
それでもダメと言われれば……宿を出ていきます」
俺の意思は変わらない。『願いの塔』も大事だけど、ミールとの約束も反故にできない大事な約束だ。ここでダメと言われれば、他の宿を探すしかない。
「お母さん、わたしもちゃんと世話をするから!ポロン飼うの許して!」
「……店では女将さんだ」
ハンナちゃんは泣きながら女将さんにお願いしている。俺としては有難いことだけど、小さな子供を泣かせてしまったのは心が痛い。
「……ハァ。お前の宿泊費に、その毛玉の分も上乗せするからな」
するとハンナちゃんは、パァっと表情を明るくして、逆に俺は宿泊費が高くなることにどんよりしていた。……まあ、しようがないか。宿泊費が高くなるだけでポロンと一緒にいられると思えば。
「ありがとう!お母さん!」
「お・か・み・さ・ん!!」
「うん、おかみさんありがとう!」
アサギも嬉しいのか、若干涙を溜めていた。
「ハンナ、そいつにご飯やるから厨房の裏に連れていきな」
「わかった!ありがとうお母さん!」
そういうや、ハンナちゃんはポロンを連れて玄関から出ていった。
「やれやれ、女将さんだって言ってんだろ。
まあいいや。で、小僧。お前これがなんだかわかってて飼うなんて言ってんだよな?」
「それは、まあ……母親から頼まれたんで」
「母親って……成体に会ったのかい!?」
これには女将さんだけではなくアサギも驚いていたようだ。俺は掻い摘んで事の成り行きを2人に話した。
「なるほど……お前が、度し難いバカだってことを改めて理解した」
「そうね……ここまでくると、お姉ちゃんも笑えないよ?ホクトくん」
「え?そこまで言われるほど!?」
「事情は理解した。お前がバカなのはわかったが、同時に不義理を働くようなやつじゃないこともわかった。あの子は責任を持ってお前が育てるんだよ」
バカだバカだと散々な言われようだけど、女将さんの表情は今までで一番優しい表情をしている。ちょっとは株があがったのかな?
「ホクトくんって、本当にバカよね」
「バカバカうるさいよ!いい加減泣くぞ!?」
なんだよ2人して……。そんなに俺の行動ってバカバカ言われるほど酷いか?
「とにかく!お前の宿代だけどね。あの毛玉の分をプラスして1泊4000ゼムだ。これには、あの毛玉の食事も含んでるからね」
「ああ……まあそれくらいなら」
「今日はもういいから、明日からはその金額を支払いな」
「わかりました」
ポロンの分が食事付きで300ゼムなら許容範囲内だ。今日の一角兎がいくらになるか分からないけど、それなりの金額にはなると思う。
「あ、そうだ。俺冒険者ギルドに行かないと!」
そうだった。狩った一角兎の納品をしないと金がない!
「そういえば、どうだったのホクトくん。上手くいった?」
「ああ、バッチリだ!」
親指を立ててサムズアップ。それを見てホッとしたような表情をするアサギ。アサギにも心配をかけてたみたいだな。
「ありがとうなアサギ。お前のお蔭で一角兎を狩ることができたよ」
「私何もしてないよ?ホクトくんにちょっとだけヒントを教えてあげただけ。
そこからはホクトくんの頑張りよ」
「そっか……俺、ちゃんと冒険者やっていけるんだな」
「うんうん。あ、そうだ!今日お祝いしようよ。
ホクトくんの課題初達成記念に!」
「え、いいよ。討伐って言ったって一角兎だし……」
「だめ、一角兎だって魔物なんだから。それに初討伐は大事だよ?
あ、ギルドに行ったらノルンにも伝えてね」
「……わかったよ。じゃあ、俺ギルドに行ってくる。
ハンナちゃんに、しばらくポロンお願いって言っておいて」
「わかった~」
女将さんにお辞儀をして、アサギに手を振ってから『羊の夢枕亭』を出てギルドへ向かった。
ギルドに入って、ノルンさんがいる受付に並ぶ。しばらく待った後に順番がきたので、ノルンさんに挨拶する。
「こんにちはノルンさん。依頼を完了させてきました」
「こんにちはホクトさん。では、こちらのトレーに乗せてください」
ノルンさんに言われるまま、トレーの上に採取した薬草と5匹の一角兎を乗せた。
「ホクトさん、この一角兎は……」
「はい、無事討伐できました!」
「それはおめでとうございます。アサギさんも喜んでいたのではないですか?」
「ええ、喜んでくれました。この後ダッジさんにも報告してきます」
「そうですか。では、こちらはお預かりいたします」
そう言ってノルンさんは、トレーを別の職員へ渡して戻ってくる。
「では鑑定が終わるまで、少々お待ちください」
「あ、そうだノルンさん。今日仕事終わったら『羊の夢枕亭』にきませんか?
なんかアサギが、俺が初めて課題を達成した記念にお祝いしてくれるって。
アサギからもノルンさんを誘えって言われてて……」
「私が参加していいんですか?」
「俺この町じゃ、知り合いってほとんどいないんで。来てくれたら嬉しいです」
「……わかりました。では、仕事が終わったら伺います」
「待ってますね」
ノルンさんを誘っている間に鑑定が終わったようで、職員の人が結果を持ってくる。
「お待たせしましたホクトさん。こちらが本日の報酬になります」
トレーの上には大銀貨5枚、銀貨7枚、大銅貨6枚が置かれていた。5760ゼムが今日の報酬。やった!一気に記録大幅更新だ。
「こんなに。良いんですか?」
「はい。採取された薬草も慣れてきているようで状態はいいです。
一角兎も正しく下処理がされていたので、こちらも状態は高評価でした」
「ありがとうございます!俺、これからもがんばります!」
「はい、がんばってください」
いつまでもカウンターを占拠している訳にもいかないので、ノルンさんに挨拶をして離れる。いやぁ……こんなに稼げたのは初めてだ。これをキープできるなら、借金返済も夢じゃないぞ。
そんなゲスい銭感情で頭が一杯の俺に話しかけてきたやつがいた。
「てめぇ!調子にのってんじゃねぇぞ!!!」
あれ、このパターンって……。




