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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
10章 好敵手になろう
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18話 猛炎の拳の休日

翌日、朝の食堂に行くとアサギ以外の姿が見えなかった。ここ最近、連続して願いの塔に潜り、昨日目先の目標として掲げていた10階層のボスを倒したことで、俺達猛炎の拳はしばらく休みを取る事にした。朝の食堂、この風景がまさにみんなの疲労を物語っていた。


「おはよう、ホクトくんは早いのね」


「おはよう。なんか、いつもと同じ時間に目が覚めちゃった。今日は休みって解ってたのに、身体はいつもの通りに活動を始めるみたいだ」


「ふふ、そうね。私も気付いたら、いつもの時間に目が覚めていたわ。ホクトくんは、今日はどうするの?数日は休みにするんでしょ?」


「さて、どうしようか。久しぶりに、ダッジさんに稽古をつけてもらうかな」


しばらくは、願いの塔に潜らない。そう決めたのには、疲労の他にも理由がある。その最たるものが、サラたちから頼まれたソウルの根性直しだ。ただ、やっぱり今の俺では簡単にやられる未来しか見えなかったので、実際にソウルとやる前に特訓をしようと思っている。特訓と言えば、師匠のひとりであるダッジさん。もう1人の師匠は明日にするとして、今日は徹底的にダッジさんに扱いてもらおう。


「あら、自分からダッジさんの所に行くなんて。よっぽど、ソウルくんが怖いのかしら?それとも負けず嫌い?」


「どっちもだよ。やるからには勝ちたい。そのための準備を怠るのは、怠慢ってやつだ。実は、俺も久しぶりにソウルとやると思うと、こう……クワァーって込み上げてくるものがあるんだよ。解るだろ?」


「……ごめん、全然解らない」


ちくしょう、アサギには男の機微が解らないらしい。俺は、近くを通ったウェイトレスを掴まえて朝食をオーダーする。しばらくは、アサギと雑談に興じていたけど、食事が俺の前に運ばれてくると、アサギが席を立った。


「あれ、もう行くのか?」


「うん。私も、今日は色々と予定が入ってるの。せっかくの休みなんだから、羽を伸ばさないとね」


そう言って、手を振って食堂を出て行くアサギ。それを見送ってから、目の前の朝食に手を付け始める。今日は、朝から肉の入ったシチューとサラダとパンだ。硬いパンを千切って、シチューに浸して口に運ぶ。この硬さと味にも大分慣れた。よくよく考えたら、俺ってこっちにきても特に食事に不満を感じないな。この世界の食事は、明らかに地球よりも遅れている。調味料の数からしても、塩、砂糖がメインで、極稀に胡椒がかかってる事もある。やっぱり、胡椒は希少らしく高級品だ。願いの塔の、どこかの階層で手に入るらしいけど、それを持って帰れればかなり高値で売れるとかで、一攫千金を狙って挑戦する探索者もいるみたいだ。ただ、かなり上の階層って事と、そこに出てくる魔物のせいで成功率は低いみたいだ。今の所、更に上を目指せる探索者が、たまに持って帰って来るくらいしか店頭には並ばないみたいだ。


「おっ、このシチュー胡椒が入ってる。かなり朝から奮発したんだな」


噂をすればなんとやら。今日のシチューに、胡椒が入っていた。ピリリと下を刺激する独特の味。俺は、あっという間に朝食を平らげてしまった。


「ふぅ……ごちそうさま。美味しかったな、これなら地球でもいい線行くと思うけど……」


俺味覚音痴なのかな?こっちの食事も十分美味しいと思える。ただ、味のバリエーションだったり調理方法は圧倒的に地球の方が多い。俺、学校の寮生活でも食堂のおばちゃんが作ってくれてたから、料理って全くできないんだよな。1つくらい覚えておけば、こっちでも店くらい出せたかもな。そんな事を思っていると、2階への階段から寝癖ボーボーのクウが下りて来た。普段はそこまで酷くは無いけど、今日の頭はまさに爆発している。


「……すげえ前衛的な髪型だな。おはよう、クウ」


「……ふぁ、おはよ」


まだ脳が起きてないみたいだ。クウも、いつもの癖で起きちゃった口か。俺は、クウから何を食べたいか聞いて、ウェイトレスさんに告げる。ウェイトレスさんも、クウの髪型を見て驚いた後に笑っていた。それでも、クウはそんな事を気にもせずテーブルについて舟を漕いでいる。


「おい、クウ。眠いなら、もっと寝て来いよ」


「……だいじょぶ、わたし起きてる」


「いや、全然大丈夫に見えないって。今も……ほら、危ないから」


クウが、目を閉じて横倒しに椅子から落ちそうだったので、慌てて支える。当の本人は、なにも気にしてないみたいで、俺が自分の席に戻ってからも、相変わらずコックリコックリしていた。ウェイトレスさんが、クウの分の食事を持ってきてテーブルに置くと、クウが一度頭を後ろに逸らした後、そのままシチューにダイブしようとした。


「お、おい!危ない!」


咄嗟にクウの頭を、シチューから守ろうと手を出したところで止まる。クウは、俺の出した掌に触れるか触れないかの距離で止まって、一気に匂いを吸い込んだ。


「んふぅ~ぅぅぅ…………」


「く、クウ?」


しばらくフリーズした後、目をクワッと見開いて再起動した。


「起きた(キリッ)」


「どんな目覚ましだよ……」


まさか、食事の匂いで脳を強制的に起こすとは……クウ、恐ろしい子。一度起きてしまえば、そこからはいつものクウだった。ゆっくりと、マイペースに食事を取って40分ほどで食べ終わる。俺は、今日これからのクウの予定が気になったので、聞いてみることにした。


「クウは、今日はどうするんだ?」


「特に。ホクトは?」


「俺か?俺は、冒険者ギルドで特訓だな。冒険者ギルドには、俺の師匠がいるから稽古をつけてもらうつもりだ」


「……面白い?」


「面白くは……ないかな。痛いし、辛いし……」


「つまらなそう」


クウは、一気に興味を失ったみたいだ。まあ、特訓ってそんなもんだよな。自分が強くなったと感じられれば、まだ面白いかもしれないけど。ダッジさんとの訓練は、ただただ苦痛なだけだ。とても、クウが面白いと思える要因はない。ただ、このままだと二度寝をしそうなクウを、なんとか外に連れ出せないかと考えた結果……。


「なら、ポロンの散歩しながらなんてどうだ?目的地は冒険者ギルドだけど、そこまではポロンと一緒に街中を散歩するんだ」


「いく」


「うおっ、すげえ食いつきだな。クウは、そこまでポロンが好きか?」


「モフモフは正義」


いつの間にか、クウがモフラーになっていた。まあ、ポロンは大人しくて人懐っこいから好きになるのも頷ける。さて、せっかくクウがやる気になったんだ。とっとと出発しよう。


「じゃあ、ここで待っててやるから、行く準備して来いよ」


「大丈夫、わたしの準備は終わってる。だから、早く行こう」


俺の袖を引っ張って、グイグイとポロンのいる裏庭に連れていこうとするクウ。だけど、やっぱり本人は気付いてなかったんだな。俺は、落ち着いてクウの肩に手を置いて……。


「まずは着替えて、髪を梳かして来い。さすがに、そのままってのは問題あるだろ」


そう俺が指摘すると、クウは首を傾げて『何言ってんだ、こいつ』って顔をした。俺は苦笑しながら、ゼスチャーで髪を触れとクウに伝える。ゼスチャーの意味を、最初は解らなかったクウだったけど、しばらくして理解したのか自分の頭を触る。そして、今まで見たことの無いような真っ赤な顔をして……。


「ホクトのバカ」


そう言い残して、2階へ消えていった。俺、悪くないと思う。





しばらく待っていると、いつもの髪型をした、少し……いや、かなりムスッとしたクウが下りて来た。見た感じはいつも通りだけど、さてどうやって機嫌を直してもらおう。


「まあ、いいか。ほらクウ、ポロンの所に行こうぜ」


面倒な事は後回し。俺は、考えるのを止めてクウをポロンの所に促す。俺を藪睨みにしていたクウだったけど、そのうち渋々と裏庭に歩き出した。木陰で伏せて寝ていたポロンが、俺達を見つけた途端ダーッと俺達の元に走り寄って来た。


「わんわん!わんわん!わふぅ!」


俺の身体に伸し掛かろうと、後ろ足で立って俺に身体を預けてくる。そして、そのまま顔をペロペロと舐めだした。


「うわっ、わか……わかった!解ったから、落ち着けポロン!」


落ち着けようと、頭や身体を撫で捲ると……。


「わふぅ!わ、わふっ……わん!」


気持ち良かったのか、それまで以上にペロペロが加速した。しまった、完全に裏目に出た。俺は、ポロンの成すがままになって……なぜか、隣のクウから睨まれた。


「羨ましい。やっぱり、ポロンはホクトが一番」


「まあ、アサギ以外と出会う前からの付き合いだからな。なんだかんだで、長い付き合いだよ」


「悔しい……いつか、その座を奪い取る。下剋上」


「いや、そんな座は無いから。それに、なんだよ下剋上って!一緒にポロンを可愛がればいいじゃん!」


ひとしきり俺を舐めて落ち着いたのか、隣で不穏な空気を撒き散らしているクウに、遅まきながらポロンも気付いた。流し目で俺の方にアイコンタクトを送って来るポロン。


「……プイ」


ガーンって擬音が聞こえそうなくらい、愕然としたポロン。お前、さっき助けてくれなかったからクウのお仕置きを受けなさい。そんな意味を込めてアイコンタクトをすると、あからさまに項垂れて寂しそうなポロン。


「ポロン……わたしとホクト、どっちが好き?」


「わっ……わうぅ?」


突然そんな事を言われても、返答に困るだろ。実際、ポロンはどう返して良いものか首を傾げている。その即答しなかった事が許せなかったのか、クウはポロンの首根っこを捕まえて……。


「ポロン、お仕置き」


「わふっ!?わ、わんわん!わんわん!」


焦ったポロンは、身体をクウに擦り付けてご機嫌を取ろうとする。だけど、今のクウはそれくらいじゃ機嫌を直してくれない。


「さあ、どんなお仕置きにしようかしら……」


「わふぅ!?わふっ、わふわふ!」


首根っこを掴まれて拉致されていくポロン。俺は、それを見送る事しかできなかった。許せ、ポロン。俺も我が身が可愛い。


「アオォォォーーーン……」





15分後、そこにはマロ犬になったポロンを連れたクウがドヤ顔で立っていた。

ポロンを出したら、可愛くて話が脱線しました。

ポロンとのやり取りは、書いててとても癒されるので楽しいです。

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