7話 従魔
追記:文末の・・・を……に変更しました。
子狼を連れてリーザスの町まで戻ってきた。後は何事もなく町に入れればいいんだけど……。
「やあ、ホクト君おかえり」
「ただいまケントさん」
「……」
「……」
「……で、その魔物はどうしたのかな?」
ですよねぇ~。
何食わぬ顔をして中に入れないかと思ったんだけどダメだったか。
「実は、森の中で白狼種に出会いまして……」
その瞬間、周りにいた警備隊の人たちが一斉に緊張した表情に変わる。
「は、白狼種だって!?ホ、ホクト君は、白狼種にどこで会ったんだい?」
「『暗闇の森』を左に迂回して少し行った森です。
ケントさんにも言いましたよね、一角兎を討伐しに行くって」
「ああ……聞いた。つまり、君はその森で白狼種に会ったのかい?」
「そうです」
周りの様子がおかしい。ケントさんも顔が真っ青だ。
「あの、どうしたんですか?」
「どうしたって……白狼種が出たんだぞ!?お前は白狼種を知らんのか?」
俺とケントさんが話していると、横から別の警備隊の人が話しかけてきた。
「はあ、俺最近この辺りに来たので……白狼種って魔物は初めて聞きました」
「そいつは勉強不足だな、冒険者。白狼種ってのはA級の魔物で、そんなものが町の近くに現れたら緊急討伐が発令されるレベルだぞ」
次々に知らない人たちに、あれやこれや言われる。そんなこと言われても、ちょっと前まで魔物なんて影も形もない世界で生きてきた人間が知ってるわけがないだろ。
「で、ホクト君。その白狼種はどうしたんだい?」
俺の機嫌が悪くなっていたのが顔に出ていたのか、ケントさんが柔らかく聞いてきた。気配りもできるイケメン、さすがです。
「死にました」
「死んだ?白狼種が……まさか君が倒したのかい?」
「それこそまさかですよ。他の何かにやられたところに行き当たったんです。
その白狼種、ミールって名前だったんですけど、俺が看取りました」
警備隊の人たちが一斉にポカーンとした顔をした。あれ、俺また何か変なこと口走ったか?
「き……君、白狼種と会話をしたのかい?」
「ええ、試しに話しかけてみたら人間の言葉がわかったみたいで……」
「お前は馬鹿か!?白狼種に話しかける人間なんて聞いたことないぞ?」
「んなこと言われたって、事実なんだからしようがないだろ!」
さすがにカチンときて、敬語も忘れて言い返していた。俺悪くない……。
「隊長、僕が話しますから。彼とは知らない仲でもないですし、任せてもらえませんか?」
さっきから俺のことを馬鹿にしてるおっさんは、警備隊の隊長らしい。人を見下すような人が町の警備隊の隊長だなんて世も末だ。
「……わかった、この件はお前に一任する。何かあったら俺に相談しろよ。
よし全員持ち場に戻れ!」
その一言で集まってきていた警備隊の面々は持ち場に戻っていく。
「ごめんね、あの人悪い人じゃないんだけど思った事をすぐ口にしちゃうんだ」
「それって大人としてどうなんですかね?」
「ははは、まあそう言わないで……ほら俺がちゃんと話を聞くから」
ケントさんに諭されて、徐々にヒートアップしていた感情が落ち着いてくる。
「すいません、なんかケントさんに当たっちゃって……」
「いいよ。で、話しを戻すけどホクト君は白狼種と話したのかい?」
「はい、俺が見たときには既に虫の息だったんで、これも何かの縁と思って会話を持ちかけました」
「すごいね、君って。普通は逃げると思うんだけど……」
「ミールにも同じことを言われました」
やっぱり俺の行動は、この世界に照らし合わせるとおかしいみたいだな。
「ミールっていうのが白狼種の名前なのかい?」
「本人?がそう言ってました。誇り高き白狼族のミールって」
「そうか、本来は白狼族っていうのが種族名なんだろうね。
それで、そのミールさんは君になんて言ったんだい?」
「自分はここで死ぬから、代わりに子供の面倒を見てほしいって言われました」
「その子供っていうのが……」
ケントさんの視線が、自然と俺の足にまとわりついている白い毛玉に注がれる。
「はい、コイツです」
「……じゃあ、この子狼は白狼種の子供なんだね」
「そうです」
これで一通りの話しはしたとおもう。後は、これを警備隊がどう扱ってくれるかだけど……最悪町にはいられないかもしれないな。そうなったら困ったことになる。俺の目的は『願いの塔』を踏破して、願いで地球に帰る事だ。リーザスに入れないのは、目的を達成できなくなるってことだもんな。とはいえ、じゃあ子狼を諦めるかって言われると、それも不義理な気がするし……何とか子狼を町に入れてもらえないだろうか?
「ケントさん、こいつを町に入れる許可をもらえませんか?
こいつ賢いんで人の言うことがわかるんですよ。俺が絶対迷惑をかけさせませんから」
「そうは言ってもな……白狼種を町で飼うなんて、前代未聞だ」
「ほら、お前からもお願いしろ」
そう白い毛玉に言うと、言われた本人は何を思ったのか俺の足をよじ登り始めた。慌てて子狼を拾い上げる。
「お前、俺の言ってる事わかってるんだろ?ここでお前が利口なところを見せないと、一緒にいられないんだぞ?」
真剣な顔で白い毛玉に懇願してみる。俺の言ったことが理解できたのか、できなかったのかは不明だが、子狼が俺の顔を舐めた。
「お、おい。違う、そうじゃなくてな……いや、嬉しいよ?凄く嬉しいんだけど今はそんなときじゃなくてな、お前が賢いところをこのお兄さんに見せてだな……ああ、そんなに舐めるな、ベチョベチョに……ああぁ」
1人と1匹のコントを見て、ケントさんは最初ポカンとしてたけど突然笑い出した。
「あははは、すごい人懐っこいんだね、その子。
この子を見ても誰も白狼種だとは思わないだろうね」
「いや、ケントさん笑ってないで助けて。お前もいい加減にしろ!
見ろ笑われてるぞ!」
やっと顔を舐めるのを止めた子狼は、笑ってるケントさんに前脚をチョイチョイと差し出す。
「ん?俺のことを呼んでるのかな?」
ケントさんが子狼に近づいてくる。まるでケントさんに向かっておいでおいでをしているような仕草だ。
「ワンワン!」
「ははは、可愛いな。ほれ、お手」
「ワン!」
子狼はケントさんが差し出した手に自分の前脚を乗せる。それでいいのか白狼種。それじゃ完全に犬だぞ?
「頭のいい子だね。これなら問題ないかな」
「町に入れてもいいんですか!?」
「まあ、要経過観察ってところかな。しばらくホクト君と行動を共にしてもらって、問題がなければ許可って感じかな」
「ありがとうございます!」
やった!これで『願いの塔』も、こいつも諦めなくていいぞ。
「ただし!この子狼が何か問題を起こしたら、それは全てホクト君が責任を取ることになるけど、いいかい?」
「それでいいっす!やったな、お前町の中に入れるぞ?」
わかっているのか、いないのか首を傾げてキョトンとしてる子狼。「ワン!」と一声鳴いて、また俺の顔を舐め始めた。
「わぁ、だから止めろって!」
「一応扱いとしては、ホクト君の従魔って形にするよ」
「従魔ってなんですか?」
「従魔っていうのは、テイマーって職業の人が使役する魔物のことだよ。テイムした魔物が町に入れないとダンジョン攻略とかできないから、そういう人たちのための処置だね」
「従魔か、なんかカッコいいね。お前、俺の従魔だってよ!」
「ワンワンッ!」
もう何でもいいんだなお前。とりあえず子狼には好きなだけ俺の顔を舐めさせておいて話を進める。
「これがその子の認識票。君が主ですっていう証明書になってるから、この子と外を出歩くときは必ず携帯するようにね」
「ありがとうございます」
「ところで、その子の名前はあるのかい?」
「名前……ああ、まだ決めてなかった」
「じゃあ名前が決まったら、一度俺のところに来てくれ。証明書に名前を書き足すから」
「わかりました!」
ケントさんから従魔証明書を受け取る。そこには、俺がこの子狼の主であること。子狼が行ったすべての行動に対して主が責任を取る事などが書かれている……らしい。
「じゃあ、俺たち行きますね」
「ああ、隊長には俺の方から報告しておくよ」
ケントさんにお礼を言って門を後にした。ほんと、あの人には足を向けて寝られないな。
 




