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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
10章 好敵手になろう
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8話 晴眼のアサギ、策士のカメリア

エリスとは居酒屋の前で別れた。送っていくと言ったら……。


「結構よ。それに、今日はみっともない所も見せたけど、あなたの狼狽える姿も見れたし……貸し借りは無しね」


そう言って、手を振って雑踏の中に消えていった。何が貸し借りなしなのか、いまいち理解できなかったけど、エリスの中では今日の出来事は忘れ去ってほしい出来事何だろう。俺としても、これでエリスに貸しとか思ってないんで明日には忘れてるかもしれない。それよりも……。


「まさか、ソウルの暴走の原因が俺だったなんて……」


青天の霹靂。俺が思っている以上に、ソウルは俺をライバル視していたようだ。それにしても、お互いにお互いを手の届かない存在と思っていたなんて……何やってんだ俺達。それよりも、別れ際にエリスが言っていた事……。


『明日も一緒に願いの塔に挑みましょう。今日と同じ時間に、願いの塔前に集合』


一体何を考えてるんだ?今日……日付が変わって昨日か。昨日のソウルの暴走を見て、その上で俺達と一緒に潜りたいなんて、何か暴走を止める案でも浮かんだのか?


「とりあえず、宿に戻ってアサギたちと相談だな」


重い足取りで、最近定宿になりつつある自分のねぐらに向かった。





コンコン……


「はい、どちら様?」


「俺だ、ちょっといいか」


宿に着いた後、自分の部屋にも戻らず直接アサギの部屋のドアをノックした。時間も遅かったから、既に寝てるかもと思ったけど意外にもアサギはすぐに出てきた。


「おかえり……ふむ、酩酊まではしてないっと。ほろ酔いって事は、エリスちゃんと楽しくお酒が飲めたのかしら?」


「大した迷探偵っぷりだな。ちょっと相談したい事があるんだけど、入っていいか?」


「どうぞ」


そうしてアサギは、俺を部屋の中に入れてくれた。思えば、日付が変わったこの時間、こちらの世界では真夜中と言っても良い時間だ。そんな時間に、仲間とは言え男を自分の部屋に入れてアサギは何とも思わないのか?


「ふふ、心配しなくてもホクトくんなら大丈夫だって思ってるから。もっとも、誰も見ていない密室での出来事。何か起こってもおかしくないわね」


見事に胸中を見抜かれて、思わず身体が固まる。こういう仕草は、さすが年上のお姉さんキャラだ。女性と二人っきりという状況に、あまり慣れていない俺としては、宿屋とは言えアサギが普段から遣っている部屋で2人っきりというのは、思わず身構えてしまう程度に緊張している。それを見越して、アサギが冗談を言ってくれたんだろう……そう、思う事にした。


「さ、座って。何か飲む?」


「じゃあ、水くれ。酒ばっかり飲んでて喉が渇いた」


「わかったわ」


アサギが促した椅子に腰を掛ける。改めて見ると、俺が使っている部屋との違いはない。無いんだけど、なんでこんなに良い匂いがするんだ?何か香を焚いたりしてるのか?でもこれ、アサギの匂いだよな……。ポヤッとした思考の中、なんだか考えてはいけない考えに翻弄され始めた頃、アサギが俺の前に水が入ったコップを差し出した。


「はい……大丈夫?フラフラしてるわよ」


「大丈夫、ちょっとだけ酔っただけだ」


アサギからコップを受け取り、一気に中身を飲み干す。特別冷えている訳でも無いのに、やけに美味しく感じた。水を飲んで、思考がハッキリしてきた。さて、エリスからの提案をアサギに相談してみよう。


「実はな、エリスから提案があって……明日も合同で願いの塔に行きたいらしいんだ。確約って訳じゃないんだけど、エリスが一方的に言って帰っていったから……その、断れなかった」


途中から、後ろめたさもあって声が小さくなる。いくらリーダーとは言え、パーティの行動に関することを独断で決めてしまった。パーティの頭脳担当のアサギからすれば、一言文句があってもおかしくない。


「そう。わかったわ」


「………………えっ、それだけ?」


「そうよ、何か変?」


首を傾げるアサギ。あれ、ひょっとして俺が余計な気を遣い過ぎてるって事か?


「いや、勝手にパーティの行動を決めちゃったから……」


「……ああ。大丈夫よ。これが私たちの知らないパーティとの合同探索だったら怒ってたけど、ソウルくんたちのパーティは知らない仲じゃないしね。それに、今日のソウルくんたちのパーティは、私からしても気になったし……そのあたりは、エリスちゃんから聞けたの?」


「聞けた……んだけど、俺としてはどうすればいいのか」


掻い摘んで、エリスから聞いたソウルの事やパーティ内の不和についてアサギに話した。それを聞いたアサギは、なぜか我が意を得たりとばかりに笑顔になった。


「やっぱりね。ソウルくんを見てれば、そうじゃないかと思ったのよ」


「えっ!?アサギ、理由知ってたのか?」


「知ってたと言うか、多分そうじゃないかと思ってたと言うか……カメリアだって気付いてたわよ」


嘘だろ、あの脳筋のカメリアが、そんな細かい事に気を回すはずがない。そう思ってたのは俺だけだったのか……。アサギも最初から解ってたみたいだし、ひょっとしたら当の本人たち以外は、みんな気付いていたのか?


「でもそうなると、少し話がややこしくなるわね。私たちでは手助けできないし、エリスちゃんの提案の通り、一緒に行動して目の前でそれぞれの力量を見せ合うのが一番かもしれないわ」


そして、話し合っても居ないのにエリスのやろうとしてる事が、アサギには解るようで……これ、俺じゃなくてアサギがエリスと飯食えば良かったんじゃないか?


「ふふ、そんな不貞腐れないで。客観的に見た方が、答えに早く辿り着く事もあるのよ。今日、私じゃなくてホクトくんがエリスちゃんと一緒に行ってくれて、私としては助かったと思ってるわ。さて、それじゃ明日はソウルくんたちと一緒に出掛けるって事で、今日はお開きにしましょうか。カメリアとクウちゃんには、明日の朝食の席で話せばいいわ」


「そうだな。俺もなんか疲れた……」


酔いが醒めてきたのか、瞼が重くなってきた。ここで寝れたらどんなに気持ちいいか……なんて考えながら席を立つ。


「それじゃ、おやすみ」


「お休みホクトくん」


アサギに挨拶して部屋を出る。隣の自分の部屋のドアを開けて、暗い部屋の中を手探りで進む。服を脱いでベッドに潜り込む。ベッドの中は暖かくて、すぐに眠く……。


「って、なんでベッドの中が温かいんだ!?おい、カメリアだろ!」


慌てて布団を剥ぐ。すると、そこには下着姿でイビキをかくカメリアの姿が……思春期の青少年に見せていい姿ではない。のだが、なぜか全然色っぽくない。今の俺からすると、ただただ迷惑なだけだ。


「おいカメリア、お前自分の部屋のベッドで寝ろよ」


「くかぁー……くかぁー……」


「……ダメだ。全然起きねえ」


今の状況なら、ベッドに横になればすぐにでも寝れそうな気がする。だけど、明日の朝カメリアに何を言われるか解らない。どうしたものかと考えて……。


「カメリアの部屋で寝るか」


脱いだ服を着直して、部屋を出る。そしてアサギの部屋とは反対側、俺の部屋の右隣の部屋に行って扉を開ける……が、開かない。


「カメリアっ!あいつ、こういう時に限ってセキュリティがしっかりしてやがる」


さて困った。アサギの部屋……はダメだ。さっきの匂いに包まれながら、穏やかに寝られる気がしない。じゃあクウの部屋……はもっとダメだ。例えクウが俺よりも年上と言われようとも、ビジュアル的に事案発生だ。俺はロリコンじゃない。


「……結局、自分の部屋で寝るしかないのか」


策士カメリアの術中に嵌るのは癪だ。俺は、自分の部屋に戻って床に寝転がる。これが、俺ができる精一杯の反抗だ。くそっ!カメリアの奴、覚えてろ。





「くあぁ、ふあぁ~良く寝た。あん?なんでアタイ、こんな所で寝てるんだ?」


カメリアの身じろぎする音で目が覚めた。当のカメリアは、なぜ自分が俺の部屋で寝ているのか忘れてしまっているようだ。


「うがっ!?床で寝てたから、身体中痛えぇ……」


ストレッチをすると、身体のアチコチからバキバキっと音が聞こえてくる。


「お、ホクト!なあ、なんでアタイはホクトの部屋で寝てたんだ?ひょっとして……」


「お前、せめて自分の行動には責任持てよ。お前が俺のベッドで寝てるから、俺が床で寝る羽目になったんだろ!しかも、ご丁寧に自分の部屋の鍵はしっかり閉めてな」


首をコキコキ鳴らしながら、半眼でカメリアを睨む。そんな俺の視線など物ともせずに、カメリアは頭を捻っていた。


「んっ??アタイが、自分でホクトのベッドに寝たのか?昨夜のアタイは、何を考えていたんだ?」


「知るか!とっとと、自分の部屋に戻って服を着て来い!」


頭を捻ったまま動こうとしないカメリアを、強引に立たせて部屋から追い出した。まったく、なんで朝からこんなに疲れないといけないんだ……。

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