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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
10章 好敵手になろう
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5話 不和

無事戦闘を終えて、ソウルたちを待っていると……。


「相変わらず、お前たちのパーティは連携が上手いな」


「そうか?俺達にとっては、これが当たり前なんだけどな……」


俺たち一人一人に、そこまでずば抜けた力を持っている者はいない。そんな俺達が、ここまでやってこれたのは、足りない部分を補う仲間がいたからだ。それに、この程度の連携は他のパーティでもやっている事だと思う。それこそ、26階層まで行っているソウルたちの方が、余程連携に優れているんじゃないのか?そう思って、今度はこちらから提案してみた。


「次はお前たちの戦闘を見せてくれよ」


「いいぜ、次に会った魔物は俺達が狩る」


ソウルがサラたちに伝えると、仲間たちも頷いた。俺達の倍は進んでいるパーティの戦闘だ。何が攻略のヒントになるか解らない。じっくりと見させてもらおう。


その後、いくつかの枝道を発見したけど全てハズレ。行き止まりに宝箱……なんて、運が良い事もなく戦闘は最初に俺達が戦った1回だけだった。


「なかなか魔物と出会えないな。この階層って、それほど魔物がいないのか?」


「いや、そんなはずは……。前に私たちが通ったときは、かなりの頻度で敵と接敵した記憶がある。ひょっとしたら、どこかの行き止まりに固まって群れている可能性があるな」


サラが推察する、行き止まりに固まる現象は度々探索者から報告が挙がっている。実際、通路の袋小路なんかに迷い込んだ魔物が群れて、酷い時になるとモンスターハウス並みに厄介な状況になる事もあるそうだ……まあ、情報を仕入れてきたのはアサギだけどな。


「ちょうどいいじゃねえか。次は俺達が戦うんだ、それくらい歯ごたえがあった方がやりがいがあるってもんだ」


ひとりテンションが高いソウル。だけど、俺は気付いてしまった。ソウル以外のメンバーが、そのソウルに対して反応が鈍い事に。何かあって俺達に同行を申し入れたのは解ったけど、こういう事か……。


「(ねえ、ホクトくん。ソウルくんたちって、前はもっと会話が弾んでたよね?ひょっとして……)」


「(アサギも気付いたか?これは、ひょっとすると面倒な事になるかもな)」


アサギも気付いたって事は、俺の勘違いじゃないっぽい。ソウルたちのパーティメンバー内に、不穏な空気が漂っている。不穏は言い過ぎかもしれないけど、どこか余所余所しさを感じる。前はサラもエリスも、ソウルが馬鹿をすれば殴ってでも窘めていた。なのに、今ひとりテンションが高いソウルに対して、エリスは余所見をして無視を決め込んでいる。あれだけ仲が良かった連中に、一体何があったんだろう……。


「わん!」


そんな俺の思考を中断させたのは、ポロンの鳴き声だった。どうやら、この先に魔物がいるようだ。


「おっ、ポロンが反応したって事は魔物が近くにいるんだな?」


「そうみたいだ。お前たちだけで大丈夫か?さっきのサラの話が本当だったら、さすがに一組のパーティだけで戦うのは無謀だぞ」


「大丈夫だって。まずは俺達の戦いを見ろよ。それで、もし危なかったら手伝っても良いがな……」


そう豪語するソウルと、どこか他人事のような空気を醸し出しているエリスとサラ。ウツキは、この空気が当たり前なのか特に何も感じていないようだ。これは、俺が思っている以上に深刻な問題なんじゃ……。


「おいソウル、あんまりひとりで突っ走s……」


「私の感知にも反応がありました。数は……多いです!サラさんの言う通り、この先に魔物溜まりがあるようです」


一言ソウルに忠告しようと思ったら、ウツキが魔物の大群を発見した報告に潰されてしまった。こうなっては、ひと当てしてから相談するしかない。すると、突然ソウルが駆け出した……って、おい!


「おい、ソウル!1人で先行するな!」


「俺に任せとけって!お前らは、後からゆっくり来な」


ソウルは、俺達を振り返らずにそう言うと独り通路の先に消えていった。余りの事に、アサギやカメリアも呆然としている。クウは……いつも通り反応が薄い。それにサラとエリスもクウ並みに反応が薄かった。


「おいサラ、あいつ1人行かせるのはまずいだろ。急いで追いかけないと」


「良いのよ、放っておいて」


更に忠告すると、なぜかエリスが反応した。その表情は、とても苦々しいものになっていた。


「エリス、今はホクト達が一緒だ。そう言うパーティの問題h……」


「だって本当の事じゃない!最近のあいつ、おかしいのよ。魔物を見つければ、猪の様に突っかかっていって、私たちが駆け付けた時には全部終わった後。終いには『遅かったな、俺が全部終わらせたぜ』ですって。冗談じゃないわ!私はエリスターゼ、由緒ある魔法使い家系の継承者よ!それが、なぜ独断専行した奴に見下されなくちゃならないの!」


エリスが心の内を絶叫した。やっぱりそういう事か。


「……はぁ、何やってんだよあいつ」


「おかしくなったのは、探索者になってからだな。それまでは、それなりに上手くやってこれたと思っていたんだ」


「それって……私が加入したからですか?」


サラの言い様に、今度はウツキが反応した。


「いや、そう言うつもりで言ったんじゃない。気に障ったのなら謝る。ただ、探索者になってからのあいつは、どこか焦っているように見えた。何かに追われるように、我武者羅に戦闘を繰り返して、それでも強迫観念から逃れられない。そんな風に見えた。決して、ウツキの事を責めた訳じゃない」


「……そうですか」


ソウル1人が無茶無茶するせいで、パーティ内の絆はズタズタだな。他のメンバー同士の疑心暗鬼にも繋がっている。これ、俺達にどうにかできる問題か?


「……何でもいいけど、ソウルを追わなくていいのか?」


カメリアが、ソウルが消えた通路の先を指さす。そっちからは、既に魔物の咆哮や、剣戟の音が聞こえてきている。既にソウルが戦闘に入っている証拠だ。


「確かに。今はソウルと合流しよう」


そう言って俺、ポロンとカメリア、クウ、アサギの順で駆け出す。少し遅れてサラたちも付いてきてはいるようだ。ただ、やっぱりいつもの機敏さは無い。渋々向かっている事が手に取るようにわかる。


「さて、どうしたものか……」


先頭を走りながら、俺は問題の深さに独り辟易していた。





「おう、遅かったな。俺が全部終わらせたぜ!」


身体中に魔物たちの返り血を浴びて、唯一人ソウルが佇んでいた。見たところ、怪我らしい怪我はしていないようだ。とりあえずホッとして、次に段々頭に血が昇ってきた。


「おいソウル、一体どういうつもりだ!」


ソウルの胸倉を掴んで、その瞳を真正面から睨み付ける。俺に怒られるとは微塵も思っていなかったソウルは、突然の事にキョトンとしていた。


「っと、何だよいきなり。俺何かお前にしたか?」


「俺にじゃない。お前、なんでサラやエリス達を置いて行ったんだ!お前ら仲間だろ、置いてかれたあいつらがどういう心境だったか、ちょっとは考えろ」


「っ!?は、離せよ!」


俺の両肩を押して、強引に俺から離れるソウル。俺も、そこまで強く掴んでいた訳じゃなかったから、簡単に服から手が離れた。でも、今のソウルの反応……多分、本人も解ってるな。


「あぁ、やっぱり終わってた。ごめんなさいね、愚図な私たちでは、ソウルさんのお役に立てないわ」


そして、やってくるなり火に油を注ぐエリス。言われたソウルも、以前に言ってしまった言葉を思い出したのか、苦い表情になる。それでも引っ込みのつかなくなったソウルは、エリスに対して反撃した。


「うるせぇ!遅い奴を遅いって言って、何が悪い!実際、ここにいた魔物を全て倒したのは俺だ!お前ら、後からノコノコ来て偉そうなことを言うな!」


ソウル、それは事実だけど……それだけは言っちゃダメだ。ぶん殴ってでも、エリスに謝らせようと思ったら、俺よりも早く行動した奴がいた。


パチンッ!


「っつ!?」


「今のはソウルくんが悪い。エリスちゃん達を置いて行ったのはソウルくんだよ。なのに、その言い方はエリスちゃんたちが可哀想」


まさか、アサギがソウルに手を上げるなんて……。アサギの突然の行動に驚いた全員、口がポカンとなってしまった。確かに、今ここでソウルを窘められる……ソウルが言う事を聞きそうなのは俺かアサギだけだろう。だけど、俺よりも早くアサギが動くとは思ってもいなかった。


「アサギさん……」


「自分でも言い過ぎたと思ってるんでしょ。今謝らないと、きっと取り返しのつかない事になっちゃうよ?」


「…………」


サラやエリスにとっても、本当は自分たちで言いたかった事だろう。だけど、中途半端に拗れた仲間意識のせいで、図に乗ったソウルを諫める事ができなかった。


「……ちっ、感じわりぃ。あぁーあ、シラケちまった……俺、先帰るわ」


ソウルはそう言って、懐から取り出した青い石を握りしめた。次の瞬間、ソウルは光に包まれて、ソウルが居た場所には誰もいなかった。


「……な、なんだ今の!?」


「帰還石、危なくなったときとかに、ダンジョンから緊急脱出するための道具。願いの塔の中じゃないと使えないけどね……」


突然の出来事に驚いていると、エリスが説明してくれた。そんなゲームのようなアイテムが、本当に実在するんだ。俺達も、いざと言う時の為に買っておくか?


「多分、ホクト達じゃ買えないわ……ううん、私たちにも手が出ない。ソウルのあれは、この前26階層で倒した魔物がドロップしたものだったの。それをあいつ、勝手に使って……」


これは、もうどうにもなんないな。ソウルが居なくなったことで、今日これからの事をどうしようか相談しよう。皆の注目を集めようと、片手を上げた時……。


「……もう、今日は帰りましょう。こんな雰囲気じゃダンジョン攻略なんてやるだけ無駄ね。それに、一度頭を冷やした方が良い人たちもいるしね」


俺が言葉を発する前に、アサギがその場を纏めてしまった。この行き場を失った手は、どうしたらいいんだろう……。


「どんまい」


「わふぅ」


クウとポロンが慰めてくれた。良いんだよ、笑ってくれて……。


「……ふぅ、そうね。確かにアサギさんの言う通りね。ちょっと頭を冷やすわ」


「私もだ。少し1人になって考える時間が欲しい……」


「私にも異存はありません」


置いて行かれたソウルの仲間たちは、それぞれ思う所もあるだろうけど、今はアサギの提案を受け入れてくれた。こうして、久しぶりのソウルの仲間たちとの共闘は、苦い思いを残したまま終了した。

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