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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
10章 好敵手になろう
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1話 別れ

「お疲れさまです。本日はいかがでしたか?」


「お疲れさまです。ええ、何とか8階層をクリアできました」


「それは、おめでとうございます。探索者になって、まだ1カ月経っていないと言うのに、もう8階層ですか。10階層突破も視野に入ってきましたね」


あの3階層で、モンスターハウスのトラップを踏んでから、既に2週間が経過した。その間に俺たちは、8階層を突破することができた。やっぱりクウの参入は、俺達に勢いを齎してくれた。


「では、依頼の品をお預かりいたします。少々お待ちください」


そう言ってカリンさんは、奥へ素材を持っていった。これまでの2週間、俺達は順調に依頼をこなして今日あたりで探索者ランクがランクアップする筈だ。それに、冒険者をしていた時よりも、圧倒的に稼げる。やっぱり探索者ってのは、儲かる職業みたいだな。


「独りで塔に入っていた時よりも、4倍も報酬が違う。わたし、こんなに貰ってもいいの?」


「問題ないわ。報酬は、みんなで頭割り。独りで潜っていた時は危険で手が出せなかった相手でも、パーティなら問題なく倒せるから当然報酬も上がるわ。それは、クウちゃんの正当な報酬よ」


「……嬉しい」


仄かに笑うクウ。最近は、少しずつ表情を表に出すようになってきた。少しは俺達に馴染んできてくれたって事かな?


「お待たせいたしました。こちらが報酬と、本日の依頼達成で皆さまの探索者ランクが1つ上がりました。ホクトさん、アサギさん、カメリアさんはEランクになります。クウさんは、後少しでしたね。現状のままです」


思った通り、今日の依頼で無事探索者ランクがEランクに上がったようだ。元々想定していたんで、今日はささやかなパーティを開こうと思っていた。


「カリンさん、今日俺達ランクアップのパーティをしようと思うんですけど、良かったら一緒にどうですか?」


「あら、私がご一緒してよろしいんですか?」


「もちろん。他にも知り合いに声をかけるので、良かったら参加してください」


実は既に羊の夢枕亭の面々や、ノルンさんにダッジさん、それからマテラ親子にも声をかけている。そこにカリンさんが入っても、特に問題ない……と言うか大歓迎だ。


「そうですね……仕事も落ち着いていますし、私も参加させていただきます」


「良かった。じゃあ、夕方に迎えに来ます」


「はい、お待ちしております」


良かった。今日のパーティは、参加者が1人でも多い方がいい。俺たちにとっても、大事な友達とのお別れ会でもあるんだから……。





「よし、みんなコップを持ったな!じゃあ行くぜ!」


「いや、なんでお前が仕切ってんだよ!」


いきなりのハイテンションで、ソウルが場をし切りだした。


「お前ちょっとは空気読めよ。今日は俺達のランクアップおめでとう会と、大事な戦友であり、大切な友達でもあるユーリとエスカちゃんがリーザスを去るお別れ会なんだ。飛び入りのお前が目立つな!」


「良いじゃねえかよ!俺も久しぶりにみんなに会えて、嬉しかったんだよ!」


何をガキみたいなこと言ってんだこいつ。まあ、確かにソウルたちに会えたのは久しぶりだ。今日も、カリンさんを迎えにギルドに行ったら、たまたま願いの塔から戻って来たソウルたちに遭遇した。その時、念のためと聞いてみたら二つ返事でOKしたので、連れてきたってわけだ。


「ホクトくん、いいから始めちゃおう。このままだと、いつまで経っても収拾つかないから……」


「そうだな。じゃあみんな、コップを持ってくれ」


ようやく仕切り直して、みんなに飲み物が渡ったか確認する。問題ないようなので、このまま進めることにした。


「それじゃあ、不肖わたくしが場をし切らせてもらいます。まずは俺、アサギ、カメリアが無事探索者ランクEランクになりました」


そう言うと、会場にいるみんなから一斉に拍手が上がった。


「ありがとう!そしてもう1つ、俺達と共にスタンピードを生き残った戦友ユーリと、住んでいた村が壊滅した悲劇から無事生き残ってリーザスまで来たエスカちゃん。この2人が、明日リーザスを出てユーリの村へと向かいます」


知っていた者はしんみりと、知らなかった者は驚きと共にユーリたちを見る。結局エスカちゃんは、ユーリと共に村に行くことを選んだようだ。スタンピード後は、ユーリとウナと一緒に街の中を見て回って観光を楽しんでいたようだ。心に塞ぎようのない傷を負ったエスカちゃん、だけど彼女はこれからの人生をユーリと共に、ユーリの村で生きる事を選んだようだ。


「まずはお疲れさま。そして、ユーリとエスカちゃん。いつでも戻ってきていいからな。君たちの事は、俺達が絶対に忘れない。また会おう、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


俺はコップの中身を一気に飲み干した。


「ぷっはぁー、ああ美味い!」


中身は薄めたワインだ。安いからいいんだけど、味に関しては正直気にしても仕方ない。金額相応と思っておく。そして、さあ飯だと思った瞬間……いきなり肩に伸し掛かるモノが……。


「うぉっ!?ウナ、いきなり乗っかるなよ」


「ピュイ、ピュイイィー!」


「え、ああ!ごめんごめん、別にお前を仲間外れにした訳じゃないんだ。お前との別れだって寂しいよ……いや、ほんとだって」


突然肩に伸し掛かった大型の猛禽類。彼女はユーリの相棒のウナ。ポロン同様に人語を解し、ユーリの成長を見守る姉御肌の女の子だ。


「ホクトさん、ランクアップおめでとうございます。ウナ、あまりホクトさんに迷惑かけちゃダメだよ」


「ピュッ、ピュピッピー!」


「ははは、ウナは本当にホクトさんが好きなんだね。明日でお別れだから、寂しくてホクトさんに絡んじゃったんだね」


「ピュイ、ピュピィィ……」


スタンピードの時から、それなりに一緒に行動することが多かったから、俺にもウナの言ってる事が何となく理解できている。そんな彼女は、ユーリから図星を指されて恥ずかしがっている。


「ウナ、ほら機嫌治せ。お前の為にデビルディアの肉も用意してるぞ」


そう、あの俺達を敗走へ追い込んだデビルディアだけど、なんと食べられるのだ。それも普通の鹿肉よりも格段に柔らかくて美味い。普段から生肉にうるさいウナが、手放し?で喜んで食べえる様を見れば一目瞭然だ。


「ピュイィ~♪」


俺の手から直接デビルディアの肉を食べるウナ。爪とか嘴とか、猛禽類特有の鋭さを持っているから怖いって人もいるけど、こうやって手ずから肉をほうばる姿を見ていると、可愛いと思える。


「あの、ホクトさん。ランクアップおめでとうございます」


「エスカちゃん、ありがとう。エスカちゃんも、これから大変だと思うけど頑張ってな。何か問題があったら、ユーリを頼るんだぞ。そのユーリでも解決できない問題があったら、遠慮なく俺を頼れ」


「はい。心機一転、ユーリの村でがんばります。それに、またいつかリーザスに来た時、楽しい話のお土産をいっぱい持ってきますから」


この子は、本当に強い子だ。俺なんかじゃ想像もつかないほど辛い目に合ったのに、それを克服して今ではこうやって笑えるんだから。


「エスカちゃん、ユーリくん。絶対に手紙書くから……」


二人と仲の良かったハンナちゃんは、すでに涙声だ。別れるのが辛いんだろう。2人に順番に抱きついて、今まであった楽しかったことを話している。別れは辛いけど、こうして人は成長していくんだな。


「よう、飲んでるかEランク探索者」


「飲んでるよ……って言うか、お前もう酔ってるのか?」


そんな子供たちを温かく見守っていると、酒臭い悪友が絡んできた。見れば、その後ろからサラとエリス、そして……。


「先ほど会いましたが、改めまして。初めましてホクトさん、私は『ソウルと魅惑のハーレム軍団』に入りましたウツキ・シノと申します。職業は忍、ホクトさんとはこれからも顔を合わせる機会も多いと思いますので、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ初めまして。俺はホクト・ミシマ。猛炎の拳のリーダーをしている。ソウルたちとは、まあ腐れ縁だな。ソウルと俺が同期で冒険者になったから、それ以来の付き合いだ」


「ホクトさんに、それに先程お会いしましたがアサギさんと言う方。お二方はどちらの出身なのですか?」


突然出身地を聞かれた。ああ、そうか。俺もアサギも名前が日本人っぽい響きだ。それにウツキ・シノ……卯月志野とでも書くのかな。こちらも日本人っぽい名前だ。それにしても……。


「なあ、ひとつ聞いていいか?どうして姓と名を逆に言うんだ?」


「っ!?やはり、あなたは私と同じ土地の人ですね!先程アサギさんに聞いたところ、彼女は父方の祖先が私の同胞だったようです。ホクトさんは、ご両親は?」


しまった。普通に自己紹介されたから、普通に疑問をぶつけてしまった。俺は、そもそもこっちの人間じゃないんだから、出身地も何もない。今まで気を付けていたのに、ユーリたちを見ていて気が緩んだか。


「さあ、俺両親の事良く知らないんだ」


すまん、日本の父さん母さん。


「……そうですか。同胞に会えたと思ったのですが、残念です」


「ウツキ、そんなに初対面で根掘り葉掘り聞くもんじゃない。ホクト達とは、これからいくらでも交友があるんだ。今はそれだけでいいじゃないか」


「そうですねサラさん。すみませんでした、ホクトさん」


「いや、気にしてないから」


危なかった。これからは、もう少し注意しよう。


「そうだホクト。今度、俺達と一緒に願いの塔に潜ろうぜ」


今度はソウルが突然変なことを言い出した。


「なんだ突然。俺は別にいいけど、アサギとカメリアとクウがなんていうか……」

「あ、そう言えばクウちゃん!お前、また女をパーティメンバーに入れたな。お前だって人の事言えねえじゃん。お前のパーティだって、十分ハーレムパーティだわ!」


「お前みたいに、パーティ名に自分の名前とハーレムとか付ける痛い奴と一緒にするな!」


俺の方はたまたまだ。ソウルみたいに、募集時点で女性限定とか条件付けた訳じゃない。見ればサラも、エリスも困った顔をしている。そう言えば、ウツキだけ平然とパーティ名を言っていたけど、気にならないのかな?


「ウツキ……あれ、この場合シノ?どっちで呼べばいいんだ?」


「パーティの皆さんにはウツキと呼ばれています」


「そうか。じゃあウツキ、お前はソウルが付けたパーティ名が気にならないのか?」


「パーティ名ですか?特には……私の故郷では、力ある豪族が複数の妻を娶るのは当たり前だったので」


そんなハーレムが当たり前の土地が、この世にあるのか。見ればサラたちは、困った表情をしている。どうもパーティ名を変更したい彼女たちの力にはなっていないようだ。


それからも、一緒に来たカリンさんとノルンさんと話したり――彼女たちは飲み友達だった――ダッジさんに願いの塔での戦果を聞かれたりと、楽しい時間が過ぎていった。そして、いつも通りにマテラさんの娘のアンナちゃんを筆頭に、年少組が目を擦り出したので、この辺でお開きと言う事になった。ユーリたちも、明日の朝出発するので早めに休みたいらしい。


こうして、ユーリとエスカちゃん、ウナとの最後の夜が静かに過ぎていった。

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