6話 出会いと別れ
追記:文末の・・・を……に変更しました。
1匹の一角兎との死闘を終えた俺は、その後立て続けに4匹の一角兎を捕まえ倒すことができた。
「ふう、だいぶ慣れてきたな」
回を重ねるごとに一角兎への対応がスムーズになっていった自覚はあった。これはと思い心の中でステータスオープンと念じる。
名前:ホクト・ミシマ
性別:男
年齢:17
レベル:4↑
職業:拳闘士(Lv1)
----------------------------------------
体力 :195 +5↑
精神力:106 +1↑
攻撃力:140(+5) +3↑
防御力:153(+6)
敏捷 :250(+3) +7↑
知能 :2
魔力 :97 +3↑
運 :41 +1↑
----------------------------------------
スキル:
ダーレン大陸共通言語(Lv2)
鷹の目(Lv6)↑、集中(Lv6)↑
----------------------------------------
称号 :
初心者冒険者(体力に小補正)
----------------------------------------
装備 :
皮の籠手(攻撃力+5)
ショートソード(攻撃力+5)
皮鎧(防御力+6)
グリーブ(敏捷+3)
「おお、色々と上がったな。レベルも1つ上がってるし、スキルは2つとも上がったな。何より敏捷が7も上がってる!」
これが後になればなるほど楽になっていったカラクリか。実戦で積む経験は訓練よりも内容が濃いせいなのかもしれない。でも、なんで運が上がってるんだ?
「まさか、最初の木を叩いて一角兎を落としたから……とか?」
ステータスが上がる条件がよく解らんな。何にしても、そろそろ時間だ。リーザスの町に戻ろう。
森の出口を目指して歩いていると、どこかで犬の鳴き声が聞こえた。
「魔物か?……それにしては、随分か細い鳴き声だったな」
辺りを見回してみても、それらしい影はない。立ち止まって耳を澄ましてみる。
……………………アォ~ン。
「聞こえた、こっちの方からだな」
いつでも戦闘に入れる態勢のまま鳴き声のした方へ歩いていく。少しの距離を一歩一歩進んで行くと、大きな木のそばに倒れている犬?を見つけた。
「……これは、犬?それとも狼か?」
そこには血だらけの大きな犬が倒れていた。本来であれば神々しいまでに白いであろう毛並みが、血によって薄汚れていた。身体のあちこちから出血していて、呼吸も荒い。
「お前が鳴いていたのか?」
倒れている白い犬に近づくと、横たわる胸元に小さな毛玉が張り付いていた。
「お前は……そいつの子供か?」
母親であろう白い犬から視線を俺に向け、敵意のある視線を向けながら唸り声を上げる。
「ウゥゥ……」
「何もしないから安心しろ。それよりも母親を見ないと」
更に俺が近づくと、毛玉が俺の足に噛み付いた。
「おいおい、そんなに怒るなよ。お前の鳴き声を聞いて、わざわざ来てやったんだから」
足に噛み付いた毛玉をそのままに、母親の顔近くにしゃがんだ。毛並みに沿って手を這わせると、本来は触ることも躊躇われるほどの毛並みであることが伺える。だが、残念なことに今は血に染まって艶も良くない。
「なあ、俺の言うことがわかるか?」
母親犬に対して話しかけてみた。ここは異世界だ、喋れる犬がいるかもしれない……そんな淡い期待による行為だったんだけど……。
「……人間か」
「おわっ、喋った」
「我に何用じゃ……まさか我の骸狙いではあるまいな?」
驚いた。本当に喋るとは……。けどまあ、これなら話が早い。
「俺は森の中を歩いていたんだけど、犬の鳴き声が聞こえてきたから様子を見に来てみたんだ」
「我を愚弄するな!カハッ……我は誇り高き白狼族のミール。犬などと一緒にするな!」
大分具合が悪そうだ。
「すまなかった、愚弄したつもりは無いんだ。ただ、こうして出会ったのも何かの縁だ。俺に何かできることは無いか?」
「……お主変わっておるな。普通の人間であれば、我を見た途端に恐れをなして逃げ出すか、死体をこれ幸いと持ち帰るところじゃ」
「う~ん、俺昔っから犬とか猫って好きだったから、そんな殺生な事できないよ」
「狼だと言っておろうが!……ゴフッ」
「ああ、そんなに叫ぶな。傷に響くぞ」
「……誰のせいだと思っておる」
俺なのかなぁ……。とは言え、見た限りあまり時間も無さそうだ。
「なあ、お前は人間に頼み事をすることに抵抗があるのかもしれないけど、俺としては何とかしてやりたいんだよ。今の俺に何ができるか解らないけど、言ってくれ」
苦しそうな表情の白狼が視線を俺に向ける。その目にはすでに力がなく、間もなく訪れる死が逃れようの無いものだと思わせるには十分だった。
「……お主、名は?」
「俺はホクト・ミシマ。人間の町リーザスで冒険者をしている」
「ホクトか……確かに、これも縁なのだろうな。独り無念に朽ちていくつもりであったが、お主になら託しても良さそうだ。坊や、坊やはいるか?」
坊や?俺が疑問に思っていたら、足元の毛玉が母親の顔に縋りついた。
「クゥ~ン、クゥ~ン……」
「良くお聞き坊や。母はここまでのようじゃ」
母親狼が言うことを聞き逃すまいと、見続ける白い毛玉。その目は何かを悟っているかのように知性を感じさせた。
「いいかい、坊や。お前は誇り高き白狼族の生き残りじゃ、誰彼構わず尻尾を振って良いわけではない。……が、この人の子であるホクトは我が認めた男じゃ。今日からお前は、この人間と共に生きるがいい」
「…………ワンッ!」
「そうかい、解ってくれたか。これで……心置きなく逝ける」
「おい、俺なんかでいいのか?自慢じゃないが、俺はあまり強くないぞ」
「構わん。……我も血迷ったのかもしれん……だがホクトよ、どうか……どうか頼む。……我が子を……我が子だけは……まも……って……くれ……」
「お、おいミール!」
俺は慌ててミールに声をかける。子狼は別れが済んだのか、俺の方を見てジッとしている。
「人の子ホクトよ……我との……やく……そく……努々……わす……れる・・で……ない…………ぞ……」
ミールは静かに息を引き取った。薄く開かれたミールの瞼をそっと閉じてやる。
「……墓を作ってやるか」
ミールのもとを離れ、大きな木の根元に穴を掘り始めた。穴を掘る道具なんて持ってきてなかったから、近くに落ちてた木の枝を使って掘っていく。その間、子狼は微動だにせず母親に寄り添っている。
しばらく無心で穴を掘って、なんとかミールの大きな体が納まるだけの穴を掘り終わった。ミールに近づいて両前脚を取る。すると、子狼が唸り声をあげだした。
「ウゥゥウゥゥ……」
「このまま野晒しにはできないだろ。いつまでも放っておくと、他の動物が食い荒らしに来るぞ?」
「ウゥゥ……クゥ~ン」
解ってくれたのか、子狼は唸るのを止めた。ミールの身体は重過ぎて、俺では持ち上げることができなかったから引きずる事になってしまうが、そこは我慢してもらおう。何とか穴の中にミールの大きな身体を横たえて、上から土を被せる。
徐々に土に埋まる母親を、ジッと見続ける子狼は今どんな気持ちなのだろうか。
30分ほどかけてミールの埋葬が終わる。盛った土の上に大きめの石を置いて墓標とした。
「さ、最後のお別れだ」
俺はミールの墓の前で手を合わせて冥福を祈る。それを見た子狼は足を揃えて座り、頭を下げて目を瞑った……賢い子だな。
「さて、リーザスに帰るか」
しゃがんで子狼と視線を合わせると俺の顔をまっすぐ見つめ返して。
「ワンッ!」
しっかりと返事を返した。
「よし、行くぞ!」
立ち上がり、町の方に向かって歩き出した。しばらく墓の前から動かなかった子狼だったが、やがて俺の後を追うように歩き出した。
30分ほど歩いて森の入り口までやってきた。あと少し歩けばリーザスの町だというところで隣を歩いていた子狼が突然踵を返して数歩だけ森に近づく。
「どうした?」
子狼はジッと森の方を見ると一声。
「アオォォォ~~~ン!!!」
満足したのか、俺の足元までやってきて
「ワンッ!」
男らしいキリッとした表情で一声鳴いた。
「とりあえず、町に帰ったらお前の名前を決めるか!」
「ワンワン!」
こうして俺の独りパーティに、白い毛玉の仲間が新たに加わった。




