14話 人は見かけによらない
年下か、でも悪くないかも……。今のパーティメンバーの中では、俺が一番年下だから、後輩ができたと思えば、これからの探索も楽しく出来そうだ。
「ささ、こちらにお座りください。今、飲み物をお持ちします。猛炎の拳の皆さまも、おかわりをお持ちしますね」
そう言って、カリンさんは部屋を出て行った。そして、肝心のその少女はと言うと……俺の目の前にチョコンと座って、ジッと俺の方を見つめていた。
「……」
「……?」
「ジーーッ……」
何だろう、酷く居心地が悪い。ここまで女の子に見つめられたのは生まれて初めてだ。見つめられたって大分オブラートに包んでいるけど、そんな生易しい物じゃない。ガン見だ。視線が動かない所を見ると、観察されてるって事もない。ただ、俺をずっと見ているだけ……ちょっと怖い。
コンコン……
「失礼します」
しばらくして、カリンさんがお盆を持って戻って来た。俺達の分と、目の前の女の子の分のお茶を乗せて。
「お待たせしました。もう自己紹介は済みましたか?」
「……いえ、全然」
少女が気になって、何も考えられなかった。効率よく進めるなら、確かに先に自己紹介くらいしておけば良かった。
「では、改めて自己紹介をしましょう。まずは猛炎の拳の皆さんから……」
そう言って、カリンさんが俺を促す。俺は姿勢を正して、目の前の少女を見る。
「初めまして、俺の名前はホクト・ミシマ。年は17歳、職業は拳闘士。一応、この猛炎の拳のリーダーをやっている。不慣れな事もあると思うけど、少しずつ解決していこう。よろしく」
当たり障りのない自己紹介を終えて、次のアサギを促す。
「初めまして。私の名前はアサギ・ムラクモです。年齢は……あまり言いたくないけど、24歳よ。職業は魔法使い、水系統の魔法と火の精霊魔法が使えるわ。同じ女の子同士、仲良くやれたら嬉しいわ」
アサギも無難にクリア。さて、我がパーティ一番の問題児はどうか。カメリアの方を見ると、意外にも普通に真面目な表情をしていた。
「アタイはカメリア・フレイム、見ての通り鬼人族の槍使いだ。年は23、前に出てガシガシ突きまくるのが得意だ。よろしくな」
思ってたより普通の自己紹介で良かった。俺がホッと一息つくと、カメリアが睨んでいるのが見えた。仕方ないじゃん、お前の普段の行いが悪いんだから……。
「ありがとうございます。では、次はクウさんお願いします」
俺達が一通り終わったので、次は目の前の少女、クウちゃんを促すカリンさん。
「……名前はクウ。職業は探索者、戦闘時は……普段1人でしか行動していないから、パーティの連携って解らない。あと、年は20」
へぇ、これまでに一度もパーティを組んだことが無いのか。それで探索者として、ここまで活動で来てたって事が純粋に凄いと感じた。連携に関しては、今後練習すれば何とかなるだろうから問題にはしない……それより、聞き捨てならない事を目の前の女の子は言ったぞ……。
「……って、ハタチ!?」
「うそっ、てっきり14歳くらいかと……」
「ちゃんと飯食ってるか?ハタチで、それだけちっこいって事はあまり食べてないんだろ。だから、そんなガリガリなんだよ」
「って、カメリアもツッコむところそこじゃないから!」
突然のクウちゃんのカミングアウトに、一同騒然だ。脳が理解を拒絶してる……ハタチって聞いたのに、未だに『ちゃん』付けに違和感を感じない。
「……何かおかしかった?」
「え、いや……おかしくは、ない……かな?」
アサギもしどろもどろに答えている。そりゃ、そうだよな……ああ、ビックリした。改めてクウちゃんを見ると、また俺の方をガン見していた。なんだろ、何か気になる事があるのか?
「……どうした、クウちゃん」
「あなた」
「お、おう……」
思いっきり指をさされて、一瞬ドキッとした。疚しい事は何もしてないのに、身体が勝手に反応したよ。
「わたしはハタチ」
「そ、そうだな……」
「あなたよりも年上」
「どうやら、そのようだ……」
なんだ、何を言いたいんだ?アサギの方を見ても、俺と同じように頭の上に『?』を浮かべている。カメリアは、事の成り行きを見守っている。と言うか、あいつはボーっとしてるだけだ。
「お姉さんに、甘えても良いよ?」
「………………え、はっ?」
一瞬何を言われたのか、解らなかった。今クウちゃんはなんて言った?お姉さん?甘えていい?俺は、一体どういうリアクションを取ればいいんだろう?
チラッ
「わ、私に振られても困るよ!クウちゃんは、ホクトくんに相手をしてほしいみたいだから、ここはホクトくんがちゃんと相手をしないと……」
そう言って、アサギは目を逸らした。こいつ、逃げやがった。仕方ない、ここはリーダーとしてコミュニケーションを取ってみよう。
「ちょっと、なにをいってるのかわからない」
しまった、緊張のあまり片言で喋っちゃった。クウちゃんを見ると、小さく笑っていた。あれ、この子ちゃんと笑えるんだ。今まで、ほとんど無表情で会話してたから、てっきり無表情キャラかと思った。
「冗談……」
「じょ、冗談……そうか、冗談か!いや、突然何を言われたのか理解できなかったよ」
「「「………………」」」
会話が途切れた。やばい、何を話していいのか解らない!誰か、誰か俺に救いの手を!
「……コホン、親交も深まったようですから、一度実戦で連携を試してみたはいかがですか?」
そこで、すかさずカリンさんがフォローをしてくれた。ありがとう、カリンさん。伊達に年上のお姉さんキャラじゃない。俺は、カリンさんに視線でお礼を伝えてクウちゃんに提案した。
「カリンさんもああ言ってるけど、クウちゃんはどう?一度パーティに入ってダンジョンに行ってみないか?」
「わたしは大丈夫。あなたたちは、わたしが一緒に行っても大丈夫?」
ちょっと心配そうな表情で、クウちゃんが俺達に聞いて来た。俺達としては、こうなる事も想定していたので、問題ないとクウちゃんに伝える。すると、さっきと同じように小さく笑った。この子、ちゃんと喜怒哀楽の表情は持ってる。他の人よりも、それがずっと小さく変化しているだけなんだ。
「じゃあ、いつ行く?」
「わたしは、今からでも大丈夫」
「私たちも、今からで問題ないわ。ね、ホクトくん」
「おう、じゃあ今から願いの塔に行ってみるか」
話しはトントン拍子に進んで、これから願いの塔に入ってみることにした。ギルドを出るときにカリンさんにお礼を言ったら……。
「それが私の仕事ですから、お気になさらずに。それに、まだ決まったわけではないので、引き続き条件に合致する探索者を探してみます」
そう言って送り出してくれた。仕事をキッチリとこなすカリンさんは、まさにプロだと言えた。この人になら、この後色々と相談しても良いだろう。
「……わぁ」
そして、もう1つ。ギルドを出たところでポロンと合流したら、クウちゃんが今まで見たこともないような、輝いた表情でポロンに釘付けになっていた。そうか、クウちゃんは犬派か……。撫でたくて、手を出したり引っ込めたりを繰り返していたので……。
「大丈夫、ポロンは優しい子だから噛みついたりしないよ」
「……ホント?」
「ほんと、ほんと」
俺に言われて覚悟を決めたのか、ポロンの頭に自分の手を差し出す。ポロンも撫でやすいように、少しだけ頭を下げる。クウちゃんの手が、ポロンの柔らかい毛に触れた途端……。
わぁ!わぁ!すごい、柔らかい……モフモフ……」
ポロンの毛並みの魔力にやられてしまったようだ。ポロンの首に両腕で抱きついて、にへらと可愛い笑顔を見せてくれている。よっぽどポロンの事が気に入ったんだな。
「この子は、あなたのペット?」
「まあ、俺が親代わりだけどペットと言うよりは……同じパーティの仲間かな」
言ってみれば、ポロンは家族のようなものだ。この世界に来て、初めて親切にしてくれたのはアサギだった。そして、初めて一緒に生活することになったのが、目の前にいるポロンだ。お袋さんから託されたって言うのもあるけど、しばらくポロンと一緒に行動して、もう家族同然と言っても過言ではない。
「仲間……この子も一緒にダンジョンに潜るの?」
「そうだ。ポロンは敵の気配や臭いに敏感だから、俺達の誰よりも、敵を見つけるのが早い。それに、臭いで敵の種類まで判別できるから、俺達は相手の弱点を考慮して作戦を立て易い。それに、今までのダンジョンでは、ポロンがトラップの感知もしてくれていたから、トラップ解除のスキルを誰も持っていない俺たちが、何とか一端の探索者として活動できたんだ」
「……あなた、凄いのね」
そう言って、クウちゃんはポロンの頭を優しく撫でる。ポロンも気持ちよかったのか、クウちゃんに体を擦り付けて甘えている。どうやら、パーティ間のコミュニケーションは円滑にとれたようだ。
「さて、ここで話していても仕方ない。願いの塔に行って、クウちゃんの実力を見せてもらおうか」
「わかった。最初は、私のことを知ってほしいから、独りで魔物と戦わせて」
突然のクウちゃんからのお願いだったけど、こちらとしても好都合だ。危なくなったら俺達でフォローに入ればいいんだ。それに、この子はこう見えて今までソロでダンジョンに潜っていた猛者だ。俺達よりも探索者として活動した期間は長い。その腕前にも興味がある。さて、まずはお手並み拝見と行こう。




