3話 未熟者の末路
追記:文末の・・・を……に変更しました。
それから3日が経った。
狩りの成果はどうかというと……惨敗どころか3回コールド負けだ。だって、まだ1匹も捕まえられていないんだから。あいつら反則級に素早い。
「なんだ、まだ1匹も捕まえてないのか?」
おっさんからも冷めた目で見られる。
「いや、あいつら速過ぎでしょ」
「最初から、そう言ってるだろう。でなければ訓練にならん」
「それは……そうですけど。
でもダッジさん、あいつら弱い魔物だって!」
そう、弱いと聞いていた一角兎なのだが実はそうでもない。一度あとちょっとのところまで追いつめたことがあったんだけど……。
「手が届くと思った瞬間、反転されて角で刺されました……」
「カウンター狙いのお前が、カウンターを食らってどうする」
「返す言葉もございません……」
「それに教えたはずだぞ、あいつらの角は危険だと」
「え、聞いてませんよ!」
「一角兎討伐を受けろと言った日に説明した。
……さては、お前聞いてなかったな?」
あれ、言ってたっけ?……ひょっとして、浮かれて聞き逃したか!?
「あ、アハハハ……」
「笑って誤魔化すな!」
「すいませんでした!」
瞬時に土下座して謝る。
「まあ、まだ3日だ。確かに討伐も大事だが、捕まえるための瞬発力を養うことが重要だからな」
「……わかってますよ」
今のままじゃダメなのは解ってる。なんとかしないと……。
「それで、私に聞きに来たの?」
時間は夕食時。
宿屋の食堂で、アサギに聞いてみた。
「一角兎ってのが速過ぎて捕まえられないんだ」
「ああ、あのウサちゃんかぁ……確かに捕まえるのは難易度高いよね」
「アサギも討伐したことあるのか?」
「何度かね。私の場合、魔法があるから近づかなくても倒せるし」
そうだった、アサギはこう見えて魔法使いだった。でも、遠距離攻撃か……俺には魔法は使えないけど、何も魔法だけが遠距離攻撃ではない。別のもので代用できそうだな。
「あれ、なんか思いついた?」
「試してみる価値はある……と思う」
「そっか。初めのうちは色々試してみるといいよ。
上手くいっても、いかなくても経験になるから」
「そうだな。ありがとなアサギ」
「うん」
アサギに相談したのは良かった気がする。さて、明日は思いついた方法を試してみよう。
翌日、俺はギルドに向かう前に武具屋を訪れていた。
「おっさ……ゴドーさんいるか?」
「誰がおっさんだ!」
「まあまあ、ちょっと相談したいことがあるんだ」
「小僧が俺に相談?」
「ああ、実は……」
俺はおっさんに一角兎を捕まえるためのアイディアを話して相談してみた。
「……とまあ、こんな感じなんだけど何かない?」
「そうだな……投げナイフなんかどうだ?
慣れるまでに、ある程度練習が必要だが比較的楽に覚えられるぞ」
投げナイフは俺に合ってる気がする。森の中でゴブリン相手にショートソードを投げて倒した経験もある。これはイケるかもしれない。
「じゃあ、投げナイフを買うよ」
「10本で1000ゼムだ」
「払える……けど、高いな。
……でもなあ、背に腹は代えられないか。買うよ」
大銀貨1枚をおっさんに渡す。今まで採取でコツコツ貯めた金が、ほぼゼロになってしまった。まあしようがないか、これも先行投資として諦めよう。
武具屋を出た俺は冒険者ギルドで依頼を受けると、ここ最近じゃ定位置となりつつある一角兎の狩場に向かった。
始めに採取を少しして移動する。毎日採取をしていると言うのに、一向に取り尽してしまう気配もなく薬草は一杯生えている。採取をしながらちょっとずつ移動していくと、遠くに動く影が視界に映った。
「一角兎か?……こんな時は『鷹の目』発動」
スキルを発動して、動いた影のあたりを目を凝らして見てみる。良くなった視力を使ってしばらく探してみると、繁みの影に茶色い毛玉が見えた。
「いたいた。今日は見つけるの早かったな」
見失わないように注意して距離を詰める。ちょっとした気配や音にも驚いて逃げてしまうほど臆病な一角兎だ。最初の頃は見つけてもすぐに逃げられてた。
「そ~っと、そ~っと……」
極力音を鳴らさないように投げナイフの射程圏内まで近づく。あと10m……5,4,3,2,1、今だ!手に持っていた投げナイフを一角兎目がけて投げつけた。
「キュイ!?」
驚いて逃げ出そうとした一角兎だったが、それよりもナイフが届く方が速い。
ただし、ちゃんと一角兎の方へ飛んでいけば……の話しである。投げたナイフは一角兎の頭上1m以上離れた場所を通過して森に消えた。
「あれ?おかしいな……ショートソードの時は上手くいったのに」
心なしか一角兎からジト目を向けられている気がする。
「あ、投げたナイフどこいった!?」
俺は慌ててナイフを探しに行く。その時の一角兎の何とも言えない表情は忘れられない。
結局投げたナイフは見つからなかったので諦めた。1本100ゼム、広場の屋台で串が2本買える。ただ、これ以上無くすのはまずいので練習することにした。
「ショートソードと違って軽い分を計算しないとダメだな、これくらいか?」
近くの木に向かってナイフを投げてみる。さっきよりは狙ったところの近くに刺さったが、まだまだ距離がある。30分ほど練習して何とか狙った場所に刺さるようになった。
「よし、これなら大丈夫そうだ。さあ一角兎を探すぞ!」
それから、さらに30分。ようやく1匹の一角兎を見つけることができた。やばい、帰る時間を考えるとこれが最後だ。焦る気持ちを落ち着けて一角兎に狙いを定める。距離は射程圏内……今だ!
ヒュッ
一角兎に向かってまっすぐ進んだナイフは狙った場所よりはズレたが、一角兎に傷を負わせることができた。チャンスだ、一角兎に向かってダッシュする。
「俺の血肉になって、成仏してくれ!」
渾身の力で一角兎を殴り飛ばした。手に感じる確かな手応え。
「よし!」
そのまま息絶えた一角兎を見下ろして、思わずガッツポーズが出た。4日目にしてやっと一角兎を討伐することができた。ただ残念ながらレベルは上がらなかったみたいだ。
「まあいいか。この方法で明日からも狩ればレベルも上がるだろう」
そうして、俺は意気揚々とリーザスの町に帰った。
「この切り口はナイフでできたものだな。
投げナイフで衰えさせては訓練にならん。明日からは禁止だ」
「そんなぁぁぁ~~!!」
一角兎1匹の討伐報酬1000ゼム也
投げナイフ10本と相殺・・・ですが、無くした1本分マイナスなホクトくんでした。




