4話 防具強化の可能性
「お前の素早さを活かすなら、覆う部分は最低限にして、そこを補強する方が良さそうだな」
ゴドーの店で、今後の俺の装備について店主のゴドーと話し合っている。それも探索者になった後に、死なない為。そして、願いの塔をより上まで登るためだ。今願いの塔のレコードは50階あたりだそうだ。これが半分を超えているのかすら分かっていない。なので、ここで装備を新調しても最後まで使う事は無いだろう。なのに今慎重に選んでいる理由は、探索者に慣れる前に死ぬリスクを減らすため。それを、俺は馴染みのゴドーに託した。
ゴドーが手にしたのは、俺も見覚えのある防具だ。
「これって……鉢がね?」
「そうだ。良く知ってたな」
「……俺の故郷にも同じような防具があったんだ」
鉢がねと言われて、俺が思い出したのが忍者。額を覆う鉄の塊。そうか、頭の防具だからって必ずしも全体を覆う必要はないのか。ゴドーから鉢がねを受け取って、手に馴染ませる。さっき手に取ったフルフェイスよりも格段に軽い。その代わり、鉄に覆われた部分が少ないため、頼りなさを感じる。
「これで、願いの塔の敵に太刀打ちできるのか?」
「普通じゃ無理だ」
「おい……」
「話は最後まで聞け。鉢がねにも色々あって、鉄で覆われた部分が少ない物から頭を半分ほど覆うものまで様々だ。で、この鉢がねなんだが……いつでもどこでも安心できる、頼れる防具という使い方はしない。受けるではなく逸らす。真正面から受け止めたら、この程度の鉄ではとても守る事はできない。だから、角度をつけて攻撃を逸らすことで、相手の態勢を崩したりと言った使い方をする」
へぇ、鉢がねってそうやって使うんだ。時代劇とかで良く見かけたけど、実際に鉢がねに攻撃を受けるシチュエーションとか見たことなかった。でも考えてみれば当然か。あんな薄い防御で、日本刀とかまともに受けたら絶対に中身まで斬られるよな。
「お前の師匠であるダッジは、現役の時は鉢がねを頭に装備していた。詳しい事は、ダッジに聞く事だな」
「ダッジさんが……そう考えると、拳闘士として頭を鉢がねで守る事は理に適ってるのか」
今度ダッジさんに詳しく聞いてみよう。
「問題は、今俺の店にある鉢がねだと、願いの塔で使うには心許無いって事だ。こればっかりは、鉢がねを使う冒険者や探索者が少ないから、純粋に在庫が無いんだがな」
「そうか……まあ、候補として覚えておくか。次はどれだ?」
ゴドーはああ言ってるけど、俺の中では既に頭防具は鉢がねで、ほぼ確定している。視界を狭めない、重くない、何より忍者みたいでカッコいい!特に3番目が重要だ。カッコいいは大事。
「そうだな……今以上にゴテゴテと装備しても、お前が慣れるまでに結構な時間がかかりそうなんだよな。やるとしたら、グリーブの強化と……あと、これなんてどうだ?」
そう言ってゴドーが見せたのは、中世の騎士が付けているような拍車。形はギザギザの歯車みたいなのとは違うけど、取り付け位置から考えても拍車だよな。
「これって、拍車だよな。こういうのって、馬に乗る騎士が付けるんじゃないのか?」
「お、拍車を知ってたか。まあ、間違ってはいないんだが、こいつを踵に装備して蹴ったら痛いと思わないか?」
言われて想像してみる。確かに歯車型だと顔に痕が付く程度で済みそうだけど、そこに刃が仕込まれていたら……これ、意外にいけるかもしれない。
「その表情から察するに、使い方は分かったみたいだな。これは、騎士用の拍車だが、お前のスタイルに合う形に改造してみよう」
「そんな事ができるのか!?」
「お前、俺を誰だと思ってんだ。鍛冶師ってのは、ただ鉄を打つだけじゃねえぞ。色々な発想を実物の形にするのも鍛冶師の腕の見せ所だ」
腕に力こぶを作ってアピールするゴドー。言いたい事は分かるけど、残念ながらその姿から繊細な作業が得意そうには見えない。まあ、でも……確かに面白そうだ。素材と形状によっては、マジで一発大逆転があるかもしれない。
「……面白そうだな」
「お、ホクトもこういう事にイケる口か」
「こういうカラクリは、男心をくすぐるな」
「なんだ、お前もこっちの人間か」
勝手に仲間扱いされてしまった。でも仕方ない。変形とか、ギミックとかって言葉は、幾つになっても男を魅了してやまない。無駄に多いギミックとか、それを見るだけで妄想が膨らむ。
「とりあえず、俺の方で考えていたことがあるから、まずはそれを形にしてみる。それをお前がテストして、良さそうなら採用って事でどうだ?」
「いいね。そういう事なら、いくらでも手を貸すぜ」
固く握手を交わす、俺とゴドー。拍車については、一端ゴドーが預かって試作をするそうだ。出来上がりが楽しみだ。そうなると、どれもこれも経過観察が必要なものばかりだな。今すぐ効果が出せそうなのは……。
「結局、グリーブだけか……」
「あん?どういう意味だ?」
「いや、鉢がねも拍車も結果が楽しみではあるけど、今すぐ効果が見れないだろ。そうすると、今ここで見れるのはグリーブだけかなって」
確かに、今俺が使っているグリーブは冒険者になったときに買った、まさに初心者パックの一品だ。今まで特に足回りに攻撃を受けたことが無かったから、足回りの補強を考える事は無かった。だけど、探索者になるのなら罠とかも考えないといけない。
「グリーブか。お前に合いそうなのを見繕ったが、そうだな…………これなんかどうだ?」
いくつかあるグリーブのうち、ゴドーが俺に手渡したのは群青色のグリーブだった。
「なんか見たことのある色合いだな。これって、群青の燐鎧関係か?」
「そうだ。あの時のお前だと、鎧を買うだけでも借金が必要だったからな。そんな奴に態々薦める事はしなかったが……。今のお前なら、金もあるって事だし。何よりもグリーブを必要としているなら、鎧と合わせた方が収まりはいい」
手渡されたグリーブは、確かに手触りが群青の燐鎧に似ていた。ベースは革、それを補強する形で鱗が薄く伸ばされて使われている。色合いも綺麗だし、何よりも群青の燐鎧とセットで装備した時を想像するとカッコいい。もう一度言おう、カッコいいのだ。
「……これ、いくらだ?」
「金貨3枚」
「ぐっ……高い。高いけど……買おう」
「即決か。金があるって話は本当だったんだな」
せっかくなので、群青の燐鎧を受け取るときに一緒に引き取る事にした。今グリーブだけ装備しても良いけど、せっかくなら鎧と揃えて初お披露目をしたい。一応サイズが合うかだけ確認して、問題なかったのでそのままゴドーに預けた。
「他に何かあるか?」
「今のところは。ゴドーの方も、何かあったら言ってくれ。自分の装備の事だ、できる限り協力する」
「そうだな。もしかしたら、素材の事で相談するかもしれん。その時は、お前を頼らせてもらう」
「わかった。何かあったら、宿屋の方に連絡をくれ」
そう言って、ゴドーの店を出る。空を見れば、思った以上に時間が経っていた。確か仕事が終わったときは、まだ夕方前だった気がする。なのに、店を出た今は完全に夕方だ。太陽も後少しで沈み始めるだろう事を考えると、結構話し込んでたんだな。
「さて、どうしよう。このまま宿に戻るか、ギルドに行ってノルンさんやダッジさんから話を聞くか……」
時間としては、すごい微妙だ。ちょっと話し込めば、あっという間に夜になるだろう。ダッジさんにしろ、ノルンさんにしろ、腰を落ち着けて話をしたい事を考えると、今から行くのは得作じゃないな。そうすると……。
「たまにはポロンの相手でもするか……」
最近、ポロンが俺よりもハンナちゃんを主として見ている気がする。ここは主として、ポロンをキッチリ躾けないと……というか、忘れ去られそうで怖い。そう思いたって、足を市場の方に向ける。商業区からなら、宿からよりも近いし何かポロンに買って行ってやろう。買い物をしたら、そのままローザさん達が仮住まいにしている家まで行って、ポロンを回収して帰ろう。
「最近のポロンだと、誰かが付き添わなくても勝手に遊びに行って勝手に帰って来るけど……。まあ、こう言う所からスキンシップを取るようにしないと、本気で主失格の烙印を押されそうだ」
市場で、ちょっとだけ奮発した肉を買ってローザさん達の仮住まいに向かう。俺の匂いに気付いたのか、はたまた市場で買った肉の匂いに誘われたのか、ポロンが家の裏から飛び出してきた。
「わぅ!」
後ろ足二本で立ち上がって、俺の肩に両前足を乗せてホールドする。そして、思いっきり顔をペロペロと舐め始めた。
「こらっ、ポロン!いきなり飛び出したら危ない……あ、お兄ちゃん!」
ハンナちゃんが俺に気付いたみたいだけど、残念ながら今の俺はポロンのガッチリホールドに抑え込まれて、顔を動かすこともできない。
「ハンナちゃん、さっきぶり……」
「どうしたの?突然来て……まあ、ポロンが喜んでるからいいけど」
しばらくされるがままになっていたら、ポロンも落ち着いたのかホールドを解除してくれた。だけど、俺の周りから離れようとはせず、足の周りをグルグル回っては身体を擦り付けてくる。どうやら、俺が思ってた以上にポロンの事を放置してしまったようだ。罪悪感を感じつつ、好きなだけ身体中を撫で回してやる。
「ポロン嬉しそう。やっぱり、私よりもお兄ちゃんが良いんだね……」
「そんな事無いだろ。ポロンはいつもハンナちゃんと一緒に居たがるんだし」
「……はぁ、お兄ちゃんは鈍いな。ポロンはね、お兄ちゃんの邪魔にならないように気を遣って私の所にいるんだよ。もちろん、私のことも好きなんだと思うけど、やっぱり一番はお兄ちゃんなんだよ。そんなお兄ちゃんと長い時間離れ離れなのは、やっぱりポロンにとっては寂しいんだよ」
ハンナちゃんに言われてポロンを見る。俺に撫でられることが嬉しかったのか、腹を出して催促してくる。そうか、こいつはこいつなりに考えて行動してたんだな。俺は良かれと思ってハンナちゃんの警護を頼んでたけど、これからは俺の周りにいられるように何か考えるか。
「寂しい思いをさせてゴメンな。今日は、お詫びにいっぱい一緒に居てやるからな」
「わふっ!?わ、わんわん……ハァハァ……わんわん!」
「わっ、凄い喜びよう。良かったね、ポロン」
「わふぅ」
興奮したポロンを宥めて、ハンナちゃんに別れを告げる。今日はハンナちゃんに言った通り、できるだけポロンと一緒に居よう。そう思いながら家路についた。宿に戻ってから、ポロンが満足するまでブラッシングをしていたら、ポロンの幸せそうな顔とは裏腹に、俺の腕は握力を無くして使い物にならなくなった。
「わふぅ!」
まあ、ポロンが満足そうなんで良しとしよう。




