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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
8章 探索者になろう
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3話 探索者になるために

久しぶりに来たゴドーの店は、思ったよりも綺麗に整頓されていた。


「スタンピードの範囲から外れてたとは言え、思った以上に綺麗だな」


「当たり前だ。いつ店を開けても良いように、こっちは毎日開店準備だけはしてるんだ。それを……組合の奴らが、空気を読めだのなんだの言いやがって。実際、いつ店を開けられるのか俺すら知らん」


随分と鬱憤を溜めてるみたいだな。これは、どこかでガス抜きしてやる必要があるだろう。タイミング的には、ちょうど良かったかもしれない。


「で、話しってのはなんだ?」


「まずは、この鎧の代金。残りの差額だ。受け取ってくれ」


懐から革袋に入れた代金を、机の上に置く。袋の中身は、金貨5枚。スタンピードの遠征前に手に入れてからだから、結構な時間がかかってしまった。でも、お蔭で今回のスタンピードを乗り切ることができた。ゴドーには、感謝してもし足りない。


「おう」


いつもと変わらない動作で、ゴドーが机の上の革袋を懐に仕舞う。


「……中身を確認しなくていいのか?」


「あ?いいんだよ。俺がお前を信じて、ツケで売ったんだ。もし、お前が差額を誤魔化すようなら、それは俺がお前の本質を見抜けなかったってだけだ」


信頼してくれてるのは嬉しいけど、それでいいのか客商売。まあ、俺も別に誤魔化すつもりは無かったから別にいいけど。


「どれ、見てやるから鎧を脱げ」


「また唐突だな。でもありがたい。今回の戦いで結構無茶をしたから、ガタがきてないか心配だったんだ」


ゴドーの言葉は渡りに船だ。気が変わらないうちに、急いで鎧の留め金を外していく。最近になって、やっと1人で鎧を着られるようになった。材質が皮の鎧でこうなんだから、鉄の鎧って絶対1人じゃ着脱できないよな。


「そんなに慌てなくても、ちゃんと見てやる」


考えを見ぬかれて、ちょっと恥ずかしい。無事に脱いだ群青の燐鎧をゴドーに見せる。受け取った鎧を注意深くチェックしながら、ゴドーが言ってきた。


「あちこちガタがきてるな。見ただけだと解らないが、あと数回衝撃を受けていたら、どこかに致命的な歪みを生んでたかもしれん。このタイミングで持ってきたのは正解だったな」


「……やっぱりか。希少種のアラクネとか、めちゃくちゃ強い魔物との連戦だったからな。それを生き延びられたのは、その鎧のお蔭だ。ゴドーには感謝してもし足りないよ」


「……うるせぇ。お前から感謝されたら、背中がむず痒くなる」


照れなくてもいいのに。実際、群青の燐鎧じゃなかったら何度致命傷を負っていたかわからない。遠征に出る前に、この鎧を薦めてくれたゴドーは命の恩人と言っても良いくらいだ。これ以上は、言わないけどな。


「預けた方が良いか?」


「……そうだな。2日で元通りにしてやるよ」


「なら頼むよ。修理代は……」


「いらねえよ。次からも俺の所に持って来れば、無償で直してやる」


随分業腹な事を言うゴドー。こっちとしては嬉しいけど、ほんと何度も言うけど、それでいいのか客商売。


「こっちは嬉しいけど、それだとゴドーが赤字だろ。言ってくれれば、ちゃんと払うぞ。今回の作戦の報酬にたんまりもらったから、俺も前みたいに貧乏じゃないし」


「そんな気を回す必要はない。これは、俺がやりたくてやってることだ。それに……お前たち冒険者には、今回のスタンピードで返せないほどの借りができたからな。こっちの生活が苦しくならない程度には、面倒を見させろ」


このおっさん、絶対にサービス業に向いてない。誰か財布の紐をしっかり握れる奥さんを見つけないと、この店まずいんじゃないか?


「……なんか失礼な事を考えてる顔してるが、まあいい。それで、どうするんだ?」


「え?……ああ、頼む。明後日に取りに来ればいいか?」


「ああ。昼過ぎ以降ならいつでも構わん。それより早いと、終わってない可能性があるからな」


「わかった」


まあ、この義理人情に篤い男臭さがゴドーの魅力ではあるんだけどな。せっかくいい関係を築けてるんだから、俺も胡坐をかかないように注意しよう。


「それで、本題は何だ?」


そうだった。今日は、別に鎧のメンテに来たわけじゃない。


「今回のスタンピードでの活躍を評価されてな、ギルドからCランクへのランクアップを言い渡された。これで、晴れて探索者になる事ができる」


「……そうか。お前が冒険者になってから、まだそんなに時間が経ってないのに、もうCランクか。ソウルもそうだが、お前らのランクアップ速度はちょっと異常だな。普通Cランクに上がるのは1年以上、数年かかってやっとって奴もざらにいる世界だ。それを冒険者になって、半年も経たないうちに……お前を見てると、才能って感じでもねえがな」


「大きなお世話だ。良いんだよ、才能ってのはソウルみたいな奴が持ってるものだ。俺は凡才らしく、足掻いて足掻いてここまで来れたんだ。しいて言えば、ダッジさんのお蔭ではあるけどな」


「お前を見ていると、その辺にいるやつら全員が怠けているように思えてきちまう。才能云々は置いておいて、お前はもう少し自分の評価を高く見積もってもいいはずだぞ」


どうなんだろう。俺は地球の、日本で平々凡々と暮らしてきた普通の高校生だ。好きでやってた野球でさえも、人よりも才能があったとは思えない。ひたむきに、ひたすら努力を続けた結果が都大会決勝戦敗退。自分1人の力でなんて、己惚れるつもりは無いけど、才能がある奴ってのは入る高校を選べるところから決まっている。そこから漏れた俺を、俺自身が才能があるとはとても言えなかった。


「……俺ができるのは、努力を続ける事だけだ」


「苦しい努力を諦めずにやれる奴っても、それはそれで才能だ。お前はちゃんと結果を出してCランクになった。Cランク以上の冒険者が、この町に何人いるか今度ノルンにでも教えてもらえ。それで、ちょっとは自分で自分の事を認めてやれ。そうすれば、お前はもっと伸びるんじゃねえか?」


自分の評価ってのは、どうしても厳しくなる。人によっては甘い人もいるけど、俺にはできない。でも、ゴドーの言う通り、今度ノルンさんに色々聞いてみよう。その結果次第で、ちょっとは自分を褒めてもいいのかもしれない。


「で、Cランク冒険者になったホクト様が、俺に何の用があってきたんだ?」


脱線した話を強引にゴドーが戻した。俺も、1回頭の中をクールダウンしてゴドーに向き直る。


「装備の見積もりをお願いしたい。俺は、近いうちに探索者になる。そうすれば、あの願いの塔に潜る事になるだろう。でも、今俺の装備で探索者として見たときに、合格点を出せるのはその群青の燐鎧と、この銀の籠手だけだ。だから、他の部分の性能アップを図って装備を一新したい」


「……なるほど。拳闘士のお前が探索者になるとすると、確かに今の装備ではまともに塔の探索はできないかもな。お前が装備可能で、能力の向上をするとなると……」


ゴドーが奥に物を探しに行った。今、俺が用意できる金額は100万ゼムまで。生活費もあるから、これ以上になると厳しい。それで塔に潜れるくらいの装備品が見つかるか。


しばらく店に展示された商品を冷やかしていると、奥からゴドーが戻ってきた。


「お前に装備できそうなのは、このあたりだな」


そう言って机の上に置いたのは、ヘルメット?兜?とにかく頭を守る装備品と、足を守る装備品だった。


「これは……ヘルメットか?」


「頭を守る部位だな。お前、今まで頭の装備品って付けたことないだろ。塔の探索をするなら、頭の防具も必要だ。あそこは、あらゆる可能性を考慮して挑まないと、あっという間に死んじまう所だからな。形も色々ある。どれにするかは好みもあるが、拳闘士として動き回る戦法のお前だと、視界が塞がれるフルフェイス型は止めておいた方がいいだろう」


フルフェイスのヘルメットを、手に取ってみる。手に感じるのは、思った以上にズシッとした重量感。結構重いな。ゴドーに聞きながら、頭に装備してみた。


「……これは、見難いな。それに、頭が重くて重心が安定しない。これで今まで通りの動きをするのは、かなり厳しいぞ」


「だろうな。それは、騎士や重戦士のようなドッシリ構えて敵と打ち合う職業が付ける防具だ。素早さを活かす拳闘士やシーフには向かない」


「……だったら、なんで持ってきたんだよ」


「どんな種類の防具があるか、お前が知らないと思ってな。合う合わないの前に、一通り持ってきた。それに、それがどんな防具で装備した時にどう見えるかを知っていると、いざ盗賊とか辻斬りに会った時に情報として役立つぞ」


そう言うものか。それにしても、盗賊に辻斬りって……塔の中にはそんな奴らいないだろ。


「お前が何を考えてるか、手に取るようにわかるな。いいか、塔の中ってのは言ってみればでっかい密室だ。それに、あそこは一攫千金を狙えるお宝が多く見つかる場所でもある。そこで、お前みたいな新米が値打ちある物を見つけた場合どうなるか……言わなくてもわかるだろ」


「……まさか、襲われるのか?」


「辺りに人がいなければ、やる奴はいるな。実際、中を警備しているような奴はいない。出てきたときに、そのアイテムを本当にそいつが手に入れたのかなんてのは、神のみぞ知るってもんだ」


嫌な話を聞いてしまった。ウドベラで潜ったダンジョンでも、地元の冒険者に嫌がらせをされたけど、まさか願いの塔でもそういう事が起こるなんて……。


「人ってのは、目の前に大金をぶら下げたときに何をするか解らん生き物だ。お前のような性善説も良いが、後悔だけはするなよ。お前の仲間は、年若い娘たちなんだから」


そうだ。俺の仲間のアサギもカメリアも若い――若い?――女だ。塔の中で、不埒な事を考える奴がいてもおかしくない。あの2人が強いとはいえ、不意打ちを喰らえばどうなるか解らない。リーダーとして、俺はどんなことにも備えておかないといけないんだ。


「塔の事、もっと色々教えてくれ。俺は知らなかったじゃ済まないリーダーだ。中に入る前にできる準備はしておきたい」


「ふっ、良い顔をするようになったな。スタンピードで何があったか知らないが、お前は間違いなく成長してる」


確かにスタンピードは、俺を成長させてくれた。力が足りなくて、苦い思いもした。これから探索者になれば、今まで以上に辛い目に合うかもしれない。だけど、俺の目標は願いの塔の踏破だ。それを実現するためには、俺も覚悟を決めなきゃいけなんだ。


「ゴドーの知ってる事を教えてくれ」


「……俺は鍛冶屋だ。俺に教えられるのは、装備品のことだけだぞ」


「それでもいい。それはギルドで聞いても、教えてくれない事だ。だから、頼む。俺に塔の事、そして人と戦うための情報を教えてくれ」


俺も覚悟を決めた。塔の踏破に立ちはだかる人間がいるなら、俺はそいつを許さない。日本の考え方は、今日をもって一時封印すると心に刻み込んだ。

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